【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
階段ではなく、スロープを転げないよう下っていく。
溶岩が足元を流れているはずなのだが、不思議な事に宮殿と思われる
その場所は全く暑さを感じなかった。
ティオナは周囲を見渡しながら玉座へと近付いていき、キングコングが
玉座の前で止まって背凭れの上にある窪みを見つめていた。
その窪みをティオナも見てみると、その中には歪な三角錐状の岩を
台にして、何かが置かれていた。
「(斧...?)」
それは柄となる巨大な骨に革の紐で、整えられていない斧刃が
括りつけられている斧であった。
キングコングは窪みから取り出し、ティオナとレイがよく見れるように
置く。
斧刃は岩ではなく、別の硬質な物を使われており革の紐も触ってみて
硬く締め付けているわかった。
「この刃がキングコング様と一騎打ちをしたゼノスの背鰭なんでス。
持つ部分はムートーという前足の長いモンスターの骨ですヨ」
「あ、背鰭だったんだ、これ...」
ティオナがマジマジと見ていると、ゴトンゴトンと何かが地面に
落ちたのに気付いて斧から視線を逸らす。
キングコングが落としたと思われるそれを拾い上げ、目を凝らしながら
見てみると、斧に括り付けられている同じ背鰭の破片だとティオナは
察した。
様々な大きさをしている幾つもの背鰭の破片はキングコングからすれば
とても小さいがティオナとレイからすると1番大きいものは両手で
持たないといけない程の大きさだった。
ゴフ... ヴォホフ...
「これで、何かを作れ、って言ってるのかな?」
「その通りでス。武器を作る事を伝えていますネ」
「武器...あぁ、だから紐を持ってこさせてたんだ」
100階層へ向かう前に腰に巻き付けていた長い竹の皮紐を解く。
長さは5Mあり、それでキングコングが見せた斧のように背鰭を
括りつけて加工する事が可能なはずである。
ティオナは武器となる材料を確かめていると、キングコングがまた
何かを落としてきた。長く細めの骨だ。
細いと言っても太さは十分にあり、柄にするには最適と思われる。
ゴフッ...
「小さな破片を使えば、穴を開けたり出来るそうでス」
「そっか。よーしっ!じゃあ...
これとこれをこうして...ここにこうすれば...」
ティオナはその場に座ると2つの平たく長い背鰭を左右に置き、中心に
骨を置いた。
やはり愛用する武器を作るようである。
ガリッ ガリッ ガリッ
キングコングとレイが静かに工作過程を見守る中、ティオナは小さな
背鰭の破片で平たく長い背鰭の底の中心部分を刳り貫き始めて、指が
すっぽりと入るのを確認してもう1つの背鰭も同じように中心部分を
刳り貫いた。
両方ともに穴を開け、長細い骨の片方の先端部分を切り落とすと
その穴に嵌め込もうとする。
ギ ギ ギ ギッ...
「ん?ん~?あれ?入、ら、な、いっ...!」」
フーッ...
「あ、あの、ティオナさン。
先端を少し尖らせた方がいいそうでス。そうすれば、嵌るはずだと」
「あ、わかった」
カッ カッ カッ カッ カッ
キングコングのアドバイス通り、骨の先端を尖らせた。
更に斜め状の切り込みを入れる事で表面がネジのような形状となり、
背鰭の穴へ回転させながら入れるとキュッとキツく締まって嵌った。
おぉ~と歓喜の声を上げながら、ティオナはキングコングの知識の
広さに感心する。
もう片方も同じ加工を施し、背鰭を嵌め込んだ。
形状は正しく大双刀となって仕上げに入ろうとする。
再びアドバイスを受け、骨に今度は小さな穴を開けるとそこに竹の
皮紐を通してから背鰭の根元のヘコみに引っ掛けながら括り付けて
いった。
竹の皮紐は簡単には引き千切れはしないので、補強するのに適して
いると思われる。
「っと...完成!出来たーーーっ!!」
ゴフッ ゴフッ
「ティオナさン。あそこの溶岩に先端の背鰭を入れてみてくださイ」
「え?あ、う、うん...?」
ティオナは戸惑いながらも溶岩が流れているのが見える穴に近付き、
ゆっくりと入れてみた。
異物が入った事で火の粉が飛び散り、ブクブクと背鰭に付着していた
水分が蒸発する事で泡立つ。
しばらく入れ続け、溶けていないか心配になったキングコングに
抜いていいかを聞き、許可を得るとすぐに引き抜いた。
ジュウウゥゥ...
「あ...全然溶けてない...
それに、何か光ってる...?」
溶岩を垂らしなら中身を青白く発光させる背鰭にティオナは驚きの
あまり呆然とする。
キングコングは手話で、その原理をレイに伝えた。
「その背鰭ハ、炎や熱線を吸収するそうでス。
なので攻撃をすると威力が増しながラ、戦えると言っていまス」
「へ、へぇ...じゃ、じゃあ、すごい武器を手に入れちゃったんだ...」
「捕食者さんと戦う際に是非使ってくださイ」
「...うん。もちろんそうするよ」
最初は恐縮していたが、捕食者との再戦するという思いによって
自然とそう答えたティオナ。
それにレイは微笑み、キングコングは頷いていた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
100階層へ向かう際に通った光の渦をもう一度潜り抜け、70階層に
戻ってきたティオナは未開拓領域の出入口付近でキングコングと別れの
挨拶を交わしていた。
遠征が終わり次第、特訓は再開するのだが礼儀はキチンとしなければ
ならないと思ったのだろう。
「また戻って来たらよろしくね!ししょー!」
フーッ...
「うん!それじゃ!」
ティオナはお土産を入れている丸く大きな竹篭を背負い、手を
振りながら70階層を後にする。
キングコングはティオナの背中が見えなくなるまで見送るのだった。
未開拓領域の通路を経由して、20階層へ向かっている途中、マリィが
居る25階層に立ち寄って再会を果たした。
臭いでティオナだと気付き、大喜びしてマリィが抱き着いてきたので
ティオナはバランスを崩し、水の中へ落ちてしまったりした。
体を洗うためにも訪れていたので、丁度よかったと言える。
「っぷはー!ふぅ~、さっぱりした~!」
「ティオナ、すごくながくなってる」
「ん?あぁ、髪の事?そうだね、マリィと同じくらいかな?」
「おなじ?おなじ、マリィ、うれしい!」
パシャパシャと尾びれで水面を揺らして、マリィは嬉しそうに
はしゃいでいた。
それにティオナは顔を綻ばせて、可愛さに癒される。
その光景は親子と見ても不思議ではないように思えた。
しばらくして、マリィと遊んだり、お話をしたティオナは以前と
同じように再会を約束し、マリィに見送られながら隠れ里へ向かった。
灯りが見え始め、隠れ里に入った瞬間に歓声を上げる。
特訓を頑張ったティオナを労おうと、ゼノス達が待っていたらしい。
...のだが、ティオナの姿を見て静まり返ってしまった。
髪が伸びているのもそうだが、また10C程伸びて180Cと長身になり
少女の体から女性へ成長しているその姿に一瞬だけ誰なのかと思ったの
だろう。
「...え、えっと...ティオナっち、だよな?臭いは同じだけど...」
「う、うん。そうだよ。
...そんなに見間違えてるかな?」
「ソ、ソウダナ。見タ目ガデカクナッテイルシ...
特ニレイヤラーニェニモアル乳房ガ...」
嗅覚以外に外見で人物の特徴を視認している辺り、ゼノスの知能は
やはり高い事が伺える。
ティオナは照れ笑いを浮かべながら、自然と胸を隠すようにして
恥じらっているようだった。
以前までの彼女からは想像出来ない仕草である。
「ま、まぁ、ティオナっち!キングコング様の特訓、よく頑張ったな!
捕食者とまた勝負する時が来たら、応援するぜ!」
「うん、ありがとう。リド」
困惑しているゼノス達だが、ティオナだと改めて認識して再度、歓声と
拍手を始める。
ティオナはゼノス達の祝意に感謝の意を込めて頷いた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
...バシュンッ!
...漸く戻ってこれた。僕自身の宇宙へ。
設定したワープポイントより1000K離れた空間に出てきたらしく、
やはり無茶をさせ過ぎたみたいだった。
早くマザーシップへ戻らないと、いつスカウト・シップが制御不能に
なるかわからない。
僕は操縦桿を前に倒し、地球へ向かった。
大気圏を突破して降下していく中、周囲を見渡すと夜に差し掛かる
時間帯なので暗くなっている事に気付く。
そして、明かりが灯っているオラリオの夜景が見え始めた。
ビビッ! ビビッ!
その途端にフォールトアラームが鳴り、重力制御システムに深刻な
エラーが生じているとわかった。
降下を止めようにもエンジンも異音を出し始めて、このままでは
墜落しかねないと判断する。
僕はマザーシップが滞在してある森へワープドライブしようと、
3Dディスプレイでマップにワープポイントを設定する。
スカウト・シップの真下にワープドライビングサークルが射出され、
再び船体を水平に戻しながら通過していった。
よし。マザーシップの真上へワープする事に成功した...!
推進力による着艦を行うため重力制御システムを解除する。
ゴゴゴッ ゴゴゴォッ... ゴゴゴッ!
正常に動かないエンジンが噴射を途切らせているが、僕は構わず
開かれている格納庫のハッチ目掛けて降下し続ける。
マザーシップの上面まで来た所で一気に噴射させた。
ビビーッ! ビビーッ! ビビーッ!
エンジンが燃え始めた...!もう降りるしかないっ。
収納していたランディングギアを展開し、1Mあるかないかの高低差まで
降下した。
僕はその瞬間、エンジンを切った。
ガ シャ ァア ア ア ンッ!!
思っていた程ではなかったが、落下の衝撃が全身に伝わってきた。
...しばらくは修理に時間が掛かるだろうな...
僕はコックピットから離れると、後部ハッチを開けて降りようとするが
途中で開くのが止まってしまう。
何度かガントレットを操作して開けようと試みるが、無理だとわかり
よじ登ると天井を押すようにしてハッチを強引に開かせた。
ガ ゴォ ンッ!
漸く降りられた...
僕はスカウト・シップの全体を見渡すと、改めて、よくこれで飛べて
いたと内心呆れていた。
エンジンは2つとも焼け焦げ、船体の表面には切り裂かれた痕や
浅くはあるが弾痕がくっきりと見えている。
僕の鍛錬に付き合ってくれた事に感謝して、船体の表面を撫でていると
スカー達が近寄ってくるのに気付いた。
よく見ると、レックスも居る。戻ってきていたんだ。
「お帰りなさい。随分と手荒な帰艦だったわね...
すぐにビッグママを呼んで修理してもらわないと」
僕は頷いて、我が主神の元へ向かう事を伝えてからその場を後にする。
通り掛かる度にヤウージャの皆は、帰還した僕を労ってくれた。
オープンスペースに着き、玉座にお座りになられている我が主神の
前で首を垂れる。
「...ふふっ。また強くなれたみたいね」
『戦利品は船内に置いてあります。是非お見せしたいと...』
「楽しみだわ。どんな獲物を狩ったのか...
でも、体を休ませなさい。成人の儀についての説明は明日してあげる。
勇猛な戦いを期待しているわ」
カカカカカカカ...
僕は拳を眉に当て、承認すると我が主神の前から立ち去る。
いよいよだ、と僕は拳を握り締めた。