【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 「実に見事だったぞ、シャリア...いや、フィルヴィス。

  よくやってくれた」

 「お褒めの言葉、大変嬉しく思います」

 

 フィルヴィスは深々と頭を下げ、リヴェリアの感謝の意を受け取る。

 堅実な姿勢にリヴェリアは少し過度に思いながらも、微笑んでいた。

 デミ・スピリットは倒したので、次はレヴィスと交戦している

 アイズの元へ向かおうとフィルヴィスに伝える。

 フィルヴィスは頷き、向かおうとしたが一度足を止めると、手に

 していたエルダーソードを地面に突き刺す。

 その行動にリヴェリアは首を傾げていると、エルダーソードが

 独りでに浮遊し消えた。

 思わぬ光景に驚愕するリヴェリアは、フィルヴィスに問いかける。

 

 「フィルヴィス、今のは...」

 「...貸してもらっていたとだけ、答えさせてください」

 

 フィルヴィスは目を合わせず答え、リヴェリアも察した様で問い詰めず

 踵を返した。

 

 「...では、アイズの元へ向かうぞ」

 「はいっ」

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「人形のような顔をしていると思ったが」

 

 その言葉の最後はアイズに聞こえていなかった。

 全力の一撃を易々と回避され、冷や汗を流しつつ放心状態となって

 いたからだ。

 レヴィスはそんな事はお構いなしに地面を砕く勢いで踏み込むと、

 黒い大太刀を変則的な軌道を描きながら振り抜いた。

 

 ゴ キィ イ イッ !!

 

 アイズは、身体のどこに受けたのかわからないまま衝撃で吹き飛ば

 された。

 

 ド オ オ オ オォ ンッ !!

 

 岩肌へ叩き付けられ、アイズはデスペレートを手放してしまった。

 衝突した岩肌は窪んでおり並みの冒険者であれば、肢体が肉片と

 化していただろう。

 身体が動かない事にアイズが驚く中、その視界に近付いてくる

 レヴィスの姿が映った。 

 黒い大太刀は衝撃に耐えられなかったのか刀身は砕け散っていた。

 残った柄をレヴィスは投げ捨てて、握っていた手で握り拳をつくった。

 

 「(動...いて...動いて...!)」

 「やっと終わりだ」

 「(動いて!!)」

 

 ガギィッ...!

 

 レヴィスはアイズの顔面目掛けて、拳を振り下ろす。

 だが、骨とは違う硬質の物体により拳が阻まれレヴィスは目を見開く。

 

 「うちの姫君への手出しは」

 「我らが許さない」

 

 フィンがフォルテイア・スピア、リヴェリアがマグナ・アルヴスを

 交差させる様にして受け止めていた。

 死角となる2人の背後から、ティオネとリューが飛び出してきて

 

 「その通り...よっ!!」

 「ハァッ!!」

 

 ド ガ ァ ア ア ア ア アッ !!

 

 得物による斬撃のフェイントを織り交ぜ、2人同時に飛び蹴りを

 レヴィスに放つ。

 反応が遅れ、レヴィスは両肩に蹴り込まれると後退した。

 

 「【ディオ・テュルソス】!」

 

 ビ キィィ イッ!!

 

 その隙を逃さず、更に背後からフィルヴィスが雷撃を放った。

 だが、それをレヴィスは片手で受け止め地面へ叩き付ける様にして

 弾いた。

 フィルヴィスは攻撃を与えられなかった事に、苦渋の表情を浮かべ、

 着地すると今度はフィンが攻め込んでいく。

   

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 エルダーソードと刀を返してもらい、後は地上へ戻るだけだったが

 僕らは丘の上で金髪の少年と女の戦いを見物中だ。

 金髪のエルフの女性から刀は髪の長い褐色の女性に気付かれる事なく

 返してもらっている。 

 金髪の少年と女の戦いは誰が見誤る事なく、女の方が明らかに劣勢と

 なっていた。

 女は地面を踏みしめ、金髪の少年が宙を浮いている状態にさせる。

 だが、瞬時にして槍先を地面に突き刺すと、自身を女の頭上へ

 移動する。

 槍の柄は女の拳によりへし折られたが、金髪の少年は体勢を崩さず

 細く笑みを浮かべ、腰の短刀を引き抜く。

 心臓を狙った一閃だ。

 だが、回避している辺りあの女はオリヴァスという男よりは強いのか。

 仰け反らせていた上半身を立て直し、両手で捕まえようとした様だが

 女の足をエルフの女性が杖で引っ掛けた事で隙が出来た。

 エルフの女性を見る女は、そのエルフの女性が指を指しているのに

 気付き、振り向く。

 その瞬間、金髪の少年の放つ拳打が女の頬にめり込む。

 

 ド ォ オ オ オ オ オ ンッ !!

 

 殴り飛ばされた女は地面を弾んで、岩肌に衝突する。

 土煙でその場の全員には見えていないだろうが、僕は女が何事も

 無かったかの様に立ち上がっているのを確認した。

 

 「指が折れた」

 

 金髪の少年の呟きを聞き、エルフの女性は目を見開いて驚愕していた。

 土煙が晴れ、先程言った通り立ち上がった女は胸部から血を垂らし、

 分が悪いと判断した様でその場から跳び上がり、撤退していく。

 すると、金髪の少女も風を纏うと追いかけ始めた。

 女と金髪の少年の追走劇を見続けていくと、女は崖の上から飛び降りて

 いった。

 あそこの下は泉なので、そこへ潜って逃げて行ったんだろう。

 金髪の少女は立ち尽くしたまま、女が飛び込んだ事で出来た波紋を

 見つめていた。

 悔しさが滲み出ているのがわかる。

 ...これで一先ず、事は済んだはずだ。地上に戻って...

 

 カカカカカカ...

 

 ん?...いつの間に...あぁ、そうか。

 女体の怪物が暴れていた時、飛び散ってきた破片で切ったんだ。

 骨までは見えてないが、深く切ってる様であれから時間は経って

 いるのに、出血が止っていない。

 ...仕方ない、治療して少し休んでから地上へ戻ろう。

 あの湖でいいか...

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「おい!どんだけ無駄話してやがったんだ!?

  マジで1時間経っちまって動くとこだったじゃねえか!」

 「...」

 

 ようやく戻ってきたロキに、ベートは開口一番に文句を言い放つ。

 だが、ロキは謝りも宥めようともせず、ただ俯いているだけだった。

 ベートはいつものふざけた態度にならないロキを訝り、何を調べに

 行っていたのか問いかけようとする。

 その途端、まるでその問いかけに答えまいと言った様に歩き出したロキに

 ベートは再び怒鳴りながら文句を言い放った。

 

 「これだけ付き合ってやったってのに無視はねえだろ!?」

 「...ベート。お前...ホンマ運がえかったな...」

 「あ?...!?」

 

 自身を見つめるロキの薄く開かれた瞳にベートは悪寒が走る。

 哀れむ様な、呆れた様な、普段のロキからでは想像もつかない程、

 感情的になっているのが窺えた。

 ベートは言葉を失い、ロキに何も問いかけられなかった。

 その様子を見てロキはベートを置いて、黄昏の館へ続く帰路を進んで

 行った。

 ベートは何も理解出来ないまま、立ち尽くしていたが後ろを振り返り

 ロキが何かを知ったと思われるギルドを睨んだ。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ウラノスが鎮座する暗闇の中、灯りとなる灯火が揺れる。

 ファルコナーが動いた事で風が吹いたからだ。

 

 「...ロキに真実を伝えたが、よかったのか?

  口を滑らせてしまえば、ヘルメスが」

 『大丈夫。あの子は賢いから、ヘマなんてしないわよ。

  それに...』

 

 ネフテュスは一区切り置いて、クスリと笑った。

 

 『もしバレて、あの子に何かを言う様であっても...

  あの子は信念を曲げたりなんてしないから、大丈夫よ』

 「...そう思っているのなら何も言わん。お前の好きにするといい」

 『ええ。それじゃあ私も...。...あら?ちょっと待ってね』

  

 ファルコナーからネフテュスの声が途切れ、静まり返った。

 しばらくして再びネフテュスが話し始める。

 

 『ウラノス。この映像を観てもらえるかしら?フェルズも一緒に』

 「フェルズ」

 「あぁいるよ、ウラノス。恐らく彼らの居る場所での事で、何かあったのではないか?

  神ネフテュスよ」

 『その通り。今、映像を映すわね』

 

 ファルコナーの上部がせり上がるとプロジェクターが現れる。

 空間で立体的に投影される映像には、宝玉から何かが飛び出しアイズに

 襲いかかったが外れて、背後にあるヴィオラスの死骸にへばり付いた。

 すると、それがヴィオラスの死骸と一体化していきデミ・スピリットが

 誕生する瞬間が映し出される。

 フェルズはもちろん、ウラノスも眉を顰めて驚愕していた。

 

 『これが記録されたのは、ロキが来てすぐ後みたいね。

  まだ映像が続いているみたいだから、観てて?』

 

 そう言い終わると、止めていた映像を再び動かし始める。

 オリヴァスの体が引き裂かれ体内の魔石を砕かれ絶命し、

 デミ・スピリットがフィルヴィスによって撃ち倒され、レヴィスと

 フィンの一騎打ちなど様々な映像が流された。

 そして、レヴィスが泉へ落ちていく瞬間が映ると映像は消える。

 

 「...モンスターを変異させる事が出来るというのは認知していたが、まさか魔石により死人が蘇る事が出来るとは...

 知り得なかった情報を提供していただき感謝する、神ネフテュス」

 『いいのよ。...それにしても、本当に懲りない子達ね。

  エレボスも居なくなって、あの子達があれだけ示威をしたのに...』

 

 その言葉を聞き、フェルズはある事を思い出す。

 

 「すっかり忘れていたよ...

  神ネフテュス、実は私達の同胞が残党の死体を見てしまったようだ。

  今回、彼らに回収させに行った30階層のパントリーでも同様の事をしたらしい」

 「あら、そうなの?...バレない様にする事は可能かしら?」

 「それは...。...ウラノス、どうだろう?神ネフテュスとその眷族に教えるというのは。

  もし彼らと遭遇した場合を考えると...」

  

 首を振り向かせる様にファルコナーはカメラをウラノスに向けた。

 ウラノスは何かを考え始めた様で目を瞑り沈黙する。

 そして、ウラノスはカメラと目を合わせ口を開く。

 

 「ネフテュス。これから話す事は、口外しないと誓え。

  もし誓いを破った場合は...二度と手を貸さん」

 『それは困るわね。わかったわ、ロキにも話さないから...

  教えてもらえるかしら?』

 

 子供がねだる様にネフテュスはウラノスに問いかける。

 しばらく間を空け、話し始めた。

 

 「16年前、オシリス・ファミリアの団員がその存在を確認した。

  ...今は、お前の眷族となっている者がな」

 「...レックスが?」


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