【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 「う~~~ん...」

 

 早朝、バベル7階のヘファイストス・ファミリアのテナントである

 武器・防具店で、命は一振りの刀を凝視していた。

 歪み無く綺麗に整ったまま反っている刀身、刃文は灯りに照らされ

 煌めく。

 とても末端のスミスが打ったとは思えない程、見事な出来であり

 尚且つ、自分自身が求めていた武器として是非とも購入したいと命は

 思っている。

 のだが、所持金が全て無くなる、ピッタリな額が付いており、本当に

 購入してしまっていいのか、どうするか悩んでいる様だった。

 

 「(もしもここで買わずして、後悔する様な事にはしたくない...

  だが...う~~~ん...)」

 「...なぁ、アンタ」

 「はいぃ!?」

 

 唐突に背後から声を掛けられ、命は足先から背筋までを伸ばし驚く。

 命は振り返り、そこに立っていたのが邪魔だったのかと思い慌てて

 謝罪する。

 

 「も、申し訳ない!邪魔になってしまっていた様で...!」

 「え?あ、いやそうじゃなくて...

  その刀、ずっと見続けてる様で気になったから声を掛けたんだ」

 「あ、そ、そうでしたか...

  この刀、素晴らしいスミスが打った得物だと思い見ていたんです。

  刀身の反りが他に見た刀よりも、丹念に整えられていて...

  特にこの刃文にとても惹かれました。大波がゆったりと波打つ様に美しく感じるんです...」

 

 命は刀を見つめ、思いのまま答えた。

 それだけこの刀が気に入り、熱意を伝えたかったのだろう。

 しかし、その熱意を冷ましそうになりながら購入するかしないかを

 悩む理由を言った。

 

 「ただ...購入すれば、持ち合わせを全て使い切る事になるので...

  恥ずかしながら、我がファミリアは大手ではないので購入するか悩ましい所なんです...」

 「...半額になれば、買うか?」

 「え?」

 

 思いも寄らない問いかけに、命はキョトンと目を点にした。

 半額となれば刀以外にも購入できる物が増える。

 だが、そう簡単に美味い話が起きるはずもないと思いつつ答えた。

 

 「そ...そう、ですね。もちろんすぐにでも」

 「そんじゃ、半額にしてやるから買ってくれよ。遠慮するのは無しだ」

 「...いやいやいや!?か、勝手に値引きなんてしてはならないのでは!?

  というより貴方は...?」

 「俺はヴェルフ・クロッゾ。こいつを打ったのが、この俺だ」

 「なっ...そ、そうなのですか!?」

 

 ニッと白い歯を覗かせて笑みを浮かべたヴェルフに、命は驚愕の

 事実を知り、目を見開いていた。

 打った本人が目の前で、刀の良さを語ってしまったのもあり顔を

 赤くして慌てふためく。 

 

 「で、では尚更、ご本人に値段を下げさせる様な事をさせるのは...

  それに、この刀となった材料の出費が無駄になるでしょうから」

 「あぁ、それなら全く問題ないぜ?

  どっかの誰かが俺に無償で、こいつの材料になる黒石をくれてな。

  だから、実質タダで作ったもんなんだ。それに...」

 

 ヴェルフは命と向き合い、先程までの笑みを消して真剣な眼差しを

 向けた。

 命はその眼差しに何かを悟って、顔を引き締める。 

 

 「値段なんて俺が好きに変えてもいいんだ。

  アンタの見る目が確かだって、さっき言ってくれた事で伝わってきた。

  だから、持つべきアンタに買ってもらいたいんだ。

  ...どうだ?使ってくれないか?」

 

 ヴェルフが自身の思いに答える為に、そうしてくれるのだと命は

 その厚意に心を打たれた。

 ここでヴェルフの気持ちを無下にしてはならない、そう決めた命は

 お辞儀をして答える。  

 

 「では...お言葉に甘えさせていただき、買わせていただきます」

 「おう!...そういや、アンタの名前は?」

 「タケミカヅチ・ファミリアに所属しているヤマト・命と申します」

 「命か。なぁ、よかったら少しばかり話さないか?」

 「はい、喜んでお話させてください」

 

 

 朝食の際にアイズが壊してしまった剣の弁償のため、ダンジョンに

 籠る事を知ったティオナとレフィーヤ。

 ティオナもゴブニュ・ファミリアにまた創ってもらった大双刀の

 支払いをしなければならないため、レフィーヤと一緒に行く事に

 なった。

 少し離れた席で焼き魚を食べていたティオネも誘い、更にはフィンと

 リヴェリアも同行する事になった。

 フィンの提案で正午にバベルへ集合となり、それまで各自準備のため

 それぞれの目的地へ向かった。 

 その頃、ようやく全身を拘束していた包帯が解かれ、自由の身に

 なったベートは会議室のソファに寝そべっていた。

 そこへロキが入って来ると、どこかへ向かうのに誘われた。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「今から稼いできて、今度払うからー!」

 「払わなきゃ二度と敷居はまたがせないからなー!」

 「ていうかもう来んなーっ!!」

 

 大双刀を受け取りそう言い残して、ゴブニュ・ファミリアを

 ティオナは後にする。

 次にアイズと共に、ディアンケヒト・ファミリアの治療院へ赴いた。

 そこでハイ・ポーションやマジック・ポーションなど様々な物を

 購入する。

 棚の上の物を取るために、頑張ったアミッドをティオナは撫でたのは

 言うまでもない。それに対し、アミッドが膨れっ面となった事も。

 

 「今日、これからダンジョンに行くけど何か欲しいものある?

  30階層まで潜るんだけど」

 「それでは...ホワイト・リーフを数枚、採取して頂けますか?」

 「おっやすいごよー!捕食者みたいに、無償ではあげられないけどいっぱい取って来るから!」

 「...最近は来ていないの?」

 

 ティオナが言った言葉にふと、気になったアイズが問いかけると、

 アミッドは首を横に振った。

 捕食者については、以前までベートの検診に来ていた際にフィンから

 話を聞いているためアミッドもその名前で認知しているのだ。

 後ろの棚から、箱を取り出すと瓶やドロップアイテムを手に取り

 答えた。

 

 「今朝方、こちらをまた贈呈してくださりました。

 ミノタウロスの紅血が入った瓶を5本、バグベアーの豪腕を6本、そしてゴライアスの皮などです」

 「あはは、どれも売ったら普通に一週間は楽に過ごせちゃうね」

 「はい。本当に無償で貰ってしまっていいのか、罪悪感が込み上げますが...

  ゴライアスの皮は治療用の物に使い道がなかったので別のファミリアに買い取っていただき、他はありがたく様々なポーションなどに使わせていただきます。

  ...もしも捕食者様にお会いした際、こちらをお渡ししていただけませんか?」

 

 アミッドは差し出したのは封筒だった。それをティオナは受け取り、

 中身が手紙であると察した。

 

 「うん、わかった!アミッドが感謝してるって事も伝えておくね」

 「ありがとうございます。では、またのお越し心よりお待ちしております。

  どうかご無事で」

 「ありがと、アミッド!じゃあまたね!」

 「それじゃあ...」

 

 アミッドに見送られ、ティオナとアイズは集合場所であるバベルへと

 向かって行くのだった。

   

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ティオナとアイズが購入し終えた頃、フィンとティオネはギルドへ

 足を運んでいた。

 フィンが普通のクエストを受けようという事で来ているのだ。

 しかし、その光景を目の当たりにしてフィンとティオネはある異変に

 気付く。

 

 「何だか、様子が変だね」

 「はい。...あっ、掲示板の方みたいですよ」

 

 ロビーの掲示板に人集りが出来ており、何かを見ていた。

 クエスト依頼の掲示板ではなく、ギルドが情報提供のために設置した

 方の掲示板にだ。

 フィンは何か重大な事が起きているのかと気になり、ティオネを 

 連れて人込みを掻き分け、掲示板が見える位置まで移動する。

 前へ前へと進み、ようやく見る事が出来た。

 そして、貼り紙に書かれている内容を読み、その横に張り付けられた

 白装束を見て息を呑んだ。

 

 「...」

 「...だ、団長...」

 

 [24階層のパントリーにてイヴィルスの残党を確認

  モンスター・フィリア祭に出現した新種のモンスターを繁殖させて

  いたと報告あり。

  しかし、等級D以上のファミリアにより殺害。150人とされる

  新種のモンスターも同様

  死体は内臓を抜き取られ、生皮を剥がされた状態で吊るされていた

  調査へ向かったアストレア・ファミリアが確認済み]

 

 「...ミィシャに聞いてみよう。何か、少しでも情報が欲しい」

 「は、はい...!」


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