【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 「変だよね...あんな殺され方を見て、喜ぶなんて...」

 「いえ、それは...それは貴女方、アマゾネス特有の習性のせいです。

  ご自分でもご存知のはずでは...?」

 「...人を殺して、喜ぶのが?」

 

 顔を上げ、見つめてくるティオナにリューは慌てて否定しようとする。

 だが、泣き腫らしたその瞳を見て一瞬、躊躇った。

 それでも誤解を解こうと一度、気持ちを落ち着かせて話し始める。

 

 「違います。そちらではなく...

  【白髪鬼】は3人を相手にしても劣勢ではありましたが、対等に戦ったそうですね?

  そして、その【白髪鬼】を討ち取った捕食者...

  骨を断ち人体を真っ二つにする程の豪然さは間違いなく...強者です。

  恐らくですが、ランクもステイタスもかなり上位のはず...」

 「...うん、強いのは知ってるよ。ベートをボコボコに出来るんだから」

 「そ、そうでしたね...なので、貴女は習性で...

  捕食者に魅入られたのではないでしょうか?」

 「...どういう事?」

 

 説明の硬さにティオナはイマイチ理解出来ず聞き返してくる。

 リューは頭を抱えそうになるが、もう少し言い方を考えてもっと砕いた

 説明をした。

 

 「つまり、貴女は捕食者に好意を抱いたという事です。

  アマゾネスは強い異性を好むのですから、その...」

 「...好きになった、って事?」

 「...極端に言ってしまえば、そうです、と答えましょう」

 

 それはないと否定しようとしたティオナだが、ふと自身の姉の素行を

 思い浮かべる。主にフィンに対する態度を。

 想いを寄せているフィンには積極的なアプローチをかけている。

 当然、その理由は理想の雄、つまり強いからだ。

 テルスキュラを旅立ち、初めてフィン達と出会った時に入団する事を

 賭けて勝負した。

 結果は自分達が入団しているのであえて言わないが、その時ティオナは

 フィンを好きになったと聞いた事がある。

 時折見せる、テルスキュラに居た頃の性格はフィンに好意を抱いた事で

 隠す様になった。

 理由はわからないが、フィンから何かを聞いてそうする様にしようと

 決めたに違いない。

 あのティオネでさえ変えてしまった、アマゾネスの習性。

 それなら、自分も無意識の内にオリヴァスを殺した捕食者の強さに

 惹かれたのだと、ティオナは自己解釈する。

 それがわかった以上、解決した...という訳ではない。

 寧ろ、余計に厄介な事だとティオナは思った。

 捕食者がオリヴァスを殺したのをアーディも見てしまい、そのせいで

 更に捕食者の事を許せなくなってしまっているに違いない。

 そして、自分が捕食者の事を好きになってしまったと、アーディに

 知られては今度こそ絶交されるのは明白だ。

 

 「...リオン。どうしたらいいかな...」

 「とりあえずは、アーディに言わない事が賢明ですね。

  それと私の見解であって、本当に貴女が好意を抱いたというのも勝手な憶測で」

 「え?じゃあ、やっぱり殺されるのを見て喜んで」

 「あるかと思いますがきっと好きなんです!貴女は捕食者に惚れたんです!

  間違いありません!断言します!」

 

 そう叫んでしまい、リューは自分で言った事に顔を真っ赤にして

 頭頂部から湯気が出る程、恥ずかしがった。

 それに対し、ティオナは気迫に押されていたが、リューの様子を見て

 思わず吹き出した。 

 

 「あはははっ!...そっか。あたし、捕食者の事...

  好きになっちゃったんだ...」

 「...ですが、ロキ・ファミリアと関わりを持たないとされている以上...

  アーディの関係を修復すると同等に苦労する事になりそうですね」

 「あー...そうだよね...でもさ、諦めるのは無理かも」

 

 ティオナは立ち上がると、数歩前に歩きリューから少し離れる。

 リューも立ち上がってティオナの言葉に問いかけた。

 

 「無理というのは好意を断ち切るのが、という事でしょうか?」

 「そうに決まってるじゃん。...ありがとね、リオン」

 「え?」

 「捕食者の事を好きになったって、教えてくれたからそのお礼だよ。

  ...あたし、ウダウダするのもうやめる!

  アーディと仲直りして...捕食者に自分の気持ちを伝えてみせるから!」

 

 ティオナらしい真っ直ぐで率直な宣言にリューは、多少不安な気持ちが

 ありながらもいつも通りの元気な姿に戻った事に安堵した。

 なので、ティオナの事はもう大丈夫だと思い、次はアーディだと

 居場所を知っているのか問いかけた。

 

 「あ、アーディは水浴びに行くって言ってたよ。

  案内しよっか?」

 「...そうですね、ではお願いします」

 

 案内すると言われ、最初はアーディを気遣うために断ろうと思ったが、

 先程の言っていた言葉もあり、承諾した。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 冒険者達がそこかしこをウロウロしていたので、僕らは誰も居なくなる

 まで待ち、ようやく湖へ辿り着いた。

 待っている間に少しだけ応急処置は施したおかげか、徐々に出血の量が

 減ってきていた。

 動脈であれば、鮮赤で粘性が無く出血の勢いが止まらなくなる。

 今、前腕の中間部を垂れていのは粘度が高く、赤黒い。

 なので、静脈が傷付いたんだろう。

 出血は厄介だ。

 クローキング機能で姿を消しているとしても、皮膚や装甲に付着すれば

 意味を成さなくなる。

 現に透明な腕を滴っている血が、浮いている様になっている。

 僕は皆に5M感覚で周囲を見張ってもらい、湖の畔へ近付き倒木に

 腰を掛けた。

 

 ピピッ ピピッ ピッ

 ピッピッピッピッ

 

 クローキング機能を解除して、血で汚れた腕を洗う。

 皆は洗わなくてもいいが、僕は免疫機能の関係上こうして洗った方が 

 いいとマチコに教えられた。

 但し、マチコはしなくてもいいくらい丈夫なのでしないらしい。

 血を洗い流し、裂傷がはっきり見える様にして腰に掛けている

 メディコンプを側に置いた。

 開閉ボタンとなる側面の蓋を押す事で、最初にそこが開くと中央から

 内蔵されているケースが前後に分かれる。

 僕は蓋側に収納されているカプセルを取り出し、蓋を開けると中身の

 液体を塗り付けると、次に噴霧器を使って消毒液を噴き付ける。

 一先ずはこれで細菌による化膿などは抑えられる。

 ケースの端から突起する器具を取り出し、それを裂傷部に当てる。

 

 バチンッ!

 

 「グウゥッ...!」

 

 それは傷口にステープルを刺すためのメディステープラーだ、

 刺さるとステープルは自動的に閉じ、傷口を塞ぐ。

 当然、痛みはあるがこの程度は大した事ない。

 これとは比較にならない程、激痛を伴う処置があるからだ。

 皆もそれだけは遠慮したいと思っているらしい。

 治療はこれで完了した。僕は器具をメディコンプに仕舞い始める。

 

 ...ガサガサ...

  

 その時、茂みから物音が聞こえ器具を仕舞うのを止める。

 音を立てないためにだ。

 茂みを掻き分け、現れたのは角が生えた兎のモンスターだった。

 いつも見かける度に皆が狩らないとしている奴で、何故狩らないかと

 いう理由は...言いたくない。

 その理由が気に入らないから僕だけがいつも狩っている。

 ...丁度、血が足りなくなっていたところだ。

 僕はメディスピーラーを手に取ると、先端を角が生えた兎に向ける。

 

 ...バチンッ!

 

 キュッ...!

 

 鳴き声を上げ、逃げようとした時にはステープルが喉に突き刺さり、

 生えていた木に打ち留められる。

 しばらく痙攣して、動かなくなるのを確認し器具を全て収納する。

 メディコンプを腰に掛け直し、立ち上がると仕留めた角が生えている 

 兎に近付く。

 ステープルによって固定されている首部分を握り、強引に引き抜いた。

 

 ビビィィーーッ...

 

 背筋に沿ってリスト・ブレイドで切れ目を入れると、尻尾を掴みながら

 力一杯皮を引っ張る。

 切れ目を入れているため容易に剥がせた。

 

 ポタポタ... ポタ...

 

 肉体と生皮からは血が滴り、屈んだ僕は最初に生皮の内側を重ねる様に

 して折り畳み、その場に置く。

   

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ...パシャッ...

 

 「...ふぅ...」

 

 縁から上がり、頭を振るって青い髪から滴る水分を飛ばす。

 ティオナと別れてかなりの間、浸かっていた様で手がふやけていた。

 誰も居ないとはいえ、羞恥心も無くアーディは裸体を晒したまま歩き、

 木の枝に掛けていたタオルを手に取る。

 少し乱雑に髪を拭いて、ある程度乾かすと今度は濡れている全身を

 拭き始める。

 ふと、あの頃よりも豊かになった胸を見て、体を拭くのを止めた。

 あの頃は姉よりほんの少しだけ小さく思っていたが、今では動く際に

 多少邪魔になったり周囲からの視線が多くなったりと、豊かになった

 事で、姉の苦労を理解する事となってきていた。

 それは、自身がもう7年前の15歳だった少女ではなく、22歳の

 成人女性へと、大人になった事を告げられている様に思えた。

 

 「(...大人になったのは...いや、なれたのは、あの時...

   殺されなかったから、なんだよね...)」

 

 鮮明に脳裏を過ぎる少年の無残な最期。

 そして、その少年に手を掛けた勇猛な仮面を付けてた女性。

 もしもあの時、自分が今と同じくらいランクやステイタスが高く、

 強かったのなら助けられたのかもしれない。

 7年間もの間、時折そんな風に思う日々をアーディは送っていた。

 だが、その思いが数時間前に見てしまった惨劇により、何故か

 弾き飛んでしまった様に感じた。

 そう考えたくない、そう考えても意味がないと無意識の内に思い

 始めているのかもしれないと、アーディは思い始める。

 大人になってしまったからなのかとも、気付いて。

 

 「...っ!」

 「(そんな訳ない!私は彼らを許せないんだから...!

   絶対に償わせて...)」

 

 ...ミチッ グチャッ グチャッ...

 

 アーディはその音に気付き、暗い森の奥を見つめた。

 夜になれば森の中は暗闇となり、迷ってしまう事は稀にある事で、

 セーフティーポイントとはいえ別の階層からモンスターが入り込み、

 冒険者に被害がもたらされる事がある。

 もしかすると、モンスターに捕食されてしまっているのではないかと

 最悪な事態を想定した。

 アーディは急いで下着を身に付け、服を着ると鞘に収めている

 セイクリッド・オースを腰に引っ提げる。

 時間が惜しいと思い、手袋は木の枝に引っかけたまま森の中へと入って

 行った。

 

 「アーディ~?...あれ?居ない...」

 「ここで水浴びをしていたのですか?」

 「うん。どこ行ったんだろ...ん?これって...」

 「手袋とタオルですね...

  それもアーディがいつも嵌めている物と同じ...」 

 「...あたし、嫌な予感がすっごくする」

 「奇遇ですね。同じ事を言おうと思っていました」


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