【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 アリーゼ達がソーマ・ファミリアのホームへ乗り込む準備をしている

 最中、フィン達はロキにこれまでの出来事を話していた。

 ルルネは18階層で残務処理があるガネーシャ・ファミリアに預け、

 地上へ戻り、同行していたフィルヴィスは途中で別れ、既に彼女が

 所属するファミリアのホームへ帰っているだろう。

 地上へ戻る前に、少しだけレフィーヤに並行詠唱の特訓をしていたの

 だが...

 意外にもスパルタ気質なフィルヴィスの特訓にレフィーヤの悲鳴が

 長らく響き渡っていたのをフィン達は覚えている。

 しかし、それでもレフィーヤはフィルヴィスの的確な指導のおかげで

 僅か数十分程で並行詠唱のコツを覚えたという。

 それにはリヴェリアやリューも、レフィーヤのポテンシャルの高さと

 それを引き出すフィルヴィスの指導力に感服していた。

 ただし、その後に行われた一段階上と呼称される、数十匹もの

 フロッグ・シューターを相手にするという、流石のリヴェリアも引く

 くらいの特訓で、フィルヴィスの評価はデコボコを形成する様な

 上下の激しい結果となったのだった。

 ちなみにだが、フロッグ・シューターはレフィーヤが何とか全て

 倒して特訓は終了となった。

 

 「そらまた、エルフにしちゃママ並みに厳しいなぁ。あだっ!?」

 「ママと言うな。それに私はあの様な特訓など課さない」

 「「(え)」」

 

 レフィーヤとティオナは心の底で疑問に思ったが、顔に出ない内に

 話の内容へ意識を戻す。

 アイズとティオネも多少は思っていた様だが、顔には出さなかった。

 ロキは既に事の全容は把握しているので、聞き返す必要はないのだが、

 ウラノスに初めて聞く様にと言われたため、フィンの話を最後まで

 聞いた。

 

 「捕食者はどこにでも居るなぁ。

  ...で、皆に伝えとかなアカン事があんねん」

 「何だい?とても重要な情報を手に入れたりとか?」

 「めっちゃ重要や。その宝玉を回収しようとしとった奴は...

  ギルドの回しモンや。そいつが最初に宝玉の事を知って、調べよう思うとったみたいや」

 

 それを聞いたフィンはイヴィルスではないとわかり、少しだけ

 安堵した様だった。

 

 「ほんでイヴィルスの残党が最初に吊るされとったパントリーでもう1個あったのを捕食者が回収しとってそいつに渡しとる。

  2個目は30階層にあってそれも捕食者が回収したんやけど、途中でそのルルネって子に回収するよう依頼しとったみたいや」

 「そうか。やはりフィンの予想通りだった様だな」

 「ああ。...ただ、腑に落ちない事がある。

  何故、その人物は捕食者と接触出来たのかだ。最初から協力関係にあった、という訳ではないのかい?」

 

 ロキは訝るフィンに首をゆるゆると振り、ため息をつく。

 どこか困った様な、感心している様な表情を浮かべているのに気づき、

 フィンは首を傾げた。

 

 「ネフテュス先輩とウラノスが最初から繋がってたんや。

  ずーっと前からな。オラリオに来る前から...

  せやから、情報とかも制限出来とったっちゅうタネ明かしをしとくで」

 

 その発言にフィンとリヴェリアは納得し、アイズ達は驚愕していた。

 正確には主神と言えないが、中立性をモットーとするギルドの主神が

 1柱の女神からの要求を飲んでいたのだからだ。

 神々の偉大な先逹とはいえ、そんな事が許されるのかと、レフィーヤは

 ネフテュスという女神の存在に疑念を抱きそうになる。

 だが、ロキはクスクスと笑い、してやられたといった様子なのに

 気づく。

 

 「ホンマネフテュス先輩には敵わんな~。せやから降参したでウチは。

  もう何~~も調べんとく事にしたわ。

  あの人敵に回したらおっかないからなぁ」

 「それは賢明な判断だと思うけど...

  本当にいいのかい?ロキらしくない様に思うんだが...」

 「ええねんええねん。とりあえず、それはそれとしてや。

  これまで起きた一連の出来事は全部イヴィルスのせいやっちゅう事がわかったんやし、それを報告せなアカンな」

 

 ネフテュスについての話を逸らす様に、イヴィルスへの今後の対処を

 考えるべく話が続けられた。

 リヴェリアは不服そうに思えたが、フィンは違っていた。

 ロキの様子が本当に調べるのを止めるといった感じに思えたからだ。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 僕らは2日ぶりにマザー・シップへ戻ってきた。

 すぐにオープンスペースへ赴き、玉座でお待ちしていた我が主神に

 首を垂れる。

 我が主神は立ち上がり、微笑みながら労わってくださった。

 

 「皆、2日間本当にお疲れ様。よく頑張っていたわね。

  残党の彼らもこれで少しは思い知ってくれるとありがたいんだけど...」

 『全くです...』

 

 我が主神は奴らの動向を模索しているようだった。

 僕としても早く奴らが消え失せてほしいと願っている。

 根絶し、マチコ達の恨みを晴らすためにも... 

 

 「そう言えば、2人の女の子と協力していたわね。問題はないのかしら?」

 『どちらも僕らと一度接触した事のある冒険者です。

  僕に恩義があるという事でロキ・ファミリアに対し、黙秘すると約束しました』

 「そう...それなら大丈夫ね。わかったわ」

 

 そう答えると同時に、我が主神はパネルを操作して立体映像を、僕らの

 目の前に投影した。

 それは、ダンジョンの各階層を断面状にしたマップだった。

 その内の20階層...僕らはフロア20-U5と呼ぶ、通路の途中や

 出入口に存在する空間の1箇所が、赤くマーケティングされた。

 UはUNDEVELOPEDの略だ。

 そこを中心に、地形が平面的に映し出されると北側の壁に穴が開き、

 更に通路が構築されていく。

 これは冒険者では、まだ見つけられていない未開拓領域という所だ。

 今、使用しているこのマップは遥か大昔から現存するものであり、

 半月に一度はマザー・シップに搭載されているソナーで、この様な

 未開拓領域を見つけ出している。

 今回見ている未開拓領域は、以前に見つけていた所だ。

 

 「それで、戻ってきて早々申し訳ないのだけど...

  ちょっと、お願いしていいかしら?」

 『我が主神の命とあれば、どのような事でもお申し付けください』

 「それじゃあ...今回は3人でここ、フロア20-U5へ向かって? 

  出来れば今すぐに。貴方達が以前に会った依頼者が...

  このフロア19-P4で待機していて、そこへ案内してくれるわ」

 

 フロア20-U5のマップが消え、その上となるフロア19-P4が

 映し出され、三角形のマーケティングを表示した。

 先程と同様に、Pもポイントの略である。

 

 「それから、他のファミリアの眷族も来る事になってて、少しお話しをする事になるわ。

  今回は私が姿を見せる事を許してあげるから」

 『...前者はともかく、後者の眷族と接触して問題はありませんか?』

 「ええっ、上手く引き込むつもりだから。ふふっ...

  それと、ここでも待っている子達が居て...その子達に手は出さない事。

  いいわね?」

 

 僕は相手が気に入らないと思ったとしても、という意味なのか疑問に

 思ったが、恐らくそうなのだと思いつつ眉に拳を当てた。

 我が主神は満足そうに微笑んでいらした。

 そして、僕はスカーとヴァルキリーを選抜して向かう事にした。

 2人はまだ話し合いを言葉で解決出来そうだからだ。

 ケルティックは気に食わない相手とわかると僕以上に憤慨しやすく、

 チョッパーは途中で話を聞かなくなるだろうし...

 ウルフは2人よりはまともなので選抜したかったが、バーナーの調整を

 したいと言っていたので、ヴァルキリーを選抜した。 

 我が主神に他に何かお伝えしたい事が無いかを聞いた後、僕らは

 各自自室で装備を再補充、または別の装備を身に付ける事にした。

 

 ガチャッ...

 

 ウェポンボックスにバトルアックスと刀を仕舞い、エネルギー・ボラを

 腰に装備する。

 ガントレットプラズマボルトから発射させるためのボルトが詰まった

 取り付け用ケースは腰の右側に装備した。

 準備が整い、外で待ち合わせていた2人と合流する。

 スカーは装備を変えていないが、ヴァルキリーは肩の装甲に

 ファルコナーを装備していた。

 それも我が主神専用の物をだ。つまり相当、重要な話し合いになると

 思われる。

 再度、目的地を確認し早速向かおうとしたのだが、その時スカーが

 待ったをかけた。

 どうしたのかと聞くと、マザー・シップのレーザーキャノンを使い、

 一直線に下って向かう事を我が主神から提案されたそうだ。

 僕はそれなら速く着けるし、何より我が主神のご厚意を無下には出来ないと判断し

 その提案を実行するよう伝えた。

 伝えてからクローキング機能で姿を消し、すぐに走り出すと背後の

 マザー・シップも重力制御で上昇していく。

 街中から離れ、更にオラリオを囲う塀の壁を登り切ると、そのまま

 オラリオの外へ脱出した。

 数十Kもの離れた森へ入ると、送られてきたマイニングポイントの

 付近で待機する。

 

 ...ド ギュ ォ オ オ ンッ !!

 

 数秒後、上空から30度の角度で巨大な発光体が急降下し、地面に穴を

 つくった。

 マザー・シップのレーザーキャノンから発射されたレーザーだ。

 ガントレットに映し出されている立体映像で見るとレーザーは一直線に

 19階層の天井まで達してから消滅する。

 僕らは視界をナイトビジョンに切り替え、レーザーによって掘られた

 穴を進んで行く。

 

 フォシュンッ!

 

 ドゴォッ...! ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ...!

 

 10M間隔の進む途中、バーナーからプラズマバレットを撃ち、頭上の

 地層を崩す。

 そうしなければモンスターが地上に出てきてしまうからだ。

 その作業を繰り返しながら、通常通りに潜るよりも遥かに短時間で

 我が主神が指定した19階層に到達する。

 ナイトビジョンから通常の赤外線へ切り替え、天井から下を覗き込み、

 周囲を見渡す。

 人影が無い事を確認し、樹木の足場になりそうな枝に着地すると2人も

 順番に降りてきた。

 

 カカカカカカ...

 

 ヴァルキリーが確認のためにガントレットを操作しマップを映し出す。

 フロア19-P4は南東の方角だ。

 僕らは枝から跳び上がり、次の枝に飛び移った。

 ...冒険者なら恐らく好奇心で楽しんでいると思うが、僕らは違う。

 我が主神の命を全うするために向かうんだ。


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