【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 マザー・シップへ戻った僕はヘルメット内に録画した映像を我が主神と

 皆に見せた。

 映像はガントレットに接続し立体映像として映し出している。

 我が主神はその歌を堪能されていた。芸術に興味を持つヴァルキリーも

 気に入ったみたいだ。

 レイという女性の名前が呼ばれたところで映像を切る。

 

 「素敵な歌声を持っているのね。とても綺麗だったわ...

  でも、盗み聞きをしてしまったみたいで何だか申し訳ないわね...」

 『何か謝礼としてお渡しましょうか?』

 「ん~...じゃあ、もしもまた会えたら...。...この手紙を渡してあげて?

  直接会って、素敵な歌を聴かせてもらったお礼をしたいの」

 

 我が主神がそれほどまでお気に召した歌声なのであれば、僕らは彼女に 

 感謝しよう。

 7年もの間、マザー・シップに閉じ込めてしまっている状況下だった

 我が主神は、それまでとても寂しげだった。

 しかし昨日、我が主神にとっては長い年月を経てようやく外へ

 出られた。

 その際は神々に恐縮され落ち込まれていたが、やはり外に出られた事に

 喜ばれておりとても明るいご様子だ。

 

 「今日はロキやその子供達にも会えて嬉しかったわ。お酒も渡してあげられたし...

  これからどうなるのか、少し楽しみになってきたわ」

 

 唇を指でなぞり、微笑む我が主神に僕らは頭を垂れる。

 我が主神のみロキ・ファミリアと干渉するようだが、僕らはしないと

 いう方針となった。

 ...ティオナという少女とも、今後一切話す事はないだろう。

   

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ティオナがホームへ戻った時には既に夕暮れとなっていた。

 出入口を入ってすぐにティオネが待っており、招集をかけられた事を

 伝えられる。

 2人は急いで食堂に向かった。

 

 「てな訳で、何とか話をつけさせていただけたわ。

  ホンマ心臓に悪かったなぁ...で、皆に1つだけ注意しとくで?

  ネフテュス先輩の子供と、もうトラブルは起こさんでな!?ホンマに!

  今度こそ...生皮剥がされて吊されるで?」

 

 団員が集められた食堂にて、ネフテュス・ファミリアとの今後の関わりに

 ついての報告が上げられた。

 

 「ベートもそうだが、天界に居た頃のロキが既に迷惑をかけてしまっている。

  とても寛大な神でよかったと、心から思っている次第だ。 

  皆も、それを肝に銘じておいてほしい」

 「神ネフテュスとは話し合いをしたり出来るが、眷族の方は今後一切僕らとは関わらないと言われてしまった。

  それに、やはりと言うべきか...まだベートの事は許さないようだったよ。

  加えて僕らの誰かも同じ様な事を言えば...今度こそ死者が出るに違いない。

  万が一、彼らと接触した際は十分に気をつけるんだよ」

 

 報告が終わり解散となる。各団員達は自室へ戻ったり、その場に残って

 隣の席の団員と話し合いを始めた。

 場所は変わって会議室に移行する。 

 幹部の全員が揃い、何を話したのか先程までの報告では言わなかった

 内容をフィン達は話す。

 二軍メンバーの代表としてラウル、アナキティも同席していた。

 余談だが、ベートはベッドの上に乗せられたままである。

 暗黒期の話しに入ると、ラウルの表情が一変して青ざめる。

 その時期におけるトラウマが蘇ってしまっていたのだろう。

 隣に立っているアナキティが椅子に座るよう言い、ラウルはそれに

 従った。

 フィンから話を聞き終え、その場に居る全員は静まり返っていたが、

 ガレスが率直に思った事を発言する。

  

 「...ロキの過去については何も言わんが、まさかあの時期から既に干渉していたのか」

 「ようやく疑問が晴れて、僕はスッキリしたよ。イヴィルスの内部抗争か、誰かの手によって

  勢力が弱まっていたのか...それが全くわからなかったんだ。

  恐らくだが...イヴィルスが27階層に集めた階層中のモンスターを根絶したのも、彼らが獲物として狙ったからだろうね。

  謎が解明出来た事に安堵しているよ...」

 

 フィンは俯いたまま、微笑んだ。

 イヴィルスの弱体化によって、多数の神々を天界に送還させる事が

 出来た。

 つまりリヴェリア達だけでなく、自身も遠回しになるが借りが出来たと

 いう事だと思ったのだろう。

 

 「ところで、団長?どうして着いた直後に思い出したんですか?

  そんな怪奇的な事を知っていたのでしたら、忘れるはずが...」

 「...正直に言うと今の今まで思い出したくなかったから、かもしれない。 

  僕は直接その死体を見ていないが、現場の模写を見て...思わず目を背けたのだからね。 

  発見者であるアリーゼも、当時、僕に話してきた時はかなり参っていたかな」

 

 フィンはティオネに苦笑いを浮かべながら答えた。

 普段弱みを見せたりしないフィンが、重苦しく発言をしており本当に

 思い出したくなかったのだと、ティオネは察した。

 すると、ティオナが小さく手を挙げる。

  

 「ティオナ、どうかしたのかい?」

 「...帰り道に、リオンとガネーシャ・ファミリアの友達と会ったの。

  アーディっていう子と...その子が言ってたんだけど...」

 

 ティオナは少し前まであった出来事を話した。

 話を聞き終え、ロキは深いため息をつく。代わりにフィンと

 リヴェリアはネフテュスの話していた内容をハッキリと理解出来た。 

 

 「それなら神ネフテュスが言っていた事と辻褄が合うよ」

  アーディ・ヴァルマを助けるために、掟を破ったという事か...」

 「うん...でも、アーディは...一生許さない、ってすごく怒ってたみたいだよ...」

 

 そう言ったティオナは、あの時のアーディの様子を思い出して

 悲しげな雰囲気となる。

 リヴェリアは立ち上がるとティオナの肩に手を乗せた。

 

 「自分よりも幼い子供を殺され、更に他の共鳴者も殺めたのを

 見てしまったのなら、そう思うのも無理はないだろう。

  だが、アーディ・ヴァルマを救った3人には処罰が下っている。

  ティオナ...それを伝えてくれるか?」

 「...うん、わかった」

 

 ティオナは頷き、後日ガネーシャ・ファミリアの元へ向かう事を

 決めた。

 そしてフィンとリヴェリアはベートと話し合うため、会議は

 終了となった。

 終わると同時に、ガレスはロキが手にしていた瓶に目を移す。

 

 「ところでロキ。その瓶の中身は何じゃ?酒か?」

 「せやで。まぁ...ウチ以外が飲んでしもたら死ぬぐらいやばいんやけどな。

  酔って体がどうこうやのうて...これそのものが子供にとって毒みたいなもんやねん。

  心を壊す、っちゅう表現がわかりやすいか」

 「それはまた恐ろしいのう...飲めないのが残念じゃな」

  

 ガレスは潔く下がり、会議室を後にする。

 1人残ったロキは瓶の中身を揺らし、幾度目かのため息をついた。

 

 「ま...神であっても、下手すれば死ぬんやけどなぁ。これ」

 

 そう言いつつ瓶の蓋を開け、ロキは酒を煽る。

 無味無臭。酒と言いながら、ミネラルが含まれる水よりも何も

 感じない。

 瓶から口を離し、ロキは一息つく。

 

 「...やっぱ苦手やなぁ、これ...」

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「ある意味では、ネフテュス・ファミリアは英雄って事よね」

 「え?」

 「だって、団長の言う通りおかげで平穏になったんだから、そう思っても間違いないじゃない。

  アンタの好きな英雄譚だって似たような物語があるでしょ?」

 「...でも...もしかしたら...」

 

 そうかもしれない、とティオナは心の奥底ではそう思った。

 しかし、捕食者にとってはその英雄という言葉を嫌うかもしれない、

 答えた。

 

 「何となく、そう勝手に思ってるんだけどね...」

 「...そう。まぁ、それならそういう事にしておくわ」

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 アストレア・ファミリアのホームへ戻り、リューはソファに腰を

 かけてからずっとアーディから聞いた話を思い返していた。

 しかし、自分だけでは答えが出せないと、自身の不甲斐なさにため息を

 つく。

 

 「何々?また何か難しい事を考えてるの?」

 「!。アリーゼ...」

 

 いきなり声をかけられ、顔を上げるといつの間にかアリーゼが

 座っており、カップに淹れた紅茶を啜っていた。

 リューはアリーゼの顔を見て、ふと捕食者の言っていた言葉が

 気になった事を思い出し、アリーゼに問いかける。

 

 「アリーゼ、少しよろしいでしょうか?」

 「ん?何?今日の献立が何か考えてたの?」

 「いえ、違います...暗黒期に貴女が見つけた、異様な死体の事を覚えて」

 

 リューが最後まで言い切る前にアリーゼは勢いよくソファから

 立ち上がり、口を抑えながらどこかへ走り去ってしまった。

 突然の事に呆然とするリューの頭を、ライラがパシンッと叩いた。

 

 「ラ、ライラ?何故いきなり叩くのですか」

 「お前な...忘れたのか?その死体を見て、団長が1週間くらい飲まず食わずになるくらいトラウマになっちまってたの」

 「...あ」

 「あ、って...ポンコツにも程があるぞ、おい」

 

 リューは急いでアリーゼを探し、トイレの前に立っているネーゼを

 見つける。 

 曰く、誰も入れないようにここに居て、とアリーゼに凄まれたそうだ。

 リューはネーゼに代わるよう言い、ネーゼは首を傾げつつも承諾して

 去って行った。

 ネーゼが去ると、リューはガクリと項垂れ、トイレの前でアリーゼが

 出てくるのを待つのであった。


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