【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 「...ロキ、とその子は呼んでいたのね?」

 『間違いなく...そう呼んでいました』

 「そう...じゃあ、少し話し合ってこないといけないわね。

  騒ぎ立てられず、穏便に済ませたいところだわ」

 『...ごめんなさい』

 「いいのよ。私のためを思ってした事なのだから、皆もわかってくれているわ。

  ...それじゃあ、準備をしないと。ウラノスに迷惑をかけてしまうわね...

  ふふっ。でも、俗世にお出かけなんていつ以来かしら」

 

 我が主神は玉座から立ち上がり階段を降りると、奥へと消えて

 いかれた。 

 お姿が見えなくなり僕も立ち上がる。...リスト・ブレイドの汚れを

 落そう。

 そう思い僕はレーザーサイトを照射し、固まった血を熱で溶かす。

 後で、ガントレットをビッグママに修理してもらわないと...

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 後日、フィンとロキが対談をしていた。

 

 「ベートには絶対安静にしないといけないから、ダンジョンへ潜るのはしばらく禁止と言っておいたよ。

  顔が固定されてて、頷いてるのかわからなかったけど」

 「リーネもあんなにまで包帯巻かなアカンかったんかって思うけど...まぁ、ええわ。

  で...件の捕食者やったっけ?が、これを渡して居らんくなったんやな」

 

 テーブルに置かれていた紙を手に取り、天井に向けながら眺める。

 短い文章の意味からして、ベートがまた罵倒すれば確実に危険だという

 事はロキにも理解できた。

 

 「にしてもティオナがそいつと面識があって幸いやったなぁ~」

 「そうだね。巡り合わせが1つでも違っていれば...ベートは殺されていたよ」

 

 それだけでなく下手をすればティオナも危機的状況に巻き込まれて

 いたのかもしれない。

 そう考えると、フィンの蟀谷に一筋の冷や汗が流れた。

 

 「というか...酔っぱらってたとは言うても、あのベートをボコボコにするなんて

  どんだけ腕っ節が強いやねん!レベル5相手にやで!?

  武器がどうのこうのとか関係あらへんやん...」

 「だから、僕としてはもう会えなくなるというのが残念に思うよ。

  彼らと協力関係を結べたら、心強いと思っていたものだから」

 

 それがフィンの本音だった。

 仲間を傷つけたとはいえ、ベートを叩きのめすほどの強さ、ヴィルガを

 倒せる武器を持つ彼らとなら、深層へ到達するまでの負担も軽減が

 出来ると思っていたからだ。

 それを察して、ロキはフィンに笑いかけた。

 

 「まぁ、過ぎた事を悔やんでも遅いんやし、うちらはうちらでやってやろうや!」

 「ああっ、そうだね。ロキ」

 

 頷くフィンにロキは、ふと何かを思い出し左の掌を軽くポンッと

 拳で叩いた。

 

 「せやった。明日な、ガネーシャんとこのパーティーに招待されたねん。

  それだけ覚えとってな」

 「わかったよ。でも、飲みすぎたり他の神に迷惑をかけないでくれよ?」

 「大丈夫やって。目ぇ付けとるんは1人だけで、それに...

  その捕食者の情報をそれとなく調べてみるわ」

 「それは助かるよ。何かわかったら教えてくれるかい」

 「おう!任せときや!」

 

 少しでも情報を集めたいフィンは、ロキを頼る事にした。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「では、お大事にとお伝えください。

  ...それと絶対に体を動かさせないようお願いしますね」

 「は、はい。ありがとうございました」

 「ご足労かけてすまなかったな」

 

 ベートの自室の前で検診に赴いていたアミッドはお辞儀をする。

 同様にリーネとリヴェリアも頭を下げ、感謝の意と労いの言葉を

 述べた。

 そこへロキとの対談を終え、フィンが様子を見にやってきた。

 

 「アミッド、急に呼び立ててしまって申し訳ない。忙しい中来てもらって」

 「いえ。仕事ですから。しかし...幸運でしたね。

  傷付いた内臓器官に特効性があるポーションを大量に用意しておりましたから」

 「本当に感謝しているよ。だけど、本当によかったのかい?

  2本も無料で提供してもらって」

 「そ、そうですよ、アミッドさん。遠慮せず受け取っていただいても...」

 

 本来であれば2本で600万ヴァリスはするポーションをアミッドは

 フィンの言った通り無料で提供してくれたのだ。

 まだ十万ヴァリス単位での赤字はともかく何百万となると、

 かなりの額だ。

 しかし、アミッドは平然とした口調で答えた。

 

 「いえ、お構いなく。理由は定かではありませんが、昨日ドロップアイテムを大量に贈呈してもらい、そのおかげでポーションを量産出来たんです」

 「あぁ、そういえばティオネが無償でそうしたのが腑に落ちないってずっと呟いていたね」

 「その贈呈してくれた者にも、彼らと同じく感謝しなくてはな。

  どこのファミリアか教えてもらえないだろうか?」

 

 その問いかけにアミッドは首を横に振るう。

 リーネはそれに首を傾げた。

 

 「それが...全くわからないんです」

 「え?わからないって...教えてもらえなかったんですか?」

 「そもそも、治療院の入口に無造作に置いて去って行きましたから。

  手掛かりとしては、この添えられていた紙のみです」

 

 ポケットから丁寧に折り畳んでいたあの紙を取り出す。

 それを見たフィンは、同じ様にポケットに仕舞っていた同様の紙を

 取り出した。

 アミッドはそれに気付くと、リヴェリアとリーネも同じように驚いて

 いた。

 

 「それは...同じ紙のようですが...?」

 「...皮肉だろうけど、ベートも彼らに助けられたという訳だね」

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ロキ・ファミリアのホームにある食堂では、昨日の事で様々な意見を

 団員達が出し合っていた。

 ベートの自業自得であり彼らには非がないという者も居れば、瀕死に

 なるまで甚振る事はなかったという者、これに懲りて少しは反省して

 くれてほしいと思う者。

 それぞれが思い思いを語っていると、二日酔いでゲンナリしている

 ラウルが遅めの朝食を摂りにやって来た。

 すると、アナキティが彼の名前を呼び手招きをしてきた。ラウルは

 それに気付き近寄って行く。

 

 「ほら、ラウルの分を用意しておいたよ。危うく無くなるところだったんだから」 

 「面目ないっす...さっきまでトイレに篭ってたもんで...」

 「私も、ちょっと頭がグワングワンするんだよね...

  やっぱ調子に乗って、飲み比べするのはよくないなぁ...」

 

 長い耳を根元からペタリと垂らし、ラクタはため息をつく。

 つられてラウルもため息をつくとアナキティも呆れてため息をついた。

 昨日の打ち上げで、ロキとガレスの酒豪相手に飲み比べをした団員達は

 全員、二日酔いでラウルとラクタと同じ状態になっていたのだからだ。

 呆れると言えば当然だと思える。

 

 「ところで、さっきから皆何の話し合いをしてるんっすか...?」

 「決まってるでしょ。昨日のあれについてよ。

  ベートをコテンパンにした相手が悪いのか悪くないのか議論してるの」

 「あぁ...そういう事すね...」

 

 ラウルは水を飲みながら、団員達が何を話しているのか理解した。

 ロキ・ファミリアきっての問題発言をするベートが、他のファミリアの

 団員を罵倒してしまう事は今回だけではない。

 だが、あれだけ叩きのめされたのはリヴェリアのお叱りを除いて他に

 例を見ない。

 

 「私は全然悪くないと思うけどなぁ。私達は慣れてるけど、他人からすれば普通怒るに決まってるし」

 「何より仲間を間接的にだけど助けられたから、文句は言えないわよね。

  まぁ、殺されなくてよかったとは思うけど」

 「もし...またベートさんと出くわしたら今度こそやばいっすよね...

  何でも生皮を剥いで吊す、と書かれた紙を渡されたそうっすよ」

 

 その発言にアナキティ、ラクタ、そして話し合っていた団員達が

 押し黙る。

 ラウルはパンを咥えたまま、墓穴を掘った事を悟った。

 その物騒な内容については、まだ言わないようフィンから伝えられて

 いたからだ。

 

 「本当なの、それ?」

 「野蛮過ぎでしょ...」

 「い、いやでも、ほら!もしかしたらブラックジョークでそう書いたって事もあり得るっすよ!?

  ベートさんがもうそういう事を言わないようにとかで」

 

 ラウルは思考を巡らせて、この場に居る全員が出来る限り納得するよう

 言い逃れようとする。

 しかし、ラウルの声が届かない団員達は、捕食者に不信感を抱くの

 だった。


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