【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 ...こんなにも人々で賑わっているのは予想外だった。

 何かの祭式が催されているようで、どこを見渡しても人の姿がある。

 恐らくこの祭式を楽しむため、ダンジョンへ向かう冒険者は少なく

 遠慮無く獲物を狩る事が出来るはずだ。

 しかし、万が一という事を考えた僕はマザー・シップへ戻る事にした。

 ...今だけ、掟を免除されていれば、すぐ下の露店で我が主神に何か

 手土産でも捧げたいと思った。

  

 ...グラッ

 

 そんな折、体が揺れるような感覚が走った。

 屋根が、いや...地面が揺れている。その揺れは徐々にハッキリと

 伝わってくる。 

 震源地を見つけ出そうと、ガントレットを操作しようとした。

 しかし、そうしなくてもよくなった。

 

 ド オ オ オ オ ォ ォ ン !!

 

 ヘルメットのレンジファインダーで確認したところ、何かが20M先で

 爆発し火山が噴火したように土煙が上がった。

 下の道を歩いていた人々は幾人かが悲鳴を上げ、その場で立ち止まり

 動揺している。

 僕は気にせず、爆発が起きた地点へ向かった。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「かったぁーーーーー!?」

 「っ...!?」

 

 殴った手の指に罅が入ったようなまでの激痛にティオナは飛び跳ねて

 涙目になり、ティオネは歯を食い縛って痛みを我慢していた。

 拳打で地面に叩き付けられた蛇のようなモンスターは起き上がると、

 長い体を巻くように纏め、頭部で突撃してくる。

 ティオナ達はその攻撃を回避しながら、連携して頭部や体に拳打や

 足蹴りを叩き込む。

 しかし、蛇のようなモンスターは全く打撃が通じていないようで弱る

 気配がなかった。

 

 「(気付いてない!いける!私だってアイズさんの力になれ)」

 

 魔法による攻撃を放とうとしていたレフィーヤだったが、蛇のような

 モンスターが自身の方を見てきた事に驚愕する。

 そのせいで足元に罅が入ったのに気づけなかった。

 

 ピシッ 

 

 ズ ゴ ォ オッ !!

 

 地面から何かが飛び出し、レフィーヤの脇腹を突いた。

 目を見開いたままレフィーヤは少量の鮮血を吐血する。

 レフィーヤはそのまま上空を舞い、重力に引き寄せられ落ちていく。

 

 「レフィーヤ!」

 

 露店のテントがクッション代わりとなった事で、落下したレフィーヤに

 外傷は脇腹以外、見られなかった。

 ティオナ達はレフィーヤに近付こうとするが、蛇のようなモンスターが

 突然痙攣を起こす。

 頭部の表面が粘液を引きながら裂けていき、中身が盛り上がった。

 

 ブ シャ ァ ァ ァ ア ア ア ア ア ア !!

 

 「咲いた...!?」

 「蛇じゃなくて花!?」

 

 ティオナとティオネがが叫ぶ通り、ヴィオラスが咲いた。

 それに加え、地面から次々と蔓が生えてくる。

   

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ブ シャ ァ ァ ァ ア ア ア ア ア ア !!

 

 巨大な花が咲いた。

 地面から触手のように蔓を伸ばしティオナと呼ばれる少女とよく

 似ている髪の長い褐色の女性を捕まえようとしていた。

 あの時、牛を容易く狩っていた彼女が苦戦している。

 僕が強いと認めた、彼女が...

 つまり、あの巨大な花は強い。...それなら狩りたい。

 だが、次の瞬間、巨大な花の首が切断され地面に落ちた。

 付近を見渡し、剣を構えて着地した金髪の少女の姿があった。

 ...彼女の事は知らないが、呆気なく殺された事に僕は拍子抜け...

 いや、疑問が生じた。

 殺されたはずなのに蔓はティオナという少女と髪の長い褐色の女性を

 捕まえたままで解放されていない。

 

 ド ド ド ド ド ド ド ド !

 

 「また!?」

 「しかも3体!?」

 

 そして、すぐにわかった。頭部は1つだけではなかったからだ。

 向かって行く金髪の少女だったが、構えていた剣が砕け散る。

 それだけ硬いのか、それともあの剣が脆かったのかはわからない。

 

 「アイズ!こいつら魔力に反応してるわ!」

 「1人1匹相手にすれば何とかなるよっ!」 

 

 髪の長い褐色の女性が巨大な花の習性を見抜いたようでそれを伝え、

 ティオナという少女は対処法を提言した。

 金髪の少女は巨大な花を引き寄せるように着地した地点から飛び退く。

 恐らく、下で倒れているエルフの少女を守るためだろう。

 ティオナという少女と同じ様に金髪の少女も、仲間を助けるために

 自ら危険な行動を取るのだと僕は思った。

 すると、突然金髪の少女は方向転換し、あえて巨大な花の方へ跳んだ。

 よく見ると物陰に少女が隠れており、それを考慮した上でそうしたん

 だろう。

 巨大な花の頭部は金髪の少女を追いかけ続け、とうとう崩れている

 建物へ追い込んだ。

 

 「こんのぉお~~~!離れろおぉ~~~!」

 「アイズ!早くそこから逃げて!」

 

 ティオナという少女と髪の長い褐色の女性が巨大な花の頭部や体となる

 茎を攻撃して、隙をつくろうとする。

 だが、金髪の少女は竜巻を盾にし、噛み付こうとしている巨大な花の

 頭部を防ぐので精一杯のようだ。

 ...彼女達を助ける事はしない。関わりを持たないと決められたからだ。

 しかし、僕はその決まりがなかったとしても、助けようとは

 思わなかった。

 ティオナという少女や、髪の長い褐色の女性、そして金髪の少女の

 強さがこのままどれだけ引き出されるのか見てみたかったからだ。

 

 「ガネーシャ・ファミリアの救援がもうすぐ来ます!彼らに任せましょう!」

 

 聞き覚えのある声だと思い、下を見ると倒れていたエルフの少女が

 起き上がっていた。

 隣には、僕らの担当を任している眼鏡のエルフの女性がいる。

 エルフの少女は立ち上がろうとしていたが、血を吐き出し膝から

 崩れ落ちた。

 血で赤く染まった掌を見ると、両手を握り締め目を隠すように

 泣き始める。

 ...情けない。涙を流している場合ではないだろう...

 僕はエルフの少女が泣いている理由を知る由もない。

 もし、僕が同じ状況になれば泣く暇があるなら傷を癒すか、獲物を

 睨み、名誉のために戦死を選ぶ。

 狩りの中で戦死する事は信条に次ぐ名誉だからだ。

 そう思っている矢先、泣いていたエルフの少女が立ち上がり前に出る。

 今にも倒れそうだが...その眼光は強い意志を感じ取れた。

 ...そうか、ただ情け無く泣いているだけの弱き者ではなかったのか。

 エルフの少女を囲うように光の輪が現れる。それに反応した巨大な花が

 襲いかかる。

 しかし、ティオナという少女達が頭上から3匹をそれぞれ薙ぎ払った。

 エルフの少女が右手を掲げると巨大な氷の結晶が3つ浮かび上がり、

 掲げていた右腕を突き出すと純白の光彩が放たれる。

 地面に氷の柱を立たせながら突き進む光彩は巨大な花に直撃し、瞬時に

 凍結させた。

 

 「ナイスレフィーヤ!」

 「散々手を焼かせてくれたわね!」

 

 ドガァアッ!

 

 ビキッ!

 

 バ キャ ァア アッ!!

 

 パ リ ィ ィ イ ン!!

 

 ティオナという少女と髪の長い褐色の女性が、動かなくなった巨大な

 花の前に立つと同時に、足蹴りを叩き込む。

 最初に砕かれた箇所から徐々に罅が入っていき、凍結した2匹は

 砕け散った。

 最後の1匹は、金髪の少女がいつの間にか手にしていた新たな剣により

 粉砕される。

 地面に氷の残骸を残し、彼女達は勝利した。

 ...強い。個々の強さ、団結力。どれも申し分ない。

 彼女達は喜び合っている。それは僕らもする事だ。

 

 ド ド ドォ オ!!

 

 ...だが、勝ったからと油断をしてはならない。獲物は常に狩る者の隙を

 狙うのだから。

 ...そろそろ、いいか...

 彼女達が手を出す前に、僕が手を出せば僕の獲物となる。

 次は...僕が狩る番だ


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