【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 「...彼女がコンバージョンしたネフテュス・ファミリアの情報は、これだけですか?」

 「は、はい。記録部の方でも探してみてもらったのですが...

  申し訳ありません。これ以上お力になれないかと思います」

 「...そうですか。お手数お掛けしました」

 「いえ。もし何か見つけ次第、お知らせしますので」

 「はい。お願いします」

 「(...ヘルメス様の言う通り、これは中々に難問の様ですね...)」

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「でも、本当かな?モンスターが大量発生するなんて今まで無かったし...

  たまたまそれだけ多く産まれたからってだけかもしれないよ?」

 「それでも他の冒険者に被害が出たら元も子もないでしょ。

  何事も用心しないとダメなんだから」

 「真面目だね~。エイナは...ところで、来てるよ?」

 「え?」

 

 カカカカカカ...

 

 指を指すミィシャにエイナは前を向く。

 捕食者が眼を光らせて立っていた。鳴き声も出し、存在を示している。

 体をビクリとさせるエイナだが、冷静さを失わないように深呼吸をして

 話しかけた。

 今回ばかりは色々と話をしなければならないからだ。

 

 「どうも。...あの、いつもの様に会話は筆談で構わないので、少しお話しが」

 

 そう言った途端に捕食者が紙を差し出してくる。

 

 パサッ...

 

 それに加えて、少し汚れている白い布もカウンターに置いてきた。

 エイナは今までにない行動に驚きつつも、その紙を受け取る。

 いつもなら小さめな紙なのに対し、今回差し出された紙はエイナが

 仕事上で使うような大きさで、文章も多めに書かれていた。

 エイナは話そうと思っていた内容が、それのせいですっぽりと頭から

 抜けてしまっていたが、その文章を読み取った。

 

 [24階層で7年前まで自爆していた奴らがいた。

  そのリーダーの男が着ていた衣服を渡す。

  狩り場 モンスターの餌場に続く通路を壁で塞ぎ、巨大な花を繁殖させていた。

  餌を求め溢れたモンスターは追い払った。塞いでいた壁も消滅させた。

  巨大な花も始末した。奴らも全員始末した。

  未だ、企みがある可能性はある]

 

 エイナの掛けていた眼鏡がずり落ち、カウンターに転がる。

 だがそんな事も気にせず口元に手を当て、書かれている内容を何とか

 理解しようと思考を巡らせるが、頭の処理が追いつかない。

 7年前に自爆していた奴ら、というのはイヴィルスの使者。

 その使者を動かしていた男が着ていたとされる服が、目の前に

 置かれている。  

 モンスターの餌場、つまりパントリーへの通路をイヴィルスの使者が

 何かしらの方法で壁を作りだし、道を塞いだ事でモンスターがそこへ

 入る事が出来ず、少し前に異常事態だと知らせに来た冒険者達が

 通っていた通路を移動していた。

 更に、昨日モンスターフィリア祭が開催されている中、出現した

 新種のモンスターを繁殖させている事。 

 そして、そのモンスターもイヴィルスの使者も捕食者が殺害したのだと

 長い時間を掛け、エイナは気を失いそうになりながらも把握する事が

 出来た。

 冷や汗が全身から噴き出ている様で、前髪が湿る程だった。

 ミィシャはその様子を見て心配になり、声を掛けた。

 

 「エ、エイナ?大丈夫?すごい、汗掻いてるけど...?」

 「...大丈夫とは、言えないけど...何とか...

  あの、これは...今日の事、ですよね...?」

 

 カカカカカカ...

 

 エイナに返答する様に鳴き声を上げた。

 事実であると確認したエイナは、立ち上がり捕食者と向き合った。

 

 「...わかりました。では...この情報を上層部にお伝えします。

  どの様な状況だったのか、もう少し詳しく教えていただきたいですが...

  (多分、無理よね...下手したら、ギルド長が問い詰めてしまって...)

  な、なので、こちらで対処させていただきます。

  ...異常事態の解決もしていただき、ありがとうございました」

 

 お辞儀をするエイナに捕食者は、先程の様に鳴き声を上げて返事を

 する。

 エイナはこの情報をいち早く、レーメルとロイマンに伝えるべく

 白装束を持って席を離れた。

 ミィシャは一体何の事なのかわからず、首を傾げて走り去るエイナを

 見送るしかなかった。

 カウンターの前から眼の光は消え、静かに捕食者は去って行く。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「ありがとうござました~!

  ...よし、今日の営業時間は終わりだ。店仕舞いにしよう」

 『あ、ちょっと待って。ヘスティア』

 「どぇえええ!?ネ、ネネ、ネ、ネフテュス先輩ですか!?...って、あれ?」

 

 調理器具を落しそうになるヘスティアだが何とか持ち直して、後ろを

 振り向いた。

 そこにネフテュスの姿はなかったが、クスクスと微かに笑い声が

 聞こえてくる。

 

 『こんばんは、ヘスティア。今、姿は見えないけど話しかけているのは私で間違いないわよ』

 「あ、ど、どうもこんばんは!え、えっと、な、何か私に用が...?」

 『貴女が売っている食べ物を買いに来たのよ。とっても美味しかったから、また食べたくなっちゃったの。作れる分だけでいいからお願いしていいかしら?』

 「え?(ネフテュス先輩が買いに来た事ってあったかな...?い、いや、それよりもだ!)」

 「す、すぐに作りたてを用意します!」

 『ええっ、わかったわ。あと、箱でお持ち帰りしたいのだけど...』

 「もちろん大丈夫ですよ!」

 

 ヘスティアは大急ぎで発火装置で油を熱し、具材を混ぜてタネを

 捏ねると、5つ程に手際よく分けた。

 フツフツと茹だってきた油ところで衣を付け、タネを投入する。

 ヘスティアはいつになく、真剣な表情をしている。

 天界で面倒を見てくれた先輩に対するお礼として、とびっきり美味しい

 ジャガ丸くんを食べさせてあげたいという気持ちがネフテュスには

 伝わってきていた。

 カラッとこんがり揚げ上がり、余分な油を落としながら紙袋で包み込み

 お持ち帰り用の箱に入れていく。

 

 「お待たせしました!どうぞ!」

 『ありがとう、ヘスティア。真面目に働いてて偉いわね。

  天界に居た頃とは別人に思えるわ』

 

 差し出された箱を、ファルコナーがアームで器用に掴んだ事により

 箱もクローキング機能の効果で見えなくなる。

 それに驚くヘスティアだが、褒められているのに対し、複雑そうな

 面持ちで両手の人差し指を合わせながら答えた。

 その間にファルコナーはヴァリスの入っている袋を置く。

 

 「その...下りてきて最初はヘファイストスに頼っていたんですが、怒らせてしまって...」

 『あらあら、ふふふっ...でも、それは過去の事。でしょ?

  ヘファイストスには貴女の頑張りを、伝えてあげるわ』

 「あ、ありがとうございます!」

 『それじゃあ、バイバイ』

 

 ネフテュスが別れを告げ、ファルコナーは上昇していく。

 姿は見えないため、ヘスティアが頭を上げた時には既に飛び去って

 行った。

 

 「...って、ネフテュス先輩お釣り!?」

 

 袋に入っているヴァリスの枚数からして、明らかに多いと思った

 ヘスティアはそう叫ぶ。

 だが既に遅く、昨日と同じ様に困る事になるのだった。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「ふふっ...沢山作ってもらっちゃったわね。あれで足りるといいんだけど...」

 

 ピピッ ピピッ

 

 「...ウラノス?どうかしたの?」

 『...お前の眷族がダンジョンにてイヴィルスの残党、新種のモンスターを殺した』

 

 そう告げられ、ネフテュスは少し驚いた。

 こちらでしか知り得ない情報をウラノスも知っていたからだ。

 

 『それに加え...こちらで回収しようとしてた重要な物も幸いと言っていいものか、入手している』

 「あら...じゃあ、後で届けに行くわ。それでいい?」

 『それより、私の私兵にそれを渡せと、眷族に伝えてくれ。

  ガネーシャ・ファミリアの眷族にそれの回収を依頼をしようとしていた所だ。

  そちらは、別の階層にあるようなのだが...』

 「そっちの回収はしなくていいの?」 

 

 率直にそう問いかけると、ウラノスはしばらく間を空けて答えた。

 

 『今は、お前の眷族が回収した物を優先とする。どの様な物なのか知っておきたいのだ。

  合流する場所はお前が指定しろ。私の私兵がそこへ向かう。

  符丁は...』

 「...わかったわ。...ちなみに、何かお得な情報はないかしら?」

 『...ヘルメスがお前の事を探り始める様だ。 

  眷族であるアスフィ・アル・アンドロメダがオシリスの元眷族について調べていた。

  恐らく、お前が本当に7年前から居たのかどうかを知りたい様子だ。

  そしてアストレア・ファミリアの団員が死体を見つけ、運び出そうとしている。

  恐らく、死に様が広まるだろう』

 「...そう...じゃあ今回の事、私達がしたって事は伏せてほしいわ。

  死に様は広めていいけど、私達の仕業って知れたら...ね?

  それで貸し借り無しって事でいいかしら?」

 『いいだろう。...1つだけ、忠告をしよう』

 

 ウラノスの声音が険しくなったように感じ、ネフテュスは甘える

 子供の様な口調で尋ねた。

 

 「なぁに?」

 『あの殺め方は...考え直した方がいい。...では...』

 「...ふふっ...それは、どうしようかしら、ね...」

 

 通信が切れ、ネフテュスは少しも困った様には見えない程、面白そうに

 笑みを浮かべていた。

   

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 我が主神から連絡が入り、僕らは屋根の上で待機していた。

 この卵を受け取りに来る人物に渡す様言われたからだ。

 既に夜となっており星空が煌めいている。ヴァルキリーはその様子を

 記録していた。

 ヴァルキリーはよく景色や風景を記録している。

 それは我が主神にお見せする事も踏まえているが、自身が好んで

 やっていると言っていた。

 僕らの中では比較的、慈悲を持っており、奴らの中に混じっていた

 女性の始末を任せたのはそのためだ。

 掟には、弱い獲物...武器を持たない者、女、子供や年老いた者、

 致命的な病を患っている者は狩らない。

 だが、武器を手にしており戦闘意欲を高めていれば、本来は除外される

 弱き者であっても、狩る対象にする。

 妊娠している女性は、たとえ武装していても胎児が無抵抗であるため、

 狩りの対象から除外される。

 今回は誰もそういった女性は居なかったので、全員を始末した。

 奴らも武装していなかった場合、そうしなかったのかと聞かれれば

 断固として否定する。絶対に許せないからだ。

 7年前、偉大なブレイブ・ワンと先達の2人が処罰された原因なの

 だから。

 ダチャンデ、マチコ、ライトステッパー。3人はエルダー様の次に

 狩りの全てを教えてくれた先達だ。

 その3人の内、マチコがある少女を助けた。青い髪に青い瞳をしている 

 少女だと聞かされている。

 その少女が、自爆しようとした子供の巻き添えになりそうだった所を

 子供の胸をバーナーで貫いたという。 

 それにより、マチコは掟を破った事になった。

 その時、少女は何故こんな事をしたのか、と問いかけてきたらしく

 マチコはそれに致し方ない犠牲だ、と返したそうだ。

 慈悲があったとして、命を奪う事に戸惑いがあるかと言えば...

 全く無い。それは僕らにとって普通の事だ。

 凶暴な獲物を狩るのだから、躊躇などしない。戦利品に値すれば

 その獲物は必ず狩る。そう教えられたからだ。 

 そして、掟を破ったマチコは、除外すべき対象など関係なく奴らを

 狩り尽くす事を決意した。

 ダチャンデ、ライトストッパーは彼女に協同し、奴らを殺していき

 生皮を剥いで夜道を照らす灯りに吊るしていったそうだ。

 僕らも協同はしていたが、獲物はモンスターや武装した奴らであり

 掟に反しなかったため、処罰は下らなかった。

 そして、マチコ達はある惑星へ流刑となり、今も尚その惑星で狩りを

 しながら100年後まで待っている事だろう。

 その後、僕らがマチコの意志を引き継ぎ、奴らを狩る事にした。

 6年前、大量のモンスターを27階層に集め、罠に嵌めた冒険者達を

 殺そうとしていた。

 僕らは冒険者がそこへ来る前に、モンスターや奴らを狩り尽くし、

 最後に残った白髪の男の体を上下半分に引き千切った。

 そして、洞窟の奥へ投げ捨てると殺した奴らを、数時間前の様に

 全員の生皮を剥いで、岩肌に吊るした。

 終わらせたと同時に、誘き寄せられた数人の冒険者達がやって来たので

 僕はその1人に奴らの罠に嵌められていた事を伝えた。

 当然、いつもの様に紙に書いて、手に握らせてだ。

 渡したのは、赤い瞳に黒く長い髪のエルフの少女だったと、よく覚えて

 いる。

 赤い瞳のエルフの少女は、書かれている内容を読み、仲間を離れさせて

 こう言ってくれた。

 

 姿無き者よ、感謝する。要望通りこの事は私の胸の内に秘めよう、と。

 

 僕はその時、鳴き声を出して返事をした。

 それが、僕にとって他のファミリアに所属する冒険者とのファースト

 コンタクトだった。...少し驚かせてしまったが... 

 それからその1年後には、骨の体に6本ずつ生えた太く鋭い爪を備えた

 巨大な怪物を出現させた。

 その際、偶然に居合わせた女性のみで構成されているファミリアの

 冒険者達が居て、彼女達が手を出す前に僕らが狩った。

 先に狩りを始めた者の邪魔をしてはならない、という掟があり

 僕らはその骨の怪物を狩りたかったため、先攻でまず両腕を当時では

 最新の武器であったレーザーネットで斬り落とした。

 怯んだ所で6人同時にバーナーからプラズマバレットを放ち、両目を

 爆発で潰した。

 そして、最後はそれも当時の最新武器であるレイザー・ディスクの

 シュリケンで首を斬り落とした。

 大物を狩ったとして、その首は戦利品としてマザー・シップに

 飾られている。

 

 ズズ...

 

 キュインッ

 

 何かが動いた。僕らは即座にバーナーの砲口を向ける。

 暗闇で見えないが何かがそこに居るのは間違いなかった。

 

 ズズゥ...

 

 「気づかれてしまうか。お見逸れする」

 

 虚空から現れた、その人物に僕は警戒心を解かずただ睨みつけた。

 僕らと同じように姿を消して現れるからには、余程の相手だと

 思ったからだ。

 

 「まずは警戒を解いてほしい。私は君達に危害を加えるつもりはない。

  君達の主神から聞かされている、受取人だ」

 

 ...その言葉を聞き、僕は合言葉の最初となる言葉を言った。

 

 『血が出るなら』

 「殺せるはずだ」


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