【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 デミ・スピリットから逃げるべく、アイズ、レフィーヤ、ルルネは

 同じ方向へ必死に走っていた。

 正確にはデミ・スピリットの下半身となる無数のヴィオラスから

 である。

 走り続けて何とか水晶に囲まれていた谷間から抜け出した。

 アイズは2人にそのまま離れるよう言い、エアリエルの風を纏うと、

 自身は別の方向へ向かう。 

 それにデミ・スピリットは反応したのか、進行方向を変えアイズと

 同じ方法へ進み始めた。 

 

 ド ガ ァ ァ ア ア アッ!!

 

 だが、大きく曲がったがために谷間の角にある岩肌にヴィオラスが

 ぶつかり砕け散った岩が、落石となってレフィーヤとルルネの

 頭上から降り注いできた。

 その大きさは2人を押し潰せる程、巨大だった。

 

 「やばっ!?」

 「【解き放つ一条の...!(ダメ、間に合わ...!)」

 

 森のティアードロップを構えたまま硬直するレフィーヤ。

 ルルネは顔を手で守る様にして目を閉じた。

 その時、落下してくる巨大な岩の上に着地する影が見えた。

 更に目の前にも1人の少女が立つ。

 その正体はフィルヴィスで、岩の上に着地したのはリューだった。

 木刀のアルヴス・ルミナを下に構え、切っ先を岩に向けている。

 

 「空を渡り荒野を駆け、何物よりも疾く走れ--星屑の光を宿し敵を討て】!

  【ルミノス・ウィンド】!【ルヴィア】!」

 

 ギュ オ オ オ ォ オ オ オ オッ !!

 

 緑風を纏った光玉を無数に生み出し、足元の一転に集中させて放つ。 

 スペルキーを唱えた事により、光玉は命中すると同時に爆散する。

 巨大な岩が落下していくにつれて光玉の爆散により粉砕されていき、 

 やがて小石程度になった。

 

 「【ディオ・グレイル】!」

 

 シュバッ!

 

 バキィンッ! ドガッ! ゴッ! バキッ!

 

 レフィーヤとルルネの前に立っているフィルヴィスは、円形の光体を

 展開する。

 それを盾にして、降り注ぐ砕かれた石から2人を守った。

 

 「怪我は無いか?同胞の...いや、レフィーヤ・ウィリディス」

 「は、はい!あ、ありがとうございました...」

 「何、当然の事をしたまでだ。無事でよかった」

  

 レフィーヤの視点では、微笑みを浮かべているフィルヴィスが眩しく

 輝いている様に見えた。

 それはアイズと似た様な憧れに対する輝きだと気付き、思わず

 手で目を守る様に隠してしまう。

 その反応にフィルヴィスが首を傾げていると、ヘタリと腰が抜けたのか

 ルルネはその場に座り込んだ。

 

 「た、助かったぁ...」

 「あっ。だ、大丈夫ですか!?」

 

 ルルネを心配し、レフィーヤは近寄って肩に手を添える。

 フィルヴィスは背後から誰かが近付いてくるのに気付くと、後ろを

 振り向いた。

 

 「お2人の援護をしてくださり、ありがとうございます。同胞の者。

  貴女もあのモンスターの討伐に協力していただけますか?」

 「無論、そのつもりだ。リヴェリア様達ての頼みだからな」

 

 その返事を聞き、リューは頷くとデミ・スピリットを追いかけ始める。

 フィルヴィスも後に続こうと思った時、レフィーヤとルルネに話し

 かける。

 

 「シアンスロープ。まだ立てないか?」

 「え?あ、い、いや、もう大丈夫...多分...」

 「では、広場へ避難しろ。弟子の者はリヴェリア様の元へ向かうんだ。

  あのモンスターの背後へ回っているはずだ」

 「わ、わかりました!あの、お気をつけて」

 「あ、ああっ。ありがとな...」

 

 ルルネはフラつきながらも広場へと向かい、それをレフィーヤは

 見送るとフィルヴィスが向かおうとしたので咄嗟に呼び止めた。

 

 「あ、あの!お名前は...?」

 「私はフィルヴィス・シャリア。【白巫女】の二つ名を持つ者だ」

 

 そう言い残してフィルヴィスは今度こそ、モンスターの元へ向かった。 

 あっという間に姿が見えなくなり、レフィーヤはフィルヴィスが

 教えてくれた通り、モンスターの背後へ向かう。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 街中の巨大な花を全て狩り尽くし、僕らは一度指定した場所へと

 集合していた。

 ウルフが記録していた映像を確認し、あれが生物に寄生するとあの様な

 女体の怪物へ変貌するのだとわかった。

 その危険性を知っていたから、謎の人物は回収しようとしていたのか。 

 奴らに至ってはその危険性を利用して何かを企んでいたのだと

 わかり、やはり殲滅すべきだと改めて認識した。

 あの女体の怪物も見過ごす訳にはいかない。

 だが、ロキ・ファミリアの冒険者達が戦っている様だった。

 その中には、赤い瞳のエルフの少女と長い金髪のエルフの女性も

 加わっており、電撃や緑色の光玉で攻撃している。

 金髪のエルフの女性は5年前に、あの巨大な怪物が出現した際に

 見かけた女性だけで構成されているファミリアの1人だと思い出す。

 ...オリヴァスという男との戦において、赤い瞳のエルフの少女は

 金髪の少年の手助けもあり、少しばかり見劣りしていると思った。 

 しかし、金髪のエルフの女性も含め観察し、どちらも強いと改めて

 思った。

 ...ロキ・ファミリアとは関りを持たないと決められているが、 

 彼女達は別のファミリアに所属している。

 そこで、僕は考えた。

 彼女達に協力して、あの女体を狩るのはどうかと。

 獲物は横取りしてはならないと掟で決められているが、協力し獲物を 

 狩る事は掟に反する事にはならない。

 それに赤い瞳のエルフの少女は、あの時の事について恩義があると

 思ってくれている様なので、協力するのに支障はないと思う。

 金髪のエルフの女性は、酒場での件でレーザーネットがどの様な物か

 気付いていた様なので、あの時の事に恩義を感じているのだとすれば

 恐らく、協力してくれるはずだ。 

 ロキ・ファミリアも理解があるはずなので、僕らの事を気にせずに

 居てくれていれば問題はない。

 

 カカカカカカ...

 

 皆にそれを伝えると、意外にもケルティックとスカーは円滑に承諾して

 くれた。

 彼女達がロキ・ファミリアでない事、獲物を横取りせず金髪の少年達が

 倒すという条件であれば問題ないと言った。

 ウルフ、チョッパー、ヴァルキリーは言うまでもなく、装備を早々に

 準備していた。

 ...僕は今、とても興奮している。

 あんな大物を狩れるからなのかはわからないが、思わず吼えそうな

 くらいに昂ぶっている。

 ...いや、吼えようか...!

 

 ウ゛オ゙オ゙ォ゙ォ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ッ!!

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 フィルヴィスと合流したリューは、噛みつこうとしてくるヴィオラスの

 頭部をアルヴス・ルミナで縦に斬り裂いた。

 更にフィルヴィスと同時に並行詠唱をしながら、一度地面に着地し

 背中合わせになって魔法を放つ。

 雷撃と光玉により襲い掛かってきたヴィオラスは一層された。

 

 「流石はアストレア・ファミリアの団員である【疾風】だ...

  レベル5の腕は確かな様だ。足手纏いになっていないか心配になる」 

 「ご謙遜を。貴女のおかげで大いに助かっています」

 「それならよか...」

  

 フィルヴィスが言葉を止めたのにリューは少し訝った。

 何かあったのかと聞こうとした時、何かを見ているのに気づく。

 

 「...!?」

 

 その視線の先を見て、息を呑んだ。

 そこには肢体の各部分に鎧を身に着けほぼ白い裸体が覗く、網状の

 服の様な物を全身に纏っている仮面を被った人物。

 捕食者が、そこに立っていた。

 リューはイヴィルスの残党だと警戒し、即座にアルヴス・ルミナを 

 構える。 

 

 「待て」

 「!?」

 

 だが、フィルヴィスが上から押さえつけ、切っ先を下げさせた。

 何をするのかと目を見開き、リューはフィルヴィルを見る。

 フィルヴィスはリューの視線を気にせず、捕食者を見据えていた。

 

 「私の恩人だ。6年前、イヴィルスが仕掛けた罠に嵌められる所を未然に防いでくれた。

  アストレア・ファミリアも...心当たりがあるのではないか?」

 「!(ま、まさか...この人物が、捕食者...!?)」

 

 カカカカカカ...

 

 リューが捕食者の正体に驚く中、フィルヴィスは近寄っていく。

 危険だと判断し、止めようとするが、フィルヴィスは手で自身を

 止めようとするリューを逆に止めさせた。

 混乱しそうになるリューは、フィルヴィスの行動をただ見守るしか

 なかった。

 

 「...恩人よ。私に...いや、私達に何か話しがあるのか?」

 

 そう問いかけると、捕食者がフィルヴィスに紙を差し出した。

 それをフィルヴィスは受け取り書かれている内容を読む。

 

 「...。...そういう事なら、私は是が非でもお願いしよう。

  【疾風】も読んでもらえないか?」

 「え...?」

 

 自身にも読ませようとする事に驚き、戸惑いつつも紙を受け取った。

 そして同様に内容を読む。

 

 [事情がありロキ・ファミリアと協力出来ない。

  女体の怪物を狩るため、代わりにそちらの2人のみと協力したい。

  自爆する奴らが利用しようとしていた生物は抹殺する。断じて許容しない。

  止めはロキ・ファミリアに任せる。 

  事が終わった後、こちらの事は他言無用に ティオナにのみ伝えて構わない]

 

 多少、物騒な事も書いているが敵意は無く、協力を申し出ているのだと

 リューは理解する。

 紙から目を捕食者へ向ける。捕食者は無言で佇み、返答を待っている

 様だった。

 リューの脳裏に、アーディの言葉が降り注ぐ様に聞こえてくる。

 しかし、もう一度読み返すと、不思議な事にその言葉がスッと

 聞こえなくなった。 

 

 「(...ここでアーディの話を持ち出すべきではありませんね。

   彼らのイヴィルスを許せないという気持ちが、この一文でよくわかりました。

   それなら...)」

 「...わかりました。ご協力、お願いします」

 

 カカカカカカ...

 

 ギャリッ  ザシュッ! 

 ジャキン... ザシュッ!

 

 返答すると、目の前に2振りの刀と剣が突き刺された。

 恐らく貸してくれるのだと思い、2人は自然とそれぞれ地面から

 抜き取って手にする。

 どちらも非常に持ちやすく、驚く程軽量だった。

 通常の剣であれば振るった後、また振るう際に重さで無駄な動きが

 出来てしまうのだが、そうならない様な作りとなっている様に思えた。

 刀を手にしているリューは、地面に転がっているヴィオラスの死骸で

 試し斬りをする。

 

 ...スパンッ 

 ボト...

 

 「(...な、何という切れ味なのでしょう。

   感触はあるにしろ、あまりにもすんなりと斬ってしまいますね...)」

 

 リューは固唾を飲み、誤って自分の肢体に触れない様、気を付ける事を

 決めた。


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