【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 ティオナは虚空を見つめている。

 だが、それは第三者から見ればそうなのだ。

 目の前には確かに誰かがいる。それはティオナだけが認識している。

 しばらく何もしてこない事にティオナは、許してくれたのかと思って

 いた。

 しかし、先程までベートに対し過激な暴力を振るっていた相手が

 そう簡単に許したとは思えない。

 だから、背後で瀕死となっているベートの前から動いてはならないと

 思っているのだ。

 

 「ティオナ、単独で動いてはダメだよ」

 「フィン...ベートは、大丈夫そう?」

 「...ベート、大丈夫かい?」

 

 後ろから近寄ってきたフィンにベートの安否を確認する。

 フィンは血みどろとなって倒れているベートに声をかけた。

 呼吸が浅く、返事もままならなくなっているが生命維持は途切れて

 いなかった。 

 それに安堵するが、このまま放っておけば手遅れになりかねないのは

 明白だ。

 

 「息はある。だけど、すぐに応急処置をしないと」

 「うん。...フィン。多分、まだ目の前にいると思うから...

  フィンも謝っておいた方が、いいんじゃないかな。

  50階層で、皆を助けてくれたお礼も言っておかないと...」

 「...その通りだね。リーネ!他のヒーラーと応急処置を頼む!」   

 「は、はい!」

 「リヴェリア以外、その他の全員は店内で待機してくれ。

  それと、誰も窓から覗き込まないように!...ロキもだよ」

 

 ロキが不満そうに答えてくるが、もしも相手が周囲からの視線が

 気に障り、何をしてしまうかわからないからだ。 

 指示を出されたリーネは、他のヒーラーと窓から外へ出てくると

 ベートに駆け寄る。

 重傷を負ったベートの姿に誰もが息を呑んだ。

 当然と言えば、当然である

 リーネは万が一のためにと備えていたポーションを全身、そして顔に

 振りかけた。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 僕はスカーにレーザーネットを回収するよう伝えた。

 回収していっている間に、僕は褐色の少女の背後から現れた金髪の

 少年に目を向ける。

 更にもう1人、見覚えのあるエルフの女性も近寄ってきた。

 

 「...まずベートの非を謝罪しよう。本当にすまない」

 「私からも謝罪する。すまなかった、恩を仇で返すような事になってしまって...」

 

 僕は謝罪に対して答えない。答えるつもりはないからだ。

 我が主神を貶し、侮辱し、罵った狼が謝罪してきたのなら別だが、

 この2人が頭を下げてくるのは、間違っているのではないだろうか。

 

 「...ねぇ、もう2人には言ってもいい、かな?」

 

 褐色の少女が問いかけてくる。恐らくあの時の約束を破棄しようと

 思っているようだ。

 件の金髪の少年とエルフの女性は何の事なのかと、褐色の少女の方を

 見ている。

 このまま去ってもいいが、彼女に対して無礼な事はしたくない。

 ...それなら、承諾しよう

 周囲に人がいない事、窓から誰か覗き見していないかを確認し、僕は

 ゴーグルを発光させる。

 

 カカカカカカ...

 

 声による返事も代わりとして、あの時聞かせた鳴き声を出す。

   

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 フィンとリヴェリアは突然の事に驚きを隠せなかった。

 ティオナの言っていた言葉の意味を聞き出す前に、相手からの

 コンタクトがあったからだ。

 

 「ありがとう...あのね、2人とも。実はあたしも助けられた事があるの。

  ほら。遠征で地上に戻ってる最中、ミノタウロスの大群が逃げ出したでしょ?

  あの時、油断してて倒せなかったミノタウロスが襲い掛かってきた時、助けてもらったんだ」

 「そうだったのかい?...じゃあ、さっきの発言からして誰にも言わない約束をしていたんだね」

 「うん。それに...」

 

 何かを言おうとするティオナだが目の前の人物を見て、口籠った。

 流石に姿まで教えてしまうのはダメだと思ったからだろう。

 

 「それに、何だ?まだ何か」

 「う、ううん!そ、その時にも、さっきの鳴き声みたいなのを出して返事をしてたから...

  いいよって意味なんだと思うよ、って言いたかっただけ」

 

 誤魔化すように、本来とは違う返答をした。

 フィンとリヴェリアは、ティオナが姿を知っている事を知る由も

 ないので、その返答だけで納得していた。 

 

 「...それなら、君が誰なのか問いかけても、答えてはくれないという事だね」

 「ベートの事もあるんだ。我々が拒否権を出させる事など出来ない」

 「わかっているよ。...ただ、ベートの発言に対しての謝罪を受け入れてもらえたかどうか。

  それだけは知っておきたいんだ」

 

 ...愚問だ。許したりはしない。

 だが、褐色の少女の勇敢な行為を、今度は僕が侮辱するような事をする

 訳にはいかない。

 それなら...

 

 カリカリカリカリ...

 

 「(何の音だ...?)」

 

 僕は紙に返事を書き記すと、ゴーグルの発光を消す。

 驚いている褐色の少女に近づき、右手首を掴み持ち上げさせると掌の

 上に紙を乗せた。

 そして、そのまま足音を立てないで、その場を去った。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ティオナは手を掴まれ、何かを持たせられた事に戸惑いながらもそれを 

 見る。

 1枚の紙だった。短く文章が書かれているのも確認する。

 

 「それは何だい?」

 「わかんないけど、多分返事を書いてくれてたのかも。

  言葉は通じてるんだけど、話せないみたいだから...」

 「そうか。では、なんと書いてあるんだ?」

 

 リヴェリアの問いかけに、その短い文章を読む。

 読み終えたティオナは俯いて唇を噛みしめる。

 

 「...次は、生皮を剥いで吊す、って書いてあるよ」

 「...これは、大失態を晒してしまったね」

 「ああっ。...リーネ、容体は?」

 「な、何とか手当をして呼吸も正常になりました。ですが、しばらくは絶対安静に

  してもらわないと...」  

 「そうだろうね。それだけやられたのなら...ダンジョンへ行かせるのも、当分は禁止かな」

 

 そう検討するフィンと、完治した際は猛省させると決めたリヴェリアは

 ベートをリーネ達に任せ、ロキと団員達が待つ店内へ向かおうとする。

 先程まで出入り口に仕掛けられていた赤い線は消えていたため、

 そこから入っていった。

 狭い道の真ん中でティオナは、感覚的に去って行ったであろう方向を

 見つめ、呟いた。

 

 「...もう、会えないのかな...」




没案では、お忍びで豊饒の女主人には来ている事にして、ベートが罵倒した事で
     ケルティックがベートを粛清しようとするとベルが止めるような
     展開にしていました。

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