【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか 作:れいが
「おいっ!さっさと縛って運べ!まだまだ狩るんだからな!」
「そう急かすなよ...おら!暴れんじゃねえぞ?
間違って首を絞めるかもしれねえからなぁ。クハハハッ...!」
ディックスに言われ、同じ団員である男は手にしている縄を伸ばし
拘束しようとする。
気が狂ったかの様な笑い声に恐怖を覚え、フィアは声すら出せなく
なる。
これまで幾度か危険な目に遭った事はあるが、今回ばかりは本当に
終わりだと悟っていた。
「(リド、レイ...ごめんなさい...)」
男が横に引っ張りながらフィアに縄を近づけた瞬間..
...バツンッ!
「あ?」
バキャァアッ...!
最初に縄が切断され、男の胸部から頭部までが縦に裂けた。
裂けた上半身の断面から鮮血が噴き出し、周囲に撒き散ると、それを
見たディックスやグラン、その他の団員やイヴィルスの使者は驚愕する。
ディックスは即座にモンスターの襲撃かと思い、槍を構え叫ぶ。
「ふざけたマネしやがって!くそったれがぁっ!
どこに居やがるっ!?」
その叫びにグランや団員達もそれぞれ武器を構え周囲を警戒し
始めた。
すると、上半身をほぼ露出させ、側頭部の髪を刈り上げている男の
団員が奇妙なものを見つけた。
自身が手にしているモーニングスターの先端部に、三角形を形成する
赤い三点の光が浮かび上がっているのだ。
その赤い三点の光は先端部から柄を握っている腕を伝っていき、最後は
心臓部に到達した。
カカカカカカ...
低い顫動音が聞こえた瞬間、振り返ってディックスに何かが狙っている
事を伝えようとした。
バシュウッ!
ゴパァアッ...!
しかし、背を向けた方向から黄色い閃光が走り、刈り上げの男の背中に
それが突き刺さった。
突き刺さった箇所から鮮血が噴き出し、地面を真っ赤に染め、更には
火花がその箇所と胸部から勢いよく飛び散った。
火花の勢いが弱まると、刈り上げの男はモーニングスターを握ったまま
膝から崩れ落ち、絶命した。
刈り上げの男の近くに居た団員達は、突然の仲間の死にパニックを
起こすと無我夢中で、手にしている武器を振り回す。
お互いの距離感を完全に無視しており、少しでも武器の攻撃範囲まで
近付けば同士討ちは免れないだろう。
「馬鹿野郎っ!落ち着きやがれっ!」
「マズイぞ、お前の十八番みたくなっちまってる...」
「うるせぇっ!無駄口叩く暇あるなら探し出せぇっ!」
グランに対して半分、逆ギレ状態となって怒鳴り散らす。
一方、呆然としていたイヴィルスの使者である2人組は、その怒号で
我に返り、これ以上ここに居ては自分達も巻き込まれる。
そう思った途端に逃げようと先程通ってきた通路の出入口である穴へ
入ろうとした。
ジュッ...
ボトッ ボトボト...
「うぁっ!?...ぃ、ギャァアアアアアッ!?」
しかし、我先にと入った1人が忽然と消え、立ち止まった男は自身の
腕に走る激痛に背中から倒れる。
見ると、手首より先の手が無くなっており切断されていた。
切断されている手首の断面は黒く焦げており、白い煙が立っている。
ディックスは悶え苦しむイヴィルスの使者に近付き、入り込もうと
していた通路を見る。
出入口となる穴には赤い線が張り巡らされており、その先には表面が
真っ黒に焼かれ、細切れになっている肉塊が落ちていた。
同じ様に細かく切り刻まれた白い布が落ちているのを見る限りでは、
イヴィルスの使者、だった、ものだろう。
退路を絶たれ、また仲間の断末魔が聞こえてくると、ディックスは
本格的に絶体絶命の危機だと悟った。
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「な、何がどうなってんだよこれ...」
「フィアが...!助けに行かないといけま」
ギュオッ!
「っ!伏せてくださいっ!」
赤いローブを被った女性が飛び出そうとしたのをアスフィが
制止させ、頭を押さえつける。
直後にネットに絡め取られた男が身を隠している岩に磔にされ、
ワイヤーが全身の皮膚に食い込いんでいく。
アスフィ達は岩陰を利用してその場から移動し、別の場所から
覗き込んだ。
磔にされている男を助けようと、髭を顎に蓄えた中年の男が斧を
振り上げ、ネットを切ろうとする。
ガッ!
バキィンッ!
ザシュッ...!
しかし、振り下ろした斧が斧刃の根元から弾かれる様に折れてしまい、
その折れた斧刃が中年の男の眉間に突き刺さる。
中年の男が倒れると、ネットに絡め取られる男の額に短い線状の
切れ目が浮かび、血が噴き出して男は即死した。
「くそっ!くそぉっ!」
シアンスロープの青年が泣きながら恐怖に怯え、剣を構えている手の
震えが止らなくなっている。
次々と殺されていく仲間の死に、無力感が襲って悪態をつくしか
なかった。
そのシアンスロープの青年へ一直線に向かって、一瞬の煌めきが
見えた。
ヒュウウゥゥッ...!
ドシュッ!
「ぉぐ...!?」
二股状の槍の穂先の様な物体が喉に突き刺さり、外頸、内頸動脈を
ギザギザした刃で斬り付け、甲状軟骨にめり込んだ。
甲状軟骨にめり込んでいるため、器官を押し潰されている様な
状態となっている。
シアンスロープの青年はその場に倒れ、藻掻き苦しみながら瞳孔を
開いたまま窒息死する。
紫色の布で身を包んでいるアマゾネスの女が、その死に様を見て
後退りした。
ザシュッ!
「ガ、ァ...!?アァアアアア...!」
背中から何かで突き刺され、腹の鳩尾部分を貫かれる。
見ると、幅の狭い2本の刃が突き出ており、そのまま持ち上げられる。
持ち上げられた事で、自然に体重が掛けられると貫通している刃が
心臓を3つに切断する。
女は肺の空気が無くなるまで断末魔を上げ、最期はガクリと項垂れ、
口から赤黒い血を吐きながら死亡した。
ルルネは思わず目を反らし、ローリエは吐き気を堪えるので必死に
なっていた。
剣での斬殺や刺殺による死体は、今まで何度か見た事はある2人だが、
この光景は異常だったからだ。
しかし、赤いローブを被った女性とアスフィは無言のまま、観察し
ディックス達を襲撃している敵の正体に気付いた。
「(透明化した状態で奇襲を掛けている様ですが...
ハデス・ヘッドとは違い、明らかに気配や視線を消して行動している...!)」
自身が制作した魔道具の弱点を思い浮かべ、その弱点を襲撃者は
解消していると、戦慄した。
スキルによるものなのか、自身と同じアビリティを持っており、
その弱点を克服させる程の知識を持っているのか、アスフィは様々な
思考を巡らせ、納得のいく考察しようとする。
その時、ディックスがフィアに近付いていくのに気付いた。
上半身を切断された男の血によって、顔中が血まみれになっている
フィアは逃げる事を忘れ、放心状態のまま硬直していた。
「おいっ!こいつがどうなってもいいってのか!?」
「うぅっ...!」
「フィア...!」
ディックスはフィアの細い首を掴み、大型のバトルナイフを突き付け、
襲撃者を止めようとした。
フィアの同種ではなく、自分達と同じ人間の仕業で狙いがフィアだと
思っているからだ。
すると、ディックスの読み通りなのか頭部を粉砕され絶命した仲間の
1人が倒れた途端に、誰も殺されなくなる。
グランや仲間の多くは既に疲弊しており、まともに動けなくなっている
様だった。
しかし、このまま一方的にやられたままでは気が収まらないと、近くに
居たグランを呼び寄せる。
「俺が姿を見せるように要求する。姿を現わしたら...
その馬鹿デカイ剣で、後ろから真っ二つにしてやれ」
「ああっ。仇は取ってやる...!」
素早く作戦を立て、グランが離れるとディックスはフィアを
提示する様に前に突き出した。
「姿を見せろ。それで何のつもりか話してもらおうじゃねえか!
もし言う通りにしねえなら...こいつを殺す!」
ディックスはバトルナイフを強く押し付け、襲撃者にそう要求した。
グランにのみ指示を出したため、団員達はあれだけ仲間を殺した相手に
そんな要求を出した所で助かる訳が無いと、ディックスの正気を疑う。
アスフィ達もそう思ったらしく、やめておけ、と首を横に振っていた。
グランは先端が三角に割れている大剣を両手に構え、相手がどこから
現れても対処出来る様に周囲を警戒している。
「来やがれぇ、ツラ見せろ...出てこい...
俺の剣が待ってるぜ...!」
自らを奮い立たせた事でグランの目は血走っており、興奮状態に
なっているのが窺える。
自身の頼りにしている大剣の餌食にし、仲間の仇を取ろうとして
いるのだ。
カカカカカカ...
それが聞こえ、グランはゆっくりと振り返る。
アスフィは優れた洞察力でグランの異変に気付き、グランが立っている
方を見据えた。
グランと同じ様に目を凝らし、虚空を凝視していると...
ギュロン...
2つに光る眼が浮かび上がったのだ。
「いたぞぉ!いたぞおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」