【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 翌日、ビッグママから修理が完了したリスト・ブレイド専用の

 ガントレットを受け取る。

 試しに伸縮する動作を確認してみた。

 

 ジャキンッ ジャコンッ

 

 カカカカカカ...

 

 正常に作動する。僕はビッグママにお礼を述べた。

 ビッグママは眉に拳を当て返答した。承認を得たという動作を別の

 意味で読み取ると、どういたしまして、と言ったようだ。

 僕は肩に手を置き、挨拶をしてから部屋を出た。

 丁度通り掛かった、フィーメルが声を掛けて来る。

 皆が集まって今後の行動について話し合うそうなので、フィーメルに

 僕は了解したという意味を込めて、眉に拳を当てた。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ベート・ローガが何者かにより重傷を負わされたという、信じ難い噂が

 昨日から冒険者の間で広まっていた。

 その噂を確かめようとしてくる冒険者に、本日も今朝方からミィシャは

 質問攻めを受けている。 

 

 「ですから私もそんな事は知らないんですってば!」

 「だけど、ロキ・ファミリアの担当してるんだろ?それなら...」

 

 そのような噂が広まった原因は豊饒の女主人に居合わせた冒険者達が

 話していた内容を、他の冒険者達が盗み聞きしてしまったからだ。

 現在、ロキ・ファミリア自体は公表しておらず、担当を受け持っている

 ミィシャも未だに把握していないため答えようがない。

 ギルドもその噂については根も葉もない話だと抑制として貼り紙を

 貼っている。

 だが、噂が真実なのか知りたい者が未だに居るようだった。

 

 「はぁぁ~~~...もう~!知ってても教えられないのはわかりきってるのに何で聞いてくるのかな~!」

 「ロキ・ファミリア担当なんだから、当てにしてくるのは仕方ないでしょ。

  ...でも、本当なのかな?第一級冒険者に重傷を負わせるなんて...」

 「どんな人物だったのか、皆は口を揃えてわからなかったって言ってるし...

  ホントに変な噂だよね~」

 

 ミィシャは背凭れに寄りかかり、天を仰ぐ。

 その様子を見ながら、エイナはもうじき始るモンスターフィリア祭で

 何か良からぬ事が起きるのではないかと、心配がするのだった。

   

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「...2日前に起きた事で彼らに敵愾心を抱いている者も少なくはないだろう。

  だが、あれはベートの言動が原因だ。憤慨するのも無理はないんじゃないかな?

  よって、彼らに返報をしようなんて考えはしないでくれ。

  ダンジョンに潜った際、もし万が一彼らと出会すような事があれば...

  ティオナと同じ様に謝罪するしかないだろうね」

 

 食堂に集められたロキ・ファミリア団員達にその報告が告げられたのは

 朝食後だった。

 フィンの説明通り、こちら側に非があると理解していたほとんどの

 団員達は素直に頷き、聞き入れる。しかし、一部の団員達は少なからず

 納得していなかった。

 確かにベートが原因ではあるが、ロキ・ファミリア全体としての問題に

 捉える事やオラリオ最大派閥のファミリアの団員としてそう簡単に頭を

 下げる事などしたくないからだ。

 その様子を見過ごさないフィンは、釘を刺す様に言った。

 

 「知っての通り、彼らには助けられた。それは皆も認知しているはずだ。

  あの時は感謝の言葉も述べる事が出来なかった僕としては、とても残念に思っている。

  だから、ロキが彼らの素性についての情報を得る事が出来たら、どこのファミリアなのか調べた後、ホームへ赴いてみる事にしたよ。

  団長としてキチンと話し合いはしておきたいんだ。

  誰もが憧れるロキ・ファミリアの威厳や求心力を無くしてしまうかもしれないのだからね」

 

 その言葉に納得していなかった団員達は、自身に言い聞かされたように

 俯いた。

 そして、解散の号令が掛けられ団員達はそれぞれ予定していた事を

 行うため食堂を後にした。

 

 「...はぁー...」

 

 フィンからの報告を聞き終え、ティオナは中庭のベンチで膝に肘をつき

 顔を支えるような姿勢で座っていた。

 理由は、ベートの罵倒が原因で怒らせてしまった捕食者と会えなくなる

 事を考えているからだ。

 

 「(もうっ...ベートのせいであの時は謝る事しか出来なかったじゃん。

   このまま何も言わずに会えなくなるなんて...

   そんなの...後悔するだけだよね...)」 

 

 何度目かわからないため息をつく様子をティオネはアイズ、

 レフィーヤと共に遠目から見ていた。

 ホームの通路となっている階段の窓から。

 

 「まさか、ティオナも助けられていたなんてね...

  通りであの時、余所余所しい感じがしてた訳だわ」

 「打ち上げ前に、皆と合流した時も、考え事をしていて通り過ぎていってたけど...」

 「多分、捕食者と呼ばれる人の事を考えていたんですね。

  店内で誰かを探していたのも...」

 

 3人は答え合わせをするように今までのティオナの行動を思い返す。

 嘘をつくのが苦手なため、誤魔化すのも目に見えて隠し事をしてるのが

 わかりやすい。

 しかし、重大な事を隠しているという事までは見抜けなかった事に

 ティオネは姉として自身を不甲斐なく思った。

  

 「...ティオナは、何を悩んでるのかな?」

 「決まってるでしょ。捕食者にお礼を言えなかった事を悔やんでるの。

  昨日はベートがやらかした事を代わりに謝ってて、言う暇がなかったみたいだし」

 「さ、流石は姉妹ですね。そこまでわかるんですか...」

 「何となくよ。本当に...」

 

 そう答えるティオネだが本心では、今のティオナが何を考えているのか

 わからない。

 他者に対する思いをどう汲み取っているのかまでは、姉妹といえど

 心までは読めるはずもないのからだ。

 相談に乗ったとしても、何気なしに言ってしまった言葉で妹の意思を

 傷付けてしまうかもしれない。

 それなら、どうすればいいのか?

 ティオネは改めて不甲斐ない自分に眉を広め、罪悪感に駆られるの

 だった。

 

 「...あの人は、どうやってあんなに強くなったのかな...」

 「ア、アイズさん!?あんな野蛮な戦い方を真似するおつもりじゃないですよね!?

  ダ、ダメですよそんなの!」

 「レフィーヤ。アンタもベートみたくなりたくなかったら、そういう事は外で言わない事よ。

  今度こそ、殺しに掛かるはずだから」

 

 淡々と忠告するティオネに、レフィーヤは固唾を飲んだ。

 ベートはティオナが説得をしたおかげで助かったが、次にまた捕食者に

 殺されそうになり、ティオナがその場にいたとしても意味を成さない

 かもしれない。

 それを見越した上で、レフィーヤに忠告したのだろう。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 夕方となり、僕を含めた皆は出入口のハッチで我が主神を見送るため

 集まっていた。

 我が主神は美しい肉体に白い布を巻き、外の空気で穢されないように

 していた。

 僕は送迎の役目を任されたので付き添う事となっている。

 

 「じゃあ皆。行ってくるわね」

 

 そういうとハッチが開き、僕は手を取って転倒されないよう支えながら

 降りて行く。

 その時スカーが、気をつけるようにと注意してきた。

 僕はもちろん、と眉に拳を当てて答える。そのやり取りを見て、

 我が主神は笑みを浮かべていた。

 マザー・シップの傍に用意していたスカウト・シップへ我が主神と

 乗り込む。

 

 カチッ カチッ カチッ

 

 ...ギュォォォォォン...!

 

 エンジン点火。システムオールグリーン。

 

 ピッ ピッ ピピッ

 

 クローキング起動。目的地設定完了。

 発進準備は出来た。僕は操縦桿を握り締める。

 テイクオフ。

 

 グ オ ォ オ オ オ オ オ オ オ オ オッ !!

 

 頭上の木々から伸びる枝を掻き分けながら垂直離陸をする。

 地上に居る人々に気付かれない空域まで上昇し、重力制御システムを

 起動させると、ジェットブースターを停止させる。 

 スカウト・シップは無音の状態で滞空し、エンジン音は周囲に

 鳴り響かなくなった。

 操縦桿を操作ながら方向転換し、スカウト・シップを飛行させ目的地へ

 向かい始める。 

 上空から見ると、オラリオの街は点々とした灯りのみで照らされて

 いるのがよくわかる。 

 ものの数分で目的地に到着し、着陸出来る場所を捜索する。

 ...見つけた。ここの空き地で待機しておこう。

 スカウト・シップを降下させていき、誰にも気付かれないよう音を

 立てず着陸した。

 キャノピーを展開させ、先に僕が降りてから我が主神の手を

 取り下ろした。

 

 「じゃあ、ちょっとだけ待っててね」

 『はい』

 

 僕は我が主神の言いつけ通り、スカウト・シップで待つ事となった。


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