【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
捕食者の腕が吹き飛んだ光景にティオナは思わず、口元を手で覆い
驚愕していた。
あれだけ一切動かず、一瞬の隙を突いて襲い掛かったのだとしたら
とてつもなく利巧な生き物だとティオナは思った。
「死んだんじゃなかったの...!?」
「見ての通り、生きていたわね。擬死で隙を狙っていたのよ...
どの生物でも行なう行為だから、油断してはいけないわ」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょ!?
早く助けに行かないと!」
ティオナは観戦室の出入口へ移動し、出ようとするも突然扉に閉ざされ
出られなくなってしまう。
驚くティオナだが、すぐにネフテュスに詰め寄って扉を開けるよう
言おうとする。
「言ったでしょう?助けに行こうなんて考えない事、って」
「っ...!しっ、死んでもいいっていうの!?
神様なら助けるべきなんじゃない」
の、と言い終える瞬間に唇を指先で塞がれる。
強く押しつけている訳ではないが、何故か口を開けられなくなり、
ティオナは焦っていた。
「むぐぐ...!?」
「ティオナ。あの子と勝負をしている時、ゼノス達は止めようとしていた。
でも、私は止めないで続けさせたの。...どうしてかわかる?」
「...?」
「貴女が止めて、と言わなかったからよ。
...見なさい。あの子だって...ほら」
唇から指を放し、ネフテュスはその指で闘技場を指す。
ティオナは視線を闘技場へ移し、捕食者が何をしているのか見た。
「...あっ...」
ティオナが驚くのも無理はなかった。
捕食者は片腕を失っても尚、立ち向かおうとしていたからである。
先程切断された右腕で握られている武器を取り、そのまま左手で
撃ち始めた。
クイーンは頭部と喉元に青白い光弾が被弾した事で後退し、捕食者は
その場から、勢いよく跳び上がる。
距離を取り立て直すつもりなのだろう。
ところが、頭上を通過する際にクイーンが再び振るった尻尾が
左脚の膝裏を斬り付けた。
体勢を崩し、捕食者はそのまま落下していく。
「っ...!」
右腕が無いため、左腕を突き出し何とか地面に叩き付けられる衝撃を
緩和し、背中側から接地し数M程転がる。
捕食者は強引に体を起こして転がすのを止め、立ち上がろうとするも
その場で跪いてしまった。
見ると斬り付けられた裂傷部から、切断された腕と同様に大量出血して
おり、上手く動かせていない所から下腿三頭筋が肉離れと似たような
症状となってしまっているのだろう。
クイーンは尻尾を掴んだまま、捕食者へと向かって行っている。
「立って...!立ってッ!急いで早くッ!」
そう叫ぶティオナだが、観戦室から捕食者が居る場所までの距離では
届くはずもない。
捕食者は手持ちの武器と左肩の武器から青白い光弾を発射し、
クイーンを接近させまいと、弾幕を張る。
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フォシュンッ! フォシュンッ! フォシュンッ!
バシュンッ! バシュンッ! バシュンッ!
残り3発...
これ以上撃てばハンドプラズマキャノンは使用不可になるので、
撃つのを止めて腰に固定し、バーナーによる集中砲火でクイーンの
接近を止める事に専念した。
アドレナリンが大量に分泌されているおかげか、感覚器が麻痺して
痛みは全く感じられない。
だが、そんな事を考えているよりもクイーンを殺す手段を考えないと
いけな...!?
ギュ オッ!!
ド ゴ オォ ォ オ オ オ オ オ ンッ!!
間一髪の所で尻尾に押し潰されずに済んだ。
下手をしたら残ってる左腕まで使えなくなる所だった。
...目視で確認出来ない程、ジリジリといつの間にかそれだけ
近付いて来ていたのか。
つまりは...
ギ シャ ァ ァ ァ ァ ァ ア ア ア ア アッ!!
怯ませるのも容易ではなくなったという事だ...!
そう思っている矢先、クイーンが口を開けるとインナーマウスを
射出してくる。
近付いているため、当然届く射程範囲に僕は立っている。
咄嗟に僕は横っ飛びとなり、正面からの攻撃は回避出来た。
グ オ ォ オ オッ!
『...っ!?』
しかし、伸ばされたままのインナーマウスが槍の様に横振りに迫って
きたのに反応が遅れ、叩き飛ばされる。
左腕を伸ばそうとするも動かない。衝撃で神経が麻痺しているんだ。
僕はなるべく上半身から首を丸めて接地から床を転がる衝撃に備える。
運良く足から接地したので、前転する様に僕は転がり背中側を接地し、
床を滑りつつ両脚の踵で止まろうとした。
ギャ ギ ギ ギ ギ ギィッ...!
片方の脚が上手く動かせず困難ではあったが、徐々に止まっていき
床の亀裂がベルトに引っ掛かった事で完全に止まった。
急いで立ち上がろうとするも、やはり膝裏を斬り付けられた方の脚が
動かせない...
C'jit...!片足だけでは動くのも難しいんだぞ...!
何とかしようと感覚はないが動けるようにはなった左腕を持ち上げ、
太腿から膝までを強く叩く。
すると、ビクリと痙攣して歯を食い縛りながら力を込めたら、
立ち上がる事が出来た。
動ける、そう思い直ぐさま跳び上がろうとした矢先、全身を強く
締め付けられる苦痛に襲われる。
ギチ ギチ ギチ ギチィッ!
『グゥウウッ...!』
下を向くと尻尾が左腕毎上半身に巻き付き、拘束されてしまって
いるのがわかった。
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『...ああなったの、ウチのせい?』
『当たり前だろったく!お前って奴は』
『今それはどうでもいいから見ていなさいって!』
落ち込むダフネに叱咤し始めるショーティにルノアは宥めはせず、
ヘルメットを強引に闘技場へ向かせた。
それにショーティはルノアの手を離そうと反抗して暴れる。
その様子にケルティック達は何やってるんだ、と尻目に絶体絶命な
状況となっている捕食者を見続けていた。
『He's dyffewlenwt flom thos thle.I showard be a'brew tow dow samuthynwgu』
『...ええ、あの子なら勝てるはずよ。絶対に...』
スカーの語源を理解しているらしく、レックスは両手を組んで祈った。
神に対してではない。
捕食者本人に対して、勝つ事を信じての行いだった。