【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

123 / 156
>∟ ⊦''>'<、⊦ ̄、⊦ M’ewlunwchori

 何度目のため息だろう、とエイナは自身の中で思い返す。

 昼に差し掛かろうとしている時間帯。

 まだ午後からの仕事があるにも関わらず、エイナは既に気力が

 失せてしまっている様に見えた。

 

 「...昨日も来なかったなぁ...」

 

 仕事に復帰して以来、捕食者と呼ばれる彼が姿見せなくなって2週間も

 経ってしまっている現状がため息の原因だった。

 ギルドでの情報公開に伴いほとぼりが冷めるまで待っているのか、

 まさかとは思うが、命を落してしまったのかなど様々な不安が過ぎり、

 話し合おうと決心した彼女は日に日に諦めの気持ちへと揺らぎ始めて

 いる。

 2年前からネフテュス・ファミリアの担当者となり、捕食者への対応は

 未だに慣れないものの、何とか親しくなりたいという思いは変わりない

 エイナにとってこのもどかしい時間が憂鬱となっていた。

 

 「...はぁー...」

 「エイナー?またまた出ちゃってるよー」

 「あっ...」

 

 ミィシャに注意され、ハッと気付くエイナは首を振って仕事に

 集中しようと頬を軽く叩く。

 捕食者だけでなく他の冒険者との対応も任されている身として、憂鬱に

 なってる場合ではないと自分に言い聞かせた。

 しかし、隣から聞こえてくるため息にエイナは顔を顰める。

 

 「ちょっとミィシャ。私に注意しておきながら...」

 「だってさ~。ティオナさんが行方知れずになってもう10日も経つんだよ?

  心配にもなるでしょ?」

 「...それも、そうよね。ごめんなさい」

 「う、ううん。謝る事ないって...」

 

 ミィシャは苦笑いを浮かべ、自身と同様な気持ちになっているエイナに

 気を遣う。

 同期であり親友でもある仲なためお互いに、事情を察し合っているのは

 言うまでもない。

 頷いているとエイナが居るカウンターへ近寄ってくるリリルカの姿が

 見えた。

 すぐに姿勢を正し、少し寄れていたリボンとズレていた眼鏡を

 掛け直して目の前に立つリリルカに話し始める。

 

 「どうも、チュール様」

 「こんにちは、アーデ氏。ご用件は何でしょうか?」

 「はい。実は今度、加入しているパーティーで中層まで探索に向かうのはどうかという話が持ち上がっていまして...

  その相談をお願いに来ました」

 「なるほど。では、あちらの部屋にお願いします」

 

 はい、とリリルカは頷いて対談室へ向かう。

 ミィシャがしっかりアドバイスしてあげてね、と言ってきたので

 エイナは当然でしょ、と答えるとリリルカの後を追って行った。

 

 「(...心配するのは悪くない事だけど、今は目の前の仕事に集中しないとね)」

 「...そういえば、アーデ氏?そちらのヘルメットとナイフは新しく購入したものですか?」

 「購入というより、貰ったんです。

  ヴェルフ様がパーティーの皆さんにも売らない分を提供してくださって」

 「なるほど。見た所良い装備のようですし、よかったですね」

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ドア・ベルが鳴り、背後の棚にポーションや応急器具などを並べていた

 ナァーザは耳を動かして気付く。

 丁度並べ終えた所なのですぐにカウンターに立つが、来客の姿が

 見えない事にキョトンと目を点にする。

 

 「あ、すみません。下ですよ、下」

 「え?あ...いらっしゃい。初めて見る顔だね?」

 「はい、リリルカ・アーデと申します。以後お見知りおきを。

  【医神の忠犬】のナァーザ・エリスイス様で間違いありませんか?」

 「そうだよ。こちらこそよろしくね」

 

 お互いに自己紹介を済ませた所で、リリルカは商談を始める。

 リリルカとは初対面であるが、タケミカヅチ・ファミリアの面々は

 お得意様という事もあって堅苦しい雰囲気はすぐに無くなった。

 商談の内容は中層まで探索に向かうために大量のポーションを

 用意してもらうというものだった。

 ヒーラーが居ないパーティーにとって、治療や体力の回復には

 ポーションのみが頼りとなるためそれだけ必要となるのだ。

 しかし、当然ながら出費額はダンジョンで稼いだ収入の大半を

 使い切る事になるため、リリルカは交渉という目的も兼ねている。

 数時間前にエイナと相談した結果として、最低限必要な数を提示した。 

 ナァーザは提示されたポーションの数を見て定価を元に計算し、

 リリルカが教えてくれた予算と照らし合わせて、金額を考える。 

 

 「...じゃあ、依頼するクエストを達成してもらおうかな」

 「クエスト、ですか?」

 「うん。新薬を作ろうと思ってて、その材料となるドロップアイテムを入手してきてほしい。

  もし要望の量を多く集めてくれたら...うん、これの半額にしてあげるよ」

 「え?半額ですか!?...あ、で、ですが...

  そのドロップアイテムというのは...?」

 

 リリルカの心配している点は、何のモンスターのドロップアイテムで

 あるかだった。

 物にもよるが手強いモンスターのドロップアイテムとなると入手は

 そう簡単ではなく、万が一致命傷を負う事となり治療院へ入院する事と

 なれば、ポーションを買うための予算を費やしてしまう可能性も

 考慮する必要がある。

 先程、新しいポーションを作るという発言からして、入手するために

 倒さなければならないモンスターは中層に限りなく近い相手なのではと

 リリルカは予想していた。

 

 「ブルー・パピリオの翅。出来るだけ多く収集してほしいな」

 「(出現階層は上層。危険はありませんが、レアモンスターであり見つけだすには骨が折れそうですね...)」

 「それからブラッド・サウルス」

 「(出現階層は下層の)ってちょっと待ってくださぁあ~~~い!?

  リ、リリ達は今から中層を目指すんです!それにそのモンスターを相手になんて」

 

 唐突に難易度が跳ね上がったので、リリルカは手だけで体を支えながら

 カウンターに乗ったまま抗議する。

 それにナァーザは手を振って答えた。

 

 「ごめん。誤解させて...

  ダンジョンに居るのじゃなくて、地上のブラッドサウルスの卵を収集してきてほしいの。

  オラリオから少し離れたセオロの密林に棲んでて、レベル2の桜花と命なら倒せるよ」

 「そ、そうなのですか?確かに地上のモンスターと比べれば弱いと聞きますが...

  しかし、30階層のモンスターがそう弱くなるのでしょうか...?」

 

 リリルカが疑問に思っていると、ナァーザが棚の裏へと回って何かを

 持って戻ってきた。

 それはとても小さな石ころと同じくらいの魔石だった。

 

 「これが地上のブラッドサウルスが落した魔石。

  大昔から生殖を繰り返してきた地上のモンスター達は、親となる個体が魔石を削り分け与えて生きているから第一世代より著しく弱くなってるの。

  でも、ファルナを授かってない人からしたら十分に脅威だけどね」

 「なるほど...ちなみに、強さはどのくらいですか?」

 「ダンジョンのオークよりちょっと強いくらいかな」

 

 それを聞き、リリルカは以前から見続けている命達の戦闘を思い出して

 オーク程度なら倒せると踏み、クエストを受注する事にした。

 ナァーザは依頼書を書きながら、ブラッドサウルスの卵を入手する

 方法をリリルカに教えた。

 ブラッドサウルスをトラップアイテムで誘き寄せ、その隙に卵を

 窪地の巣から奪取するというものだった。

 リリルカはその方法をしっかりと覚え、ブルー・パピリオの翅と

 ブラッドサウルスの卵の収集は2組に分かれて実行するという案を

 命達に伝える事にした。

 

 「じゃあ...はい、依頼書」

 「確かに受け取りました。ナァーザ様。

  ところで、その新薬とはどういったものなのですか?」

 「体力とマインドを同時に回復させる...デュアル・ポーションっていうのをね。

  今までにない新薬だから、値段はこっちで決められて製造もここだけでするから、他のファミリアにも販売するようにすれば利益がもっと上がるし...

  何よりデュアンケヒトの爺の悔しがる顔が見たい」

 

 と、怪しく笑うナァーザにリリルカは戦慄した。

 温厚そうな雰囲気が一変したのだから、しない方がおかしいだろう。

 

 「えっと、そ、それは...すごく冒険者様にとっても需要がありますね...

  ちなみにおいくらで?」

 「...これくらい」

 「...ま、まぁ、妥当なお値段ですね。はい...

  リリ達には購入出来ませんが、ロキ・ファミリアなど大手ならいくらでも買うと思います

 「うん。...貴女達でよければ、定期的に収集してもらえないかな?

  そうしたら今回は5本、次からは3本を報酬で提供してあげるよ」

 「マジですか!?ぜ、是非お願いします!」

 

 リリルカは快諾してナァーザとの商談を終えた。

 しかし、この時はまだリリルカも命達も知る由はなかったのだ。

 獰猛な生き物から、卵を奪うという危険性を... 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。