【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 リヴィラの街は混乱状態へ陥っていた。

 突如現れたヴィオラスが街の各所に現れ、襲ってきたからというのも

 あるが、そのヴィオラスの首が何かで切断された様にボトッと落ち、

 頭部が紫色の体液を撒き散らしながら弾け飛ぶといった様な、不可解な

 現象が起きているからだ。

 

 「な、何だこりゃ...?」

 

 ボールスもそれを見て呆然としていると、アストレア・ファミリアと

 ガネーシャ・ファミリアの団員を引き連れフィン達が駆けつけて来た。

 その中で、この現象を見た事のあるリヴェリアとティオネはいち早く

 捕食者が居る事を察した。 

 しかし、引き連れたガネーシャ・ファミリアの団員の中にはアーディが

 居るためティオネは小声でフィンに耳打ちをした。

 

 「団長、捕食者が居るみたいです...」

 「やっぱりそうか...ボールス!5人1組で小隊を作らせるんだ!

  ガネーシャ・ファミリアとアストレア・ファミリアはその小隊に各自入ってくれ!

  今戦っている団員が倒し切れなかったモンスターは、各班1匹でなら抑えられる!」

 「お、おう!ってかどこの誰がやってるんだ!?」

 「...さぁね。ただ、十分に気をつけるんだよ。

  リヴェリア、大規模な魔法でモンスターを集めろ!」

 「わかった!」

 

 フィンはネフテュス・ファミリアの眷族である事は伏せる事にした。

 捕食者がここに居る事をアーディが知ってしまい、一悶着起きるという

 事態を回避するためだ。

 ティオナから聞いた話では、フィリア祭での捕食者が戦っている場面を

 アーディは見ていないため、言わなければわからないという事もあり

 それが幸いしていた。

 フィンの指示によって、団員達はそれぞれ自身の役目を確認すると

 ボールスが指揮を執った事で作られた5人の小隊へ参加する。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 巨大な花が街を襲っているから、僕らは狩ると決めた訳ではない。

 奴らが操っているから全て狩り尽くすだけの事だ。

 皆には街から生えた獲物を任せ、僕は別の場所に居た。

 崖の下で湧き出る泉から巨大な花は次々と登ってきているので、

 バーナーとハンドプラズマキャノンを手に街への侵攻を阻止しようと

 考えた。

 

 フォシュンッ! フォシュンッ! フォシュンッ!

 

 バシュンッ! バシュンッ! バシュンッ!

 

 バーナーでは1匹1匹と数に対して効率が悪い。

 だが、1発で先頭の数匹粉々にするハンドプラズマキャノンを使い、

 弾数が無くなるとスマートディスクを投げ、登らせる隙を与えず、

 次々と狩る。

 しばらくすると、巨大な花が侵攻を止め引き返す様に伝っていた

 崖から下りて行った。

 恐らく別の場所から侵攻しようとしているのだと察し、ガントレットを

 操作して電磁波を視覚化する赤外線に切り替えた。

 それにより、石の位置を確認出来るため、水中でも移動する獲物を

 見つけ出す事が出来るからだ。

 ...あっちへ向かっている。

 僕はそこから移動し、後を追う。すると、巨大な花が止まりそこから

 反り立つ崖を登り始めた。

 すぐにバーナーとハンドプラズマキャノンの砲口を向けたが、前方に

 降り立つ小さな人影に気付く。以前に謝罪してきた金髪の少年だ。

 

 「イヴィルスは、これだけの数を調教する術を持っていたのか...

  信じがたいが目の前の事実を受け入れるしかないな」

 

 下から登ってくる巨大な花の群れを見て呟いた。

 

 ブ シャ ァ ァ ァ ア ア ア ア ア ア !!

 

 ザシュッ! ザシュッ!

 

 金髪の少年は、巨大な花が岩肌を乗り越える前に飛び出してきた

 数だけ長槍で斬り裂いた。

 続けて頭上にまで高く飛び出した巨大な花も、わざわざ頭部を狙わず

 胴体そのものを薙ぎ払った。

 ...強い。ロキ・ファミリアとは関わらないと、決められていなければ

 あの少年の事も認めていただろう。

 だが、既に遅いため少し遺憾に思いながらも、ここは彼に任せる事に

 していいと判断し、僕は皆の元へ向かった。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 魔力に反応するヴィオラスを一箇所に集めるべく、リヴェリアは街から

 少し離れた丘の上で詠唱を始めていた。

 放とうとする魔法はレア・ラーヴァテイン。

 魔法円から巨大な炎の柱を突き出す広範囲を焼き払う魔法なので、

 植物の特性を持つヴィオラスを巻き込めば一掃出来るからだ。

 詠唱をすると魔力が溢れ出るため護衛を団員達に任せ詠唱に集中する。

 詠唱を中断して自身での対処も当然、リヴェリアなら出来るのだが

 被害を食い止めるためにも素早く魔法を放とうと思いそう判断した

 そうだ。

 やがて、詠唱を半分まで唱えた時だった。

 各団員達がそれぞれ対処しているのを見計らう様に1匹のヴィオラスが

 隙を突いてリヴェリアに襲いかかる。

 それに気付き、リヴェリアは一時詠唱を中断しようとした。

 

 「【ディオ・グレイル】!」

 

 ゴ ツ ッ !!

 

 ところが、障壁魔法により援護された事に気付くと詠唱を続けた。

 発光する円形の物体によりヴィオラスは衝突し、動きが止まった所で

 頭部が真っ二つに斬り裂かれる。

 それは、遅れてやってきたフィルヴィスの斬撃によるものだった。

 同じ方向から迫ってきたヴィオラスにフィルヴィスは接近していき、

 短剣のティーアペインを構えると、噛み付かれる前に首部分を斬り付け

 別の個体を護手のホワイトトーチの尖った杖底で開かれた口の奥にある

 魔石を砕いた。

 

 「【一掃せよ、破邪の聖杖】」 

 「(!。並行詠唱をやってのけるのか...!)」

 「【ディオ・テュルソス】!」

 

 ビ ギィィィッ!! 

 

 短杖の護手のホワイトトーチの先端から眩く光る雷撃が放たれ、

 残った複数のヴィオラスは、焼き尽くされた。

 リヴェリアはその戦い振りにいたく感心して、振り向いて頷く彼女に、

 頷き返し最後の詠唱分を唱えた。

 

 「焼き尽くせ、スルトの剣--我が名はアールヴ】!」

 

 ド ゴ ォ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ オ ンッ !!

 

 リヴィラの街を吹き飛ばさんばかりの衝撃波と爆風が突き抜ける。

 魔力に引き寄せられたヴィオラスの群れは巨大な炎の柱に巻き込まれ

 消し炭となった。

 炎の柱が消え、焦げた破片が降り注ぐ中、フィルヴィスは体液を

 振り払い、ティアーペインを腰の鞘に収める。

 

 「助かった、礼を言おう」 

 「いえ。ご無事で何よりです、リヴェリア様。

  ここでお会いできるとは、とても光栄です」

 「何、畏まる事はない。それにしても、見事な並行詠唱だったな。

  是非とも、私の弟子に指導してほしいものだ」

 「そ、そんな、リヴェリア様の弟子に恐れ多いです...」

 

 アワアワと慌てるフィルヴィスに、リヴェリアはその反応を見て

 おかしそうに吹いた。

 それにはフィルヴィスも顔を赤くし、恥ずかしがっていたが、まだ

 生き残っていたヴィオラスの群れが迫って来るのを見つけ、すぐに

 臨戦態勢となる。

 そこへ、アーディと共にフィンが駆け寄ってきた。

 

 「リヴェリア、かなり減ってきた。もう一踏ん張りだ」

 「皆は何とか広場へ避難させてました。被害者は居ません」

 「そうか、わかった。...お前の名は?」

 「フィルヴィス・シャリア。ディオニュソス・ファミリアの所属です」

 「フィルヴィス...?...!」

 「(6年前、27階層での出来事を報告した団員か...

   何故、と考えなくても恐らく...)」

  

 フィンがそう思い出していると、背後から現れた人影に気付く。

 4人は同時に振り返り見ると、モンスターの頭骨を仮面の様に被った

 男が立っていた。

 

 「...何者だ。イヴィルスの残党を率いる指導者の代理か?」

 「...ふっ、ふふふふ。私をあの様な残りカス...

  神に踊らされる人形と一緒にされるとは心外だな」 

 

 リヴェリアに鼻で笑い、男はイヴィルスの事を嘲りながら答える。

 それを聞きアーディは目を見開いて驚いた後、歯を食い縛って

 怒りを堪えていた。

 一方、フィンは訝りながら問いかける。

 

 「違うのなら...何が目的でリヴィラの街を襲ったんだ」

 

 すると、男は怒気を含んだ声音で答える。

 

 「彼女から与えられた同胞を取り返しにきたに過ぎん。

  私はそのためにお前達の相手をするだけだ!」

 

 そう叫ぶと、男は手を突き出す。

 男の背後からヴィオラスが数体飛び出し、フィン達に襲い掛かる。

 

 「【ディオ・テュルソス】!」

 

 即行で詠唱しフィルヴィスが放った雷撃によって数体は消し飛ばされ、

 それを皮切りにフィンとアーディが男に接近していった。


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