【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 ヘルハウンドの群れと睨みあうティオナとティオネ。

 先に動いたのはティオナで、数匹のヘルハウンドは口を広げ炎を

 放とうとする。

 しかし、ティオナに気を取られ、ヘルハウンドはティオネも近づいて

 いる事には気づいていなかった。

  

 ザシュッ! ザシュッ! ザシュッ!

 

 ティオネは上を向いているヘルハウンドの喉笛を斬り裂き

 絶命させる。

 死骸となったヘルハウンドの口からは溜め込まれていた炎が消えた事で

 煙が上がっていた。

  

 「ナイス!」

 

 ガルルルルルッ! ガァァァアアッ!

 

 「まだ来るわよ!油断しない事!」

 「わかってるって!」

 

 ティオナは再び複数のヘルハウンドに向かっていく。ティオネも

 タイミングを見計らい後に続いた。

 ヘルハウンドの対処法はシンプルだ。

 炎が放たれる前に喉を斬り裂く。若しくは口を塞ぎ、自滅させるかだ。

 2人は前者の方法で囲っていたヘルハウンドの群れは一瞬にして

 倒し終えた。

 

 「ふぅ~~...」

 「結構な量を倒せたわね。牙とか爪は私が回収するからアンタは炎袋お願い」

 「えぇえ~~!?あれ熱いし気持ち悪いから直接触りたくないんだけど!?」 

 「文句を言わない!ほら、さっさとやるわよ」

 「むぅう~~...」

 

 姉の言う事に逆らえない妹という定義の宿命でティオナは、

 ヘルハウンドの火袋を拾い集めた。

 ヘルハウンドが口から放つ炎は、その炎袋が源とされている。

 そのため触れるだけでも熱く、持つには専用の布手袋をするか火傷を

 覚悟して持ち上げ袋に入れるしかない。

 

 ジュッ

 

 「あっちちちちち!あっついっ!あっつ!

 

 ティオナは後者を選び、袋に炎袋を投げ入れる。

 落ちていた全ての炎袋を入れたのを確認し、ティオネはティオナを

 褒める。

 

 「よく我慢して集めたじゃない。うぅ...お姉ちゃん嬉しくて涙が出るわ」

 「うるっさいよもうっ!」

 

 シュウウゥゥ...

 

 よよよ、と泣く素振りをするティオネにティオナは怒りながら

 ポーションを取り出し、満遍なく掌に掛け火傷を治す。

 そうしていると、どこからか何かが軋む音が聞こえてきた。

 2人は辺りを見渡し、上層へ続く坂道を少人数の冒険者達がカーゴを

 運んでいるのが見えた。

 

 「あれってガネーシャ・ファミリアの...

  あぁ、もうすぐモンスターフィリア祭が始まるんだったわね」

 「そっか。それで調教するためのモンスターを運び出してるんだね」 

 

 2人は警戒を解き、地上へ向かうガネーシャ・ファミリアの団員達を

 見送った。

 その時、ティオナはふと、捕食者の事を思い浮かべた。 

 

 「(...フィリア祭に来るって事は...ないよね。多分...

   ずっと正体を隠していたんだと思うし...)」

 「...もし、結果として何事もなければ明日、アイズ達を誘って行ってみない?」

 「あたしは...。...うん、あたしも行こっかな」

 

 ティオナは少なからず、望みを捨てていなかったのでそう答えた。

 それを察してかティオネは静かに頷く。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ギルドに着いたフィン達は、出入口を通りながらこれかの予定を

 話し合っていた。

 

 「さーて、まずはミィシャちゃんに事情を説明してみよか」

 「しかし...7年も前から活動していたのなら、何故ネフテュス・ファミリアという名が全く知られていないのだろうか...?」

 

 素朴な疑問をリヴェリアが呟くと、フィンもその疑問について考え

 始める。

 

 「深層まで潜る事が出来るなら、第一級冒険者相当のレベルだろうけど...

  あの頃からかなり経っているのに、今まで名前すら聴いた事がないのは確かに不思議だね」

 「何でやろな~。というか、ネフテュス先輩が降りて来たって事自体、全然知らんかったわ。

  知っとったら菓子折り持って、いの一番に頭下げに行ってたんやけどなぁ~~」

 

 後頭部を掻きながら、深くため息をつき後悔するロキ。

 その様子を見てフィンは問いかけた。

 

 「ロキ、神ネフテュスとの上下関係については理解したけど...

  神にとって、そんなにも偉大なのかい?」

 「あんな?偉大とかそういうのちゃうねん。お世話になったから、恩返しをしたいんや。

  悪戯し過ぎてマジで殺されそうになった時、貯蔵されとった酒樽を1000樽飲んでしもうた時、ちょっと誑かした女神に毒を顔に滴らされそうになった時...

  その全部を庇ってくれたんやからな」

 

 ゴッ!!

 

 とても重い純音がギルドのホールに響き渡った。

 冒険者や職員達は音がした方向を見て、呆然とする。

 オラリオ最大派閥のロキ・ファミリアの主神が床をのたうち回っている

 からだ。

 

 「うぐぉおお~~~!!」

 「全て自業自得という訳だな。ベートと変わらないではないか」

 「ロキ...流石に最後の発言を聴いてしまったからには、弁護出来ないよ...」

 「だ、大丈夫やってちゃんと仲直りしたんやから! 

  と、とにかくな?それくらい先輩には数々の恩義があるから、何としてもちゃんと謝らなアカンねん」

 「当たり前だ。全く...神ネフテュスが信じられないほど寛大な事に感謝せねばな」

 

 そう答えるリヴェリアにロキは起き上がりながら、苦笑いを浮かべた。

 ロキ自身も、その事には共感しているのだろう。

 そして、ロキ・ファミリアの担当者であるミィシャに話しかけた。

 

 「こんちゃー、ミィシャちゃん。どない塩梅や?」 

 「えっと...言ってる意味がわからないんですけど...

  あ、フィン団長とリヴェリア様も一緒なら丁度よかったです。

  お客様がお待ちしておりますよ」

 「え?ウチらに?...あぁ、悪いんやけど、そいつにはまた今度会ういう事にしてもろても」

 

 断ろうとするロキにミィシャは首を横に振るう。

 フィンとリヴェリアは拒否権が無い事を訝った。

 

 「いやぁ、多分断れませんよ?ウラノス様から直接伝えられたんですし...」

 「...わかった。どこで待ってるんや?」

 

 ウラノス直々に担当者が伝言を受け取っている。 

 つまり、最重要人物と会う事になるというのを3人は察した。

 ミィシャの案内で、ギルド内に幾つもある対談室の内、中央の部屋に

 辿り着いた。

 案内を終えたミィシャはそそくさと自分の受付へと戻る。

 3人は誰が待っているのかわからないが、顔を見合わせて頷き合う。

 ロキは手摺りに手をかけ、勢いよくドアを開け室内へと入った。

 

 「失礼すんでー」

 「失礼する」

 「...?」 

 

 しかし、室内には誰も居なかった。

 3人は用心深く見渡してみるも、やはり人影はない。

 入る際と同じように3人は顔を見合わせた、その瞬間だった。

 

 ヴゥウン...

 

 「「「...!?」」」

 

 ソファの上に謎の物体が浮かび上がった。

 鈍い銀色をした、鳥のような形状をしているように見える。

 フィンはロキの前に立ち、リヴェリアは杖を構え、万が一のために

 備えた。

 しかし、その物体からロキにとって聞き覚えのある声が発せられた。

 

 『昨日ぶりね、ロキ。やっぱり私を探そうとしてたの?』

 「...あ、せ、せやです。はい...」

 

 声の主は紛れもなくネフテュスだった。

 少しくぐもっているように聞こえるが、聞き間違える程ではない。

 しかし、ロキは恐る恐るネフテュスの声を発している物体に

 問いかけた。

 

 「あの、ネフテュス先輩?ですよね...?そのお姿は一体...?」 

 『私は今ホームに居て、そこから貴女と話しているの。

  今、目の前に浮いているのは...ここで言うところの、魔石製品に近い物かしらね』

 「近いっちゅう事は、別物って事ですのん?」

 『そうよ。難しい話は省くけど...これは機械という科学の結晶よ。

  馬車や魔石灯とかそういう工学的な物を発展させた代物、って捉えてほしいわ。

  ちなみに、貴女達の目の前に浮いてるのはファルコナーという名称の偵察機で、生きた鳥を機械化させたって解釈にしていいから』

 「...いや、ちょっと理解が及ばんで申し訳ないんやですけど...」

 『まぁ、それが普通だから。気にしないでいいわ』

 

 表情こそわからないが、ネフテュスは笑みを浮かべてそう答えている

 ようだった。

 ロキは納得していいのか戸惑いつつ頷いた。




ファルコナーとは本来プレデターズに登場した個体の名前で、
その個体が操作する偵察機の名前としました。

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