【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
[起きろ。いつまで呑気に寝ている]
...?
[フン...やっと起きたか。まったく...]
...ここは...どこだ...?
[言うなれば、死の淵だな。そこから落ちれば死ぬぞ]
...まだ落ちていないなら、戻れる手段が?
[さぁ?私はそのまま落ちたものでな...
あちら側に戻る方法は知らない]
...そうか...まぁ、それは当然か...
[あぁ、そうだとも。お前に殺されたのだからな]
...僕の事を、恨んでいるか?
[いいや?死んだのはお前に敗北したからだ。
卑怯な手も使わず、覚悟を決めて挑んできたお前を恨みなどしない。
そう...寧ろ清々している]
...本当に?
[だが、今のお前に関して言えば...
惨めで情けないとしか思えん。私に勝っておいて、その様とは...
ここで蹴落としてやってもいいんだぞ]
...あの時、蹴落とさなかった仕返しか?
恨まない代わりにその事を根に持っているんだな?
[私の亡骸は灰に還すと決めていた。
お前の母親と同じように...
それなのに、あろう事か土に還された。あの小娘共の手で...
仕返しぐらいしたくなるのも当然だろう]
覚悟を決めてと言っていたが...トドメを刺す際、本当は躊躇したんだ。
価値のある獲物は首を獲り、戦利品とするのが僕らの狩りであるが...
それを僕は成し遂げられなかった...
[...情けをかけたのか。私に...]
...そうだ...貴女の首を獲る事が我が主神からの試練だった。
試練を達成出来れば、成人の儀を含め狩り人として認められると
約束されていた...
...だが、あの時の僕は...出来なかった...
たった1人の血縁者を...いや...家族の首を取るなんて事は出来ないと
我が主神の期待を裏切った事に...
[...今のお前なら...あの時、私の首を獲っていたか?]
...当然、獲っている。
あの時、貴女を殺めたのが切っ掛けで本当に覚悟を決めたのだから...
貴女には感謝している。
だからこそ、ここから戻らないといけないんだ。
[...1つ聞いていいか?]
何だ?
[お前は英雄になる事を捨てた...それを後悔はしていないか?]
...おじいちゃんとの約束を破った事を除けば、していない。
名誉なき者は一族にあらず。名誉のために戦わぬ者に名誉はない。
その掟に誓いを立てた僕にとって、それ以外に後悔する事は
何1つないんだ。
価値のある獲物を狩り続ける...それが僕の覚悟だ。
[...そうか。それなら心配しただけ損だったな。
だが、無様に死んでいたならお前を地獄でも殺していたぞ]
...本当に容赦するつもりがないな。これでも僕は甥で...?
―...しっかり...して!
...聞こえる...この声はやっぱりティオナだ...
[どうやら迎えが来たようだな。
目を覚ましたら、さっさとあのデカい雑音を消してこい]
...言われなくても、そうするつもりだ。
全身全霊を懸けて狩ってやる...!
[いや...今のお前はまだ全ての能力を引き出せていない。
精神、知力、身体、五感を完全に我が物とし...自らを解放しろ]
...簡単に言っているが、どうすれば?
[私を殺したあの時に感じたはずだ。あの感覚を思い出せ。
それと...最後に言っておこう]
ん...?...アルフィアさん。抱き締める必要は
[私がしたいからさせろ。空気を読め、まったく...
メーテリアと父親の代わりに言っておく...お前は私達の誇りだ。
そして...愛している。必ず...勝ってこい]
...うん。言われなくても、わかってるよ...
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『...っ...』
空気を命一杯吸い込んで肺に送る。唾が詰まり、咳き込んでしまうが
寧ろそれのおかげで意識が完全に覚めた。
両目を開けようとしているが、片方の目が開け難い。
血が凝固化しているんだろう。
徐々に感覚がハッキリとし始め、あちこちから痛みが突き付けられて
くる。
...ただ、左手から伝わってくる温もりは...
「あっ、め、目が覚めた?...よかったぁ~...」
...ティオナ...
そうか、ずっと握って呼び掛けてくれていたのか...
僕は上半身を起こそうとすると、ティオナが左手を引っ張り手伝って
くれた。
...これは協力という事で認めてもらえるのかか、少し際どいな...
起き上がって手を引くと、彼女は握っていた手から離してくれた。
「大丈夫、って聞くのもおかしいよね。
右腕が無いし、こんなにボロボロだもん...」
彼女はヘルメットの頬辺りと僕の左肩から上腕部にかけて撫でる。
...少なからずともそれが慈悲による行為だとはわかっている。
理解したのに加え、少しばかり自分自身が腹立たしく思った。
頼りなく、情けない自分の姿を見せてしまった事も含めて彼女を
心配させた自分の不甲斐なさを覚えたからだ。
今でもティオナが心配そうに見つめている。
...そういえば、以前にイヴィルスの奴らが弩級の花を育てていた
狩り場へ向かう途中でチョッパーに言われた事があったか...
頼りない自分を見られたらその時は吠えろ、名誉挽回出来る、と。
...女性の扱いに慣れているチョッパーの言った事なのだから、それを
信用してみよう。
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ヴオ゙オ゙ォォオ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ッ!!
ティオナは驚いた。
突然、立ち上がったかと思えば捕食者が咆哮を上げたからだ。
観戦室にビリビリと響き渡り、通路を走って向かっていた途中の
レックス達は足を止める。
『っと...今のは...』
『アイツの声か。随分と気合入れてたな』
『...どうする?このままあっちの観戦室に行く?』
『...大丈夫そうなら戻って観た方がいいと思うわね』
闘技場に居るクイーンはこじ開けようとしていた扉から
咆哮が聞こえた方を向く。
生きていた事に驚く様に吠え返した。
ギ シャ ァ ァ ァ ァ ァ ア ア ア ア ア ア ア ア アッ!!
『...フゥゥゥ...!』
肺の空気を全て吐き出し、咆哮を上げ終えると息を整える。
何を意味するのかティオナにはわからなかったが、遠目から見ていた
ネフテュスは何か知っているようでクスリと微笑みを浮かべている。
「...あ、あはは...元気そうだね。すごいや...」
「ふふっ...この子は特別なのだから当然でしょう?
(...まぁ、彼女が発破をかけたおかげもあるようだけどね)」
冥府の境目でアルフィアと話しているのを知っているネフテュスは
それをティオナに教えようとはせず、捕食者の特異性のみで捕食者が
気力を保っていると思わせるようであった。
それを知らずしてティオナが近寄ると捕食者は振り向き、ジッと
真っ直ぐに視線をティオナの目に向ける。
亀裂から覗く瞳がヘルメット内部の光で照らされ、浮かび上がって
いた。
「...っ」
目の周りが血で染まっているが、その瞳の色はそれよりも赤い。
故に熱さ、強さ、興奮が芽生え惹かれていた。
埋めたのは当然アリーゼ達です。リヴェリア様も一緒に。
お義母さん呼びにしようか悩みましたが、二番煎じと思い名前呼びのさん付けにしました。