【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
アストレア・ファミリアとフィルヴィスという少女と17階層で
別れる事となった数時間前。
僕は73階層へ辿り着いた。
「あそこの中央にある島にティオナさんは居ますヨ。
ですが、ラーニェが話した通リ...貴方には内緒にと言われていますので、覗くだけにしましょうネ?」
カカカカカカ...
「ありがとうございます。では...」
すっかり僕との意思疎通にも慣れてくれ始めたレイというゼノスは
翼を羽ばたかせ、宙に浮くと腕を落さない程度の力で掴む。
バレないように島の縁となる崖に着地するとクローキング機能で
姿を消し、再びレイというゼノスに運んでもらい始めた。
幾つかのエリアに分かれて様々な種類の木が生い茂る森林を飛び越え、
何も無い開けた平地まで飛行すると、黒い巨大な影が動いているのが
見えた。
レイというゼノスに滞空してもらうよう腕を掴んでいる足を叩き、
僕はヘルメットのゴーグルの視野を拡大する。
...何て大きさだ、と僕はその時思った。
最強のゼノスという存在であり、キングコングと呼称される
ゴリラのモンスター。
体高は103M。重量は515tといったところだった。
ゴリラと違い、人間の様に仁王立ちをしながら下を見下ろして、
何かを見ているとわかり、僕は視線を下へと向けた。
「あっ。あそこにティオナさんが居ますネ」
レイというゼノスの言う通り、ティオナという少女がキングコングの
足元で何かをしていた。
ドガァッ! ドガァッ! ドガァッ!
ここからでは見え辛いため、少し移動してもらうとティオナという
少女が巨大な岩を一心不乱に蹴っている姿を見て僕は目を疑った。
蹴り付けている両足は皮膚がズタズタに裂け、剥けており岩の破片が
刺さったままで血みどろとなっていた。
更には力加減も考えず、足が折れんばかりに蹴っていた。
あんな事をして何か意味があるのかと僕は思っていたが、ふと足元に
散らばっている岩の破片に気付く。
ティオナという少女が居る位置から3M弱といった後方まで落ちており
それが元々の岩の大きさだったのだとわかり、5日間も蹴り続け、岩の
表面を削っていたのだとも理解した。
やがて、キングコングというゼノスがパンッと手を鳴らし、止めるよう
指示を出した。
「っ!ハァッ!ハァッ!っく、ハァ...ッ!」
ティオナという少女はその場に崩れ落ち、身を縮ませて足に走る
激痛に耐えているのが考えなくても、見ているだけでわかった。
ティオナという少女は悶えながらも上半身を起こし、両足の皮膚に
刺さっている岩の破片を取り除き始めた。
「ふ、っぐぅうううっ...!」
痛みを堪えているために歯を食い縛り、時折拳を握り締めて
息を荒くしていた。
改めて確認して見ると、白い骨が小さく覗いて見えるとわかった。
防具も何も無しに蹴っているので、そうなるのは当然だろうと
僕は思った。
刺さっていた岩の破片を取り除き終えると腰に括り付けていた竹を
手にして先端の断面にある突起を抜いた。
見れば、すぐ近くにもいくつも同じ竹が置かれてあった。
竹を足の上で傾けると、その穴から水が流れ落ちてきた。
水を掛けた箇所から血が洗い流され、更に見る見る内に足の傷も
治り始めていた。
恐らく、以前に見た人魚の血が水に含まれているのか、若しくは
水そのものの効力なのかもしれないと僕は推測した。
「っぶはぁ!はぁー...はぁー...」
その水を飲んで体力も回復したのか、先程まで疲労していた彼女は
息をついて落ち着いていた。
しばらくすると、キングコングというゼノスがまた手をパンッと
鳴らしてティオナという少女は立ち上がり、気合を込めた叫び声を
上げると再び岩を蹴り始める。
ドガァッ! ドガァッ! ドガァッ! ドガァッ!
岩の表面が砕け、破片が飛び散る事で足元に落ちている範囲が
更に広がっていく。
あのまま続けていれば、また骨が見える程に皮膚が裂け、剥けたりして
血を流すのは分かりきっていた。
それでも彼女は強くなるために、自らを傷付けて必死になっているの
だと僕は感服した。
...そして、思った。僕は彼女以上に強くなろう、と。
僕はレイというゼノスに出入口のある崖へ引き返すように伝え、
急いで隠れ里へ向かった。
レイというゼノスを置いて行きそうになる程、とにかく急いだ。
そして、隠れ里まで戻ると僕はフィルヴィスという少女に先に
地上へ戻ると伝え、レイというゼノスにもそれを伝えると言った通り
出入口へ入って行った。
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地上へ出て、鍛冶師が住んでいる小屋に羽毛の無い鳥から得た
黒く鋭い嘴や爪を贈呈し、エイナという女性宛の手紙をギルドの
ポストに出してから僕はマザー・シップに戻った。
通路を進んでいると、ヴァルキリーから我が主神がお呼びに
なられていると聞かされて、僕はオープンスペースへと足を運び、
玉座に座る我が主神に話を窺った。
「貴方の成人の儀を執り行う日取りが決まったわ。
10日後にカイオス砂漠にある聖地で始めるわ」
カイオス砂漠は南東の方角に存在する砂海で、以前に調査した際
聖地を発見した場所だ。
どこの部族かは不明だが、間違いなく皆の建築技術によって造られた
聖地となるピラミッドがあったと聞いた。
僕は承諾してから、ある事を提言した。
しばらくの間、他の惑星へ渡り修練を積みたいと。
モンスターは価値のある獲物は存在するが、正直に言えば外れと
出会わす方が圧倒的に多い気がする。いや、多いと明言しよう。
どれだけ深く潜っても、バーナーどころかリスト・ブレイドで
対処出来てしまってはあの価値が高い獲物と比べても相手にならない。
今回も72階層で襲い掛かってきた羽毛の無い鳥も雑魚だった。
他の惑星やパラレルバースへ転移し、そこに存在する惑星に棲む生物と
戦いたいと思ったので、我が主神にその意図を伝えた。
「そうね...わかったわ。その提案を許可しましょうか。
じゃあ、9日の間に一段と強くなる事を祈るわ」
『ありがとうございます』
我が主神の意向に感謝し、僕は首を垂れる。
そうして僕は我が主神の前から下がり、オープンスペースから
離れた。
「...ふふっ。ティオナが良い起爆剤になってくれたわね」
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今回はゼノス達を救出へ向かった時とは違い二週間近く宇宙空間や
各惑星で過ごす事になるため、入念な準備をする事にした。
まずはビッグママに武器のメンテナスと新たな武器の新造をして
もらおう。
鍛冶場に赴くとビッグママに今まで使ってきた武器を渡して、
新たな武器を要望する。
すると、ビッグママは僕に付いてくるよう言ってきて、僕はそれに
従った。
普段ビッグママも行かない鍛冶場の奥へと入って行き、灯りが
付くと、そこには古びた旧式の鍛冶設備が存在した。
僕はここが何なのか問いかけると、ビッグママはストーリッジから
何かを取り出しながら教えてくれた。
ここは神聖な武器であるスピアを創生するための鍛冶場であり、
ストーリッジから取り出した母星でのみ採取出来る鉱石を僕に見せて
これからスピアを創り出そうと言った。
僕が成人の儀を10日後に迎えるというのは周知となっていて、
ビッグママはスピアを創るための素材を用意してくれていたそうだ。
僕はとても嬉しく思い、ビッグママに感謝の意を伝えた。