【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 「フェルズの言ってた援軍の奴ら、ホントに大丈夫なのか...?」 

 「わざわざ様子を見に来る事はないだろう。人間の心配などする必要が」

 「そうは言ってもよ。そいつらが来てくれるおかげで、俺っち達は命辛々逃げられたんだ。

  もしそいつらが代わりに死んじまってたら...

  せめて埋めてやるくらいはしてやろうぜ?」

 「...全く...待てっ、この音は何だ..?」

 「ん...?何かが溶けてるのか...?それに、この匂いは」

 

 ドチャッ...

 

 「...どえぇええええ~~!?」

 「ぐっ...に、人間の、亡骸か...?それも、こんな数が...」

 「ひ、ひっでぇ。同種族でこんな事するのかよ...」

 「...見ろ、あの肉壁が溶けていっている。ここに居たらマズいぞ」

 「そ、そんじゃ、撤収するか!多分、援軍の奴らも大丈夫だよな?」

 「知るか。早く行くぞ、リド」

 「ま、待ってくれよ!ラーニェ!置いてくなって!」

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 30階層の最奥である狩り場で僕らは卵を見つけた。

 ただその前に、まだ生き残っていた奴らを見つけ、始末した。

 今回は人数が少なかったので、素早く片付ける事が出来た。

 ここでも巨大な花を繁殖させていた様で、まだ未成熟な状態の個体を

 数匹見つけた。

 どれも戦利品になる程ではないので、24階層の時と同様に溶解液を

 使い、融解して根絶させた。

 モンスターが餌を確保出来る様、肉塊や肉壁にも撒き消滅させる事に

 した。

 そして最後となる1体の生皮を剥ぎ、岩肌に吊し上げてから僕らは

 18階層へ向かう前に一眠りして向かう事にした。

 通路の脇道に入ると周囲の壁を壊し、もしモンスターが来た時の

 ために、ファルコナーを起動して偵察させる。

 段差になっている岩肌に背を預け、ヘルメットの防音機能を起動し

 目を瞑った。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 バベルの中央広場でティオナは、最後に遅れてやってきたフィンと

 ティオネを見つけた。

 

 「あ、フィンとティオネ来たよ」

 

 アイズ達も気付き、いざ向かおうと思っていたのだが、2人の

 雰囲気がどこか重苦しく見えた。

 リヴェリアは疑問に思い、問いかける。

 

 「フィン、ティオネ。どうしたんだ?」

 「...皆、少し話がある。いいかな?」

 「えー?ダンジョンを進みながらはダメなの?」

 「ティオナっ。...アンタは絶対に聞くべきなのよ」

 「え...?」

 

 普段ならフィンの言う事に反すると、叱りつけてくる姉の様子に

 ティオナは驚く。

 レフィーヤとアイズも首を傾げ、本当に何があったのか気になり

 始める。

 

 「...ついさっき、ギルドへ行ったんだが...

  その時、こんなものが貼られていた」

 

 そう言いながらフィンは1枚の紙を取り出す。

 それを全員が見えるように差し出して、ティオナ達は書かれている

 内容を読む。

 リヴェリアとアイズは目を見開いて驚愕し、レフィーヤは口元を手で

 抑え顔が蒼褪めていた。

 ティオナは呆然としており、思考が停止した様な状態となっている。

 

 「...捕食者が、本当にやったのか?」

 「ミィシャに確認はしたよ。最初はわからないと言っていた。

  ...だけど、他言無用にするという事で教えてもらったよ。

  捕食者本人がイヴィルスの残党と新種のモンスターを殺した、と報告したそうだ。

  どう殺したかまでは書いていなかったそうだが...

  内容通りアストレア・ファミリアが死体の状態を確認している。

  真実を知っている僕らからすれば、間違いないだろうね」

 

 書かれている内容だけで戦慄が走った。

 150人ものイヴィルスの使者を全員殺し、以前に渡された紙の

 内容の通りにしたのだからだ。

 思わずレフィーヤは吐き気に襲われ、アイズが背中を支えていた。

 一方でティオナは、アーディの事が気がかりとなっている。

 以前、捕食者について相談した際に、その殺めた後の行動を話して 

 しまっている。

 そのため、アーディも捕食者の仕業だと認識する事だろうからだ。

 

 「昨日、調査に向かっていたアストレア・ファミリアがガネーシャ・ファミリアと協同して死体を運んでいるようだ。

  ...今回は気ままに冒険者をしようと思っていたが、仕方がない。

  現在、リヴィラの街は封鎖されているから、通行許可証を作成してもらった。

  18階層へ向かおうと思う。皆、それでもいいかな?」

 「...うん。すぐに行こう!」

 

 ティオナはガネーシャ・ファミリアが居ると聞き、すぐに返答した。

 きっとアーディもそこに居るに違いない。

 もしもその死体を見てしまったのなら、アーディはより捕食者に

 対する、恨みや怒りを募らせてしまう。

 自分に何が出来るかわからないが、何とかしなくてはならないと、

 思ったのだろう。

 リヴェリアとアイズは頷き、レフィーヤも怯えつつ頷いた。

 

 「じゃあ、行こうか。18階層へ」

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「悪いな。今ここへ冒険者の立ち入る事は禁じてるんだ。

  あそこでポーションとか必要な物があれば持っていっていいから、大人しく戻ってくれないか?」

 「えぇ!?」

 

 中層、18階層にあるリヴィラの街の入り口前でルルネは文字通り、

 門前払いを食らっていた。

 昨日の夜、謎の人物から受けた依頼で、この街の物資置き場

 に隠された球体を回収してほしいと言われたからだ。

 ところが、何か重大な事が起きたらしく、リヴィラの街は閉鎖されて

 しまい入る事が出来なくなっていた。

 閉鎖される前からリヴィラの街に居た冒険者は閉じ込められている

 状況らしい。

 ルルネは何とか入らせてもらおうと考えるが、相手が非常に悪い。

 ガネーシャ・ファミリアの団員である、ハシャーナ・ドルリア。

 【剛拳闘士】の二つ名を持つ筋肉ムキムキマッチョマンの男だ。

 球体の事は誰にも言ってはならないと、謎の人物から言われており

 必要以上にせがむと、怪しまれるのは明白なためルルネは仕方なく

 その場から立ち去った。

 

 「...しょうがない。見張りの薄い所から入るか」

 

 そうと決まれば、ハシャーナには戻って行った様に見せて

 ルルネは岩陰に隠れた。

 そうして岩陰を利用し、崖の手前まで移動する。

 リヴィラの街は断崖絶壁となる地形の上に作られている。

 そこへ足を踏み入れる者はまず居ない。落ちてしまえば一巻の終わり

 だからだ。

 だが、ルルネは足元の強度を確かめつつ崖の淵を横移動で進んでいき

 背にしている岩肌が途切れた所で止まる。

 下を覗けばリヴィラの水源となる泉があるが、そこへ落ちたとしても

 体がバラバラになるだろう、とルルネは固唾を飲んだ。

 

 「(早いとこ街に入ろう。...あそこに隠れて、ちょっと様子見するか)」

 

 岩陰から覗き込み周囲を見渡す。

 誰もいないと確認し、視線の先にある建物の影へ素早く隠れようと

 足を踏み入れる。

 そして、走ろうとした瞬間、足が何かに引っかかってしまい転んだ。

 

 「へぶっ!..ぃったぁ~...何だよ、も、う...」

 

 自分の足を見てルルネは硬直した。何かが引っかかった箇所が

 血で赤く染まっていたからだ。

 ルルネは慌てて触ってみるが、どこも怪我はない。

 疑問に思い引っかかった何かを見る。それを見て息を呑んだ。

 それは人の足だった。それも血塗られている。 

 その本体には白い布が掛けられており、恐らく遺体だとルルネは

 思った。

 しかも2つ、3つではなく凄まじい数が一列に並べられていた。

 額から垂れてくる冷や汗をルルネは拭い、目に入らない様にすると

 震える手で布を恐る恐る捲った。

 

 ビチャァ...

 

 「うっ...うぶっ!」

 

 急いで布を掛け直し、その場からルルネは立ち去る。

 隠れようと思っていた建物の影に身を潜めるや否や、樽の影に

 昼食に食べた物を吐き出した。

 未だに思い浮かべてしまう生皮が剥がされている人の顔。

 そのせいで吐き出す勢いが止まらず、吐き出す物が無くなったせいで

 腹部を内側へ引っ張られるような痛みに涙が止まらない。

 

 「っ...はぁ...はぁ...」

 

 ようやく吐き気が収まり、ルルネはそこから移動すると別の建物の

 影へと隠れてヘナヘナと膝から崩れ落ちた。

 あんな惨い事をする人間が居るのか、そう思うと頭をグルグルと

 掻き混ぜられる様な感覚に陥った。

 

 「(リヴィラの街を封鎖した理由はあれが原因か...

  ...依頼とは関係、ないといいんだけど...違うよな...?

  と、とにかく、夜まで待って早く逃げよう。

  安い宿で、ちょっと寝ていようかな...)」

 

 ルルネは建物の外壁で自身の体を支えながら立ち上がり、夜が

 来るのを待つため宿を探し始めた。

   

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 一方、17階層を降りる様に通路を抜けたフィン達も18階層へ

 到達していた。 

 いつもよりも早いペースで潜っていたので、あっという間だった

 様だ。

 リヴェリアは頭上の青水晶群を見て、現在は昼となっているのを

 確認する。

 

 「(早くアーディに会わないと...)」

 「...っと、ティオナ!」 

 「え!?あ...ど、どうしかした?」

 「こっちの台詞よ。また例の考え事?捕食者がしたかどうかって」

 

 そう問いかけられ、ティオナは首を勢いよく横に振るい否定した。

 

 「い、今はアーディの心配をしてたの!

  捕食者が、そうするってアーディには話してるから気付くと思うし...

  これ以上捕食者の事を目の敵にして...もしかしたらアーディが...」

 「...そう。じゃあ、早く行って話してみましょ?

  そこで突っ立ってないで、アンタの友達なんだから助けてあげないと」

 「うんっ」

 

 ティオネの叱咤にティオナは頷き、先に行ってしまっている

 フィン達の後を追いかけた。

 

 「(捕食者も、アーディも...どっちも、何とかしないと...!)」


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