【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
...これで用意は出来た。行くぞ...
僕は建造物から通路へ降りると、足音を立てないようにしながら
コンビスティックを構えつつ白い虫を探す。
反応はまだ出ない。
曲がり角に差し掛かり、横の壁を確認して先程よりも幅が狭まった
通路に入った。
左右どちらの壁にも穴があり、白い虫が背後から襲って来るのには
最も可能性のある通路だ。
僕は敢えて入り込むと、反応が出ないか生体感知センサーから目を
離さないよう、その通路を進んで行く。
...ピロン ピロン ピロン ピロン
...出て来たか。
ガントレットを操作すると、ゴーグルの視界に赤い光点が僕を表し、
そこを中心として周辺を半球形にした立体映像が映し出される。
1Mの水平距離、約14Mの斜距離、高低差30Mと表示されて
いるので...
ほぼ頭上の垂直上で天井に張り付き、僕を狙っているとわかった。
そこから分泌液を吐き出した所で命中はしないだろうし、先程の
刺傷で上手く吐く事もままならないと思いつつも万が一を考えた僕は、
なるべく壁際に近付く。
これで全身に浴びせる事は出来ないはずだ。
ピロン ピロン ピロン ピロン...
反応が途切れた。どうやら本当に分泌液を吐こうとしていたみたいだが
別の所から狙うつもりだろう。
僕はその場に佇み、また反応が出るのを待ち構えた。
すると、今度は背後から白い虫の反応を確認する。
まだ少し遠いな...もっと近付いて来い。こっちへ来るんだ...
来い...どうした?僕はここだ。...ここだと言ってるだろ...!
どうした...!さぁ来い、来てみろ...!
ピロン ピロン ピロン
すぐそこだ...!
H'ka-se...!
ギュ ィ ィ ン...
右肩の装甲に固定させていたレーザーネットを起動すると一筋の
赤いレーザーが照射され、曲がり角の突き当りとなる側の壁に
接触する。
通路を進む前に壁を確認したのは、この為だ。
立体映像にもレーザーは映っており、白い虫の横を通過しているのが
見て取れた。
僕は背を向けたまま肘打ちをする様に肩を動かすと、その動きに合わせ
レーザーは水平に移動した。
...バシュッ!
ギ シャ ァ ア ア ア ア ア ア ア ア アッ!
切断された音と白い虫の奇声が聞こえてくる。
真っ二つになったか振り返って確認してみるが、白い虫は五体満足で
そこに居た。
...斬れたのは背中の呼吸器官か。外れたみたいだ。
そう思っているや否や、白い虫は左側の壁から天井を這って僕目掛け
飛び掛かって来た。
咄嗟に僕はコンビスティックを突き出す。
しかし、プローブマウスを伸ばしてきた事で先端の硬質な針により
狙いが逸れ、白い虫が衝突してくる。
最初に狩った虫と同様に仰向けとなっている僕に白い虫が乗っている
状態となった。
ギ シャ ァ ア ア ア ア ア ア ア ア アッ!!
グ ル ル ル ル ル ル ル ル ル ル ル ルッ!!
右手にコンビスティックを握っているため、左手を白い虫の喉元に
押し付け口が僕の顔に向かないよう逸らせる。
インナーマウスによる刺殺はないにしろ、分泌液を顔中に浴びせられて
しまっては視界を失うと判断したからだ。
コンビスティックを収縮させ、突き刺そうとするも何かが右腕の手首に
絡まってきて動かせなくなる。
見ると、伸ばした尻尾が巻き付いていた。
更に、白い虫は僕の首を両手で絞めつけてくる。
吸い込んだ酸素は少ない。窒息するのも時間の問題だ。
僕はバーナーの照準を白い虫に合わせようとする。
自滅覚悟でやるしかない...!
フォシュンッ!
ド ゴォ オ オ オ オ オッ!!
白い虫の胸部にプラズマバレットは命中し、吹き飛ばされる。
巻き付いていたプローブマウスは粘液によってズルリと剥がれたので、
僕自身も吹き飛ばされはしなかった。
しかし、至近距離からの砲撃による衝撃波とその衝撃波によって
生じた電磁波でヘルメットのゴーグルから見える視界にノイズが走って
いる。
僕は急いで起き上がり、白い虫の生死を目視で確認する。
ギ シャ ァ ア ア ア アッ...!
Pauk...こいつも雄牛の虫と同様に耐えるのか。
その特性のおかげで幸いにも体液を浴びずに済んだが...
命拾いしたのも同然なのでケルティックかルノア辺りにお小言を
言われそうだと思った。
白い虫は僕を警戒しながら、ゆっくりと近付いて来る。
どうやら隠れもしない気でいるらしい。...なら、もう小細工はなしだ。
そう思い、僕は跳び上がって建造物の上に着地する。
すると、それに続いて白い虫も登って来た。
ガシュン プシュッ...
ガシャンッ...!
バーナーを左肩の装甲から外し、次にベルトや脚に装備している武器も
足元に投げ捨てる。
残したのはリスト・ブレイドだけだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「どうやら...最後の勝負になるみたいね」
ティオナの耳に、ネフテュスの言葉は入ってこなかった。
信じられない事実を立て続きに聞いてしまったからだろう。
しかし、捕食者とゼノモーフ・アルビノとの最後の一騎打ちが
始まるという事だけは認識出来ていた。
自身と勝負をした際に使用した青い光弾を発射する武器や戦斧を捨て、
両腕に装着しているガントレットのみで挑むのだとわかった。
「...ネフテュス様」
「ん?なに?」
「あの捕食者が、どうして強くなろうと決意したのかわかったけど...
そう決意出来た理由は...あるのかな...」
「...単純明快よ。本能がそう求めた...ただ、それだけの事。
人間も動物もモンスターも、あらゆる生物の渇望する原点は強さであり、意志的にも物理的に手にしようとする。
その渇望こそも、目の前で起きた光景によって本能が欲するからなのよ」
生命が生き残るために最も必要とされる力の根本は強さにある。
強さを欲してきた事で千年以上よりも前の生命は進化の礎を築き、
個々の繁栄も築いてきた。
力があったとしても真価を発揮出来なければ、ただの徒労に終わり、
渇望は失せるのだ。
捕食者の原点となる強さへの渇望は、幼き頃に見た鮮烈なまでの
あの光景なのだろう。
「...本当に...難しく考えずにそうしようって思うからなんだね...」
「そうよ。だからこそ、神々は人間が大好きなの。
心が躍る程、劇的に生きる貴女達をずっと未来永劫、見守っていてあげたくなるくらいに...ね」
神々が天界から下界へ降りてきたのは、暇潰しに来た、と多く語られて
いる。
それが真実なのか虚偽なのか、神々のみしか知り得ない事だ。
但し、神々が人間に愛情を注ぐのはティオナ自身も嘘ではないと
信じている。
「さぁ、お話はこれくらいにして...
あの子の決闘を見ましょう、ティオナ」
「...うん」
頷いたティオナはネフテュスの顔から視線を逸らし、捕食者を
見つめた。
「...ヘルメットは外さないの?」
「まだ儀式を達成していないから外せないのよ」
――――――――――――――――――――――――――――――――
ヴ オ ォ ォ オ オ オ オ オ オ オ オ オッ!!
ギ シャ ァ ア ア ア ア ア ア ア ア アッ!!
咆哮を合図に僕と白い虫は接近していく。
尻尾の一振りを掻い潜り、リスト・ブレイドを腹部に突き刺そうと
する。
白い虫は身を翻し、回避したと同時に僕の顔へプローブマウスを
何重にも巻き付けてきた。
ゴーグルが埋もれる程なので視界は真っ暗となったが、巻き付いている
箇所を掴んで強引に引き剥がそうとする。
しかし、すぐには外せないと判断し今度はリスト・ブレイドで
斬り裂こうとするも手応えがなく、器用に動かして回避しているのだと
わかった。
ギュ オッ!
ド ダ ァ ァ ァ ア ア ア ア ンッ!
その途端に宙を浮く感覚となり、投げ飛ばされた僕は背中から地面に
叩き付けられて衝撃が全身に響き渡ると鈍痛に襲われた。
プローブマウスは解かれてはいないので、再び投げ飛ばされ地面に
叩き付けられる。今度は体の真正面からだ。
このまま一方的にやられるのはごめんだ...!
僕は手を伸ばし、プローブマウスを掴み取る。
不定期なのは変わりませんが、この度から投稿は水曜・木曜を中心にする事にしました。