【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 ティオナを見ていると、不思議と落ち着くように思えた。

 身体の熱と昂ぶりはそのままだが、心は平静となっている。

 ...今更だが、ティオナの身体の変化はどうなってるんだ...?

 

 「...な、何...?」

 

 ...いや、今は気にする余裕はない。

 とにかく、これならアルフィアさんの言っていた事を行えるかも

 しれない。

 そう思った僕は視線をティオナから逸らし、俯いてあの時の感覚を

 思い出そうとする。

 精神、知力、身体、五感...それらをモノにして自らを解放...

 ...そうだ...命を奪う揺るぎない意思を持て。

 ...どう正確に急所を狙うか判断しろ。

 自分の血肉が滾るのを感じ取れ。

 獲物が死ぬ様を目に焼き付けろ。鼓動が止まるのを聞け。

 血の臭いと味を堪能しろ。

 そして...首を獲るために掴み取るんだ...!

 

 ...ドクン...ドクンッ...ドクンッ!

 

 ...熱い...手足の指先から始まり、腹、胸、背中の全てが...

 細胞や骨格1つ1つの動き、心臓から体を巡る血液の流れ。

 そして脳内の思考力がまるでスクリーンの様に見えているようだった。

 そうか、これが...アルフィアさんの言っていた、覚醒か...

 人を捨てる事で目覚める生物の極限だ...!

 

 ...ヴォ゙ア゙ァ゙ァ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「...っ...」

 

 また捕食者が咆哮を上げた。しかし、今度の咆哮は少し違うように

 ティオナは思えた。

 

 「あぁ...あぁ...!遂に、遂に貴方は辿り着いたのね...!

  神の恩恵を得ずして人間の可能性を超えたのよっ!」

 

 ネフテュスは涙を流しながら歓喜する。

 常に冷静で顔色を変えたりしないその端麗な顔立ちが、今は口の両端を

 吊り上げて破顔し、喜びに満ちている。

 7年待っていた。

 神にとっては数週間程度だろうが、待ち望んでいた時が眼前にて

 展開されているのだ。

 ネフテュスの言った通り人間である捕食者は、恩恵を授からずに

 これまで獲物を狩り続けていた。

 人智だけでなく神智でさえも類を見ない不可解な奇跡。

 

 「(メーテリア、アルフィア、ゼウス...

  この子は英雄を超える事が出来たわ...)」

 

 目を伏せて悲願を噛みしめながら、ネフテュスは目尻の涙を拭う。

 一方ティオナはというと、唯々呆然と捕食者を見つめていた。

 

 「(カーリーの言ってた最強の戦士...これが、そうなんだ...)」

 

 吼えるのを止めた捕食者は何かを確かめるように両手を開閉させ、

 最後に握り拳をつくる。

 ギリギリと音を立て、前を向くと自分が突き破った事で割れている

 窓へ近付き、そこから闘技場を見下ろす。

 先程まで扉の前に居たクイーンは建造物の上に戻ってきており、

 捕食者を迎え撃とうと待っているようだった。

 ヘルメットの亀裂から覗く瞳は原理は不明だが、物理的に赤く発光して

 おり、クイーンが見ている位置から捕食者がそこに居るのがわかる。

 それを察して飛び降りようとした。だが、その際に手を引かれた感覚に

 動きを止めて振り返る。

 ティオナが握り締めて、止めていたのだ。

 何故、そうしているのか捕食者が疑問に思っていると不意にティオナが

 抱き付いた。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ...何でティオナはいきなり抱き付いてきたんだ...?

 引き離せばいいのかと考えていると、自然に頭脳が思考を巡らせ始めて

 様々な心理的行動パターンを浮かべていき、最終的に導き出した答えが

 眼に浮かび上がってくる。 

 その答えは...異性として認識する好意の表われ、だった。

 ...つまりティオナは僕に慕情を抱いているんだ。

 信じられない、という否定的な感情は少なからずあるにしてもほんの

 少しだけであって、彼女の好意を抱いているという気持ちを僕は素直に

 受け入れていた。

 何故なら、アマゾネスという人種には強い雄を好むという習性が

 あるからだ。

 これまで、僕の戦いを見てきたのだからその習性に従ってティオナが

 強い雄として僕を見ていると確信する事が出来て、否定的な感情は

 綺麗に消え去る。 

 

 「...あ、あのね...その...」

 

 言葉を詰まらせるティオナ。何を伝えたいのかわからないが...

 こうした方がいいと考えるまでもなく、僕は握られている左手を

 引いて離させるとそのまま抱き寄せる。

 

 「ひゃっ...!...え...?」

 

 ...僕も彼女の事が好きになってたんだ...

 本能でそう理解する事が出来た。これは覚醒しているから、などと

 言い訳はしない。

 本心で僕はティオナを女としてみて、好きになったんだ。

 なので、僕は腕の力を緩めると抱き寄せた彼女を少し離れさせ、

 見つめる。

 オリーブグリーンの瞳に赤い発光点が映っているのが見えて、それが

 発光している僕の眼だと気付く。

 

 「...こんな事言うのも、君にとって余計な事かもしれないけど...

  絶対に...負けないで!」

 

 ...カカカカカカ 

 

 ティオナは僕の左手を握り締めて、そう言った。

 ...確かに負ける気なんて毛頭ない。

 だが、好きになった彼女の敬意を貶す事はしたくないので僕は彼女に

 頷いて、鳴き声を上げる。

 ティオナも頷き返して、左手を離した。 

 僕は握られていた左手を見てから握り締めて振り返り、割れた窓の縁に

 立った。

 そして、縁を蹴る様にしてその場から跳び上がると闘技場まで一気に

 到達した。 

 

 ズ ダ ンッ!

 

 片膝を付きながら着地し、振り返るとクイーンが待ち構えていた。

 すぐにでも決着を着けようと思ったが、ふと爪先に何かが当たったのに

 気付いて下を向いた。

 それは僕の右腕だった。

 切断された箇所は赤黒く血液が凝固かしており、壊死が始まっている。

 マザー・シップにある医療機器で壊死した箇所を治療し、元通りに

 接着させる事は可能だ。  

 すると、思考回路が自然と回り始めて数秒もしない内に答えを眼に

 浮かび上がらせてくる。

 ...そんな事が出来るのか...? 

 最初こそ疑心を抱くしかなかったが、好奇心のまま僕は足元に転がって 

 いる右腕を拾い上げる。

 

 グチャッ...

 

 次に上腕部の切断面部分を合わせた。

 その瞬間に骨髄で造血機能が活発化し、造血幹細胞が異常な程大量に

 造られていき、成熟した細胞となると血管を流れていき切断面から

 血が溢れた。

 更に体細胞分裂が始まり、壊死した箇所の皮膚、筋肉、上腕骨、骨髄へ

 行き渡っていくのが見える。

 数秒経つと細胞と細胞とが繋ぎ合って断面の切れ目が見えなくなり、

 ビクンと右腕が痙攣したかと思えば指先から手首、肘が思い通りに

 動かせるようになった。

 覚醒による凄まじい再生能力で僕の右腕が元通りになった。

 ダフネを除いて皆でも不可能な能力を僕は得たという事だ。 

 ...これでいくら傷付いても恐れなくていいんだ。

 

 ギ シャ ァ ァ ァ ァ ァ ア ア ア ア アッ!!

 

 吠えてくるクイーンに目を移し、僕は吼え返した。

 お前をこれから狩るんだと宣言するように。

 

 ヴ オ゙ ォ゙ ォ゙ オ゙ オ゙ オ゙ オ゙ オ゙ オ゙ オ゙ ッ!!




よくある人間は潜在能力を何パーセントしか使ってないって概念をぶっ壊す事で覚醒しました。
まぁ、人類は4万年掛けて進化してきたからこそ、潜在能力を発揮すると身体にダメージが大きく出てしま学習結果、本気は出せなくなったと思ってます。
元ネタはLUCYです。あっちはお薬のおかげですが、こっちは本能で100%になってます。
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