【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 アスフィとローリエは18階層に着くと、リヴィラの街でルルネの

 身元を引き受けた。

 その際立ち会ったのがハシャーナであったため、ルルネが街に無断で

 侵入した事を指摘され一悶着あった。

 正論のみでの長い説教からようやく解放され、3人は地上へ戻る

 素振りを見せて20階層へ向かう。

 向かっている最中、今度はアスフィは溜まりに溜まった不満をルルネに

 怒鳴り散らしていた。

 

 「このバカ!愚か者!資本主義者め!

  最後までロキ・ファミリアを相手にバラさなかったのは褒めてあげますが金に目を眩ませて危険な依頼を受けるなんて信じられません!」

 「だ、だから謝ってるだろぉ~。私だって必死に隠し通したんだから大目に見てくれても...」

 「そ、そうですよ、アスフィ。もうそれくらいにしてあげても...」

 

 アスフィの言う通り、昨日ルルネはフィン達との会話には極力参加せず

 俯いて、ただ怖がっている様子を演じていた。

 時折アイズに心配されると、自分のせいでもっと最悪な事態になって

 いたかもしれないと、半分本心を交えて自身の心境を語った。

 それによって同情する雰囲気となり、何とか切り抜けたのだ。

 何に対して暴露をしなかったのかというと、本来のレベルと偽っている

 事をだ。

 もしもギルドに知られた場合は、納税額の激増や脱税に対する相当の

 罰金と罰則が課せられる事になるためアスフィは、注意力が足りない

 ルルネに激怒しているのだ。

 

 「とにかく今後一切、怪しい依頼は引き受けないように!

  わかりましたか!?」

 「はい。ヘルメス様に誓って、もうしません」

 「あの人ではなく別の神にしてください」

 「えぇ...」

 

 自身の主神を信用出来ないのは理解出来るが、そこまで言うのは

 どうかとローリエは引き気味に蟀谷から冷や汗を垂らした。

 そうこうしている内に、18階層から19階層へ辿り着いた。

 大樹の迷宮と呼ばれる、森林タイプのダンジョンとだけあって見渡す

 限り木々が生い茂っており、霧が発生して視界はハッキリとしない。

 アスフィはヘルメスから渡された地図をポーチから取り出し、位置を

 確認する。

 

 「...南北へ少し移動します。お2人共、襲ってくるモンスターは攻撃して構いません。

  ですが...間違っても案内人を傷付けないように」

 「わかってるって」

 「はい」

 

 アスフィは若干張り詰めた声で2人に指示を出し、南の方角へ向かう。

 しばらく視界不良の中、進み続けていると木々の間から揺れる影が

 現れた。

 3人は立ち止まるとそれぞれ得物に手を掛けつつ凝視する。

 それは、薄汚れた赤いローブを纏った人物だった。

 アスフィは2人に頷き、警戒を解くよう無言で伝えた。

 赤いローブを纏った人物は3人が得物から手を離すと、ゆっくり

 近付いて来る。

 

 「...お待ちしテました。予定通りですネ」

 「はい。他の冒険者に見つからない内に行きましょう」

 「そうですネ。...貴女達の他に、別の方々も来るそうですガ...?」

 「私達もその方々とは初対面になると思います。

  ...もしも、貴女方に危害を加える素振りを見せれば、必ずお守りします。

  ですから、どうかご安心を」

 「...お願いします」

 

 簡潔に話を済ませ、アスフィ達は案内人と同行し20階層へ向かうの

 だった。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 15分前にフロア19-P4へ到着し、あの時依頼してきた人物と

 合流した僕らは20階層へ到達していた。

 その人物は僕らが思いの外早く合流してきた事に驚いていたのを

 思い出しながら、先導しているその人物の後を追っている。

 ...但し、こちらの意思とは関係なく、1人で話しているのが気になる

 ところではあった。

 

 「透明化した上で飛行し偵察が行なえ、離れた距離からの会話も可能であり、更には情報を映像と呼称される光によって出来事を再現する動く画を可視させる事で他者にも見せられる。

  あぁやはりあのファルコナーというアイテムは素晴らしい。

  私が創り出したオクルスも似た様な事は出来るが、あれにはまだまだ様々な事が可能だと聞いた。

  是非とも見たいものだ。失い掛けていた製作意欲が湧き出てくる... 

  ところで君達が身に付けている装備にも、同じ機能があるのだろうか?」

 

 話を聞き流していたので、唐突な質問に僕は少し反応が遅れるが、

 すぐに返答した。

 ファルコナーの事を余程気に入ったらしく、また評価し始める。

 僕は思った。今ここで見せてはならないと。

 しばらくして、苔に覆われた通路の途中でその人物は立ち止まった。

 

 「この水晶の奥が未開拓領域へ続く入口だ。

  ...と、思うのだが、合っていただろうか...?」

 

 その人物が曖昧に答えてきて、僕は呆れながら一度クローキング機能を

 解除し、ガントレットを操作する。

 ディスプレイから光が照射し、20階層のマップを立体映像で

 映し出した。

 すると、その人物が飛びかかる勢いで近寄ってくる。危うくバーナーで

 焼き殺すところだった...

 よく見てみると、スカーとヴァルキリーもエルダーソードに手を

 掛けていた。

 

 「おぉぉお...これ程小さなアイテムでありながら映像という動く画を...

  私が今まで学んできた知識を凌駕する技術力だ...」

 

 僕は一歩下がり、20-D5の入口がここである事を指を強く指して

 伝える。

 流石にこちらの気持ちも理解してくれたのか、頷いて水晶を壊すよう

 言ってきた。

 僕らはその人物に離れるよう身振りで伝える。

 

 バシュンッ! バシュンッ! バシュンッ!

 

 バキィィイインッ...!

 

 ハンドプラズマキャノンを同時に撃ち、計3発のプラズマバレットで

 水晶を破壊した。

 その奥は光が一切届かない暗がりの通路が存在していた。

 通常の赤外線からナイトビジョンに切り替え、暗視可能にすると

 通路を進み始める。

 少しすると、今度は僕らの装備についてその人物は考え始めた。

 未知なる物を見つけ、興味が湧くのには文句は言わない。

 だが、こうも1人で話しているのに、愛想が尽きそうになった。

 なので、僕は防音機能を作動させようとする。

 だが、突然視界が白くなった。どうやら暗がりではなくなった様だ。

 すぐに通常の赤外線へ切り替えた、その時だった。

 

 ...ァァァ...

 

 ヒアリングデバイスがほんの微かに聞こえてきた音を拾った。

 いや、音ではなく声帯による反応だ。

 ...叫び声、悲鳴の音程に似ている。

 僕はその事をすぐに書き記し、少し唸り声を上げて気付かせると、紙を

 差し出した。

 その人物が受け取ったようで、紙が手元から離れる。

 そして、読み終えると声色を強め指示を出してきた。

 

 「同胞が襲われているに違いない...!急ごうっ」

 

 カカカカカカ...

 

 僕は返事として鳴き声を上げ、その人物の後を追って行く。

 悲鳴がハッキリと聞こえ始めると、やがて広い空間に出た。

 その人物が周囲を見渡し、何かを見つけて指を指した。

 視界を拡大し、見てみると...

 

 「離してっ!イヤァアアッ!」

 「ハッハハハッ!暴れても無駄だって言ってんだろ!」

 

 ...獲物を嬲っている冒険者の姿があった。それも女性特有の

 高い声で叫んでいる獲物を...

 ...だが、それ以前に目に止ったのは...

 

 「くれぐれも気をつける事だな。

  我らが同志達の様な目に遭わない事を主神にでも祈っていろ」

 「ケッ。あんな奴に祈ったところで何になるってんだよ」

 

 ...奴らだ。あの白い格好は間違いない。

 つまり、あの獲物を嬲っている冒険者や他の冒険者達も、奴らの

 仲間という事か...

 僕は自分の胸に人差し指を当て、次にその人物を指すと、最後に

 奴らを指す。

 我が主神の言っていた、話し合う事になっている冒険者達なのか

 どうかを確認するための身振りだ。

 

 「いや、同胞はあの冒険者達ではなく...

  羽の付いた、モンスターの彼女の方だ。

  事情は後に詳しく話す。だから、一刻も早く止めなければ...!」

 

 伝えようとしていた内容と多少異なっているが...

 そうか...それならよかった。

 我が主神が手を出すな、と言っていた者達でないなら...

 今、眼前に居る奴らを全員...狩り尽くす


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