【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 グシャッ...!

 ドゴォッ!

 

 刃に突き刺さっていたディックスの眼球を地面に投げ捨て、踏み潰す。

 次いで、激痛に叫ぶディックスの鳩尾を乱雑に蹴り付け、意識を

 刈り取る。

 フェルズは被っているローブで表情こそ見えないが、明らかに困惑して

 いる様に見えた。

 しかし、誰であってもその無慈悲な行動を見てしまえばそうなるのも

 無理は無いと思われる。

 

 「...カースを無効化させるとは予想外だった。

  驚くべき防御策だ...益々、興味深い...」

 

 捕食者を中心に周回して、フェルズは舐める様に観察する。

 しかし、突然捕食者が後ろを振り返って左肩の武器を展開してきた。

 その背後に居たフェルズは、流石に怒らせてしまったかと焦り、両手を

 前に出して落ち着かせる素振りを見せた。

 しかし、捕食者は武器の砲口らしき箇所から光を収束させ続けている。

 思わずフェルズは横に逸れ、移動した。しかし、それなのに武器が

 向きを変えないのに気付く。

 

 「(...まさか!)」

 「止すんだ!君が見つけ出したのは、彼の仲間ではない!」

 

 フェルズは捕食者に詰め寄り、慌てて制止させようとする。

 捕食者はフェルズを見て、武器の稼動を止め砲口を上に向けた。

 安堵したのも束の間、捕食者が武器の砲口を向けていた方を向くと、

 呼び掛けた。

 

 「すまない、もう大丈夫だ。彼は他の密猟者の仲間と勘違いしていた様で...

  だから姿を見せてくれないか?」

 

 すると、少し離れた位置で、どこからともなくアスフィが姿を見せた。

 手を見てみると、ハデス・ヘッドを持っている。

 それを見て、任意で姿を透明化は出来ないのだと解析した。

 

 「貴方が...私達を呼び寄せた方ですか?

  それとも、背後の...【暴蛮者】以外のイケロス・ファミリアの団員達を殺した方が...?」

 

 アスフィはカノーヴァル・ダガーを手に掛けながら問い掛ける。

 やはり見られてしまっていたか、とフェルズは思いながらも、

 捕食者への警戒を解かせようと答え始める。

 

 「私で間違いないよ。アスフィ・アル・アンドロメダ。

  彼は以前から協力関係にある冒険者だ。

  君が探りを入れている...ネフテュス・ファミリアのな」

 「ネフテュス・ファミリア!?

  ...そうでしたか。偶然か、それとも必然なのかわかりませんが...

  こちらとしては好都合な展開となりましたね」

 

 アスフィは敵意を無くした事を示すために、カノーヴァル・ダガーから

 手を離した。

 それを確認し、頷いたフェルズは他に居るはずの同行者と案内人の

 3人にも出てきてもらうように伝える。

 アスフィは少しの間考え、後ろを振り向くと岩陰に隠れている3人に

 呼び掛けた。

 

 「...ほ、本当に大丈夫なのかよ?

  1人は厄介な目に遭わされたし、もう1人はさっきまであんな...うぇっ...」

 「先程まで、あんな事をしていた相手が、私達には手を出して来ないのですから...

  大人しく出て来た方がいいと思いますよ」

 

 アスフィの説得に応じたのか、しばらくしてルルネが先に岩陰から

 出てきた。

 後に続いて、ローリエと赤いローブを被っている女性も警戒はあれど

 姿を見せる。 

 嗅覚に敏感なルルネは血生臭さで既に顔が青褪めており、ローリエは

 無惨な屍を視界に入れないよう努めていた。 

 当然の反応と言えば、当然と言えよう。

   

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 僕は現れた4人の内、1人に警戒した。

 何故なら、生体感知センサーが反応して鳴っているからだ。

 赤いローブを被っている人物の背後に隠れている鳥のモンスターにも 

 だが...

 その赤いローブを被っている人物にも反応がある。

 ...またオリヴァスという男の様な、体内に石を埋め込んで蘇った

 奴らの仲間か、それとも...モンスターなのか判断出来ない以上、

 油断出来ない。

 

 「まずは初めましてと言っておこう。

  私はフェルズ。ウラノスとゼノスの連絡役を主に努めている。

  今回、ゼノスの事を把握しているヘルメス・ファミリアの団長と団員である君達に来てもらったのは他でもない」

 

 フェルズという女性...なのかわからないが、その人物は僕と彼女達の

 合間に立って、両腕を広げながら伝えた。

 ゼノスという言葉には聞き覚えはない。

 何の事なんだろう...?

 

 「ゼノスとネフテュス・ファミリアの主神と団員達による協定を結ぶためだ」

 「協定...。...つまり、その立会人として私達をここへ?」

 「それもあるが、また別の事に関しても話がある。

  だが、その前に...」

 

 フェルズという人物は一度その場から離れ、気絶したままの

 ゴーグルを付けていた男に近付く。

 目の前まで近付くと、腕を翳し手の甲で顔を引っぱたいた。

 2度目、3度目と続け、ようやく薄らと目を開けて、意識を

 取り戻した。

 眼球を失った右目の瞼が開くと、血が溢れ出ている。

 

 「ディックス・ペルティクス。捕獲したモンスターの居場所を教えろ。

  まだ密輸していないのなら、すぐに救出する」

 「...ハ、ハハ...誰が...教えて、やるとで、も...思ってんだ...」

 

 ディックスという男は言葉が途切れ途切れになりながら拒否した。

 目を失ったにしては、大した度胸だ。

 ...まぁ、奴らと組んでしまっている以上、認める訳にはいかないが。

 

 「お前は負けた。敗者なら勝利者に従うべきだと思うが?」

 「それ、は、アイツだろ...なら、お前に、従う気なんざ...

  どうやら口が、効けないみたいだしな...

  お前、の思惑なんざ、無意味なん、だよ...」

 

 『ディックス・ペルティクス。捕獲したモンスターの居場所を教えろ』

 

 僕はガントレットを操作し、先程録音したフェルズという人物の発言を

 そのまま流し、ディックスという男に聴取させる。

 面食らってしまったのか、ディックスという男は先程まで浮かべていた   

 笑みを消していた。

 

 「さぁ、言ったぞ?まだ何か不服な事があるか?」

 「...くそ、ったれ...」

 

 震える手を必死に持ち上げながら、ディックスという男は上着の

 ポケットに手を入れる。

 数秒してポケットから手を引き抜くと、何かを握っていた。

 それをフェルズという人物の地面に投げ落すと、ダラリと手を

 ぶら下げる。

 フェルズという人物はそれを拾い上げ、凝視しながら問いかける。

 

 「これは何だ?」 

 「鍵だ...クノッソスに、入るための、な...

  人造迷宮、とでも...言えば伝わるか...先祖のダイダロスが、造ったもんだ...」

 「ダイダロス?その名前って...」

 「ええ。かつてバベルを作り上げ、更にダイダロスの通り区画整理を行った名工...

  そして、奇人と呼ばれた人物です。

  ...まさか、ダンジョンそのものを造っていたなんて...」

 

 アスフィという女性は、ユルユルと首を振っていた。

 ...僕としてわかったのは、偉大な祖先の子孫でありながら、この

 ディックスという男は不名誉な事をした愚か者、という事だ。

 やはり奴らと関わっていたからには、碌でもない奴だな。

 

 「では、そのクノッソスというダンジョンはどこにあると言うんだ?」

 「中層までなら、どこにでも、な...それが光れば、そこが入口だ... 

  捕まえ、たモンスター共は...奥に、隠してる...」

 「そうか。...一番近い入り口と言いたい所だが...

  安全を考慮し18階層からでも入る事は可能なのか?」

 

 フェルズという人物の問いかけに、ディックスという男は口を閉ざし

 言おうとしなかった。

 なので、僕はまた同じ様に音声を流す。

 

 『18階層からでも入る事は可能なのか?』 

 「...階層の、東側の端から、だったらな...

  まぁ...尤も、地上から...ダイダロス通りからの、方が安全だろうが...」

 「な...!?バベルとは別の入り口があるというのですか!?」

 「ああ、そうだ...クノッソスはダイダロスが、造ったんだぞ...?

  奴の名前が、由来、してる所なら、あっても不思議じゃないだろ...」

 

 ディックスという男は驚愕しているアスフィという女性をからかう様に

 嘲笑っている。

 一方で、フェルズという人物は口元に手を添え、何かを考えている

 様だった。

 

 「以前からその可能性も考えて調査を進めていたのだが...

  私としても信じられない...」

 「く、はははは...おめでたい事だな... 

  ついでに、言っておくが...クノッソスはまだ未完成だ。

  千年かけても、まだ兄貴が造り続けてる...

  だから、金が必要だったんだよ。あのモンスター共を高値で買わせてな...

  で...俺はもう用済みか...?」

 

 ...僕はふと思った。

 確かにフェルズという人物にとっては、これでディックスという男に

 用はない。 

 だが...こいつら以外にも、奴らと関わっている冒険者達が居ると

 すれば...生かしてはおけない。

 僕はペンシルを取り出し、芯の残量が少ない事に気付き、軽く振って

 空気中の窒素を吸収させる。

 窒素のみを内蔵されている装置で元素分解し、先端に収束させると

 圧縮させ、黒色に物質化した。

 次に熱する事でそれが溶け、ペンシルの中心で凝固化すると長細い

 芯となり、先端の小さな穴から伸びる事で字を書けるようになる。

 試し書きをし、書ける事を確認してから紙に内容を書いた。

 その際、アスフィという女性とフェルズという人物が、僕...ではなく、

 ペンシルを凝視していたが、気にせず何とか書き終えた。

 フェルズという人物にその紙を渡し、読んでもらう。

 

 「...なるほど。これは当然思う事だろう。

  ディックス・ペルティクス。君達以外にイヴィルスと関わっているファミリアはどこなのか教えてもらおう」

 「...どっちにしろ、地獄行きなら...言っちまうか... 

  直接的じゃないが、イシュタル・ファミリアとニョルズ・ファミリア...

  それから...密売を手伝う事になってる、ソーマ・ファミリアが...くらいだな」

 「...案外少ないが、それだけか?」

 「さぁな...俺が知ってるのは、それくらいだ...」

 

 自動的に録音されるので、聞き返す必要はない。

 ...今度こそ用済みになった。

 僕は近付いていき、首を掴むとゴーグル越しにディックスという男の

 左眼を覗き込んだ。

 その赤い瞳には逆さになっているDの文字が浮かんでいた。

 吊るされているため、そう見えているんだろう。

 

 「っ...な、なぁ、ちょっとくらいは...

  慈悲をくれても、いいんじゃねぇか...?情報は、くれてやったんだ、からよ...」

 

 ...情報をくれた事に関して言えば、確かにそうしていいと思う。

 が...あの時、戦闘意欲を持っているとばかりに手を出してきた。

 あれさえなければ、除外してやっててもよかったと思うのに...

 だから、僕はこう言ってやった。

 

 『災難だと諦めな』

 

 ザシュッ!

 

 片手に握ったセレモニアル・ダガーを胸部に突き刺すと、縦に皮膚を

 斬り裂く。

 その際、衣服毎斬ったので何かが地面に落ちた。

 だが、僕は気にせず爪を立てて構える。

 

 ブチ ブチブチィッ...!

 

 そして、間髪入れずにもう片方の手を裂傷部に捻じ込んで心臓を掴み、

 体内から引き千切る。

 

 グシャッ...!

 

 心臓には様々な動脈と静脈が繋がったままぶら下がっており、握り 

 潰すと大量の鮮血が零れ落ちて、足元に血溜まりを形成した。


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