【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
ブ モ ォ ォ オ オ オ~~~ッ!
「オラァアアアッ!!」
ド ガ ァ ァ ァ ァ ア ア ア ア アッ!!
これで50体目。そう数えながらベートは息を整える。
連日ダンジョンに潜っているベートは、只管モンスターを倒し続けて
いた。
もうじき遠征が近いというのもあるが、それだけでなく満たされない
渇望に苦しんでいるようである。
その原因はアイズにランクアップを先に越された事、捕食者に敗北した
苦渋が未だに彼のプライドを蝕んでいる事だった。
後者に関しては自身の落ち度があるので、多少なりともまともになった
と思っているのだが、それでも一方的に負かされた腹立たしさは消えて
いないようだ。
「...クソっ...」
しかし、いくら悔しがろうと敗北した事に変わりはないと自分自身に
言い聞かせ、通路の先を進んで行く。
とにかく目先の事以外を考えないでいた。
アイズに追いつくためにランクアップする事だ。
無謀な挑戦を成し遂げ、偉業と認められた事でランクアップしたと
知った時は、捕食者に手も足も出せなかった自身の弱さに怒りが
込み上げ、翌日は一日中ダンジョンで荒れていたという目撃証言が
ある。
どうすればこの苦しみから抜け出せるのか、あれから何も変わらぬまま
ダンジョンに籠ってはモンスターを倒し、ステイタスを伸ばす事に
必死となっているのだ。
そして、目の前を動く影を見つけるや否や足を踏みしめ、攻撃される
前に仕掛けようと攻め込んでいく。
「ん?」
「な、ぁっ...!?」
ベートは蹴りの構えを崩しながらそのまま壁際に何とか着地する。
危うく人を殺しそうになったベートは呼吸が乱れ、激しく打つ鼓動が
うるさいくらい耳に届いていた。
そんな様子を見かねて、レナは声を掛ける。
「大丈夫?どこか具合でも悪いの?」
「っ...うるせぇ。とっとと失せろ...」
「む。心配してあげてるのにそれはないんじゃない?」
その言葉に怒りが無意識に込み上げてきて、立ち上がると目の前の
壁を蹴り大穴を開ける。
レナは飛び散ってきた岩の破片に手で顔を隠し、ベートに文句を
言おうとした。
だが、そうする前にベートが凄まじい形相で怒鳴ってくる。
「誰が心配しろだなんて頼んだ!?あぁッ!?
俺は誰からも憐れまれたかねぇ!ましてや雑魚からにはな...!
虫唾が走るどころじゃねぇ、反吐が出るんだよ...
雑魚が自分の弱さを棚に上げて、強者を慰めるなんざ!
...俺が何しでかすかわからねぇ内に...今すぐ消えやがれッ!」
激しい怒声が通路内に響き渡る。
声を荒げたために呼吸も更に乱れ、ベートは顔中から汗を吹き出して
レナを睨みつけた。
流石に怯えて逃げるだろうと思っていたのだが、レナは怯えるどころか
不思議そうな表情を浮かべていた。
「...何で?」
「が、ぐっ...!?ぶっ殺すからに決まってんだろッ!」
「殺すって、貴方が私を?」
「...それ以外にどういう解釈があるってんだ」
「んー?危ないから離れろって感じ?」
「...は...?」
ベートは絶句して何も言い返せなかった。
殺すという意味を理解していない馬鹿なのか、と思われているレナは
人差し指を立てながら頬に当て続ける。
「雑魚って悪口っぽく言ってるけど、ホントは違うよね?
釣り竿の餌というかロバの人参っていうか?
気付いてほしいなぁって思ってるんじゃないかな」
「...テメ、何、言って...」
「とにかく...貴方なりの優しさだってわかるよ。えへへ♪
誰かに強くなってほしいから応援してるって事」
再び、何も言い返せなくなるベートにレナは首を傾げる。
そして、ハッと何かを思い出して地上へ戻る方向へ向かおうとする際に
助言を告げた。
「じゃあ、そろそろお愉しみの時間になるから、バイバイ!」
「...おい」
「あ、それから...
アマゾネスの私も含めて言うなら獣人みたく、皆が皆そう簡単に強くはならないし...
雑魚って言っても傷つけるだけになっちゃうから気を付けた方がいいよ?」
「...っ」
問いかける前にはっきりと否定された。
その場に佇むベートを置き去りにし、足音は遠退いて行くのだった。
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20階層の隠れ里にて、アリーゼ達とアスフィが訪れていた。
フィルヴィスとナァーザも誘おうと思っていたのだが、2人は
それぞれ私用があるため断念し、今回は5人のみという事に
なったそうだ。
「あぁ~~~...やっぱりグリューの背中暖かいなぁ...」
「またですか...申し訳ありません」
案の定、グリューの背中に乗って暖を取るアリーゼにリューは
ため息をついてグリューに謝っていた。
一方で、アスフィは輝夜とライラを交えてゼノス達と工作をして
いた。
何を作っているのかというと竹トンボだ。
アスフィが完成させた物を飛ばしてみせると、ゼノス達は大いに
興味を持って一所懸命に作っているのだ。
竹ではなく木片で作っているのに故郷で遊んだ事のある輝夜は
疑問に思ったが、気にするだけ野暮だと思い何も言わない事に
している。
「キュー?」
「ミスアスフィ。出来たと言っています」
「はい。少し見せてもらえますか?
...上出来ですね。あちらで飛ばしてみてください」
「キュー!」
手ではなく前歯で削った物だが、ものの見事に飛んだ。
アルルは大喜びして、アスフィとレットは拍手を送って頑張った事を
称える。
ところで何故、アスフィが竹トンボの作り方を熟知しているの
かというと、2日目に遡る。
ファルガーの協力の元、飛行テストに成功したので更なる人力の
飛行機構を模索していた際にある物が頭上から落ちてきた。
それが、竹トンボだった。
拾い上げて飛ばしたと思われるルナールの女性が慌てて謝りに来たが
アスフィは大丈夫ですよ、と言いながら返した。
その時までは、竹トンボがどのようなものなのか知らなかったので
アスフィが問いかけた所、ルナールの少女は竹トンボを飛ばして
見せた。
高く飛んでいく竹トンボを見て、アスフィは卒倒しかけたという。
螺旋状の飛行機構でなくても、たった2枚の羽根で飛んでいるの
だから信じられないと思ったそうだ。
落下していく竹トンボを猛ダッシュで掴み取り、ルナールの少女に
作り方を是が非でも教授してほしいと頭を下げて懇願した。
ルナールの少女は困惑しながらも、主神に作ってもらったので彼女
自身ではわからないと言い代わりにその主神に作り方を教わる事を
勧めた。
そうして名前を聞き、春姫という名前を知ってからアスフィは
タケミカヅチに会い、竹トンボの作り方を教わったのだ。
本来の材料である竹と竹が無い場合に材料とする木片で作る事を
学んで、いつかお礼をすると約束し春姫にも改めて感謝しすると、
ホームへ戻って飛行機構の改良を始めたのだという。
「これでいいのか?...よっ」
「いだ」
「...わ、わざとじゃないからな?」
「ええ、もちろんわかっていますとも。
ですから余計に質が悪くて腹立たしく思っております。
なので一発ちょっと」
「わざとじゃないって言ったろ!」
ライラと輝夜の追いかけっこが始まり、それも遊びだと思った
一部のゼノス達が混ざって賑やかとなる。
リューは人間とモンスターの親睦が深まるその光景を見て、顔を
綻ばせた。
すると、レイが近寄って来て手の持っている物を差し出してくるのに
気付く。
「リューさン。少しだけ食べてみていただけませんカ?」
「え?あ、はい...?」
差し出された物をリューは無意識の内に受け取って、それを見る。
それは湯気が立つ赤めのスープだった。
香ばしい匂いが鼻腔をくすぐるとリューは唾液を飲み込み、息を
吹きかけながら冷ますと一口啜った。
「...!」
「どう、でしょうカ...?」
「...地上では食事を提供する職をしているのですが...
生れて初めて味わったほど、とても美味しいです」
「そうですカ...!あの時食べた、ミネストローネをマネしてみたのですが...
お口に合って、よかったでス」
ふとレイの組んでいる両手の指先が傷だらけになっていると、リューは
気付いた。
同じような痛みを味わった事のあるリューは、レイの努力に感銘を受て
思わず涙目になっていた。
「リュ、リューさン?どうかしましたカ?」
「っ、い、いえ。目にゴミが入ってしまって...
レイ、これは貴女の努力の結晶です。皆さんも喜んで食べていただけるに違いありません」
「!。...はい、ありがとうございまス」
その後、拾ったとされる大鍋で木の実などを使ったミネストローネを
アリーゼ達はゼノスと一緒に仲睦まじく食した。
その美味しさに舌鼓を打って全員がレイを賞賛し、レイは嬉しく
思うのだった。
尚、ミルーツも混じっていたので、食べたアリーゼ達がどうなって
しまうのかは言うまでもない。
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ギュ オ ォ ォ ォ ォ ォ オ...!
一隻のドロップ・シップがマザーシップの格納庫に着艦した。
スカーを先頭にケルティック、チョッパー、ウルフ、ヴァルキリーが
近くで待っており、ドロップ・シップの後部ハッチが開くと1人の
褐色の肌をした女性が降りて来る。
赤いニットワンピースと同じく赤いズボンを着用し、黒く長い髪が
ウェーブしている目鼻立ちがはっきりした女性だ。
スカー達は女性に近付くと、女性は笑みを浮かべて気さくに声を
掛ける。
「皆、久しぶりね。元気にしてたかしら?」
カカカカカカ...
スカーを始めとしてケルティック達も低い顫動音を鳴らし返事をした。
それに頷く彼女にスカーが一歩近付くと、その巨体で抱き締める。
彼女も長身な方ではあるが、それでもスカー達は平均として200Cは
軽く越える程身体が大きいので離れようにも離せられない。
「ちょっと...もう。いつもはクールなくせに...」
ため息混じりに呆れるが、微笑みを浮かべ満更でもなさそうではあった。
スカーは腕は解かず、彼女を見つめて頬の傷跡を指先でなぞる。
それはスカーのヘルメットにも刻まれている一族の紋章であった。
そう、彼女こそスカーの番であるアレクサ・ウッズ。レックスだ。
物資の補給のために母星へ向かっていたのだが、途中で未確認の惑星を
発見したので、その惑星の調査と数日前にネフテュスからの依頼を
受けた事もあり戻るのに時間が掛かったそうである。
「お帰りなさい、レックス。
惑星の調査、アレの運搬とお疲れ様だったわね」
「ネフテュス様。ご希望通り...
1番活きの良いのを選んで持って来ましたよ。
...本当にこの地球でアレを放すつもりなら、考え直した方が...」
「大丈夫よ。聖地の設備はキチンと機能しているし...
あの子なら全部倒すのも簡単よ。
それに...あの子の故郷である事に意味があるわ」
「...そうですか。それなら、あの子を信じましょう」
そう答えるレックスの背後を執務クルーの3人が通り過ぎていった。
多くのカプセルに入ったソレを運びながら。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「...ん、ふ...」
その頃、青の薬舗ではナァーザが笑いを堪えていた。
ディアンケヒトが歯を食い縛りながら悔しがっている様を絶対に
見られると思っていたからだ。。
リリルカ達、タケミカヅチ・ファミリアが回収してくれた
ドロップアイテムにより新たに開発された2つの新薬。
その名もディアル・ポーションとハイ・デュアルポーション
どちらも体力とマインドを同時に回復するという効能は同じであるが
ハイ・デュアルポーションの方が上位互換性となっている。
ディアル・ポーションが完成した際にもっと優れた効能を発揮する
ものが出来るのでは?と考えたので、ナァーザは徹夜をして作った
そうだ。
リリルカ達、タケミカヅチ・ファミリアの面々には大いに感謝して
以前に約束した5本を10本に増やしてあげようと決めた。
「...リリルカの様子からして、とっても大変だったみたいだし...
やっぱり15...13本とこっちを2本あげよう」
「ナァーザよ。どうだ、完成したのか?」
「はい。明日、これを見せるのが楽しみです」
そうか、とミアハは微笑みながら頭を撫で、徹夜してまで作り上げた
ナァーザを労う。
それに少し恥ずかしそうに笑みを浮かべるナァーザだが、尻尾を
勢いよくブンブンと振って喜んでいるのが見てとれた。
「もうじきロキ・ファミリアが遠征に出発するそうだったな。
きっとそれが役立つはずだろう」
「もちろん、そのはずです。
でないとリリルカ達の苦労が無駄になってしまう...
「(それにディアンケヒトの爺の悔しがる顔が見れなくなる...)」
そう思いながら、ナァーザは眠気が無いので今の内に2つを
大量に作ろうと言ってすぐに作業に入った。
ミアハは内心を知る由もないとはいえ、そこまでして励むナァーザの
邪魔にならないように、部屋を後にするのだった。
尚、いつの間にか寝てしまっていた頃には2合わせて合計30本を
作ったそうだ。