【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

30 / 156
 ̄、⊦' D’abo

 「あぁ、イリス...お前の元へ逝く日が、そう遠くない事を祈ろう...」

 『キャンディー食べる?』

 「...?」

 

 男は手を組み祈っていると、どこからか少年の声が聞こえてきた。

 立ち上がって辺りを見渡すと人目に付かない岩陰からだと思いそこへ

 近付く。

 

 「...!?」

 

 岩陰を覗き込み男は見つけた。いや、見つけてしまった。

 胸部が破裂したようにポッカリと穴が開き、大量の血を流したまま

 死んでいる同志を。

 男はすぐにそこから離れようとしたが、不意に自身が宙に浮いた事に

 驚く。

 

 ゴキッ! バキャッ! グシャッ...!

 

 叫ぶ間もなく身体が強引に捻られ、折り曲げられ、頭を砕かれる。

 頭を失った体は痙攣を起こしながら、地面に落ちた。

 

 ボトッ...

 ズルズル...

 

 その男の死体は、岩陰の死体と一緒にそのままどこかへ、引きずられて

 いった。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 洞窟でも男が手を組み祈っていた。

 

 「ソフィア...咎を許したまえ...」

 

 ドスッ...!

 ゴギャッ...!

 

 男の両目に何かが突き刺さり、首が天を仰ぐ様に後ろへ折れ曲がる。 

 ダラリと男が絶命した事を告げる様に組んでいた手が落ちた。

 

 ブチィ ブチィッ...!

 

 突き刺さった何かが引き抜かれると、眼窩から眼球も一緒に取れた。

 眼球を振り払うように引き抜かれる。

 両目の眼球を失った男の死体もどこかへ引きずられていった。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「レイナ、いつか必ず精算する。その時が来れば」

 

 グシャッ

 

 その男の頭は突然、爆ぜた。まるで水風船の様に血や脳髄を撒き

 散らして。

 死体は倒れる寸前に誰かに首元を掴まれ、引きずられていく。

 

 

 2人組の男は周囲を警戒していた。

 自分達の崇高な目的を阻む、侵入者を始末するためにだ。

 手には弓を持ちすぐにでも射る事が出来るよう、矢を弦に掛けている。

 

 ...プツンッ

 

 「ん...?なっ!?切れた...?」

 

 男は弓の弦が切れたのに気付く。隣の男の弓の弦も切れている。

 

 「お、俺のもだ...不吉な予感が」

 

 ッパァン...!

 

 「...ひっ」

 

 ズパァッ!

 

 する、と言い切る前に男の首が切断され、頭部が地面に落ちた。

 隣に立っていた男も悲鳴を上げる前に、首に走る鋭い感覚がした瞬間

 意識が無くなる。

 同じ様に首が切断され、頭部が落ちると死体は先に倒れていた死体と

 重なって倒れた。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「あぁ、ユリウス...どうして私を置いていってしまったの...?」

 

 女は涙を流しながら頭上を見上げ、虚空を見つめた。

 愛する者を失った悲しみに染まったその瞳は、黒く濁っていた。

 そんな彼女を誰かが背後から抱きしめた。

 

 「え...?」

 『すまない。許してくれ』

 「...ユリウス...?迎えに来てくれたの...?」

 

 女は振り向くが姿は見えない。抱きしめているはずの両腕も見えない。

 それはつまり、霊となってまで自分を迎えに来てくれたのだと察した。

 

 「ユリウス...ええ、ええっ。許してあげる...だから...」

 

 ザシュッ...

 

 その言葉を皮切りに、女の喉元に一筋の裂傷が走る。

 大動脈を斬り裂き鮮血が噴き出て、女が身に纏っている白装束を

 真っ赤に染め上げていく。

 女は薄れゆく意識の中、フェイスベールで隠された顔に微かな笑みを

 浮かべ、輝きを取り戻したその瞳を閉じた。

 安らかに眠った女は、血痕を残しながら引きずられていった。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 しばらく時間が経ち、何かがおかしいと白装束の男である指導者は

 異変に気付いた。

 異様に静かだ。しかも、先程まで忠誠を唱えていた同志達の姿が

 先程よりも減っているように見える。

 

 「(まさかこの場から逃げ出したというのか?いや、それは有り得ん。

   我らが主神に忠誠を捧げ、死を迎える事を望んだ同志が逃げるはずなど...)」

 

 自らの考えを否定した指導者は一度、同志達を呼び寄せようとした。

 その時だった。

 

 「ギャァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!

  

 断末魔が響き渡り、指導者や同志達は驚愕する。

 侵入者か、そう誰もが思い断末魔が聞こえた方へ向かって行く。

 指導者はその場に留まり、何が起きたのかを同志に確認させようと

 していた。

 

 ドチャッ...

 

 「...あ...?」

 

 背後から不気味な音が聞こえ、振り返り指導者は凍り付いた。

 内臓を抜き取られた腹部、皮膚が剥ぎ取られ全身の筋肉組織が

 露出している無残な姿となった同志が反り経つ岩肌に吊されていた

 からである。

 それも1人ではなく、数十人は超える人数の死体が。

 何故、同志だと分かったかというと白装束が落ちていたからだ。

 

 「ひ、ひぃいっ...!」

 

 ズルン...

 

 「ギヤァアッ!?」

 

 鮮血が滴り、地面に溜まっていくのを見て指導者は恐怖のあまり、

 その場から逃げようとした。

 だが、目の前に何かが落ちてきて腰が抜けてしまい、尻餅を付く。

 それは同じ様な状態にされている死体だった。それも誰がどうやっても 

 届かない天井から伸びているワイヤーによって吊されている。

  

 「「「アァァアアアアアアアアアアアアアアッ!!」」」

 

 先程、断末魔が聞こえてきた方向から向かっていったであろう同志達の

 叫び声が響き渡ってきた。

 しかし、指導者の耳にその声は届いてすらいないようだった。

 

 「だ、誰かっ!誰か、助けてくれぇええええええっ!!」

 

 腰が抜けている指導者は地面を這いずりながら、助けを

 求める。

 既に同志達の叫び声は聞こえなくなり、静まり返っていた。

 

 ザシュッ!

 

 「いっ!?...ア、アアァ、アアアアアアア!?

 

 うつ伏せになっている指導者の手の甲に何かが突き刺さる。

 二叉状の小さな槍の様な物だ。

 続けて足首を踏みつけられ、動けなくさせられる。

 指導者は痛みに震え、泣きながら恐る恐る振り向く。

 滲む視界に映し出されていた、その姿に呟いた。

 

 「あ、悪魔...悪魔が襲ってきた...!」

 

 ブシュッ...!

 

 その言葉を最後に、指導者の視界は真っ黒に塗り潰された。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。