【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
その光景にティオナは圧倒される他ない。
捕食者の仲間達が思い思いの咆哮を上げ、称賛を浴びせている。
捕食者もそれに応えてクイーンの首を掲げながら自分の成し遂げた
偉業を告げていた。
今まで物静かで無関心な様子しか見た事がなかったために、
あれほど喜ぶ姿を目にしたティオナは多少なりに戸惑っている。
それから暫くの間、咆哮が鳴り響いていて捕食者が掲げていた
クイーンの首を下ろすとすぐに静寂となった。
「...じゃあ、行きましょうか」
「え?で、でも、あたし部外者だからダメなんじゃ」
「協定を結んでいるし特別ゲストとして認可しておいたの。
それに...貴女が居てくれた方が、あの子もきっと喜ぶわよ」
そう言われては拒否出来ない。というよりも拒否した場合、無礼な
事をしたと捕食者達を怒らせるのは明白なのでティオナは大人しく
付いて行く事にした。
扉が開き、通路を進んで行くと別の観戦室に居たレックス達と
合流する。
9人の内、レックスとルノアとスカーの3人のみしか会っていない
ティオナは緊張が走った。
天真爛漫である彼女でも初対面の捕食者を相手にするとそうなって
しまうようだ。
『どうだったかしら?あの子の戦いを見て』
「あ...うん。もうすごかったって言うしかないよ。
それと...えっと...」
レックスに答えた後の言葉に口籠るティオナ。
俯いているその表情は頬が赤らんでおり、指で前髪を弄っている。
その様子からして、その場の全員が察した。
惚れたんだな、と。種族もアマゾネスであるので考える間もなかった。
『そっかそっか。まぁ...うん、勝てばアンタのものになるから頑張ってね?』
『いや、負けてもアイツのものになるんだしどっちにしろだろ』
『でも、勝った方がエルダー様もすぐに認めてもらえそうだし...』
「な、何の話をしてるの?」
ティオナを差し置いて勝敗で何かを決めようとしている3人に
戸惑いながらも問いかける。
『ヤウージャは稀にだけど異性と勝敗によって交際を決める時があるの。
少しでも自分に傷を付けたり若しくは女性側が勝てば強者と認めて、ヘルメットを脱いで顔を晒す。
そうして自らを知らしめる事で許嫁となる権利を得られるのよ。
ちなみに何人でもOKって感じね』
『このチョッパーって奴が大所帯持ちで4人...え?また増えるっての?』
『レックスもスカーに一発かましてやって、負けちまったけどスカーが許嫁にしてくれたんだよな』
「ちょ、ちょっと待って?
ネフテュス様から聞いたけど、勝負に負けたら自爆するんじゃないの...?」
『それは敵意と敬意を表した奴との決闘で適応される掟。
だから、男女での勝負ではものにするか、されるかの2択になるよ』
そう聞かされた途端にティオナは自分の心配事が吹き飛ばされたように
思えた。
それなら次の勝負で手加減せずに戦えるんだ、と。
ネフテュスの自爆をするという話を聞いた時は、勝ってしまっては
いけないと思っていたので大いに嬉しく思っているようだ。
「...あ、でも...前に一度、勝負した時は脱がなかったけど...
まだこの儀式を達成していなかったからって事?」
『そうそう。だから安心しなさいよ。
あの子もアンタに気があるっぽいから』
「...え?」
『多分で、だぞ?こいつらがそう予想してるだけで根拠もないからさ』
「あ...そ、そうだよね。あはは...」
ショーティの可能性としての意訳にティオナは笑って誤魔化した。
内心ではドギマギしていたからだ。
「さ、お話は後にして...あの子の所へ行きましょう?」
「あ、うん」
ネフテュスに促され、その場に居た全員は闘技場へと向かった。
その時、ふとティオナはある事を思い出す。
「名前はまだ教えてもらえないの?」
「あぁ...ん~...儀式の際に教えてあげるわ」
「そっか。わかった」
――――――――――――――――――――――――――――――――
闘技場へ皆が集い始めて来るのが、ここからよく見える。
見渡していると我が主神を筆頭にスカー達とティオナが向かって来ると
気付いた。
部外者となるティオナがここへ足を踏み入れているのに疑問は
浮かばない。
我が主神がエルダー様に掛け合って認可してもらったのだろうから。
しばらくして我が主神と件のエルダー様が階段を上がり祭壇まで
登って来られた。
僕はお2人の前で首を垂れる。
『T'hos who huvu yewt tro se Thwei.
Yt wus ar great Kv'var』
『Honorewdo wyt tha hyghewsto Playsew』
最上級の称賛をいただき、僕は感謝の意を答える。
エルダー様は頷くと1歩下がり、次に我が主神が前に立たれた。
そのまま跪いているつもりだったが立つように言われ、その言葉に
従い立ち上がった途端に抱き締められた。
汚れてしまうと焦る僕は離させようとするも、エルダー様に制止され
手を下ろす。
我が主神は数分間もの間、離れないでいて僕を離した時には
眼に涙を浮かべていた。
「...よくやったわね。これで貴方は...立派な狩り人よ」
『...ありがとうございます』
エルダー様に次いで同等となる最上級の称賛に僕は返事をして頷くと、
再び我が主神は僕を抱き締めてくださった。
やがて満足された我が主神は僕から離れ、エルダー様と立ち位置を
替えると僕のそばに置かれている戦利品に近寄る。
これから血塗れた者となるための刻印を刻むんだ。
氏族によって違うため、その者が属する氏族のリーダーに刻印を額と
強酸耐性を解除してヘルメットに刻んでもらうのが、成人の儀の
最後となる行いだ。
僕はエルダー様と同じ氏族に属するので当然ながら、エルダー様に
刻印を刻んでもらう事になっている。
刻むために使うのは刃物でも爪でもなくクイーンの体液であり、
虫が死ぬと体液は中和するため爪先に塗り、刻む事が出来る。
これが聖地へ入る際に見つけた文字の意味なんだ。
まだ血を見ぬ者とは僕の事であり、価値ある獲物の血は最後に
狩る事が出来た虫の血、そして血塗られた者へと刻印を刻めとは
今からする行いの事だ。
僕は今か今かと待ち続けているとエルダー様が目の前に立ったのに
気付いてパイプを抜こうとしたが、ふと手を止める。
何故かエルダー様はセレモニアル・ダガーの表面に戦利品の肉片を
乗せていて、刻んでくださろうとはしていない様子だった。
どういう事なのか僕は理解が及ばず、問いかけようとするが先に
我が主神からこう告げられた。
「貴方は一氏族として置くのはとても惜しいと思うの。
だから...貴方が新たな氏族の長となりなさい」
――――――――――――――――――――――――――――――――
...信じられない。まさか僕が氏族の長へ任命されるなんて...
本来、長となるにはロスト・クラン入りを果たしてからであり、まだ
血濡れた者となったばかりで治療の痛みも耐えられない僕が長になって
いいのかと戸惑った。
...いや、待て...今の僕なら...?
そう思った僕は少し時間をいただくよう伝え、セレモニアル・ダガーで
自分を傷つけてみる。
あの時の感覚を呼び覚まし、腕に力を込めてみた。
すると、切断された右腕と同じように傷が塞がり、傷跡も残らずに
完治出来た。
...そうか、もうメディコンプすら必要なくなったのか...
我が主神とエルダー様はこの覚醒による僕の力を見極めた上で、
長となる事を任命してくださっているんだ。
それなら...これまでの恩を返すために僕は長へなろう。
僕は拳を眉に当て、承認する。
同じ動作をして我が主神とエルダー様からの承認を得た僕は、改めて
パイプを引き抜いていく。
カチッ
プシューッ...
...9年前以来に外すんだ。この時をどれだけ待っていたか...
両目を瞑りながら両手をヘルメットに掛けロックを解除し、顔から
引き剥がす様に外した。
ゆっくりと瞼を開き、大きく息を吸い込む。
肌に感じるひやりとした空気、鼻腔を擽る臭い。
それらを堪能し、心を静めていると我が主神から提案をされる。
「刻印は自分で思い描きなさい。これから長となるのだから...
思い入れの強い何かをモチーフにするといいわ」
それを聞き入れると右手の人差し指の爪を伸ばし、差し出されている
肉片から体液を掬う。
思い入れの強い何か...当然、あれらしかない。
最初に強酸耐性を解除したヘルメットの額部分に爪を当て、刻印を
刻んでいく。
白い煙を小さく上げながら刻み終えて見栄えを確かめ、問題ないと
思いながら今度は自分の額に爪を押し当てた。
多少の痛みが走るが、気にせずそのまま額に刻印を刻む。
「っ...」
僅かに覚醒しているので鏡があるように自分の額に刻む事が出来た。
それは我が主神が愛しい神のために流したとされる涙の形。
そして、福音の音色を奏でる鐘だ。
僕は体液の付いている爪を落とし、新たな爪を生やすと我が主神と
エルダー様にその刻印をお見せした。
「いいと思うわ。ねぇ?エルダー」
カカカカカカ...
「ふふっ...それじゃあ、お披露目しましょうか」
「はい」
僕は頷き、最上段の手前へと立った。
現代的に例えると平社員から代表取締役の会長へ出世しました。