【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
1体、2体、3体と続けて急所である眉間を貫かれたバグベアーが
その場に崩れ落ちる。
素早く動き襲い掛かるのがバグベアーの特徴だ。
しかし、それよりも速くナァーザが倒すのにフィルヴィスとリューは
度肝を抜かれていた。
捕食者の武器を貸していると事前にネフテュスから聞いていたとはいえ
ここまで圧倒するとは思ってもみなかったからだ。
ボウガンと思われる武器から放たれた矢はナァーザが何かしらの
操作をした事で、自動的に手元へ戻っている事にも驚いていると、
誰かに呼ばれた気がして振り向くが誰も居ない。
気のせいかと思われたが、今度は確かに背後から声が聞こえてきて
思わずティアーペインを構えた。
しかし、捕食者が手を掴んできて制止させられるとフィルヴィスは
警戒しながらも構えを解く。
声の主はフィルヴィスが構えるのを止めたと確認すると、捕食者の
様にどこからともなく姿を現わした。
その正体はレイだった。以前に貰い受けたシフターという装置で
姿を消して出迎えに来たそうだ。
「初めましテ、地上のお2人。私はレイと言いまス」
「ナァーザ・エリスイス。ナァーザって呼んでいいよ」
「...フィルヴィス・シャリアだ。同じくフィルヴィスで構わない」
レイは頷いてしっかりと2人の名前を覚える。
それから、不思議そうな面持ちで問いかけた。
「その、失礼かと思われますガ...
あまり驚かれないのですネ...?」
「い、いや、これでも少しは驚いているぞ?
事情は説明してもらっているので、そこまで混乱はしていないが...」
「うん。でも...彼らの素顔を初めて見た時と比べたら...」
「あァ...なるほド...」
フィルヴィスは捕食者の素顔が気になり、問いかけようと思ったが
星屑の庭でネフテュスから聞いた話を思い出す。
成人となるまで例え協力者であっても素顔は晒さない事、会話もしては
ならないと彼自身が定めた事を。
なので恐らく、別の捕食者の素顔を見たのだと判断して問いかけるのは
止めておく事にした。
いつか、彼が成人となって素顔を見せてくれる日まで、待つために。
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「あぁぁ~~~...この暖かさが心地良いわね~。
ずっとこうしてたい~」
「ご、ご迷惑でしたら、すぐにでも引き剥がしますので...」
ゴルルルル...
グリューの首辺りに寝そべってアリーゼは夢心地となっており、
リューは機嫌を損ねさせてはならないと思いながらそう言った。
しかし、グリューは満更でもなさそうであり、喉を鳴らした。
「気にしてないってさ、リュっち」
「リュ、リュっち...」
「そう気張らなくてもいいから、ゆっくりしてくれよ」
「そうそう。リュっちはいつもお堅いんだから~。
もう少し物腰柔らかくしなさいって」
「わ、私はオラリオに住む人々のためを思って...!」
隠れ里に着いて早々、温かく迎え入れてくれたゼノス達が歓迎を宴を
開く事となったのでアリーゼ達は賛同する事となった。
フィルヴィスは最初こそ沢山居るゼノス達に戸惑いを隠せずにいたが、
リューに心配はいりません、と然も当然の様にアルルを抱っこしながら
危害を加える存在ではない事を認識させてもらい宴に加わった。
席となる段差に座った際、隣に居たヘルガを見て無意識にそっと頭を
撫でる。
ヘルガはそれに嫌がる様な素振りは見せず、喉を鳴らしてご機嫌に
なるとフィルヴィスは自然と顔を綻ばせた。
すると、ナァーザが羨望の眼差しで見ているのに気付くと、
フィルヴィスは代ってあげた。
お礼を言うや否や撫でるだけに留まらず、頬摺りや顔を背中に
埋めて吸ったりするナァーザにヘルガは驚いて逃げだそうにも
ナァーザが抱きついていて逃げ出す事は出来なかった。
用意が整ってからリドが乾杯の音頭を取り、宴が始ったのだ。
「ふむ...この酒、中々に美味なる上物ですなぁ。
初めて堪能する味わいと思います」
「ホントにな。まさかどっかで買ってきたとかじゃないだろ?」
「こちらは19階層から24階層に生えている特定の木の中に溜まっていル、樹液と言えばいいでしょうカ?
それを集めて発酵させる事でお酒にしているんです」
「すげぇ...手は加えてるけど、天然の酒って事か。
味も良いし、オラリオで売ればそれなりに稼げそうだな」
「そうでしょうねぇ...ちなみに、あそこに置かれている物は何でしょうか?」
レイは輝夜が指した方を見る。
それは、以前遭遇したゴールデン・ラビットゴールデン・ライノスを
倒した際に拾った幾つもの角で無造作に置かれていた。
暗がりでも焚き火の灯りで煌めくその艶やかさは、一際目立っていた。
レイは翼を腕に変え、置かれている角のそばに居た同胞に1本を
投げ渡してもらうとライラと輝夜にそれを手渡す。
ライラは感触とズッシリ手に乗った重さで絶句してしまった。
「...マジか。金で出来てるぞこれ」
「ほほぉー...。...こちらはもしやお仲間の遺品か何かで?」
「い、いえいエ。倒したモンスターが落した物で...
武器に使えるかと思い拾ったのですが、中々難いものですから放置していたんです」
「お願いしますお譲りくださいませ」
「代わりに欲しいもんをやるから頼む」
「効くかわからないけど薬草をあげるから1本だけでも」
「お、お顔を上げくださイ!3人方!」
ライラと輝夜の隣にしれっとナァーザも混じって土下座をしながら
懇願した。
レイは全部あげますから、と土下座する3人を止めるために
そう答えるしかなかったのだった。
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つい数日前に、宴をしていたのは記憶に新しい。
アリーゼといいう女性達は思い思いにゼノス達と楽しんでいるのを
眺めていて、ふとティオナという少女がこの場にいないのかと周囲を
見渡す。
ここへ来た時点で近寄って来なかった事から居ないと、察するべきだと
思うが、念のためだ。
しかし、居ないとわかって地上へ戻ったのだと判断する。
「誰か探しているのか?」
すると、フィルヴィスという少女が近寄って来て声を掛けてくる。
僕は紙にティオナという少女が居るのかを確認していた事を書き記し、
それを渡した。
フィルヴィスという少女は頷くと、近くを通り掛かったラーニェという
ゼノスに彼女は居ないのかと問いかけてくれた。
「...誰にも言わないと約束しろ。人間と我々ゼノスの関係性を崩しかねないのだからな。
それと...本来、お前には内密にしてほしいと言われていたんだ。
だが、知りたいのかはお前次第としよう」
そうだったのか...
...僕次第なら知る権利はあるな。
「...ああ。誰にも言わないと誓うと言っている」
「...今、73階層に居て我々ゼノスの最も古い存在に鍛えてもらっている。
捕食者との勝負に負け、強くなりたいと頼み込んできたからな」
「ちょっと待ってくれないか?73階層?...37ではなく?
73と言ったか?」
「そうだ。73階層で間違いない」
「...そこへ行くのは、お前達にとって、普通の事か?」
「まぁな。ただ、人間が知り得ない道順でなら向かう事が出来る」
「そういう事か...納得はしたが、73階層とは驚きだ。
人間である私達でも精々、58階層が限界なのだからな」
...やはりこの地球の文明レベルや力ではそこまでなのか。
僕らもダンジョンの最深階へ直接向かった事はないが、その気になれば
いつでも向かう事は出来る。
それはともかくとして...僕は鍛えているという彼女の様子を問い
かけるようフィルヴィスという少女に書き記した紙を渡した。
「...ティオナ・ヒリュテはどんな様子だ?」
「さぁな、私より連れて行ったリド達に聞いた方がいいだろう。
...ついでに言っておいてやる」
「ああ、すまない。感謝する」
「...別に」
ラーニェというゼノスは振り向かずにそう言い残し、リドという
ゼノスの元へ向かって行った。
...不器用なところが、どことなくウルフに似ていると思った。