【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
「という訳だ、ヘルメス。当日は真面目にするようにな」
「...ああ、もちろんそうするとも」
旅人の宿へ足を運んできたミアハの伝達に、ヘルメスは帽子で
表情と真意も隠しながら答えた。
贈答品として貰い受けたポーションの10本セットをテーブルの
隅に落さない位置に置くと肘をついて口元に手を添えながら、神妙な
面持ちで何か考え始める。
「どうかしたのか?」
「...いや、今まで姿を隠していたネフテュス先輩が、何故今になってデナトゥスに出席しようと思ったかそれが疑問でならないんだ」
「ふむ...イヴィルスに関する情報を伝えるために致し方なく、という事ではないか?」
「そう考えられなくもない。だが...
他に何かありそうな気もするんだ。それが何か俺はとても気になる」
ヘルメスは詮索するのをキッパリと止めて以降、ネフテュスの
行動を予想して待ち続けていた。
そして、予想外の行動に出てきて益々、ネフテュスに対する疑問を
抱くしかなかった。
詮索されたくないのは何か重大な事を隠しているのか、それだけに
留まらず、これまで何をしていたのかも知られないようにしていると
ヘルメスは模索していた。
そんなヘルメスにミアハが何か言おうとしていると、どこからか
ドスン!という大きな音が聞こえた、
地震かと思い、身を屈めて警戒するミアハにヘルメスが音の原因は
あれだと言いながら開いている窓を指す。
ミアハは窓へ近付き、そこから見える裏庭の光景に目を見張った。
「ぜぇ...ぜぇ...ア、アスフィ、も、もう、これが、限界、だと、思う、ぞ...」
「いいえファルガー!もっと今以上に全力で回せば飛べるはずです!
さぁ!もう一度お願いします!」
「ファルガー!ファイトー!ホームより上まで行かないと多分終わらないよー!」
他人事の様に言っているリディスにファルガーは項垂れるも、すぐに
顔中の汗を拭い、目の前にある取っ手を両手で掴む。
呼吸を整え、その取っ手を前に動かすと連動して大型の円形な物体も
反時計回りに回転し始める。
4つの柱が支える頭上の円卓には円形な物体よりも更に巨大な螺旋状の
物体が取り付けられており、根元にある格子の間隔が広い円筒の鳥籠の
様な物体と円形な物体の表面から伸びる突起と噛み合って、巨大な
螺旋状の物体はゆっくりとだが回転している。
それらを中心としている台座の4方向にはファルガーが歯車の前で、
他の3箇所には重石が乗せられており傾き防止としていた。
ファルガーが全身の力を込めて、より一層素早く取っ手を回すと
3つの機構の回転速度も速まって巨大な螺旋状の物体から風が発生し
始めた。
地面の雑草や植木の葉や、窓際に立っているミアハの髪を揺らし、
風の吹く勢いは強まっていく。
「フッ!くっ!フンッ!フンッ!」
...ズズ... ガコッ...
「おっ!浮いてる浮いてる!」
「そのままもっと回してください!」
これでもう全力だ、と無茶ぶりを言ってくるアスフィに内心で事情を
察しろと吐き捨てながら要望に応え、取っ手が引き千切れんばかりに
回転を速める。
やがて、台座と接地していた地面から30C、1Mとやがてアスフィ達が
上を向く程にまで上昇していった。
それを見てミアハは思った。
人が、空を飛ぼうとしている、と。
「最初は鳥の様に翼を付けて飛ぶといった発想をアスフィは考案していた。
けれど、完成直後にこれは違うと叫んでからぶっ壊すと、また一から考え直したんだ。
鳥の様に既存の飛行手段ではなく、人間独自の方法で飛ばないと意味が無い...そう言っていた」
「魔石昇降機とは別物として、なのだろうか?」
「その通り。俺が魔石を使ったらどうかと言ったら、とんでもない形相で否定されてしまったのをよーく覚えてるさ。
魔石は永久的に使える代物でもない。だから、永久的に何かを動かす事が出来るという発明をしたいんだろうな」
ヘルメスはこれまでに見ていたアスフィの苦悩を思い返す。
供述した通り最初は翼を模した道具を作ったがすぐに破壊し、三日三晩
徹夜して考案し続けた結果、あるものを見た事で今、窓の位置まで
上昇してきている機構を発明したのだ。
それは、目の前を落下して行く植物の種を見た事で得た発想だった。
まだ種が風に乗って運ばれる時期ではないのに、その種はアスフィの
前を通り過ぎていったのだという。
種の根元には4枚の葉っぱが四方に広がって生えており、回転しながら
落ちていくが風に乗る事で再び上昇するという現象を起こしていた。
それを見たアスフィは息を呑んで、これまで考えていた発想を全て
消し去り、その場でメモを書き記すとホームへ戻るや否や自室に篭って
あの機構の図面を引いたのだ。
「今はまだ粗いと思うけど...
何れ、あの発明品がすごい物になると俺は思っているよ」
「...確かに、そうだろうと私も思う。
魔石に頼らず、人智の技のみで為し得る偉業だ」
ミアハがそう述べている間に、その機構は遂にホームの屋根を通過し、
飛ぶ事が出来た。
回転させるのに必死なファルガーを余所にアスフィは感極まって
号泣し、リディスは労いの言葉を掛けながら抱きしめる。
やがてファルガーの体力も限界が訪れ、回転の速度が弱まっていき
地面に着地、ではなく落下した。
「じゃ、早速これ使わせてもらうぜ。ミアハ」
「ああ、またいつでも取り寄せよう。
では...私はこれで失礼させてもう」
「またな」
ヘルメスは先程貰ったポーションを数本手に、倒れているファルガーの
元へ急いだ。
アスフィとリディスは心配しながらも激励しており、ヘルメスが
ポーションを差し出してきたのでファルガーに飲ませた。
「...ネフテュス氏も、さぞ驚かれるだろうな」
そう呟いてから窓から覗くのを止め、ミアハは旅人の宿を後にするの
だった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「もう一度聞くぞ、ヴェル吉。正直に申せ、いいな?
これは、どこの、誰が、くれた物で作り上げた品物だ?ん?
団長命令として答えよ!」
「だ、だから、俺もわからないんだよ...
大分前からタダでドロップアイテムをくれる奴が居るみたいで、多分そいつなのは間違いないとは思うけど...」
ヘファイストスの主神室にてヴェルフは椿からの追求にたじろぐ。
3日前、いつもの様に出入口の前に贈呈されていたドロップアイテムを
使い、鎧や数本の戦斧やナイフを作った。
タケミカヅチ・ファミリアに戦斧を3本程分け与え、残りをテナントへ
売り出しに来た際、椿と鉢合わせた際、作った品物を見せた所、椿は
表情を一辺させて何を使って作ったのかと問い詰めてきた。
突然の事に困惑して黙ってしまうヴェルフをその時は何か疚しい事を
しているのではと訝り、椿はヘファイストスの元へ連れて来たのだ。
「ヴェル吉よ。これらに使ったドロップアイテムがどのような物か確認もせずに作ったのか?
この硬さは明らかにアダマンタイトと同等であり、そんなドロップアイテムを落すモンスターなど見た事がない。
つまりは、だっ!レアアイテムであると見て間違いない上、それをタダで貰うなど不届き千万!
しっかりと互いに相応の利益を得なければ!」
「椿、その辺にしてあげなさい。
ヴェルフも悪気があっての事ではないんだし...」
らしからぬと言ったように注意し続ける椿にヘファイストスは
制止を求めた。
ヴェルフも普段では見られない椿の叱咤に、戸惑っていた。
「しかしだな、主神様。
手前もこうして言いたくて言っているのではなく、団長として同じ団員の対応の問題を注意せねばならないためであって」
「わかっているわ。貴女らしくないって思っていたもの。
...ヴェルフ?この武器の元となった素材のドロップアイテムは、本当に贈呈されて貰ったものなのね?」
「は、はい。それは間違いなく...
あぁ、そうだ。この紙をいつも添えてますから」
そう言って1枚の紙を差し出し、ヘファイストスに見せる。
椿も覗き込む様にして見て、贈呈したという事実を認識した。
「むぅ、本当に贈呈している冒険者が居たとは...」
「俺だって最初捨てられたゴミかと思ってたけど...
箱の中身には武器になるドロップアイテムが山程入ってたんだ。
どこの誰だか知らないが...貰ったからには、作らないと勿体ないだろ」
「まぁ...それは一理も二理もあるな。手前も作るだろうし」
「そうね。でも、私や椿にくらいは相談してほしかったわね。
そうすれば、椿にこうして叱られもしなかったのに」
「そ、それは...申し訳ありませんでした...」
素直に謝罪するヴェルフにヘファイストスは微笑んで許した。
「しかし、一体どこの誰が贈呈などを?
ロキ・ファミリアでもそう易々とするはずはなさそうだが...」
「...心当たりがあるわ。
前にヴェルフには話したわよね?神々の先輩の事」
「あ、ああ、はい。
...その女神様の眷族が正体って思ってるんですか?」
「わからないけど...そうしそうなのが否定出来ないのよね...」
ため息をつくヘファイストスにヴェルフと椿は顔を見合わせて、
首を傾げるのだった。
「まぁ、とにかく、これの売り出しは許可するわ。
仕上がりも申し分ないから...目立つ所に置いてもらいなさい」
「!。ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」
「よかったな、ヴェル吉。...ちなみにだが、それの名前は?」
「こっちの鎧はクチバシバシでこっちは」
「「はぁー...」」
詩を読み始めたとは思えない程、ネーミングは悪化していたの
だった。