【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
何故、ティオナはミノタウロスの大群を追いかけていたのか。
それは少し遡って、ダンジョンから出るために2班に分担した
ロキ・ファミリアが17階層を登っている最中、その大群と
遭遇したのだ。
経験を積ませるため、半人前の団員達にも倒させるように指示を出した
ラウルだったが、ティオナ、ティオネ、ベートの3人は抑えきれない
闘争心で無意識に威圧してしまった。
それが切っ掛けとなり、ミノタウロスの大群は恐れをなして一目散に
逃げだしたのだ。
突然の事に困惑していたティオナ達だったが、他の冒険者に被害が
及ぶ事を予期した
リヴェリアはミノタウロスの大群を追いかけるよう激を飛ばした。
ミノタウロスの大群は上層への階段を登っていき、16階層から更に
上の階層に散り散りになったと思われ、ロキ・ファミリアの団員が
1人ずつ各階層に残り、1匹たりとも逃がさず討伐する事となった。
アイズとベートが1組となって5階層へ向かう中、ティオナは6階層へ
残って複数のミノタウロスを見つけ、先の通り追いかけていたのだ。
そして、今、ティオナは捕食者と対峙していた。
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カカカカカカッ...
こうして上手く鳴けるようになったのは、偶然コツを掴んだからに
過ぎない。
誰から教わった訳でもなく、全くの偶然だった。
それをエルダー様に披露してみたが、全く相手にされなかった。
皆も褒めるなんて事もなく、無関心だった。今になって思えば、
当然だと思う。
今、目の前には褐色の少女が立っており、僕は姿を見せるように
クローキングを解除している。
牛の返り血により、体の至る所が赤く染まっている褐色の少女は
呆然としたように見ているだけだった。
僕も何も言う訳でもなく、褐色の少女を見る。
先の呼び掛けてきたエルフの女性には声で答えず、ゴーグルを光らせる
だけでこちらの存在を伝えるだけにしたが、この褐色の少女は強いと
認めて、僕は姿を見せている。
「...あの、助けてくれて、ありがとう...?
こ、言葉、通じてる...かな?」
最後の言葉はあえて聞こえるように言っているのかわからないが、僕は
その言葉通り通じてないフリをする事にした。
その方がこちらには都合が良いと思ったからだ。
正体を明かしてはならないという掟はないが、他のファミリアの団員と
話す事はしないようにしている。
7年間、僕らはそうして他のファミリアとの接触は極力避けていた。
その甲斐あって僕らは誰にも正体を知られず、狩りの邪魔をされず、
技の熟練と勝利と名誉をかけて狩りに臨めている。
こうして褐色の少女に姿を見せているのは、言った通り強い者に
対しての敬意の表れとしてだ。
「や、やっぱり通じてないや...」
返事を返さない僕に褐色の少女は戸惑っている。
すると、通路の奥から複数の足音が聞こえてきた。彼女の仲間か...?
僕は自分の胸に人差し指を軽く2度押し、自分、という意味を身振りを
交える。
「え、えっと...君が、どうしたの?」
理解してくれた。次に下の地面を指す。
恐らく理解し難いと思ったので、先程の身振りと一緒にゆっくりと
続ける。
「ここ?6階層だけど...」
もう少し深く考えてほしい。後方からの足音がより鮮明に聞こえて
くる。
僕は身振りを強めて、何を伝えたいのかを強調する。
「...あっ、君が、この6階層...で?」
次で最後だ。伝えたらすぐに行こう。
人差し指をヘルメットの口部分に当て、黙っているようにと伝える。
「静かに...え?君の事を、誰にも言わないでって事?」
伝わった。僕はクローキングを起動し、彼女の前から姿を消す。
ブーツの効果で足音を立てずに彼女を撒く事が出来た。
...誰にも言わないでくれる事を祈ろう。
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「あ...」
ティオナは問いかけに答えず消えてしまったのに戸惑った。
言葉が通じていなかったのなら、会話として何かを伝える事が出来ない
はずなのに、自分の問いかけには答えなかったが、何故か相手の方は
何かを伝えてきた。
つまり言葉は理解しているんだ、とティオナは思った。
その間に背後から近付く足音に気付き、振り返るとティオネと
シャロンが駆け寄ってくる。
「ティオナ!ミノタウロスは...って、何でそんな血濡れになってるのよ!?」
「うわぁ、これまた随分と...目とかに入ってない?」
「う、うん!全然へっちゃらだよ!手でこうして掛からないようにしてたから」
「もう...アンタは本当に世話が焼けるんだから」
呆れつつも妹を大事に気遣っているとシャロンはクスリと笑う。
それに気付いたティオネは少し照れくさそうに、そっぽを向いた。
ティオナは2人がここに来た理由を聞いてみると、他の
ミノタウロスは倒し尽くしたと伝達があったので迎えに来たという。
「さっ、早く外に出ましょ。そのケチャップまみれなアンタを洗ったげるから」
「え~!自分で洗えるからいいよ~!」
「文句言わない!ほら、シャロン。行きましょ」
「はいはい。あ、ところでティオナ?それを見ればわかるけど...」
ティオナは首を傾げて、髪の毛から垂れてくる血を指で払った。
「ミノタウロスは全部倒したんだよね?」
「あ...う、うん。一応...」
「一応、って何で曖昧な返事するのよ。まさか、取り逃したんじゃ」
「ち、違うよ!ちゃんと全部倒したから!大丈夫だって!」
「本当でしょうね...」
疑うティオネにシャロンがティオナを庇ってか、早く合流するよう
促す。
ティオネはため息をつき、それ以上問い詰めようとはしなかった。
ティオナはシャロンに小声でお礼を述べ、ティオネの後を追おうと
した。
だが、ふと足を止めて振り返り、あの人物が消えた通路の奥へと繋がる
暗闇を見据えた。
「(...また、会えないかな...)」
そう胸の内で呟き、先に進んで行ったティオネ達を追いかける。
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ケルティックに注意された。
ウルフ、チョッパー、ヴァルキリーは問題ないと判断しているが、
スカーも姿を
見せてしまったのは良くなかったという判断を下している。
強さを認めたから姿を見せたのは、掟に反してはいない。
それは全員が納得している。だが、面倒な事になる事を事前に
防ぐためにもそうしてはならないと言われた。
僕はある程度、予想はしていたので素直に拳を眉に当て承認し、今後は
気をつけようと心掛ける事にした。
ケルティックとスカーはそれに納得してくれた。
そして、通路を進んで行きダンジョンの入口から外へ出た。
既に日が沈み始め、空が夕焼けに染まっている。
ヴァルキリーはその空を記録し、我が主神に見せる事にしたようだ。
それなら、帰ろう。我が家へ。