【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
「...っ...!?」
男は暗闇の中で目覚めた。
瞼を見開いているが、周囲の状況が何も見えず、冷たい空気が漂い、
岩石臭が鼻孔を通ってくる。
男は仰向けに寝かされて体が動かない事に気付き、必死に藻掻くが
全く動かせない。
息苦しい、と思い藻掻くのを止めると何かが聞こえてきた。
それは獣の息遣いだ。1匹だけでなく、複数聞こえたように思えた。
「あ、起きたんだ」
突如として少女の声が聞けてきたのに男は驚愕する。
ここはどこなのか、何をする気なのか、男は少女に問いかけようと
するも、口に何かを咥えさせられていて上手く話せない。
「慌てなくてもいいよ。知る必要もないんだから」
コツコツと少女が近付いてきたと思い、男は再び藻掻いて逃げようと
する。
しかし、やはり体は動かせず恐怖が男を支配していく。
一際近くで聞こえた後、足音が止まった。
目の前に居る。そう思った矢先、頬に鼻息が吹き掛かるのを感じた。
「アンタは生贄に選ばれたんだ。とても名誉な事だよ?
もう少し待っててもらうからね」
その言葉を聞いた途端に男は悲鳴を上げ、言葉にならない命乞いを
するが少女はもう目の前には居なかった。
「そう怖がらなくても...少し苦しいだけだってば」
――――――――――――――――――――――――――――――――
ティオナを乗せたドロップ・シップがカイオス砂漠に到着し、付近で
待っていたルノアやレックスが後部ハッチへ近付く。
ハッチが開き、地面と接地するとネフテュスの後に続いてティオナと
スカーが降りてきた。
ティオナはルノアとレックスに気付き、体の見た目から女性であると
思いながら声を掛ける。
「え、えっと、初めまして。ティオナ・ヒリュテだよ。
その...よろしく、ね?」
『こちらこそ。...って訳でもないんだけどね、私は』
『私は初対面で間違いないわよ』
最初に返事を返してきたルノアの言葉にティオナは首を傾げる。
初対面ではないという事であれば、どこかで会った事があるのかと
疑問が浮かぶ。
首を傾げるティオナを見て、クスリと笑うとヘルメットに手を掛けて
脱ぎ始めた。
それに続き、レックスもヘルメットを脱ぐ。
カチッ
プシューッ...
「っふぅ...ほら、見覚えあるでしょ?」
「あ、う、うん。【黒拳】のルノア・ファウストだよね?
デメテル・ファミリアに所属してる...
どうして、ここに居るの?」
「まぁ、ちょっとした理由でデメテル様の眷族になってるんだけど...
本当はネフテュス様が主神様として崇めてるの。
で、こっちはアレクサ・ウッズ。
元オシリス・ファミリアの団長で、愛称はレックス」
「よろしくね、ティオナ。ルノアの言った愛称で呼んで構わないから」
「うん、わかった。こっちこそよろしくね、レックス」
自己紹介を済ませると、背後に立っていたネフテュスが近寄って来て
そろそろ向かおうと促す。
2人は頷き、ティオナだけはどこへ向かうのか知らないため、2人に
問いかけようとした時、スカーが前へ出て左腕のガントレットを
操作した。
すると、目の前に大穴が出現する。
ティオナはそれを見て、どうやって隠していたのかと気になったが
すぐにそこへ入るのだと察してネフテュス達が進んで行くと、その後を
追う。
大穴を下っていき、最奥部に到達すると以前にネフテュスが視察した
建造物を見つけ、ティオナは足を止めて凝視する。
どこかで見た覚えがあり、更には懐かしさを感じさせた。
「(...!。似てる、よね...?)」
形状は違えど、雰囲気は故郷のテルスキュラにある闘技場と酷似して
いた。
ティオナが覚えている闘技場は楕円形で、目の前にある建造物は
三角形であるが壁や柱などに施されている彫刻は間違いなく闘技場と
同じものである。
「あそこで儀式を行うのよ。...どうかしたのかしら?」
「あ、その...あたしが生まれ育った故郷にある闘技場と似てるなって...」
「闘技場...。...ずっと昔に造られた物かしら?』
「多分、そうだと思うよ。カーリーが来た時にはあったって言ってたし」
「(カーリー...あぁ、そういう事ね...)」
名前を聞いて何となく似ている理由を察したネフテュスは1人納得する。
『あの聖地を造った当時の人々が建築技術を広めるために、貴女の故郷へ行った事があるのかもしれないわね』
「でも、テルスキュラだよ?男子は入れないはずだけど...」
『技術は学べるんだし、女性かアマゾネスだったら入れても不思議じゃないと思わない?』
「あ...そっか。そうだよね...」
疑問が晴れたティオナにネフテュスは聖地へ入ろうと促した。
長い階段を登り切り、出入口を潜ろうとした際に肩を掴まれて
ティオナは立ち止まる。
止めたのはスカーだった。足元の床を指し、何かを伝えている。
下を見てみるも床には何もなく、何があるのかわからないでいると
レックスが教えてくれた。
『そこに仕掛けがあって、踏まないように彼が止めてくれたのよ』
「そ、そうだったんだ。ありがとう...」
カカカカカカカ...
低い顫動音を鳴らし、眼を光らせながらスカーは頷く。
まだ他にも仕掛けはあるそうなので、気を付けながらティオナは
ネフテュス達と共に聖地の中を進んで行った。
「...ところで、儀式って何の儀式をするの?」
『成人になるための通過儀礼をね。
価値のある獲物を狩って、最後まで生き残れたら合格って感じかな』
「カーリーも似た様な事をしていなかったかしら?」
「...うん。最強の戦士を見たいからって、毎日アマゾネス同士を戦わせてたよ...
今も、そうしてると思うけど...」
「やっぱりね...
あの子、私の真似をするのが好きだから何となくそう思ってたわ」
仕方なさそうに言ってため息をつくネフテュス。
真似をするのが好きという言葉を聞き、ティオナはだから建造物が
似ているのかと思うのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
しばらくして、通路を進み続けるとある部屋に入った。
以前に生贄を捧げる間へと入る方とは別の通路を進んできたようだ。
ネフテュスが左腕のガントレットを操作すると、部屋に明かりが灯る。
いきなり明るくなったため、暗順応となっていたティオナは目を細めて
チカチカと眩い明かりに慣れようとする。
やがて細めていた目を開き、部屋の中を見渡す。
何も置かれておらず、壁一面に透明な硝子が張られているだけの部屋で
あった。
「この部屋であの子の様子を観戦する事が出来るわ。
ここは特等席だけど、特別にここで観させてあげるから」
『そういう訳だから、私達は別の所に行ってくるわ』
『観てる時はなるべく、はしゃがないようにね?』
「わ、わかった。気を付けるね」
『それではネフテュス様。失礼します』
「ええ、また後でね」
レックス達3人は特等席とされる部屋を出て、ティオナとネフテュスの
2人だけとなる。
ティオナは硝子の向こう側がどうなっているのか気になり、覗き込むが
何も見えない。
というよりも、壁が見えるだけだった。
「もう少し待って?直に上に登るから」
「登るって...どういう事?」
――――――――――――――――――――――――――――――――
レックス達は目的の部屋に着き、入室する。
室内には既にケルティック達が待機しており、レックス達が来た事で
間もなく始まるのだと察した。
しかし、ティオナが居ない事に気付いて問いかけた。
『ゲストはどうしたんだ?』
『ネフテュス様と一緒に居るわ。
特別にあそこで観させてもらえるそうよ』
『ふーん...まぁ、アイツの許嫁になるって話だろ?
なら、特別扱いも妥当か』
『そういうアンタも何か良い感じの子を見つけたって噂があるけど?』
『へぇ~?どんな子なの?』
『ま、また今度な教えてやるって。
...多分、デナトゥスが終わってからそう長くはない頃に』