【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 「何という事だ!ここもやられたのか...!」

 「...ちっ」

 

 ドガァッ!

 グシャッ...!

 

 舌打ちを打つレヴィスは岩肌に吊されていた死体を、拳打で 

 粉砕した。

 それを見たイヴィルスの残党は驚愕して、死者を冒涜する様な

 行いをしたレヴィスを非難しようとする。

 だが、背後から駆け寄ってきた同志に気付くと、口を紡いだ。

 

 「おい!宝玉が無くなっているぞ!」

 「何!?奪われたというのか!?」

 「18階層にあるリヴィラの街で、何か起きている様だ。

  もしかすると...」

 「...ヴィオラスを用意しておけ。私が見つけ出す」

 「ま、待て!...私も向かうとしよう。悪魔には借りがある。

  必ずこの手で、あの時の雪辱を...!」

 「...好きにしろ。お前達はヴィオラスを放った後、何もするな」

 「なっ!?ふざけるな!同志達の仇を取らねばなら、が、おぐ...!?」

 

 レヴィスは歯向かってきた男の首を掴むと黙らせる。

 

 「聞こえなかったか?何もするな。邪魔をするなら...

  今ここで皆殺しにする」

 「...!」

 

 そう言い放ち、レヴィスは男を乱雑に投げ付ける。

 地面を転がる男は咳き込みながら、息を整えていた。

 そんな事など気にせず、レヴィスは18階層へオリヴァスと共に

 向かうのだった。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ピピッ ピピッ ピピッ ピピッ

 

 目を覚ます時刻となり僕は目を開けた。

 ファルコナーを呼び戻し、ウルフが右肩に装着している装甲へ

 収納すると上へと続く通路を進んで行く。

 時折現れる獲物は気にせず、目的を果たすため18階層へ向かった。

 18階層まで来て、街の出入口に幾人かの冒険者が見張っているのを

 確認した。

 どうやら、吊した死体を運び出しているんだろう。

 だが、見張りが居るからといって僕らの障害にはならない。

 崖の下に泉が湧く街の南側、そこにある岩肌を登って行けばいいだけの

 事だ。

 窪みに手と足を掛け、次に上の窪みへ掛ける。

 登っていく最中に掛ける窪みが無ければ、リスト・ブレイドで

 削りそこへ掛ける。

 登り切ると一度そこで待機し、皆も登って来るのを待ってから

 建物の屋根へと飛び移る。

 目標時間通りに指定された物資置き場へ辿り付いた。

 山積みに重ねられた木箱の隙間を潜り抜け、1番奥まで入り込むと

 木箱と木箱の隙間を見つける。

 隙間の広さを、奥に置けば見え難い事も確認し布に包んだ卵をそっと

 置いた。

 

 ジャキンッ

 ガリガリガリッ ガリガリッ...

 

 リスト・ブレイドで木箱に印を刻み込み、目印を付ける。

 これでいい。2つもあればわかるはずだ。

 そうして僕らは地上へ戻ろうとした。...のだが、ふと先程見かけた

 見張りの事を思い出し、ある可能性が浮上した。

 もしも雇人が、街へ入る事が出来ずここへ辿り着けなかった場合、

 当然あれは放置される事になる。

 それでは依頼を完遂出来ず、我が主神の面目が立たない。

 ...なら、雇人がここへ来るまで待つ事にしよう。

 皆にそれを伝えると、納得してくれて不満は言わず一緒に待ってくれる 

 と言ってくれた。

 そうして、僕らは卵を隠した場所の頭上から監視する事にして、木箱の

 上へと上った。

   

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 ティオナはまた運ばれてきた死体の顔と体に白い布を掛ける。

 薄い布しか無いため血が染み込むと滲んでしまい、腐敗臭を

 抑え込められず周囲に充満していた。  

 なので、最初は手伝っていた多数の団員達は気分が悪くなったり、その

 死体の惨さに耐えきれなくなったりなどの理由で半数以下にまで減って

 いる。

 そうなった団員達はボールスが用意してくれたいくつかの宿で休んで

 いた。

 今回に限り、特別にタダで貸し切ってくれたそうだ。

 

 「ティオナ。そろそろ休んだらどうだい?無理は禁物だよ」

 「でも、まだこんなに残ってるんだから、もう少し...」

 「...団長命令だ。休むといい」

 「...わかった。ありがと...」

 

 人手が足りないという事なので、フィン達も手伝っていた。

 レフィーヤも最初は何とか役に立ちたいという事で、その場に着く前に

 腐敗臭にやられ、早々にアイズが介護する事となった。

 ティオナは次々に運ばれてくる死体を見て、そう答えたがフィンの

 声色が強まった事で素直に休む事にした。

 乾いた箇所が赤黒くなっている手袋を外すと、処分するための大袋に

 入れ、フラフラと行く宛ても無くただ歩いて行った。

 その様子にフィンは深くため息をつき、頬を指で掻いた。

 

 「...しまった」

 

 そう言ったが既に遅く、頬が血で汚れてしまっていた。

 仕方なく袖のファーで拭こうとした時、不意に横からタオルを差し

 出される。 

 

 「綺麗な顔が台無しじゃねえか、勇者サマ。

  よろしければこちらをどうぞ?」

 「あぁ、すまない...それにしても、酷い匂いだ...7年前を思い出す...」

 「アタシは忘れたいよ。おかげでアリーゼは今使いもんにならなくなっちまってるし...

  せめて皮剥がさないでもらいたかったもんだ」

 

 そう答えるライラにフィンは苦笑いを浮かべ、受け取ったタオルで

 頬の汚れを拭き取る。

 ネフテュスから捕食者のあの行為がどういったものなのか、それを

 把握しているからだ。

 そのため、ネフテュス・ファミリアの事はあえて言わなかった。

 アリーゼもだが、ライラも食事はしばらくは必要ないと言ったそう

 なので、相手の事は話さない方がいいと気遣ったのだろう。

 

 「...なぁ、勇者サマよ。【大切断】と【象神の詩】が言ってた事...

  お前はどう思った?

  アタシは当然、清々してるよ。またくだらねえ事企てたんだしな」

 「そうだね...確かにアーディ・ヴァルマの言ってた事は正しい。だが...

  7年前の事を知っている僕らや冒険者が聞けば、反感を買うかもしれない。

  それが心配かな...彼女は...優し過ぎるんだ」

 「だな。まだここに居る連中は、アイツの仲間とウチだからよかったが...

  余所の冒険者が聞いてたらヤバかっただろうな」

 

 イヴィルスが残した傷痕を7年経った今でも覚えているものは

 大勢居る。

 故にその傷痕に巻き込まれ友人、家族、恋人などを失った者達は

 イヴィルスを激しく憎み、制裁を下す事を最も強く願っている筈だ。

 そのためギルドは暴徒などが出ないよう、やむを得ずイヴィルスの

 使者となった者は死刑にすると決断したに違いない。

 

 「(あの時、憎んでいる冒険者が居て彼女の言った事に気が触れてしまっていたら...

   どうなっていたか...)」

 

 フィンはタオルを握り締め、ティオナのアーディを心配する気持ちを

 少しだけ理解した様に思えた。

 優しさ故に、誰かから責められる恐れを彼女自身知らず知らずの内に

 察していたのではないだろうか。

 そう思っていると、額に小く鋭い痛みが走った。

 見ると、ライラがデコピンをしたのだとわかった。

 

 「とりあえず、この仏さんを何とかしてから考えてくれねえか。

  説得なら地上に戻ってからでもいいだろ」

 「...ああっ、すまない」

 「なーに...」

 

 ライラは気にするな、と言う様にフィンの背中を軽く叩いた。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「...すまん、何やって?」

 「ギルドが発表した情報によれば、イヴィルスの残党が24階層のパントリーで食人花のモンスターを繁殖させ、何かを企てていた様なんだ。

  しかし、その残党もモンスターも何者かにより殺されたらしい。

  内臓を抜き取られ、生皮を剥がされた状態の遺体を見つけたそうだ」

 

 最後のディオニュソスが言った言葉に、ロキは確信した。

 捕食者が殺したのだと。しかし、ネフテュス・ファミリアという

 名前が出て来なかった事に疑問が浮かぶ。

 

 「うへー、そりゃまた...どこのファミリアがやったんかわからへんのか?」

 「ああ、ギルドもそこは隠し通すようだ。...だが、その殺し方をした冒険者を...

  私の眷族の1人、フィルヴィスが知っている」

 「...ふーん」

 

 ロキは話し素っ気なく返事をした。

 内心では、まさか捕食者の事を知っているのかと焦りに焦っている。

 悟られないよう、ロキは慎重に言葉を選びつつ問いかけた。 

 

 「どこの神の眷族なんや?そいつら」

 「それはわからないんだが...

  実は、そちらが訪ねてきた姿を消す事が出来る冒険者の事だけは知っていたんだ。

  何故なら、その冒険者が今回の騒動を起こした張本人であり、私の眷族達の危機を未然に防いでくれた恩人でもあるのだからな」

 「確証は、その危機から救ってくれた時と関係あるんか?」

 「そうだ。27階層で不審な動きがあると偽りの情報をつかまされ、フィルヴィスや他の団員が罠に嵌められる所だった。

  しかし...そこで既に情報と同じ状態にされた死体を見つけた。

  モンスターも既に全て殺されており...何が起きたのか団員達はわからなかったそうだ。

  ...だが、フィルヴィスだけは違った」

 

 ディオニュソスは両肘をテーブルに付き、口元を手で隠した。

 

 「その冒険者に紙を渡され、書かれている内容に応じて内密にする事を約束したと言っていた。

  だから、ギルドには報告せず今回の様な騒動となってしまったという訳だ」

 「...なーるほど、じゃあさっきごっつ速う走ってったのがフィルヴィスっちゅう子で...

  18階層へ確認しに行ったんやな?」

 「その通りだ。恐らく、会えはしないと思うが...

  もう一度会える手掛かりとなるなら、と言っていたよ。

  彼女曰わく、ちゃんとした礼をしたいらしいな」

 「義理堅いなー。...ところで、そのフィルヴィスと外に居る、エインやったっけ?

  あの子ら、顔が瓜二つやけど双子なん?」

 

 窓の外から見えるエインを見て、問いかける。

 ロキの言う通り、エインはフィルヴィスと顔立ちや姿がそっくりそのままで

 どちらかを見分けるとすれば、名前を呼んで判断するしかない程だ。

 

 「...バレてしまったからには話すしかないか。

  彼女は魔法による分身で、別々で行動する際は分身が私の護衛をしているんだ。

  当初、2人の事を間違える度に喧嘩を始めてしまうものだから、分身には別の名前...

  魔法名であるエインセルから取り、エインと名付けたんだ」

 「はぁ~~~。そりゃまた...なんちゅーか羨ましいなぁ~」

 

 ロキの頭の中では、いつものバトルドレスを着たアイズやメイド服、

 水着、豊饒の女主人のウェイトレスの制服、ギルドの職員が着る様な

 スーツ、そして服かどうか怪しい全身にタオルを巻いた姿のアイズが

 浮かんでいた。

 涎を垂らすロキにディオニュソスは引き笑いを浮かべ、冷静に

 させようと咳払いをした。

 それにハッと我に返ったロキも咳払いをし、深呼吸をする。

 

 「...ほんなら、そういう事で話は終いやな。

  疑ってすまんかった、ディオニュソス」

 

 ロキは素直に謝罪すると、ディオニュソスは頷いた。

 

 「いや、気にしないでくれ。...そういえば、その冒険者についてわかった事は?

  あれから随分経つと思うんだが」

 「うーんや、まーったくわからん。ただ、フレイヤの子ではないで?

  この間吹っ掛けてみたけど白やったわ」

 「そうか...情報提供、感謝する。私は眷族の仇を取るために調査を続けるとしよう。

  食人花を使っていたのがイヴィルスとわかった以上、徹底的に追い詰めてみせる」

 「おー、頑張りやー。...無茶はするんやないで?」

 「心遣い感謝する。では...」

 

 ディオニュソスは襟を正す仕草をしながら立ち上がり、出入口である

 ドアから出て行った。

 ロキはエインと共に去って行ったディオニュソスを見送り、背凭れに

 寄りかかる。

 イヴィルスの残党がヴィオラスを使い、何かを企てていたという事に

 ついては納得した。

 ただ、1つだけ腑に落ちない事がある。

 ネフテュス・ファミリアという存在をここまで隠し通す、ギルドの

 情報規制による疑問だ。

 

 「(いくら何でも...ファミリアの事まで隠すんは変やろ。

   ウラノスがそうしたんか、ネフテュス先輩がそうさせたんか...)」

 「オイ、もういいのか?」

 「...すまん、ベート。もうちょっと付きおうてや」

 

 様々な事を考え、導き出そうとするがやはりわからない。

 なので、ロキは椅子から立ち上がるとベートにそう言って店内から

 出た。

 向かう先は当然、ギルドであった。


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