【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 『それで...私に謝りに来たのかしら?

  あれはこちら側が手を出してしまったのだから、貴女達が謝りに来る事なんてないのよ?』 

 

 テーブルを挟み、ファルコナーと対面するロキは首を勢いよく

 横に振った。 

 ソファに座っているのはロキのみでフィンとリヴェリアは眷族という

 立場なのですぐそばに立っている。

 

 「いや、ここは正々堂々と謝らなあきまへん。本当にウチのベートがすんませんでした」

 

 ロキは座ったまま深々と頭を下げる。

 それにフィン、リヴェリアも続いて頭を下げた。

 

 「私や他の団員もダンジョンで助けられたというのに、侮辱した事を心より詫びよう。本当にすまなかった...」

 「神ネフテュス、ロキ・ファミリアの全団員の代表、そしてベート・ローガの代行として謝罪する。申し訳ない」

 『いいのよ。私は怒ってないのだから...今ね、団長ではないのだけど子供達の長も一緒に聴いていてね...。...そう。...』

 

 ネフテュスは自身の眷族と話をしているようで、一度話が中断される。

 数分して、ネフテュスから話が再開された。

 

 『貴女達の謝罪は受け取ってもらえるそうよ。ただし... 

  私はともかくとして、子供達は二度と貴方達と関わらないし、愚かなあの狼の青年若しくは別の誰かが、またあの様な発言をすれば...って事だから、覚えておいてちょうだいね?』

 「ええ、ええっ。それはもうわかっとります。

  ホンマありがとうございます、ネフテュス先輩」

 『いいのよ。ずっと昔から、ロキは世話が焼けるしもう慣れてるから』

 「こ、言葉もあらしまへん...」

 

 何度も頭を下げていたロキは不意に図星を突かれ、縮こまる。

 

 「神ネフテュス。1つだけ質問をしても?」

 『お嬢ちゃんを助けた、あの子達についてかしら?それなら...ダメ、と言っておくわ』

 

 顔を上げたリヴェリアが、ネフテュスに問いかける。

 しかし、ネフテュスはすぐに拒否した。

 

 『私の存在はバレても構わないけど...子供達の素性は教えられない。

  狩りを阻む事になりかねないのだからね。

  ...私としては教えてあげたいんだけど...

  あの子に嫌われたら泣いちゃうだろうし、ごめんなさいね?』

 「...いや、それとなく察していた。

  なので聞かなかった事にしていただきたい。

  その代わり、助けていただいた感謝の意を表させてもらうのはどうだろうか?」

 

 ティオナに頼まれた事を伝えると、ネフテュスはクスクスと笑っている

 ようだった。

 

 『あれは獲物が邪魔で、道を開くために殺したまでの事なのだけど...

  私としては嬉しいから、遠慮なく言ってほしいわ』

 「では...あの時、絶体絶命の縁から私達を助けてくれて感謝する。

  其方達が受け入れてくれなくとも、私はこの恩を忘れはしない...と、伝えてほしい」

 『わかったわ...じゃあ、ロキ?私からほんのお詫びよ』

 

 ファルコナーがロキに近付き、本体に付けていた何かをテーブルの上に

 置く。

 それは1本の瓶だった。ロキは目を見開き、手に取って確認するように

 天井の灯りで中身を照らす。

 中の液体はキラキラと小さな粒が煌めき、まるで星空を閉じ込めている

 ようだった。

 ロキは慌てながら、瓶をゆっくりとテーブルの上に置き丁寧にお断りを

 入れようとする。

 

 「これは受け取れまへんですって。こっちに非があったんですから」

 『いいの。受け取って?それで約束したって事にしてほしいから』

 

 有無を言わせずと言ったように、ネフテュスはロキの言葉を遮る。

 それにロキは口籠もり俯く。しばらくして、頷き顔を上げると答えた。

 

 「...そ、そういう事なら、ありがたく頂戴しますわ」

 『ありがとう。聞き分けがよくて助かるわ』

 

 満足そうに喜ぶ、ネフテュス。

 すると、フィンが唐突に話しかけた。

 

 「...神ネフテュス。僕からは別の事で聞きたい事があるんだが...」

 『何かしら?』

 

 ロキはフィンに何かを訴えるような表情で見ているが、フィンはそれを

 認知してネフテュスに問いかけた。

 

 「7年前から、このオラリオに居たというのが事実なら...

  当時、イヴィルスというオラリオに恐怖をもたらした過激派ファミリアの勢力が、ある日突然、弱まった事がある」

 

 リヴェリアの脳裏に、誰が惨劇と言わずとも理解出来る光景と灰色の

 髪の女の姿が過ぎった。

 二度と起きてはならない悲劇。そして、絶望。

 だが、確かに勢力が弱まりオラリオに希望の光を見い出せたというのは

 事実だ。

 その出来事に関与していた、という疑問をフィンは確かめたかったの

 だろう。

 

 「その理由が...これはギルドが極秘にしていた情報なのだけど...

  その期間に夜道を巡回していた、アストレア・ファミリアの団長があるものを見つけた事がある」

 「あるもの?...それが何か関係あるのか?」

 「あるない、というよりも...確信であってほしいと思っているよ。

  ...そのあるものとは、魔石灯に吊るされた数十、数百...

  それほど数え切れない、イヴィルスに身を寄せていた団員の死体だった」

 

 蟀谷から流れる冷や汗を隠すため、フィンは臆していないという姿勢を

 示すように眼光を鋭くし、決定的な証拠を付け加えた。

  

 「死体は内臓を抜き取られ...生皮を剥がされた状態になっていた、そうだ」   

 「「!?」」

 「あの時は、過激な冗談で書かれていたのだと思っていたのだけど...

  ここへ来て、その極秘の情報を不意に思い出したんだ。

  神ネフテュス...何か、知っている事はないだろうか?」

 

 言葉に詰まりそうになりながらも、フィンは最後まで言い切り

 問いかける。

 ロキとリヴェリアはネフテュスがレンズ越しに、こちらを見ていると

 思い、ファルコナーを見つめた。

 しばらくの沈黙の後、ネフテュスの声が発せられる。

 

 『...ええっ、私の子供3人がそうしたに違いないわ...弱き者、女、幼い子供を含めて...』

 

 その声はとても悲しみに包まれていた。今にも泣きそうなほど悲痛に

 聞こえる。

 

 『私の子供達は戦利品に値しない獲物はそうして示威と混乱を誘う行為として使うの。

  殺めた理由は未だにわからないけれど...彼女達は...優しかったから、手を出してしまったんでしょうね...

  誰かを助けるために、自分の顔に泥を塗ってまで...

  弱き者、女、幼き子供を殺めた事は、名誉の掟に反した事になるの。

  だから...今、彼女達は100年の流刑に処されているわ』

 

 それを聞いたリヴェリアは目を見開き、掴みかかろうとする勢いで

 非難する。

 

 「いくらなんでも残酷ではないか!?助けた事を理解しているのなら、尚更」

 「リヴェリア。...他のファミリアの処罰に口出しするんやない」

 「っ...!」

 

 立ち上がったロキに肩を掴まれ、リヴェリアは歯を食い縛る。

 ファルコナーからネフテュスの声は聞こえず、3人の内、誰かが

 話しかけるのを待っているようだった。

 沈黙が続き、ロキが沈黙を破った。

 

 「...なら、先輩はどのファミリアの恩人っちゅう訳ですやん。

  あの時、ウチの子供3人も命張って何とか連中を出し抜こうとしてはったんですから。

  まぁ、余計を事をしてくれたな言うてごっつ不満そうやったけど...」

 『あら、それはごめんなさいね。その子達に謝ってあげないと』

 「いやぁ、歳が歳って事でもう引退してますねん。今、どこで何やってるんやろか...」

 

 ロキはノアール、ダイン、バーラの行方を思い浮かべる。

 恐らくダインはどこかで木こりみたいな事をしており、バーラは静かに

 暮らしていると思うが、ノアールだけは想像出来なかった。

 多分、大丈夫だと思うが。

 ロキが思い浮かべている間に、フィンは3人の安否を気遣う。

 

 「その3人は、まだどこかで生きているんだろうか...?」

 『もちろん。あの3人がそう簡単に死んだりはしないから、安心して?僕ちゃん』

 「...それなら、よかった。...あと、僕の事はフィン・ディムナと覚えてほしい」

 『フィン・ディムナね...そちらのお嬢ちゃんは?』

 「...リヴェリア・リヨス・アールヴ」

 

 フィンは苦笑いを浮かべつつ名乗り、リヴェリアも生きているという

 事を知り、多少は安堵したようで素直に名乗った。

 

 『リヴェリア・リヨス・アールヴ...覚えておくわ。じゃあ、そろそろお暇しましょうか。

  窓を開けてもらえるかしら?』

 

 ロキはそそくさと窓際に近付き、施錠を外した窓を全開にする。

 ファルコナーは窓から出る直前に方向転換して、ロキと向かい合った。

 

 『それじゃあバイバイ。お酒、じっくり味わってね』

 「あぁ、はい。是非ともそうさせてもらいますわ」

 『それから...私の事、誰かに話しても構わないから』

 

 そう答えると、ファルコナーは最初に現れた時と同様にクローキング機能で姿を消す。

 音も無く消えたのにロキは手を伸し、軽く振ってみて居なくなったのを 

 確認する。

 脱力すると深くため息をつき、ソファに座り込んだ。

 

 「...僕ちゃん、だってさ。この歳でそう言われるとはね」

 「私なんてお嬢ちゃんだぞ?...ママと呼ばれるよりも恥に思える」

 「まぁまぁ、落ち着いてや。ネフテュス先輩はああいう方やから...

  ...そんじゃ、話は終わった事やしウチらも」

 『ロキ』

 「はいぃい!?」

 

 帰ろうとした矢先、ファルコナーが目の前に現れロキはソファーごと

 背中から倒れる。

 フィンとリヴェリアは同時に起きた事に驚き硬直していた。

 

 『もしも、私と話したくなった時は...これを押してちょうだい』

 

 ファルコナーがテーブルに瓶を置いた時と同様に、何かが置かれた。

 ソファを直してから、それをロキは拾い上げる。

 四角い形状の中央に赤い水晶玉が埋め込まれているような物体だった。

 

 「これは...?」

 『呼び鈴みたいなものよ。

  だけど、そう頻繁に話せないという事は覚えておく事。いい?』

 「は、はい」

 

 ロキが返事をするや否や今度は挨拶も無しに、ファルコナーは消える。

 ロキはまた手を伸ばして居なくなったのを確認し、ネフテュスから

 貰い受けたその装置を見つめる。

 

 「...押す機会がないようにしたいなぁ。

  帰ったら皆にキチンと伝えとかんと...」

 「そうだね。特にベートには聞き入れてもらわないといけないよ」 




ランキングにてルーキー日間10位を記録させていただきました。
全然ランキングなんて気にしてなかったので評価してくださった方から知って絶句しちゃいました。
これからも頑張りますので、是非乞うご期待ください。
誤字脱字があった際は面目ない次第です。

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