【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
「...つまり全く知らなかったの?」
「そ...そうとしか、言えません...」
「ちょ、ちょっとアーディ、顔が怖いよ!?」
ティオナの言う通り、普段から優しい性格をしているアーディの表情は
真顔ではあるがどこか気迫を感じさせてる。
彼女がそうなっている理由は、担当をしていると言ってるエイナだが、
実のところネフテュス・ファミリアの団員についての情報を把握が
出来ていないという事だからだ。
ギルドの職員であれば、それは有り得ない話だと誰もが思うだろう。
担当するファミリアに所属する団員の名前と人数、及び活動を
記録するのが職員の仕事だからである。
しかし、エイナは5年間もの間、ネフテュス・ファミリアの団員と
会話どころか姿を見た事がない、と言った際その場に居た全員が
絶句した。
ロキも流石にギルドの職員には子供の顔を見せているだろうと思って
いたのだが、エイナの発言が嘘ではない事に衝撃を受けている。
だが、更に驚愕の事実を知る事になる。
「...名前も、わからないんですか?」
「そ、それはいくらなんでも...ですよね?」
「...その、いくらなんでも、では...ないんです。た、ただこれだけは言わせてください!
名前とステイタスは確かに記録しているんですが...」
全員からの視線で、すっかりエイナは縮こまる。
普段の頼れるお姉さん気質な彼女からは想像も付かない程、気弱な
声で言った。
「...字が読めなくて、わからないんです...」
「字?何や、ヒエログリフでもない文字やったんか?」
「はい。こう...古代文字みたいなものでして...
も、もちろん書き直してもらおうと思ったんですが、その際に前任者から絶対にやめておいた方がいいと言われたんです」
「その前任者が書き直せって言ったらカウンターに穴でも空けられたの?」
「ご明察です...素顔に関しても、眼を光らせるだけに留めています...」
ロキ・ファミリアの面々とアーディもエイナを気の毒に思った。
まともに会話も姿を見せない相手に5年間も対応していたのだから。
しかし、少なからずそうは思っているようだが、アーディは納得いって
いない様子だった。
「それはともかくとして...ネフテュス・ファミリアの団員は検挙すべきだよ。
7年前にした事を許すなんて事は出来ないんだから」
そう強めの口調で発言したアーディにティオナがおずおずと言った。
「あのね、アーディ?その...もう居ないみたいなの。その人達は...
ネフテュス・ファミリアの方で処罰されて、100年の流刑になったんだって」
「っ...!?...本当なの、それ...」
「アーディ、やったな?ウチの他にフィンとリヴェリアもネフテュス先輩からそう聞かされたんや。
まだ生きてるはいるらしいで?どこに居るんかはわからへんけど」
ロキの最後の発言にアーディは俯いて悔しさを露にする。
居場所さえわかれば、検挙は出来なくとも言っておきたい事があったからだ。
「...ネフテュス・ファミリアのホームもわからないのかな?」
「は、はい。何から何までも、申し訳ございません...!」
「まぁまぁ、しゃーないって。ウチや他の神でさえネフテュス先輩が来てるって事も
知らんかったんやから。
ホームがどこにあるんかわからんのも、文句は言えへんって」
「...そうですか。...じゃあ、私はこれで」
「え?アーディ?」
「ネフテュス・ファミリアの事は、今だけ置いておく事にするよ。
...じゃあ、お姉ちゃんの所に行ってくるね」
「あっ...」
ティオナが呼び止める前に、アーディは去って行く。
2日前と同じような別れ方となり、ティオナは顔を伏せて悲しむ。
ティオネはその様子を見て、声を掛けようとしたがロキが呼び掛けて
きて振り返る。
ロキはまだ地下に何かが潜んでいるかもしれないと予想して、
ティオネとティオナの2人に向かうよう指示を出した。
レフィーヤはエイナに預け、ギルドで手当てをしてもらう事にしロキと
アイズは周辺状況の確認を行う事となった。
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ギルドの発令でモンスターフィリア祭は一時中止となった。
そのため、ヘスティアはバイトをしている店から露店にシートを
被せるようにと言われ、
道端で開いていた露店へ足を運んだ。
ヴィオラスが出現した地点からは離れているため、露店は無事だった。
それに安堵するヘスティアだったが、近づいていくにつれて違和感を
覚える。
「...何だい、これは?」
そう呟き、露店のカウンターに置かれた中身が膨らんだいくつもの袋。
持ってみるとジャリッと音を立てており、ズッシリとした重さがある。
袋の口を結っている紐を解き、覗き込んでみてヘスティアは咄嗟に
閉じた。
「こ、これは何かの間違いだよね?何でこんな大金が...ん?」
ヘスティアは様々な予想を考えていると、紙を見つける。
拾い上げて見ると、それにはとても短い文が書かれていた。
[あるだけ持って行く。釣りは不要]
「...いや、いやいやいや不要って!?」
ヘスティアは焦っていたが、支払った人物は既に居ないためこの大金を
どうするべきか、大いに悩んだという。
「シル!よかった、ご無事で何よりです...!」
「リューったら、心配しすぎだよ。私は大丈夫だから、ね?」
シルの手を握り締め、リューは安堵する。
それに苦笑いを浮かべながらもどこか嬉しそうにしているシルは、
握り締めている手を、握り返した。
それにリューは、無意識の内に自ら手を握っていたのだと気付き顔を
赤く染める。
シルはその様子を見て、クスリと照れているリューに笑みを浮かべた。
「そ、そういえば、こちらをお忘れしていましたよ」
「あっ。私の財布...何も買えなかったから、リューには悪い事しちゃったね」
「いえ、気にしないでください。シルが無事が第一なのですから」
そう答えるリューにシルは嬉しそうにしていた。
しかし、浮かべていた笑みが一瞬消えると、シルはリューに顔を
見られないように余所を向いた。
「ありがとう、リュー。私はお店に戻るから、お仕事の続きに行っていいよ?
どこかで怪我をしてしまっている人が居るかもしれないから...」
「そうですね...わかりました。では、気を付けて戻ってください」
「うん」
シルが頷いてから、リューは走り去った。
その場に残ったシルが見送っていると、背後からのそりと巨大な影が
シルを覆い隠した。
「...ロキに色々言われると思うから...一度、戻る事にするわ」
「御意...」