【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
「ネ、ネフテュス先輩!?ど、どうしてここに...」
ネフテュスが現れ、会場内の神々は騒然となる事もなくただ沈黙して
いた。
そんな事はお構いなしに、ネフテュスは3人に近寄っていく。
3人はその場から動けなくなってしまったかのように、ネフテュスが
近寄ってくるまでジッとしていた。
「ふふっ...サプライズ登場っていうのをやってみたかったの。
上手くいったみたいで嬉しいわ。...ところで、ヘスティア?
頬っぺたについてるわよ。んっ...」
「あ、ありがとう...」
「どういたしまして。ヘファイストスも髪の毛が跳ねちゃってるわよ?」
「こ、これは地毛ですから...というか、ずっと前から知ってるでしょう...」
「あら、そうだったかしら...まぁ...それはそれとして...ロキ?」
「あ、はい?何でしょ?」
まるで2人を幼女と接するかのように話していたネフテュスはロキを
見つめる。
ロキを見つめる両方の瞳は青から白、白から緑へと一色に留まらず
変色を続けている。
ロキは上ずった声で返事をし、何を言われるのか内心緊張しているよう
だった。
そんなロキにネフテュスは優しく笑みを浮かべ謝罪した。
「この間はごめんなさいね。私の子供が貴女の子供を生皮を剥いで吊そうとして」
その発言にロキだけでなく、ヘスティアやヘファイストス、そして
神々にも緊張が走った。
演説をしていたガネーシャでさえ、ネフテュス達が居る方を見て
黙っている。
ロキは気が動転しそうになる自身を抑えようと、深呼吸をする。
「ふー...。...ちょ、ちょっと待ってもらえへんでしょか...?」
「ええ、ごゆっくりどうぞ」
「あの、先輩の子供って...どないな子なんです?
もし人違いやったら、違うと思いますねやけど...」
まずは確認からと、ロキはネフテュスに問いかけた。
本当にネフテュスの眷族なら、すぐに答えてくれるはずだと思って
いたからだ。
それにネフテュスは唇に指を置き、虚空を見つめながら答える。
「ん~...ダンジョンで獲物を求める捕食者、かしらね。
というか、当日にその子から聞いたのよ。貴女の子供があの子達の狩りを侮辱し、罵倒したから殺そうとしたって。
あの子達にとって私が教えた狩りは、私と同じくらい大切に思っているから...
戦利品にも満たない雑魚として貴女の子供に、つい手を出してしまったのよ」
その声色に怒りは感じない。だが、それが寧ろロキにとって恐怖すら
感じた。
「...ベートには、よく言い聞かせておきますから先輩、どうか」
ネフテュスは自分の指をピトッと軽くロキの唇に押し付けた。
先程、自分の唇に置いていた方の指をだ。
それに驚きつつ、ロキは未だに笑みを浮かべているネフテュスを見た。
「怒ってなんかいないから、安心して?でも、まだあの子の方は怒っていてね...
その子と顔を合わせないようにしておきたいわ。
私からもやめておくよう注意しておくから。
私がダメと言った事に歯向かいはしないけど...覚えておいてね?
あの時、殺されなかったのは...運が本当によかったからなのよ」
指を離し、ネフテュスはロキに対し微笑みながらそう答えた。
ネフテュス自身は実際のところ気に障ってはいないようだが、眷族の
方が怒り心頭なのだとロキは理解し、何度も頷く。
「わかりましたわ。...ところで、先輩?何で先輩がオラリオに...というか、いつから
下界に来てたんですのん?」
「7年前からよ。ず~っと隠れて過ごしていたんだけど...
もう隠れる事もなくなりそうかしら...
それじゃあ、謝ったからこの辺で失礼するわね。皆、バイバイ」
最初に何故かヘスティアの頭を撫で次にロキ、ヘファイストスを
撫でてから、ヒラヒラと手を振りつつ、ネフテュスは会場を後に
していった。
残された神々はしばらくの間、沈黙を保っていたが、突然に
ガネーシャが大声で自分の名前を叫び沈黙を破った。
それに神々は冷たい雰囲気に飲み込まれないよう、同じように
ガネーシャの名前を叫んだ。
しかし、ロキはネフテュスが去っていった方を見ながら佇んでいた。
残り少ないグラスの中身を飲み干すと、テーブルに置き振り返らずに
告げた。
「すまん、今すぐホームに帰るわ。またな、ヘファイストス、ドチビ」
「ええっ。...何も起きない事を祈ってるわ」
「き...気をつけて帰るんだよ?」
「...どーもな」
普段であれば鼻で笑うか無視をするところだが、精神を落ち着かせる
ためにもロキはヘスティアに返事をした。
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お戻りになられた我が主神は、シートに座る。
ここへ来るまでは上機嫌そうに見えていたが、今はどこか気落ちして
いるように見えた。
「皆、やっぱり怖がっていたわね...はぁー...
...少し寄り道をしましょうか。空の上を見て帰りたいわ」
『わかりました』
重力制御システムはまだ起動しているため、スカウト・シップを
垂直離陸させそのまま上昇していく。
容易に成層圏から大気圏を突破し、スカウト・シップは熱圏、そして
外気圏に出た。
その位置で留まる。
「綺麗...下の子達は、こんなにも世界が広いなんて思わないでしょうね」
どこを向いても黒い空間が広がり、地上から見る星は瞬く事なく発光し
続ける。
目の前の惑星はとても青い。
我が主神の仰る通り、とても綺麗だ。...けど、嫌いだ。
故郷だと言われても...僕の帰る場所なんて、もう無い。
...おじいちゃんがいなくなった、その日から...
色んな事を教えてくれて、おじいちゃんはすごく大好きだった。
...でも、まだ小さかった頃...本当に突然居なくなったんだ。
おじいちゃんが居なくなって、僕は強くなろうと思った。
猛獣やモンスターを倒せば強くなれると思って、いつもより暑い日に
森の中へ入っていったが
その甘い考えのせいで、僕は死にそうになった。
群がってくるモンスターを見て、僕は死ぬと思った。
けれど、死ぬなら最後まで足掻いて死んでやる。そう覚悟を決めた僕は
1匹のモンスターに飛び掛かり、おじいちゃんがいつも使っていた斧で
首を斬り落とした。
噴き出す血で僕は全身が汚れて真っ赤になっていた。
僕は全力を出し尽くして、力が抜けた。
そして、襲いかかってくるモンスターに噛み殺されそうになった。
しかし、殺されたのは、そのモンスターの方だった。
他にもその場にいたモンスターは瞬く間に殺された。僕は振り返り...
こう言った。
誰かいるの...?
...今思えば、あの褐色の少女...ティオナ、という少女と同じ事を
言っていたんだな...
それに答えるように、暗闇の中から現れたのは、エルダー様だった。
エルダー様やスカー、皆の種族は不名誉となるので助ける事はしない。
だけど、まだ仲間となっていなかった僕は助けられた。
助けられて安堵して泣いていた僕を誰かが抱きしめてくれた。
我が主神...ネフテュス様だった。
僕は今思うと、考えられないような事をしていたんだ...
そうして、僕はネフテュスとエルダー様に拾われ...こうして一緒に
居る。
その代わりに...僕はおじいちゃんとの約束を捨てた。
おじいちゃんに教えられた事を、鮮明に覚えている。
[もし英雄と呼ばれる資格があるとするならば、剣を取った者ではなく
盾をかざした者でもなく、癒しをもたらした者でもない。
己を賭した者こそが、英雄と呼ばれるのだ。
仲間を守れ、女を救え、己を賭けろ。折れても構わん、挫けてもよい
大いに泣け、勝者は常に敗者の中にいる。
願いを貫き、想いを叫ぶのだ。
さすれば、それが一番、格好のいい英雄だ]
...ごめん...おじいちゃん...
僕は英雄にはならない...違う、なりたくない...
...英雄なんて、御伽噺だけで十分だよ...
英雄になりたい、
僕は...獲物を狩るだけだ