【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 フィン達がリヴィラの街に着いた頃、オラリオでは既にギルドからの

 情報提供により、異形死体の話が広まっていた。

 だが、その事を知らないロキとベートは、地下水道で見つけた数匹の

 ヴィオラスについて話していた。

 リハビリを兼ねてという事で、ベートはヴィオラスを全て倒し

 1匹から魔石を手に入れる事が出来た。

 その魔石が遠征で遭遇したヴィルガの魔石に酷似していると、ロキは

 聞かされ、手にしている魔石を見つめた。

 その時、曲がり角から聞こえてきた話し声がベートの耳に届く。

 

 「...護衛は任せたぞ。エイン」

 「任せられなくとも、わかっている。早く行ってこい」

 「それならいいんだが...では、ディオニュソス様。少しお時間をいただきます」

 「ああ、気をつけるんだぞ。フィルヴィス」

 

 話し声が止まると、曲がり角から飛び出してきたフィルヴィスが

 ロキとぶつかってしまった。

 

 「おわっと...?」

 「あ...!す、すまない、先を急いでいるんだっ」

 「お、おー、気を付けるんやでーって速っ。どんだけ急いどんねん」

 

 ロキは既に見えなくなった相手が向かう方向を見ながら、ため息を

 つく。

 するとベートが鼻を嗅ぎ、ある事に気付いた。

 それを言おうとした際、ロキが前に向き直ると曲がり角から出てきた

 男神を見つける。

 

 「...ロキ?」 

 「よぉ、ディオニュスやん。こんなとこで会うなんて奇遇やな」

 「待て」 

 

 ロキはディオニュスに近寄ろうとしたが、ベートに止められた。

 振り向きながら首を傾げ、ロキはベートを見る。

 目を鋭くさせ、まるでモンスターと対峙している様に敵意を顕わに

 している。

 

 「そいつらだ。さっきの女もかはわからねえが、あの地下水路で嗅いだ残り香はそいつらの臭いだ」

 「...!」

 

 その言葉にロキは額に手を当て、目を見開きながらディオニュスと

 をその隣にいるフィルヴィスを睨んだ。

 それにディオニュスは臆する事なく、その目を見ていた。

 隣に居る、もう1人のフィルヴィスもロキとベートを見据えていた。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「...確かに本物だな。ギルドの代わりにご足労かけてしまい、すまない」

 「気にしないでくれ。それじゃあ、入らせてもらうよ」

 

 リヴィラの街の入り口へ辿り着き、フィンは通行許可証を 

 ハシャーナに確認させ入って行った。

 この時、ティオナは同じファミリアであるハシャーナに、アーディが

 居るのか聞かなかった。

 来ない訳がないと思っていたからだと思われる。

 いつもなら少なからず冒険者が居るはずの街中は異様に、静まり

 返っていた。

 しばらく街中を進んで行くと、フィンは顔見知りを見つけた。

 

 「やぁ、ボールス。...随分と顔色が悪いね」

 「...あ?あぁ...フィンか。街は封鎖してんだぞ?何でここに...」

 

 建物の外壁に座り込んでいたボールスはそう言った。

 いつもの様な覇気が無く、完全に戦意喪失と言った様子である。

 そんなボールスに、通行許可証を見せながらフィンは事情を 

 説明する。

 

 「現状は知っているよ。地上で話題が持ち切りになっているからね。

  ギルドの代わりに僕らが確認しに来たんだ」

 「そうか、そりゃご苦労なこって...

  はぁー...言っとくが、かなりやばいぞ。今まで見た中では...

  あぁくそっ、思い出すだけで手が震えちまうっ...!」

 

 フィンはボールスの様子からして、尋常ではない事を悟った。

 この中でそういったものに耐性が低いと思われる、レフィーヤには

 見せてはならないと判断する。

 

 「わかった、覚悟しておくよ。遺体はどこに?」 

 「あっちだ。アストレア・ファミリアとガネーシャ・ファミリアが処理してる。

  一応、俺達も手伝おうとは思ったんだが...」

 「気持ちは察するよ。...レフィーヤ、君は少し待っててくれるかい?」

 「え?ど、どうしてですか...?」

 「わざわざ気分を害するために見る様な事はないからだよ。

  ...僕でさえ、下手をすれば眩暈がするかもしれないんだ」

 

 そう言い聞かせられ、レフィーヤは素直に従うしかなかった。

 レフィーヤを残しフィン達はボールスに教えられた場所へ向かった。

 その場所へ近付くに連れて最初にアイズが、次にティオネが漂う

 異臭に気付いた。

 それは、全員がよく知る臭い。人だったモノの臭いである。

 その場所に着いて、ティオナは周囲を見渡した。

 すると、自身の方へ向かってくる少女が見えた。アーディだ。

 よく見てみると手首から肘までが血に染まっており、手だけは

 綺麗なままだった。手袋をしていたからだろう。

 ティオナはすぐにアーディに近寄った。

 

 「アーディ...」

 「...」

 

 アーディの目は俯いてるせいで前髪の影になり見えない。

 それに何も言わない。

 ティオナは必死に思考を巡らせ、何を言うべきなのか言い迷う。

 しかし、その前にアーディが小さく、本当に小さく口を開いた。

 

 「...は...謝...の...」

 「え?ア、アーディ、ごめん。もう一回」

 「これでも!ティオナもリオンも感謝出来るの!?

 

 その叫びは一際、響き渡った。

 まだ遺体処理をしている団員達やフィン達は2人の方を見る。

 

 「見てよ!?...こんな...こんな、惨い事...

  あの時の人達じゃなくても、許せないよ。絶対に...!」

 「お、落ち着いてよ!相手は、その...

  同じイヴィルスの残党で、子供は居なかったんでしょ?それなら」

 「え...?...子供が居なかったら、私も我慢したと思ってるの?

  ...大間違いだよ、そんなの...

  人の命を奪い取って、こんな事をするのが許されるの!?

 

 ティオナとアーディの決定的な違いが、それだった。

 イヴィルスであっても更生させるべきだと思い、捕食者を許せない

 アーディ。

 イヴィルスであるなら捕食者がやった事は、咎めないと思っている

 ティオナ。

 アーディの言う通り殺人は犯罪である。

 彼女に至っては以前に、捕食者が自身の目の前で命を奪ったのを

 目の当たりにしている。

 正義感の強い彼女であれば、犯罪行為を認めてもらい償わせるべき

 だと思っているのだ。

 だが、ギルドの方針によってイヴィルスの使者となった人物は

 死刑となる事が決められている。

 例えどんな理由であっても、関わった者は必ずだ。

 恐らく、捕食者を検挙したとしても有罪にはならないと、それを

 理解しているため、アーディはそう言ったのだろう。

 

 「...いけない、よね。でも...

  7年前みたいな被害が出たら、アーディは...それでも許せるの?」

 「...許せないよ。...だから、罪を償って反省してもらうべきなんだよ。

  こんな酷い殺し方に...されない様にね

  殺されても残当の様だとその人が思われても、本当に殺されていいって事は...

  私は無いと思ってるよ」

 

 そう答え、アーディはティオナのそばを通り、どこかへと

 去って行った。

 2人の様子を見ていた団員達は目を逸らし処理に戻った。

 アーディの言っている事にも、ティオナが言っていた事にも

 思う事があったのであろう。

 ティオナは俯いて、拳を固く固く握り締めた。

 

 「あの...【勇者】?それに他の方々も...何故ここに?」

 「あぁ、リオン。...この死体を確認するためにね...」

 「...やはり、捕食者が...?」

 「地上で入手した情報によれば、本人が殺したと証言がある。

  だが、それは極秘に、と言われていてね...

  ...リオン、聞かなかった事にしてくれるかな?」

 「...わかりました。内密にします」

 

 そう答えたリューにフィンは頷き、ふとアリーゼの姿が無いのに 

 気づく。

 予想はしていたが、恐らく当たっているだろうと思いつつリューに

 問いかけた。

 

 「アリーゼはどうしたんだい?」

 「その...寝込んでしまっていまして...」

 「やっぱりか。何というか、お気の毒に...」

 「本当にそう思います...

  ライラも、まともな食事はしばらく要らないと、言っていました」

 「本当に気の毒に思うよ...」

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 再びオラリオでは、夕暮れ時となり、バベルの前で命とヴェルフが

 話していた。

 

 「それでは、これで。ヴェルフ殿、なるべく良い方向へ話を進めてみますので」

 「おう!よろしくな!」

 

 命は購入した刀を腰に掛け、ヴェルフに見送られながらバベルを

 後にした。

 あの後、話し合っている内にヴェルフから直接契約を申し込まれた。

 それに命は驚き、自身が零細ファミリアの団員である事を改めて

 伝え、本当にいいのかと聞いた。

 それにヴェルフは逆に、その言葉を返した。

 何故なら命はレベル2であり無名のヴェルフとでは釣り合わないと

 言い、逆に契約してもらえるのなら自分に貫禄がつくので是が非でも

 契約したいとも言っていた。

 しかし、その後の本音を聞き、命は1つ1つに魂を込めて作っている

 ヴェルフの思いに感銘を受け、手を取ると契約すると返答した。

 突然言われたので、ヴェルフは目を点にさせていたが、すぐに笑みを

 浮かべると力強く握り返した。

 正式な契約書などは後日書く事となったが、その際ヴェルフが命に

 頼み事をした。

 それは、鍛治の発展アビリティを習得するために命のパーティに

 入れてもらいたいというものだった。 

 命はファミリアの団長ではないため、即答は出来ず桜花と相談させて

 ほしいと答えた。

 それにヴェルフは構わないと答え、それもまた後日となった。

 

 「少し遅くなってしまいましたね...

  ...しかし、ヴェルフ殿の熱意にはとても感服しました。

  私もこれから精進し」

 

 バッ

 

 「て...!?」

 

 突然、横道から走り抜けてきた人物に足を引っかけてしまい

 相手の方は転んでしまった。

 

 「あうっ!」

 「も、申し訳ありません!大丈夫ですか...?」

 

 命は謝りつつ手を貸そうとした。しかし、背後から聞こえてくる

 足音に気付き、振り向いた。

 男の冒険者が恐ろしい形相で背中から剣を抜き取りながら、迫って

 きていた。

 

 「逃がさねぇぞこの糞パルゥム!」

 「...!」

 

 男は翳した剣を振り下ろそうとした。 

 その直前に命はその冒険者の前に立つと、剣を握っている片腕を

 両手で掴む。

 そのまま刃が男の喉に当たるか当たらないかの位置まで腕を押し付け

 動きを止めさせた。

 

 「ぐっ...!?」

 「そこの方と、何か事情がある様にお見受けしますが...

  剣を引き抜いたからには見過ごせません」

 「こ、このクソアマ...!」

 

 男は力尽くで命を離そうとするが剣の刃が喉に触れ、微動だに

 出来なくなる。

 その間に、転んでいた少女は逃げようとした。

 だが、目の前に立ちはだかる影が行く手を妨げた。

 

 「そこの人達!喧嘩はダメですよ!特にアストレア・ファミリアの前でなんて!」

 「!?」

 「なっ...クソ!」

 

 男は剣を自ら手放し、命の手を振り払うとその場から立ち去った。

 命は逃げていく男にため息をつきながら見送り、自身が転ばせて

 しまった少女に近寄る。

 

 「...怪我はないですか?」

 「...はい」

 「そうですか。...こう言ってはなんですが、観念していただけないでしょうか?」

 

 その言葉に少女は俯き、答えない

 しかし命が差し出す手を取り、立ち上がっても逃げようとは

 しなかった。

 

 「...アストレア・ファミリアの団員殿。私も同行してよろしいでしょうか?」

 「はい、何が起きたのか状況説明をお願いします。それから...

  私はセシルって呼んでください」

 「わかりました。私はヤマト・命と申します。タケミカヅチ・ファミリア所属です。

  ...貴女は?」

 「...リリ...リリルカ・アーデ、です...」

 

 リリルカは深く被っていたフードを脱ぎ、顔を見せながら名乗った。

 言う通りに観念したのだろうと命は思い、屈むとリリルカの手を取り

 目線を合わせる。

 それにリリルカは驚き、命を見つめた。  

 

 「ご心配なさらないでください。ここで会ったが何かの縁でしょうから...

  私が責任を持って、弁護します」 

 

 力強くそう答える命。それにリリルカは戸惑っているようだった


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