【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
『これで言葉がわかるようになっから使えよ』
「あ、ありがと...えっと、どうやって使うの?」
『こうして耳に当ててみろ。それだけでいい』
ショーティから差し出された器機を耳に当て、祭壇に佇むネフテュスを
見上げるティオナ。 その表情には不安の色を漂わせていた。
かなり時間が掛かっていたようなので、何かあったのかと少しばかり
心配していたようだ。
ネフテュスが咳払いをして何か話し始めようとしているのに気付き、
耳を傾ける。
『我が勇猛なるヤウージャ達に告げる。
たった今より...新たな氏族の長が誕生したわ』
その発言に隣に立っていたショーティやルノアはへ?やえっ?と
ヘルメット越しでも呆然とした顔になっているのがわかった。
レックスとダフネも顔を見合わせ、予想外の事態になっているんだと
ティオナは感じ取れた。
「あの捕食者が長になるって事?」
『ええ...でも、色々と過程を通り越しているから異例の昇格だわ』
『特別としているにしても、掟には厳しいから本当にすごい事だよ。
番になったらアンタも一目置かしてもらえるかもね』
「へぇ...え?ちょ、ちょっと待って?番って」
聞き捨てならないダフネの発言にティオナはどういう意味なのか
聞き返そうとするもショーティとルノアに静かに、と言われしまい
押し黙るしかなかった。
『貴方達も目に焼き付けたのだから、異議はないわね?
...ある者はここまで登って来なさい。決闘をする権利を与えるわ』
ティオナは周囲を見渡して、誰1人として向かおうとしないと
わかった。
あの圧倒的な力を手に入れた捕食者の強さを認めないはずがないので
当然と言えば当然だろう。
ネフテュスはそれを確認し終えると、スッと横へ立ち位置を変える。
『それじゃあ...その意思に名を刻みなさい』
軽く掌を横へ差し出し、後ろに控えていた捕食者を立たせる。
――――――――――――――――――――――――――――――――
ティオナの瞳には、初めて見る事が出来た捕食者の素顔。
レベル50となれば2K先の針の穴まで見えるようで、今ティオナが
立っている場所からでもはっきりと見えていた。
その筋骨隆々な体格とは裏腹に意外な程、穏やかで中性的なあどけない
顔をしている事に驚く。
目付きも同様に凶悪ではないものの、鋭い眼光は明らかに獲物を狙う
捕食者のそれだと言えた。
ヘルメットを着けている際にも靡いていた長く白い髪は、前髪から
横髪までを後頭部へ纏め、後ろ髪なども金色の輪で数十本に結った
ドレッドヘアーとなっている。
レックスとショーティもそれと同じようにしている。
そうしてティオナが捕食者の顔を目に焼き付けるように見ていると、
ネフテュスがその名を告げた、
『新たな長となる男...ベル・クラネルよ』
「ヴオ゙ォ゙ォ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ッ!!」
成人の儀を成し遂げた事を告げた時と同じ様にベルは咆哮を上げた。
それに応えるべくヤウージャ達も咆哮を上げ、新たな長の誕生を
称える。
「ベル...クラネル...」
そんな中、ティオナだけはベルを見つめたまま名前を呟いていた。
好意を抱いた相手の名前を知れた嬉しさと、もう一度挑む事が出来る
期待が込み上げてきているようだ。
それを察したネフテュスはベルに呼び掛ける。
「ベル、見なさい。あの嬉しさと楽しみが混ざり合った顔を...
貴方との再戦をあんなにも熱望しているのよ」
「...また何れ、彼女が万全を期した時が来れば...
必ず僕は挑戦を受けましょう」
「ふふっ...」
ベルの返答に満足気なネフテュスは咆哮を上げ続けていた
ヤウージャ達に掌を上げ、静止させた。
『それじゃあ、各自ドロップ・シップへ戻ってオラリオへ帰りましょうか。
この聖地は用済みだから30分後に消滅させるわ』
ネフテュスがそう伝えると眉に拳を当て、ヤウージャ達はゾロゾロと
闘技場の壁にある出入口へと向かって行く。
どうすればいいのか戸惑うティオナにレックスが手を引いて案内をして
くれる事になり、出入口へ向かおうとする。
出入口の手前で振り返ると、もう一度ベルを見つめた。
「...!」
ベルも同じようにティオナを見つめている。
それに驚くも再戦した時、強くなった自分に期待をしてほしいという
願望を込めてティオナは頷いた。
そして、レックスが待つ出入口の奥の通路へ向かうのだった。
――――――――――――――――――――――――――――――――
...ド オ オ ォ ォ オ オ オ オ オ オ ンッ!!
一面平坦だった砂の海が一瞬にして膨れ上がり、山になったかと
思えば破裂して黒煙が凄まじい勢いで噴き出した。
原因は地下の奥深くにあった聖地が跡形もなく爆破されたからだ。
砂が風に乗って黒煙と共に舞い散り、雨の様に周辺に降り注ぐ。
その光景を小窓から見ていたティオナは船内の壁に凭れて、ズルズルと
その場に座り込んだ。
聖地が無くなった事で二度と見る事の出来なくなってしまった、ベルの
勇猛なる姿。
しかし、脳裏に焼き付いていて決して忘れる事はないだろう。
『ティオナ。オラリオに戻ったらどうするの?』
『もう深夜だからホームに戻るのも何だし...
よかったらウチに泊まってく?』
ロキにステイタス更新をしてもらい、ネフテュスと聖地へ向かった
時間帯から既に丸12時間過ぎていた。
このまま黄昏の館に戻ったとしても扉が閉まっていて入る事は
出来ないと思い、ダフネがそう提案する。
「...ううん。オラリオに着いたらダンジョンの入口へお願いしていい?」
『...まぁ、ティオナがそうしたいなら...
ただ、感化されたのかもしれないけど休憩くらいはしなよ?』
「うん、大丈夫だよ。あたしだってそこまで馬鹿じゃないし...」
そう答えるティオナにダフネはレックスへ目配りをし、頷くのを
見て目的地をダンジョン入口の直上へ設定する。
バシュンッ
ワープドライブにより一瞬にしてバベルの目の前へ到達し、そのまま
ダンジョンの入口に着陸した。
クローキング機能によって誰にも見つからずに到着したようだ。
しかし、油断してはいけないので既にネフテュスへシフターを返却した
ティオナにルノアは予備のガントレットからシフターを取り外して
それを渡した。
「ありがとう、ルノア。戻ってきたら返すね」
『ん~...別にいいかなぁ。どうせ持つ様になるんだし』
「え?...ね、ねぇ、もしかしてだけど...
皆、あたしが...ベルの事を好きなのって...」
『『『『知ってる(わよ/から/っての)』』』』
レックス達に続いてスカー達も頷いて返事をしていた。
するとティオナは恥ずかしさが込み上げてきたらしく、一気に赤面して
顔を両手で隠した。
そんな様子を見かねて、ヘルメットを外したレックスがティオナの肩に
手を乗せる。
「恥ずかしがる事なんてないわよ?
あの子、天涯孤独の身だから貴女みたいな子と結ばれるなら私達は文句なんて1つも言わない。
でも...ベルに勝つ気でもう一度戦うのよ?」
「...もちろん、そのつもりだよ。レックス」
「それじゃあ...頑張りなさい」
「うん!じゃあ、行ってくるね!」
ハッチから降りてティオナは手を勢いよく振り、ダンジョンへと
向かって行った。
レックス達はティオナの背中が見えなくなるまで見送り、やがて
ドロップ・シップを浮上させ、マザー・シップを隠している森林へと
向かっていくのだった。
次回のあとがきでちょっとしたお話があります。