【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
ティオナが向かったのは仲間達が向かう予定である階層ではなく、
21階層にある隠れ里だった。
深夜という事もあり、ゼノス達は火を消して就寝していた。
イケロス・ファミリアのような密猟者達からの襲撃も無くなったので
安眠出来ているようだ。
起こしてはいけないと思いながら忍び足でティオナは目を凝らしつつ
1体1体を見ていき、暫くしてレイを見つける。
「レイ...レイ」
「んん...ふぇ?...あ、ティ、ティオナさむぐっ」
「しーっ...うん。あたしだよ。
寝てる所を起こしてごめんね?」
ゆっくりとレイの口を塞いでいた手を退かし、苦笑いを浮かべながら
謝った。
レイは悪意があって起こしたではないと察しながら首を横に振る。
「い、いエ...あ、あの、どうしてここニ...?」
「うん...今すぐにししょーの所へ連れて行ってほしいの」
「え?い、今からですカ?ですが、キングコング様も恐らく寝ていると思いますガ...」
「いいの。寝てたら起きる頃まで待ってるから」
「そ、そうですカ...わかりました。では、行きましょう」
「ありがとう、レイ」
お礼を言うティオナにレイはいえ、と微笑み返してくれた。
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「ベルさん...それがあの方のお名前なのですネ」
「うん。今度からそう呼ぶように皆にも伝えといてもらえる?」
「はイ。わかりましタ」
キングコングが暮らしている73階層へ到着するまでの間、ティオナは
自分が目にした事をレイに話した。
本当の名前からエイリアンという異形の怪物の存在とヤウージャ達の
文化。
そして、勝敗によって番になれるかを決める事も。
雌を賭けて戦う生物は居るが異性でとなると、非常に珍しいものだ。
モンスターにも性別はあるが、ダンジョン内に生息する種は繁殖は
行えない。簡潔な理由は生殖器が無いからである。
地上へ進出したモンスターは進化の過程で繁栄という従来の方法で
生きながらえてきた。
ゼノス達も知性があるにしても繁栄という生物に備わっているはずの
本能が欠けているらしく、雌の個体を意識して争う事などはしない
らしい。
そもそも家族という概念によって意識すらしないという。
そんな話をしながら、73階層へ辿り着いた。
どうやら73階層にも朝から夜の時間帯があるらしく、天井の発光する
結晶体が照らされている以外、階層全域は暗闇に包まれている。
「ん~、やっぱり寝てそうかな...
とりあえず島へ運んでもらっていい?」
「はい、もちろんいいですヨ」
レイに島へ運んでもらったティオナは周囲を見渡して、キングコングが
その辺で寝転んでいないか探した。
すると、ドスンと地響きを立てて何かが背後に降ってきたのに気付いた
ティオナとレイは身構える。
しかし、頭上を見上げて正体がキングコングだとわかると安堵して
警戒を解いた。
「戻ってきたよ、ししょー。えっと...
沢山話したい事があるんだけど...お願いがあるんだ」
ゴフッ...
「...今まで倒してきたモンスターよりも強いモンスターと戦わせて」
それを聞いたレイは目を見開いて驚愕し、キングコングは人間の様に
顔を顰めながら左手を水平に置いて、その下を右手の人差し指を
立てたまま滑るように2度潜らせる。
理由は?という意味だ。
ティオナは率直に答える。
「あたしね、地上に戻るまでは強くなったって満足してた。
でも...ベルはそれ以上に強いんだって知ったから、もっと強くならないといけないんだって思ったの。
恩恵も無いのにあんなに強くなれるなんて...凄過ぎるもん...」
俯くティオナの脳裏には多種多様なエイリアン、そしてクイーンを
倒した勇猛な姿が過っていた。
まるで自分の満足していた強さはその程度なのだと、思い知らすように
鮮明だった。
ティオナは握り拳を作り、顔を上げてキングコングに叫ぶ。
「あたしはベルに負けたくない!勝ちたい!
勝って...あたしが本当に強いんだって認めてもらいたいから...!
お願い!ししょー!もっと強くなりたいの!」
キングコングは無言で息を荒げるティオナを見つめる。
叫んでいた時の気迫に押されたレイは声を掛けられず、静かに
キングコングがどうするのか見守っていた。
やがてフーッと息をつき、キングコングは手を地面に置き、掌を上に
してティオナが乗れるようにする。
ティオナはそれを察して掌に飛び乗るとキングコングは立ち上がり、
レイも乗るように手話で伝えて乗ったのを確認すると、どこかへと
向かった。
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以前と同じ様な移動方法でティオナ達は100階層へ辿り着いた。
やはり慣れない感覚に目を回すティオナだが、顔を振って平衡感覚の
違和感を消してどこへ向かうのか問いかけた。
キングコングは以前に赴いた玉座のある山と反対方向へ歩き始め、
降ろされたティオナはレイに飛行して運んでもらいながら付いて行く。
「...まさカ、キングコング様...」
「え?何?どうかしたの?」
「...いエ、すぐにわかりますヨ」
レイの朧気な発言にティオナは首を傾げる。
何か知っている様子だが、教えてくれないという事は言い難い事情が
あるのかもしれないと思い、聞き返しはしなかった。
進むにつれて木々が生い茂り、土は見えず岩が剥き出しとなっている
地帯へ入った事がわかった。
暫くして、キングコングが足を止める。
レイはキングコングの周囲を回るように旋回してゆっくりと降下し、
ティオナを着地させてから自身も降り立つ。
周囲を見渡すと、ティオナはある不審な点を見つける。
それは平たい岩が不自然な程垂直に立っていて、表面の汚れは何かの
絵に見えたからだ。
「ここに...誰か居るの?」
ゴフッ...
「...はい。あちらに...」
レイが前方を見つめながら翼を腕に変え、指を指しているのに気付いた
ティオナはその方向を見る。
そして、息を呑んだ。
岩の傍に立っている女性がティオナ達を見据えていたからだ。
「(女の人...?)」
腰まで長い緋色の髪をした、幼く可憐な少女とも絶世の美女とも
見受けられる青いドレスを身に纏っている女性。
髪と同じ緋色の、澄み切った瞳に射抜かれるティオナはまるで
全身を拘束されたかのように動けなくなっていた。
それは、以前に本気でロキが怒った際と同じような感覚だと思い、
ティオナの疑問は更に深まった。
そうしてレイに何者なのか問いかけようとした時、その女性が
ニコリと穏やかな微笑みを浮かべると近付いてきたのに気付く。
目の前まで近付いて来た女性は徐に顔をティオナの顔に近付け、
更に周囲を一周しながら臭いを嗅いでいた。
不気味な行動に戸惑うティオナ。一体何をしているのかと凝視する
しかなかった。
やがて嗅ぐのを止め、ティオナの前に立つ。
「貴女、ロキの子供?」
「...え?」
唐突に投げかけられた問いかけにティオナは呆然とする。
ロキ・ファミリアの【大切断】として知られるティオナを知らない者は
少ないはずである。
仮に知らないとして、この女性が本当に何者なのかわからなくなった
ティオナは一先ず頷いて答える。
女性は頷いて見せたティオナにやっぱり...と確信した様子でいた。
本人だけ何かを納得するのは不公平だと思い、ティオナも問いかけた。
「そっちは何者なの?どうして、この階層に...」
「...私は精霊。神の分身にして付けられた名はナルヴィ」
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「...精霊...ナルヴィ...?」
同じ名前の仲間を思い浮かべるも、すぐに別の事を思い出し始める。
英雄譚以外にも冒険譚を読み漁っていたティオナでもその存在は
知っていた。
神々の最も愛された子供、そして神の分身。それが精霊。
神々の降臨前、嘗て人類ひいては英雄のために加護を授け、下界の
モンスターを一掃するために神々が放った導き手であり、武器として
神意を受け取って英雄を助力していた存在。
オラリオには多くの精霊が遣わされ、それぞれの時代にサラマンダー、
ウンティーネ、ノームなどが存在し、その中には俗世間の中で暮らす
精霊も多いとされる。
しかし、ある時代を皮切りに忽然と姿を消した。
様々な考察や公論あるにしろ、人類の前から精霊は姿を消したのだ。
そんな存在を目の前にしてティオナは意識が遠退きそうになるも、
ナルヴィと名乗った精霊に手を握られてハッと直立した。
「大昔に私はモンスター達の攻防に敗れ、傷付き呑み込まれそうになったけれど...
彼が...コングが助けてくれたの。
ずっとずっと傷が癒えるまで守ってくれて...
お礼に私は言葉を教えてあげた。レイや他のゼノス達にも...」
「そうだったんだ...
だから、言葉を話せるようになったんだね」
「はイ。...ですガ、私はとても言葉遣いが酷かったのデ...
レックスさんに直してもらいました...」
ションボリと耳が垂れさがる程、落ち込むレイにティオナは苦笑いを
浮かべる他なかった。
ナルヴィも優しく笑みを浮かべていたが、ティオナにまた問いかけた。
「貴女の名前は?」
「あたしはティオナ・ヒリュテだよ。
ししょーの...えっとキングコング様の弟子で、その...
今よりもっと強くなりたいってお願いしたら、ここに来たんだけど...」
「...そう。それじゃあ、つまり...」
ナルヴィは握っていたティオナの手を離すと、背を向けてティオナ達を
見据えていた場所まで戻っていった。
どうかしたのかと思った矢先、ティオナは吹き飛ばされそうになる。
何とか踏ん張ってティオナはナルヴィを見ると、そこに居たのは
先程までとは異なる姿のナルヴィ、否、精霊が居た。
瞳が消えた眼。触手のように蠢く緋色の髪。
正しく異形の姿、神秘の象徴とも言える。
神威とは違った凄まじい威圧感に固唾を飲み、ティオナは混乱する。
「私が相手をしてあげたらいいのね?」
「...え?」
ゴフッ
「そう...わかった。それじゃあ、ティオナ」
「あ、う、うん?」
「全力で来なさい」
そう呟いた後、ナルヴィは両腕を交差させる。
突然の事にティオナはキングコングに止めさせようとするも、レイを
掴んでその場から一目散に退避するのを見送るしかなかった。
その間にもナルヴィは何かを呟いていた。詠唱だ。
「【閃光よ駆け抜けよ。闇を切り裂け。代行者たる我が名はルクス。光の化身。光の女王】
【ライト・バースト】」
それも短文詠唱だった。
交差している両腕の掌から無数の光り輝く手の様な閃光の砲弾が
伸びてきて、一直線に向かってくる。
ティオナは咄嗟に跳び上がり、回避したものの追尾してきた砲弾を見て、
腰に引っ提げていた大双刀を振るった。
「そっりゃぁあああっ!!」
バギィイインッ! バギィイイインッ!
砲弾は斬り裂かれ、他に追尾して来なかったのを確認しつつティオナは
ナルヴィが居る場所より離れた所へ着地した。
心拍数が上がり、興奮状態になりそうになるが冷静さを失わないよう
深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。
「...確かに、こんなに強いなら...ベルに追いつける...!
絶対、逃げたりなんかしないっ!」
決意を固め、ティオナはナルヴィへ向かって行くのだった。
59階層に居た穢れた精霊の生存ルートシナリオ確立。
原作及び様々作品のキング・コングに登場するアンという立ち位置です。
名前がナルヴィなのは敢えて被らせてます。
ここまでご閲覧いただきありがとうございました。
では、ちょっとした話を。と言ってもそう大した事ではありません。
ここで区切ります。つまり 第一部 完 という事にします。
理由はベル君が今までスカー達と同じ所属していた氏族から独立して、独自の刻印を刻んたのでタイトルの挿絵を変えるからです。
来年のいつぐらいから再開する、というのも決めてませんが是非続きのご閲覧をお願いします。
では、次回で予告みたいなのを投稿しますので、第二部のURLから移動をしてください。
それでは皆様、よいお年を。2023年も健康第一に過ごしましょうね。