【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 ビビィィィ... ビリッ

 

 戦利品にもならないので、こいつも同じ様に僕は吊す事にした。

 ここへ足を踏み入れる冒険者はそう居ない。

 危険な行為だとされているからだというのは、わかりきっている

 からだ。

 最初に内臓を抜き取り、生皮をリスト・ブレイドで剥ぎ取る。

 そして最後にワイヤーを足首に巻き付け、他の死骸と一緒の所に

 吊した。

 

 ドチャッ...!

 

 仲間と一緒で寂しくはないだろう。そう思いながら、僕は離れた。

 こいつの衣装と他の奴から取り外した爆発物は持っていく事にする。

 眼鏡のエルフの女性に渡せば、使えるはずだ。 

 既にビーコンとして使うシープ・ロケーターでマザー・シップと

 回線を繋ぎ、我が主神と話し合いは終えている。

 僕らが仕留めた事など経緯を眼鏡のエルフの女性に知らせるようにも

 言われた。

 ...それなら、次は...巨大な花よりも更に巨大な、3匹の弩級の花を

 どうするかだ。

 あの弩級の花が狩り場の餌を湧かせている、赤くそれも巨大な石英に

 寄生し餌を吸い取っている。 

 巨大な花も産んでいる様子からして、ここを巣穴としているようだ。

 緑色の肉壁はその餌の養分を蓄えた事で、狩り場までの通路を覆って

 いたのだろう。  

 よく見ると、肉壁の近くには大量の檻が置かれており中には巨大な花を

 閉じ込めていた。

 何を企んでいたかは知らないが、既に全員を仕留めたので檻の中の

 巨大な花も殺そう。

 手短に終わらせるため、ウルフが所持している溶解液をヴァルキリーは

 3本受け取り、他の皆はそれぞれ1本ずつ受け取る。

 合流地点を通路にすると決めて、それぞれ手分けして作業を始めた。

 僕とヴァルキリーが弩級の花を、他の皆は檻の中の巨大な花を殺す事にした。

 近付いていくに連れ、その巨大さに驚く。

 ...戦利品に出来ないのが残念だ。

 

 カカカカカカ...

 

 突然ヴァルキリーが足を止め、弩級の花の根元を指した。

 僕は視野を拡大し確認してみると...地面に盛られた緑色の肉塊の上に

 玉のような物が置かれている。

 気になった僕は、ヴァルキリーにいつでも仕留められるよう指示を

 出して、その玉へ近付いていった。

 肉塊に跳び乗り、その玉を見て僕は気付いた

 これは...卵か...?

 その玉は硝子の様に透き通っており、中に緑色の体色をしている胎児が

 入っているのが見えていた。

 頭部には毛髪のようなものが生え、肢体と尻尾がありまるで獣人の

 様に思えた。

 情報分析装置で調べてみたいところだが、後にしよう。

 僕はその玉を持ち上げ、急いでヴァルキリーの元へと戻っていった。

 その際、足元の肉塊にも溶解液を撒いておいた。

 ヴァルキリーはこれを見て興味深そうにしていたが、まずは弩級の花を

 狩る事を優先した。

 3本の矢に溶解液を注入しているカプセルをワイヤーで括り付けると、

 ヤウージャ・ボウのストリングに引っかけ、狙いを定める。

 

 ...バシュゥウ...ッ!

 

 一直線に弩級の花の頭部に3本が飛んでいく。 

 どこを狙ったとしても直撃するので、矢は3つの頭部に突き刺さった。

 それによって括り付けられていたカプセルが割れ、中の溶解液が

 撒き散らされると、弩級の花の頭部に掛かる。

 溶解液が弩級の花の頭部を融解していっているようで、白い煙が

 立ち始めた。

 

 ズ ズ ズ...! ズ オ オ オ ォ ォ...!!

 

 その途端に3匹の弩級の花が暴れ始めた。

 どうやら悪足掻きをするようだ。僕らは直ぐに退避し、合流地点へと

 向かった。

 既に合流地変には皆が待っており、成し遂げた事を告げた。

 ちゃっかり皆、それぞれ戦利品を腰に付けていたのは気にしなくて

 いいか。

 

 ド ゴ ォ オ オ ンッ!! ド ゴ ォ オ オ ンッ!!

 

 そこから見える弩級の花は地面に身体を打ち付け、溶けゆく事を

 恐れているようだった。

 しかし、もう手遅れだ。既に首部分の花弁が朽ち果てるように落下し

 表面の皮膚が無くなった箇所から体内の体組織を覗かせている。

 やがて最初に溶解液で融解されていった、弩級の花が首の花弁を全て

 失うと力無く倒れ、2匹目、3匹目も地面に倒れた。

 

 シュウウゥゥゥ...

 

 白い煙が充満し融解されていく様は見えないが、影は見えており

 その影が萎むように消えていく。

 ...死んだか。奴らの死体の大半が弩級の花に潰されてしまったが

 他はまだ無傷で残っている。

 それでいい。奴らとは別に居た赤髪の女と骨の仮面を付けた男が戻って

 来た時、僕らの存在を知らしめられるからだ。

   

 カカカカカカ... 

 

 僕らは通路を進み、地上へ戻る事にした。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 シュウウゥゥゥ...

 

 「...」

 

 しばらくし、レヴィスが先に戻りその光景を見て呆気に取られていた。

 大主柱に宿っていたはずのヴィスクムが3匹とも溶かされていっている。

 それに加え、イヴィルスの残党である死兵達も殺されていた。

 間違いなく何者かによる襲撃で全員殺され、更には宝玉まで奪われて

 しまい、ここでの計画は失敗に終わったとレヴィスは思った。

 背後から、呼び戻したオリヴァスがやって来た。

 オリヴァスはヴィスクムが溶かされていく様子を見て、驚愕するが

 それよりも無惨な姿にされて殺されたイヴィルスの残党の死体を見て

 青褪めていた。

 

 「こ、これは...!?この殺し方、ま、まさかっ...!?」

 「知っているのか。なら、誰の仕業か言え」

 「...悪魔だ。姿を消し、あらゆる武器を備えた、正しく悪魔だ!」

 

 オリヴァスは脳裏に過ぎる光景が蘇り、恐怖に震え始める。

 レヴィスはその様子を、無言で見ていた。

 

 「かつて6年前にモンスターをかき集め、使者による自爆と共に

  冒険者共をまとめて始末しようとした...しかし...

  その悪魔が、モンスターを全て殺した...モンスターだけではない!

  使者はあの様な姿にされた後、吊るされ、私は...私はぁ...!」

 

 無意識に蘇ってくる記憶。それは、自身の身体が素手で真っ二つに

 引き千切られ、肺が踏み潰された苦痛だ。 

 膝が崩れたオリヴァスはその苦痛を鮮明に思い出し、腹部を手で抑え

 紛らわせようとしていた。

 レヴィスはオリヴァスの話を聞き、襲撃者は異常である事を理解した。

 この様な殺し方をするなら、殺しを遊びと思っている自分達よりも

 たちが悪いのだと。

 そう考えていると、パントリーに続く通路から複数の足音が聞こえる。

 襲撃者か、将又騒ぎを聞きつけた冒険者達かはわからないがオリヴァスが

 この状態ではまともに応戦は出来ないと判断してレヴィスは踵を返す。

 

 「行くぞ、次の手に移る。30階層の奴らに...おい」

 「あぁ...彼女に救われなければ、私は」

 「...オリヴァス!」  

 

 レヴィスは苛立ち、小声で何かを呟くオリヴァスを蹴りつけた。

 倒れたオリヴァスはハッと目を見開き正気に戻る。  

 

 「...い、言われなくとも、わかっている...!」 

 「ふん...」

 「(...こいつはもう使い物にならないな。...次で殺すとしよう)」

 

 思惑するレヴィスは先を急ぎ、オリヴァスは後を追いかけていった。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――  

 ギルドからのクエストを受けたアストレア・ファミリアは、無事に

 パントリーへと辿り着いた。

 モンスターの大量発生という異常事態の原因を突き止め、全て駆除する 

 という依頼で来たのだが、全くと言っていい程モンスターの姿はなく

 現れたとしても通常通りの数でしか見なかった。

 

 「どういう事なのでしょうか?まさか、既に他の冒険者の手によって」

 「いやいや、さっき通ってきた所を埋め尽くすくらいって言ってたのよ?

  どう考えても無理があるって」

 「それなら、嘘をつかまされたという事ではないでしょうかねぇ」

 「はぁっ?ふざけんなよ!?苦労して来たってのにそれはねえだろ!」

 

 ライラは輝夜の予想に怒りを顕にして、足元の小石を蹴飛ばした。

 小石は地面を転がり、水を弾く様な音を立てて岩肌の近くに止まった。

 その小石を見ていたアリーゼは、ふとその小石が赤く染まっているのに

 気づく。  

 

 「(あれ?さっきは、地面と同じ色だったのに...?)」

 

 アリーゼは怪しむとその小石に近づいていく。そして、目の前まで来て

 足を止めた。

 小石が赤くなったのは血溜まりに浸かったからだと気付いたからだ。

 血溜まりは今も尚広がっている様で、足元まで伝ってきそうになっている。

 アリーゼの心臓の鼓動が早くなり、呼吸が少し乱れ始め、冷や汗が

 蟀谷や額から垂れてくる。

 

 「(...そ、そんな訳、ないよね?まさか、ね...)」

 

 アリーゼは自分の思っている事を信じないよう、否定しながら

 恐る恐る岩陰の裏を見た。

 そして、目に焼き付けてしまった。あの時と同じ様に。

 

 「ぃ、ぃゃ...イヤァァァアアアアアアアアアアアッ!!」 

  

 その悲鳴にリュー達は急いでアリーゼの元に駆け寄る。

 全員ではなく、ライラの指示でリュー、輝夜、ネーゼ、そして

 ライラの4人で向かっていた。

 あのアリーゼがそんな悲鳴を上げる事など、今まで無かったのもあり

 全員が驚いていた。

 先にリューがアリーゼの肩に手を掛け、支えながら問いかける。

 

 「アリーゼ!どうしたのです、か...!?」

 「これ...は...」

 

 リューと輝夜も、アリーゼの視線の先を見て言葉を失う。

 少なくとも数十体は超える異常死体が吊るされており、何かを

 言おうとする事など、出来ないだろう。

 後から続いて、ライラ、ネーゼもその場に立ち止まりそれを見た。

 

 「うぉぇっ...!」

 「...ひでぇことしやがる」

 

 ネーゼはあまりの惨さで吐き気に襲われる。しかし、口元を抑えて

 涙目になりながらも、耐えようとしていた。

 ライラも顔を歪ませ、そう呟いた。

   

 「...!。これは...イヴィルスの使者が着ていた装束...!?」

 「!?。なら、この死体は全部...そいつらのって事か...」

 「恐らく、そうでしょう...まだ滅んでいなかったとは...」

 

 リューは白装束を捨て、吊るされている死体を観察するように

 見渡した。

 大半はそのままの状態だが、よく見ると頭部を失っている死体もあり

 より大量の血が流れているとわかった。

 その血が足元まで流れてきて、思わずリューは後退りし輝夜とライラの

 近くへ向かう。

 アリーゼはあまりのショックに軽度の過呼吸となってしまっている様で

 ネーゼに肩を支えられながら、待機させている他の仲間の所へ連れて

 行ってもらっていた。

 

 「リオン。アリーゼがあの状態になっちまってるからには、アタシらで何とかするぞ。

  まず、この死体を...18階層へ運ぶ。このまま放置してたら、何かやばそうな気がするからな。

  もし、モンスターが来て喰い漁り始めたら...残りは諦めるんだぞ」

 「...はい」

 

 冷静に指示を出すライラだが、死体に視線を向けていない事にリューは

 気づく。

 以前、アリーゼから聞かされていたので、どんなものなのか想像は

 していた。

 実際に現物を見てしまっては、やはり誰であろうと堪えてしまうの

 だと、リューは思った。

 しかし、輝夜はというとその死体に近付いてじっくり観察していた。

 

 「団長がトラウマになるのも頷けます。

  こんなものを見てしまっては、食欲が失せる他ありませんねぇ」

 「全くだ。...誰がこんなひでぇ殺し方しやがったんだ...」

 

 悪態をつきながら言い放ったライラの言葉に、リューはアーディの

 言葉が過ぎった。

 人を助けるための犠牲を仕方ないという思考を持つ者に、感謝する事が

 出来るのか。

 ...イヴィルスはこれまで残忍な殺戮行為を行なってきた。

 これまでに捕えられた使者は全員、死刑を言い渡されており終身刑や

 絞首刑に処されている。

 どちらにせよ、イヴィルスの使者となった人物はギルドの方針により

 処刑される事になっているのに変わりない。

 だが、これ程までに惨い殺され方をしていいのかとリュー自身としては

 過度な私刑だと思っていた。

 これがネフテュス・ファミリアのした事であるのはティオナの

 話からして間違いない、それなら2人に伝えるべきだと思い、口を

 開こうとした。

 しかし、5年前に怪物から助けられた恩義がある。

 恩を仇で返すという行為となっては、ロキ・ファミリアと同じ様な事に

 なりかねないと気付き、リューは口籠もった。

 

 「リオン?どうかされましたか?貴女もまさか気分が悪くなってしまったとでも?」

 「あ、い、いえ、そうではなくて...」

 「なら早く足に括り付いてる紐を切って下ろしてやれよ。

  今、ノイン達に死体を包む布取りに行かせてるから、その間にやっとかないと」

 「わ、わかりました...」

 「(...今は、黙っておきましょう。

  もしネフテュス・ファミリアではなく、別の者の犯行によるものであるという可能性もありますから)」

 

 確たる証拠を見つけ、やはりネフテュス・ファミリアが行なったので

 あれば、ギルドに掛け合う事をリューは決めた。

 そして、岩肌に登ると足に括り付けられたワイヤーが結ばれている杭を

 見つける。

 ワイヤーが張っている部分を切断し、死体を下ろしていった。

 

 ドチャッ... ゴチャッ...

 

 死体が落ちる度、血溜まりの血が跳ねてその血痕が地面に付着した。


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