【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 「な、何が起きてるんっすか!?...うぶっ」

 「ちょっと、しっかりしてよ!」

   

 異様な光景に酔いが中途半端に冷めたラウルは、吐き気に襲われながら

 突然の事に狼狽する。

 ラウルだけでなく、出入口が赤い光線によって塞がれてしまい店内に

 閉じ込められたロキ・ファミリアの団員達はもちろん、他の冒険者達も

 混乱状態となっていた。

 ロキや幹部の全員は窓から外で繰り広げられている光景を観察し、

 冷静に状況を把握している。

 だが、ベートを一方的に叩きのめしている相手の姿が全く見えない。

 

 「何や!?何がどうなっとるんやあれ!?」

 「姿が見えん...まさか、50階層に現れた奴か?」

 「きっと、そうだよ。さっきの話を聞いてたから...!」

 「激怒...いや、それ以上に憤慨させてしまったようだ」

 

 ガレスの言葉に反応して、ティオナは息を呑みながら答えると

 リヴェリアも考察して答えた。 

 そんな中アーニャとクロエはユラユラと尻尾を揺らしながら興味津々に

 赤い線を観察している。

 

 「この線の隙間を潜ればいいんじゃないのかニャ?」

 「それくらい簡単ニャ。当たらなければ意味がないニャ」

 「止しなさいアーニャ!クロエ!それは動くんです!」

 「「ニャニャッ!?」」

 

 赤い線の隙間を通り抜けようとするアーニャとクロエ。

 その2人を猫のように襟を掴んで、リューはなるべく距離を取らせる

 ように赤い光線から引き離した。

 

 「一度見た事がありますが、それは巨大なモンスターの両手すら斬り落としてしまいます。

  決して近寄ってはなりません!」

 

 声を張り上げて周囲にも注意を促す。出入口付近に居た冒険者達は

 蜘蛛の子を散らすように慌てて離れた。

 アーニャとクロエも冷や汗をかき、身を縮こませる。

 

 「リオン。そのモンスターというのは...」

 「はい。お察しの通り、私達を襲ったあの怪物の事です。そして...

  その怪物に致命傷を負わせたのが、あの赤い線でした」

 

 リヴェリアにそう答えながら、どこからともなく木刀を取り出す。

 

 「不可解な事が起きているようですが、すべき事は1つです。凶狼を助けに」

 「行くのは止しな、リュー。ルノア達もだよ」

 「えっ...?」

 「なっ...!?見殺しにしろと言うのですか!?」

  

 リューは驚愕しながらもミアを問い詰める。

 名指しで呼ばれたルノアも、思ってもみなかったため困惑するしか

 なかった。

 店内にいる全員もミアに注目する。それを気にせず、ミアは料理を作る

 手を止めない。

 

 「そんな事は言っちゃいないよ。ただ、身内の問題はそっちに片付けてもらおうってだけの事さ。

  店の中だったら一発ぶん殴ってるところだけど、外へ出たからには手出しは出来ないよ」

 「で、ですが...!」

 「それと...あの犬っころを殴ってる奴が、迷惑代としてこれを渡してきたんだ。

  尚更、手を貸す事は出来ないよ」

  

 大量のヴァリスが詰まった袋を片手にそう答えた。

 リューはヴァリスぐらいでミアは危機的状況となっている人命を、

 見捨てるのかと思った。 

 ただ、ミア自身も目を反らしたまま仕方なくといった様子で答えて

 いるのだと、リューは気付き口籠もってしまう。

 

 「そもそもあの犬っころが撒いた種じゃないか。うちがどうこうするなんて事はないと思うけどね。

  身内が問題を解決するのが筋ってもんじゃないのかい?」

 「...店主の言う通りだ。フィン、私達で助け出さなくては」

 

 リヴェリアがそう伝えようとしていると、ベートの叫び声が聞こえた。

 

 「だ、団長!ベートさんが!」

 「わかっているよ、リーネ。すぐに...ティオナ!?」

 

 リーネは窓から見える光景に青ざめ、フィンに助けを乞う。

 水を一飲みし、酔いを覚まさせたフィンは急いで出入口のそばにある

 窓から出ようとした。

 だが、それよりも先にティオナが窓の外へ出て行く姿が見えた。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ドシャッ...!

 

 「ご、ぁ!ぐ、ぇ...!」

 

 ポタポタ...

 

 ...頃合いだ。生皮を剥いで吊るそう

 僕はリスト・ブレイドを伸ばし近づいていく。

 しかし、誰かが邪魔しに入って来た。

 

 「やめてっ!もう...やめてあげて」

 

 ...あの時出会った褐色の少女だ。何故、ここに現れて...

 ...そうか、彼女は後ろに転がっている狼と同じファミリアなのか。

 そう理解した僕は、狼の生皮を剥ぐだけで十分なので、彼女を

 押し退けようとする。

 

 「私が代わりに謝るから!...ごめんなさい!

  君達の狩りを馬鹿にして、本当にごめんなさい!」

 

 けれど、狼の前に立ったまま庇いながら謝罪してきた。彼女が謝る

 必要などないのに...

 

 「ベートは酔っ払ってるっていうのもあるけど、元々こんな口の悪い奴だから

  君達の事を馬鹿にしたの。

  止められなかった、あたしも許されないと思うから...

  あたしを好きにしていいから、もうベートを傷付けるのはやめて!」

 

 懸命にそう訴えてくる彼女の瞳には、恐れを感じなかった。

 寧ろ力強い何かを感じる...

 ...そうか...彼女は仲間を助けたいんだ...

 僕らは協力はするが、助けたりはしない。

 不名誉になるからだ。だから、白い猿の石を取り出す時、皆は手を

 貸してこなかった。

 僕らや我が主神を罵倒した狼を、彼女は仲間として守ろうとしている。

 それも自分が身代わりになると言って...

 彼女はやはり強いと称賛出来る、改めて僕は彼女を認めた。

 褐色の少女の横に立つスカーはネット・ランチャーを構え、壁に 

 張り付けにしようとしていたが、僕は止めるよう指示を出す。

 ...彼女を傷付けたくない、そう思ったからだ。


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