【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
ガギィンッ! ガギィンッ! ガギィンッ!
土台に固定した円筒状に長い鉱石を専用のハンマーで叩き、表面の
出っ張りを窪んでいる箇所に合わせて平らにしていく。
厚みは十分にあり叩き過ぎても形状が歪んだりはしない、と
ビッグママが教えてくれたので、力一杯叩き続けた。
圧力を掛ける程、硬質となる。
ギャリリリリリッ... ギャリリリリリッ...
時折表面が平行になってきているか、硬度が全体的に均等となって
いるかを確認して、約50Cのファイルで研磨していく。
グラインダーなど自動式の道具でスピアを創る事は、掟において
伝統を貶すに等しいと言っていた。
全て自らの手で創り上げ、成人の儀を得てから獲物を狩り続ける事で
神聖且つ狩人としての象徴的な武器とされてきたんだ。
スピアの正式名称はコンビスティックと言い、種類はセレモニアル、
クラシック、レイテストの3つとなる。
レイテストは3段伸縮式の様々な機能を搭載する事が可能な最新型で、
グリップの両端が左右非対称となっており穂先は二股に分かれている。
クラシックはレイテストが開発される前まで普及されていた、全体が
やや太めでスパイク、ポール、グリップのレイテストと同様に
3段伸縮式となっている。
セレモニアルは最も伝統的な装飾を象る形状で、2段伸縮式の造形が
全体的に細くグリップの両端には小さな刃が付いている。
形状などは違えど、3種共に自動的に手元へ戻ってくる機能が付いて
おり、プラズマのエネルギーによる攻撃手段も搭載している。
スカー達5人は伝統と名誉を重んじているので、セレモニアルを
選んでいた。
なので、僕もセレモニアルにしようと思った。
しかし、ビッグママから伝統と名誉を重んじるのは良い事だが、
新たな世代としてレイテストを選ぶのも悪くない、と提言を受ける。
僕は研磨を止め、どうするか悩んだ。
そして、ある事を思いついてビッグママに伝えた。
ビッグママはそれを承諾してくれて、ストーリッジから別の素材を
譲ってくれた。
ギャリリリッ ギャリリリッ ギャリリリッ
ガギンッ! ガギンッ! ガギンッ!
僕は研磨を再開し、もう一度長い鉱石を叩く。
表面が平滑になり硬度も申し分ないと判定してもらい、次にそれを
中心部となるポールへ加工していく。
2段式となるので大型のペンチカッターで2つに分割し、切断面を
整えて収納時に隙間が生まれないか確認し、問題ないとわかると
また別の作業を始めた。
ゴポポポポポ... ドプププ...
溶かした鉱石を鋳型に鋳込み、三角錐状と平たく丸い菱形と似た形状の
刃が無いスパイクを創った。
ポールと同じように研磨をして、鋭い刃へ研ぎ澄ませる。
ギィィィッ... ギィィィッ...
研ぐために使うのはこの地球上に存在する物質の砥石ではなく、皆が
住む惑星で採取した堆積岩を原料とした砥石だ。
地球産の物では研ぐ以前にめり込んで砕いてしまうので使えない。
研ぎ終えると、グリップを創る作業に掛かる。
グリップ部分はポールと違い、複雑な形状となるのでコツを掴むまで
手間が掛かったが、何とか良い出来にはなった。
上部は楕円形の鱗の様な丸みを帯びた装飾を3つ重ねた形状にし、
下部は同様に丸みのある楕円形の切断面に整えた。
様々な機能を備えるためのコンピューターやデバイスをグリップに
内蔵していき、それらを囲う様にしてポールを組み込む。
最後にスパイクの根元を簡単に外れないよう粉末状にした黒い鉱物を
練り込んで、ポールに嵌め込んだ。
カカカカカカ...
これで完成した。僕のコンビスティックが。
新たな世代を象る意味を込めて3種を組み合わせた僕専用の武器だ。
グリップは最新型のレイテストとして、片方が3段式、もう片方が
2段式で伸縮するポールの機構を用いている。
3段式の先端にあるスパイクはクラシック型で、2段式の方には
セレモニアル型のスパイクとした。
ビッグママは良い仕上がりだと称賛してくれて、僕自身も納得のいく
仕上がりとなって安堵している。
ジャキンッ ジャキンッ
グリップの中央にあるフィンガープリントセンサーに指を押し当てると
ポールが伸びて正常にコンビスティックは作動した。
ヒュンッ! ヒュッ! ギュオッ!
ズパンッ! ドシュンッ!
試しに鉄板を斬り裂き、刺突して貫こうとする。
どちらのスパイクも50mmの厚さを物ともせず容易に貫けた。
確認を済ませた僕はコンビスティックのポールを収納し、ビッグママに
差し出した。
これを使うのは成人の儀を迎えた時だ。
ビッグママはコンビスティックを受け取ると、大事に保管しておいて
くれると言ってくれた。
しかし、成人の儀までにコンビスティックを使い熟すためにもと
ビッグママはある物を差し出してきた。
それは、シンプルかつ洗練された銀の槍だった。
僕の身長よりも少し長く、コンビスティックのような収納はないが
真っすぐで全く歪んでいない。
加えて、先程貫いた50mmの鉄板もコンビスティックと同様に
貫いた。
しかし、違和感を覚えた。これは僕らの装備や武器の素材となる
鉱石とは違うんじゃないかと。
ビッグママは肯定して頷いた。
何百年も前に調査していた惑星で偶然、見つけ出した槍だという。
衝撃に対して高い耐性を持ち、僕らが使う武器でも破壊するのは
困難な程の武器で、コンビスティックの代わりとして使い熟すためにも
最適であるという理由で、僕に授けてくれるそうだ。
僕はありがたく、その銀の槍を受け取る事にし、次はメンテナンスを
頼んだ。
メンテナンスの他に武器の新造とカスタマイズもしてもらう事にした。
スマート・ディスクだけでの対処が困難となった場合を想定して、
シュリケンとプラズマ・グレネードを作成してもらい、今まで
輪となっていたエネルギー・ボアの先端をウルフが使用する
スラッシャー・ウィップの様な鋭い刃にも変更を可能にしてもらえる
事となった。
それらをしてもらっている間、僕は彼女の鍛えている姿を思い浮かべて
いた。
血肉を滾らせ、鋭い眼光で獲物に食らい付く勇ましさを醸し出していた
あの姿を。
...思い出すだけで僕は自然と力が湧いてくる様な感覚がした。
それと...表現するのが難しい胸の苦しみもあった。
フィジカルイグザミネーションを後で受けてみるか...
1時間も経たないうちにメンテナンス、武器の新造とカスタマイズを
済ませてくれた。
しばらく会えないので念入りにしてくれた事を感謝し、ビッグママに
激励の言葉を掛けて貰い僕は鍛冶場を後にする。
自室に戻り、改めて装備の確認をしているとコトンっと音を立てて
何かが床に落ちた。
拾い上げて見てみると、それは僕が初めて狩りをした時に手に入れた
獲物の牙だった。
僕に噛み付こうとしてきた所でリスト・ブレイドを歯茎に突き刺し、
動きを止めさせてから刀で心臓を貫いた記憶が鮮明に蘇ってくる。
退かす際にこの牙が抜けて、自分への戒めにと持ち帰った事を
思い出した。
...あれから、僕は強くなったと言えるのかな...
スカーや皆と同じ様に強くなりたいと願望を抱き、掟に誓いを立てた
あの日から僕は...
...その答えは、死ぬまでわからないのだと思う...
僕はデスクの上に転がっていたヒートンを手にすると牙の根元に
螺子部分を捩じ込む。
これは獲物の一部をアクセサリーにするための物で、螺子部分を奥に
差し込んでから細く小さいチェーンを輪に通すとネックレスとなった。
そのネックレスを首に掛け、いよいよ出発の準備が完了した。
自室を後にして、格納庫に着くと我が主神と皆が見送りに来てくれて
いた。
別にずっと居なくなる訳でもないのにと思ったが、すごく嬉しいと
思いつつ眉に拳を当てて感謝の意を伝える。
「気をつけて行って来るのよ?
...ティオナにしばらく会えない事、伝えておきましょうか?」
『...はい、お願いします』
特訓がどれほど続くのかわからないが、そうしてもらった方が彼女も
強くなろうとする意志が高まるはずだ。
ギュ オ ォ ォ ォ ォ ォ ォ オ...!!
そして、僕はスカウト・シップに乗り込んでハッチから離陸すると
上空へ急上昇していった。
高度を上げていくにつれ、周囲が暗くなり外気圏を抜けた所で目的地で
ある惑星付近にワープポイントを設定する。
ワープドライビングサークルを形成し、前方へ射出して空間を斜め状に
裂いてワープドライブしようとする。
僕は振り返って地球を見つめ、ティオナという少女とまた会える日まで
強くなると心に決め、操縦桿を前に倒す。
バシュンッ!
こうして9日間の修練が始った。