【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 都市に住まう人々で賑わう街の中を、屋根を伝って跳躍しながら

 建物から建物へ移動する。

 以前までは、ここは森林となっていたのだが人が増えるに連れて、

 次々と建物が立ち並ぶ事になっていったのだ。

 それに関して憤慨するといった事は一切無い。

 障害物があろうと僕らにとって、向かう途中でのウォーミングアップと

 なるので狩りで、素早く動くために有効活用しているからだ。

 街から離れていき、やがて人気が無くなってくると人の手に触れられて

 いない地域へと入っていく。

 そこには先程通った街が出来る前からある、森林の一部が残っている。

 僕らは森林へと足を踏み入れ、奥へ奥へと進んで行った。

 そしてガントレットから信号を送り、マザー・シップのデバイスに

 接続すると位置を特定して近付く。

 他のファミリアにとってホームとは建物がそれとなる。

 しかし僕らは違う。建物ではなくマザー・シップがそれに該当する

 からだ。

 この森林にも僕ら以外に入り込む輩が時折現れるため、数時間に一度は

 移動させているため、位置の特定をしなければならない。

 マザー・シップの前に着き、同じ様に見えなくなっているため、周囲に

 誰も居ない事を確認し、クローキングを解除する。

 後方のハッチが開き、地面に設置されると船内へ入る事が出来るように

 なる。

 僕らはそこから入って行き、船内にいる我が主神の元へ向かった。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 船内は暖色の赤みがかった光で灯されており、足元は白い靄が掛かって

 いる。

 壁一面には様々なコンピューター回路や電力を制御する基板が並んで、

 そこかしこには今までの戦利品も飾っている。

 船内の中央となるオープンスペースに辿り着くと、我が主神がお待ちに

 なってくださっていた。

 その傍にはエルダー様もいる。

 僕が先頭となって肩に手を置く挨拶をした後に跪き、その後ろで皆も

 1列となり跪く。

 

 「お帰りなさい。皆、無事に還って来てくれたわね」

 『はい。掟に背く事なく、名誉のため狩りを遂行しました』

 

 我が主神は清らかな微笑みを浮かべ、僕らの帰還を称えてくださった。

 エルダー様は、何を得たのか問いかける。

 まず僕がダンジョンで狩ったいくつかのモンスターの戦利品を

 差し出し、後に続いて皆も戦利品を差し出した。

 我が主神の傍を一度離れ、エルダー様は戦利品を見定めてくださった。

 一通り見終えると、良き狩りをした事を我が主神と同様に称えて

 いただけた。

 僕らは戦利品を腰に仕舞い、頭を垂れる。

 

 「何かお土産話になるような事はあったのかしら?

  無ければ構わないけど...」

 『いえ、様々な事がありました。順を追ってお伝えします』

 

 その問いかけに僕らは深層と帰還途中での出来事をお伝えした。

 見た事のない蟲を全滅させ、その上位種となる巨大な蟲も仕留めた事。

 牛の群れが出現し、その群れを褐色の少女が1匹を除いて仕留めた事。

 そして、僕がその褐色の少女に姿を見せた事を詳細に話した。

 僕の予想に反して、エルダー様は姿を見せた事について何も

 言わなかった。

 疑問に思い、質疑の問いかけを承諾してもらうと、姿を見せた事に

 ついて何も仰らないのは何故なのか問いかけた。

 すると、代わりに我が主神がお答え下さった。

 

 「ここへ来て7年も経ったんだから、いずれにしても正体が知られるのも仕方ない事だろうし...

  貴方が認めた上で姿を見せたのなら、何も言わないわ」

 

 そう答えてくださって僕は、ただただ感謝するしかなかった。

 どんな罰則も受ける覚悟でいたからだ。

 そして我が主神が立ち上がると僕らも立ち上がる。

 

 「名誉なき者は一族にあらず。そして名誉のために戦わぬ者に名誉はない。

  これからも最高の名誉を掲げるため、狩りに励みなさい。  

  それが私...ネフテュスの心からの願いよ」

 

 我が主神の言葉を聞き入れ、僕らは拳を眉に当て承認する

 そして次の狩りのため、戦意の高揚として咆哮を上げる

 

 ウ゛オ゙オ゙ォ゙ォ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ッ!!

  

 ―――――――――――――――――――――――――――――――― 

 ロキ・ファミリアはホームへ帰還しロキ、フィン、リヴェリア、

 ガレスによる重要会議を行なっていた。

 

 「ふ~ん、姿を消して新種のモンスターをなぁ...ズルないそれ?」

 「いや、狩りとしてなら正当な手段だ。ベートにも言ったが、不正などではない」

 「その姿を消す事が出来るのが魔道具による物なのか、スキルによるものなのかわからないが、とにかく強かったとしか言えないね」

 

 ロキはフーンと返事をして、椅子の背凭れに凭れ掛かる。 

 そんな事が出来るとすれば、と考えているとガレスが問いかけてきた。

 

 「心当たりがロキにはないのかの?姿を消す事が出来るという冒険者を」

 「無いなぁ。もしあるとすれば...【万能者】って呼ばれとる、ヘルメスんとこの子が創ったモンを買って使こうとったとちゃうか?」

 

 それが率直に考えていた事だった。

 オラリオで姿を消す魔道具を創れる当該人物とすれば、そう考えるのが

 妥当だからだ。

 しかし、フィンは顎に手を当てて否定する。

 

 「僕も最初はそう思っていた。...でも、どうも違う気がするんだ」

 「え?何でなん?姿を消す事が出来る魔道具くらいなら、創れそうやろ」

 「それはそうなんだけど...もしロキが言った通りの魔道具を使っているとしても、あの場に居たのなら当然、上級冒険者達のはずだ。

  あの階層まで潜れるとすれば、僕ら以外にフレイヤ・ファミリアだけしかいない。

  けれど...彼らがそんな魔道具に頼るとは思えないよね?」

 

 リヴェリアとガレスは同時に頷く。

 

 「まぁ、そうじゃな。あやつらがコソコソ隠れながら潜るとは思えんからのう」

 「それに【白妖の魔杖】が放つ魔法とは全く異なるものだと思われるな。

  実際に見た事がある訳ではないが...」

 「ほんなら、つまりはー...まーーったくわからんっちゅー事やな」

 「でも、わからないままにしておく訳にはいかないよ。

  狩りとしてあのモンスターを倒したにしても、助けられた事に変わりはない。

  だから、お礼だけでも言っておきたいんだ」

 

 それがフィンの本心だった。

 魔道具の事や魔法について知りたいとは思うが、まずは

 ロキ・ファミリアの団長として感謝の意を授けたかったからだ。

 

 「せやな。もしわかったら明日の打ち上げに誘おうや!」

 

 とロキは立ち上がってそう提案する。

 リヴェリアはため息をつきつつ、迷惑になるといけないので、

 断られたら諦めるよう言った。

 

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「...はぁー」

 

 ティオナは血を洗い流してから、自室に戻り自分のベッドに

 倒れ込むように

 うつ伏せで寝ていた。

 ため息をつくと、つられるように同室をしているティオネもため息を

 ついて訝る表情を浮かべながら問いかけた。

 

 「ティオナ。アンタ帰ってきてから変よ?何回もため息なんてついて...

  そんなに大双刀が溶かされてショックなの...?」

 

 ティオナは無言で首を横に振って否定した。

 

 「そうじゃないよ。...ねぇ、ティオネはリヴェリアが言ってた、姿の見えない冒険者の事...

  どう思う?」

 「どう思うも何も、素性がわからないんじゃ答えられないわよ...

  ただ、本質的には違うけど皆を助けてくれた事には感謝していいんじゃないかしら。おかげで誰も死んでない訳だし」

 

 ティオネはそう言って、ティオナの答えを待つ。

 しばらく黙っていたティオナだったが、突然勢いよく起き上がって

 ベッドの上に立つ。

 

 「そっか...。...うん、そうだよね。ありがとう、ちょっとスッキリしたかな」

 「それならいいんだけど...。...何かあれば、私でも他の誰かに相談しなさいよね」

 「うん!わかった」

 

 いつも通りの笑顔を浮かべる妹にティオネは少し変だと思いながらも、

 安堵して微笑んだ。


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