【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 ディックスの衝撃的な死を目の当たりにし、ルルネとローリエが

 気絶してしまったその頃、地上ではソーマ・ファミリアの酒蔵へ、

 アリーゼ達が乗り込もうとしていた。

 門番、というより見張り役の団員へアリーゼがニコニコと明るい

 笑みを浮かべながら近付いていく。

 団員はアリーゼに止まるよう言い、用件を問いかける。

 アリーゼは団長のザニスと主神のソーマと話しをしたい、と答えると

 アリーゼをその場に待たせ、団員は酒蔵へと入って行った。 

 しばらくして、団員の代わりにカヌゥが現れた。

 警戒心剥き出しの様子で、威圧しながら先程の団員と同様に問いかけた。

 

 「アストレア・ファミリアの皆さん方が総出で、何の用だ?」

 「強制捜査をさせてもらうわよ!これがあるから、問題なっしーんぐ!

  バチコーン☆という訳でお邪魔しまーす」

 「い、いや待て待て!待てよ!勝手に入ってくるんじゃねえ!」

 

 止めようとするカヌゥに輝夜が、リリルカの証言を述べるとカヌゥは

 一瞬、焦りを顔に見せたがすぐに白を切って頑なに酒蔵へ入る事を

 拒んだ。

 しかし、駆けつけてきたチャンドラに意識が向いた瞬間を狙い、

 輝夜は鳩尾に拳の一撃をめり込ませる。

 くの字にカヌゥが体を曲げた所を、リューが追撃として後頭部に

 アルヴス・ルミナを叩き込み、カヌゥは完全に沈黙する。

 

 「次はお前がこうなりたいか?ん?」 

 「か、勘弁してくれ!」

 

 チャンドラは容赦の無い制圧を見て、戦意喪失となり即座に降伏した。

 ライラがカルニボアを喉元に突き立て、主神の居場所を問いかける。

 それに案内すると言い出してきたのでライラはアリーゼに判断を委ね、

 その通りにさせる事にした。

 酒蔵の中を進んで行くと、ソーマ・ファミリアの団員達は既に武装して

 対抗しようとしていたが、チャンドラの懸命な説得で手にしていた

 武器を下ろし、怨めしそうに見送るしかなかった。

 そして、酒蔵の奥へ奥へと進んで行き重厚な扉を開けると、その先の

 室内に酒を作っている最中のソーマとザニスが立っていた。

 

 「これはこれはアストレア・ファミリアのご一行様方。

  いきなり押し入り盗賊の様な真似をしてくるとは... 

  それでも正義を謳うファミリアの団員か?

  神アストレアが見過ごしているのなら、随分と節穴になったものだな」

 

 眼鏡を掛け直しながらザニスは嫌味ったらしく、アリーゼ達を嘲笑う。

 輝夜は無言で一歩前に出ようとしたが、リューがその前に出て

 制止させる。

 一方で、アリーゼは高らかに令状を見せつけ、ソーマファミリアが

 これまでに行った悪事を白状するよう迫った。

 既にリリルカの証言があるが、首謀者本人による証言もあれば判決に

 有利となり、手早く刑罰を下す事が出来るからだ。

 しかし、ザニスは鼻で笑って証言だけでは不十分だと言い、物的証拠も

 要求してきた。

 それにアリーゼは待ってましたと言わんばかりに、ライラに目を配ると

 ライラは怪しく微笑んだ。

 そして、徐に部屋の隅に置かれている棚へと近付いた。

 棚には酒瓶がいくつも並んでおり、その内の一番下となる段の1つを

 ライラは手に取る動作を見せた。

 先程と打って変わってザニスはその行動に驚き、顔を強張らせながら

 叫んだ。

 明らかに余裕が無く、焦っているように見える。

 

 「今すぐに戻せ!それはソーマ様がお造りになった神の酒だ!

  勝手な真似は許さんぞ!?」

 「ハハハー、いいじゃねえかよ。これだけあるんだからケチケチすんなって」

 

 そうせせら笑いを浮かべるや否や、口縁に口を付けるとライラは

 ゆっくりと味わいながら、酒を煽る。 

 それを見てザニスは絶句し、動揺を隠せないでいた。

 背後でリリルカが書類棚で何かを探しているのにも気付かない程に。

 長い時間掛け酒瓶の底を天井に向けて逆さにし、最後の一滴まで

 飲み干すと一息入れ、呆れた様子でため息をついた。

 

 「あーあ...こんなクソ不味い酒で溺れてんのか、お前らは...

  よっぽど下戸な連中しか居ないんだな」

 「...ば...馬鹿な...」

  

 ライラはその酒瓶を床に投げ捨てた。

 投げ捨てられた酒瓶は大きな音を立てて割れ、その音にザニスは体を

 ビクリと震わせ、既に背筋が凍っていた。

 神の酒を飲めば、誰もが溺れ堕落する。それをザニスは知っていた。

 だが、そうならないライラに対して戦慄し、腰が抜けたのかその場に

 座り込んでしまった。

 すると、アリーゼが近寄って来て目線を合わせる様に屈むと、何かを

 見せびらかしてきた。

 ズレ落ちていた眼鏡をザニスは掛け直し、アリーゼが手に持っている

 物を見て、顔が蒼褪める。

 それは、数百枚も束ねられた書類だった。

 

 「これがお求めになってた物的証拠。貴方が仲間から巻き上げた上納金、それと無断であのお酒を売って大儲けした利益に...

  おっとっと?何かいけない事までして稼いだお金の事までキッチリ書かれてるわね?」

 「...な、何故...何故それを...」

 「さーて、どうしてでしょー?小さいけどとっても勇敢な乙女が教えてくれたのかもしれないわねー?」

 

 その発言に血相を変え、周囲を見渡し見つけた。

 リリルカを。ザニスを睨み、一切の恐れが無いようだった。

 怒りに震えるザニスは立ち上がるとリリルカに向かって掴み掛かろうと

 した。

 しかし、その手を命に掴まれたと同時に足を崩され、リリルカの

 目の前で押さえ付けられた。

 

 「リリルカ殿への暴行は許しません。神妙にお縄につきなさい!」

 「お、お前、何故アーデの味方をする!?アーデも我々に賛同して、冒険者から盗みを働いていた!

  同じ穴の狢なんだぞ!?なのに」

  

 命は掴んでいる腕の関節を、強引に曲がらない向きへ撓らせる。

 それにザニスは激痛で言葉を止める。

 暴れた拍子に眼鏡が床に落ちて自ら膝で踏み潰してしまった。

 命は怒気を含んだ声色で、ザニスに言い聞かせる。

 

 「リリルカ殿がいつ自ら賛同すると、言ったのですか?

  貴方が...幼い頃より無理やりにそう強いらせたのでしょう!?

  それを当然の様に偽るなど、貴方は冒険者以前に...人間失格です!

  恥を知りなさい!」 

 「ぐっ、あぐぅ...!」

 「それくらいにしておきなさい、同郷の者。

  ...そこから手を下すのは、リリルカ・アーデがすべきでしょう」

  

 輝夜が命の肩に手をそっと置き、宥めながらリリルカを見た。  

 リリルカは輝夜にそう言われて戸惑っている様子は無く、ただザニスを

 見ているだけだった。

 命は離さない程度に掴んでいる手の力を弱め、ザニスが顔を上げるのを

 待った。 

 呼吸を荒くしながら、屈んでいる姿勢のザニスはリリルカを見上げた。

 リリルカはザニスをしばらくの間見続けて、ため息をつくと冷笑を

 浮かべ輝夜に言った。

 

 「手を痛めてまで、殴る価値も無いですよ?こんな人。

  それに...リリが同じ穴の狢なのは、間違っていませんからね」

 「リリルカ殿、それはこの男が」

 「なのでっ...リリはその穴から抜け出て、狢ではなく人としてやり直してみせますよ。

  貴方が勝手にどう思っても...リリはリリとして生きていきます」

 

 命はリリルカの決意に微笑みを浮かべ頷いた。

 対して、ザニスは一度顔を伏せ、最初に鼻で笑うと徐々に肩を揺らして

 笑い始めた。

 

 「ハ、ハハハ...ハハハハハッ!何を馬鹿な事を言ってるんだ?

  お前みたいな使い物にもならないガキが生意気な事をほざくんじゃ」

 「うるせえ」「吠えるな」 「黙れ」

 

 バキィッ! ドガッ! グシャッ!

 

 その瞬間、最初にライラの肘打ちが蟀谷に、リューの膝蹴りが反対側の

 蟀谷に、そして最後に輝夜の拳が顔面にめり込んだ。

 前方と左右の打撃による衝撃が均等にぶつかり合い、ザニスの頭部は

 どこにも弾まず微動だにしなかった。

 3人がそれぞれ手と足を引っ込めると、ザニスの顔は見るも無残な

 状態となっていた。 

 顔の皮膚が腫れ上がり、両方の鼻腔から鼻血が垂れ流れ、脳を

 揺さぶられたショックでザニスは気絶していた。

 出入口近くで棒立となっていたチャンドラは、思わず扉を開けて

 逃げ出していった。

 

 「なんだ、全然痛くもなかったな」

 「そうですね。罅が入っていないといいですが」

 「いやーリリルカの言う通り、殴る価値もありませんでしたなぁ」

 

 命は気絶したザニスをゆっくりその場に倒し、リリルカを見る

 リリルカは3人の容赦ない鎮圧の仕方に、先程の余裕はどこへ

 行ったのか、慌てふためていていた。

 そんなリリルカに命は少し吹き出したが、近寄っていき肩に手を

 置いた。

 

 「見事な宣言でしたね、リリルカ殿。

  貴女の決意にとても感動し、感銘を受けました」

 「...ありがとうございます...ですが...」

  

 命から視線を外し、リリルカは別の方を見据えた。

 先程から騒ぎが起きているのにも関わらず、酒造を続けているソーマが

 そこに居た。

 リリルカは歩き出し、ザニスの足を跨ぐとソーマの傍へ近寄った。

 目の前までリリルカが近付いても、ソーマは手を止めない。

 命やアリーゼ達はどうするのかと見ていたが、突然リリルカは作業台の

 上に置かれていた酒瓶を1つ奪い取った、

 それまで何も見向きもしなかったソーマが、初めて首を動かして

 リリルカを見る。

 リリルカはソーマが自身を見ているのを確認し、口縁に唇を当てると

 勢いよく飲み始めた。

 

 「リ、リリルカ殿!?」

 「あの、馬鹿何してんだ!?」

 

 全員が驚いたのも無理はない。

 今、リリルカが行っている行動は作戦の内に入っていなかったからだ。

 第一に、ザニスが証拠を要求すると読んでいたアリーゼ達は、

 神の酒の事を知り、それを利用する事を考え出した。

 神の酒を入れている酒瓶に似た瓶を購入し、それをライラが 

 隠し持って、事前にリリルカから教えてもらった棚の位置へ移動する。

 ライラの自身で隠せる一番低い段の酒瓶を取る、フリをして隠し持って

 いた瓶を手にし、大袈裟な動きで取っていない事を悟られず振り向く。

 そして、中身の水を飲む姿をザニスに見せつける。

 第二に、ザニスがライラに目を向けている隙にリリルカが書類棚の扉を

 開け、中の金庫から書類を奪取する事。

 長い時間掛けて飲んでいたのは、リリルカが金庫の鍵を開けるのに

 有する時間稼ぎのためだったのだ。

 ソーマは酒を造るのに夢中になっていると踏んでいたので、見事に

 成功した。

 最後は、その書類をギルドに提出し、ソーマ・ファミリアに対し

 ペナルティを課す事。

 その際に、ソーマにリリルカのコンバージョンの許可を得させる

 予定だったのだ。被害者への賠償として。

 しかし、リリルカは作戦にない予定外の行動を取り、酒瓶の中身を

 飲み干してしまった。

 酒瓶を作業台の上に叩き付け、一気に飲み干したため呼吸を整える。

 アリーゼ達はリリルカが神の酒に打ち勝つ事が出来るのか、ただ

 それだけを心配していた。

 しばらくして呼吸を整えたリリルカは顔を上げ、直立したままソーマに

 言い放った。

 

 「ソーマ様。リリは...もうこんな酒に、溺れたりしません。

  リリルカ・アーデはソーマ・ファミリアを脱退させてもらいます。

  ...いいですね?」

 「...」

 

 リリルカの眼光には一切の揺らぎもなかった。

 それを見たソーマは作業台から手を動かし、椅子を少し後ろへ

 移動させる。

 

 「...背中を向けなさい」

 「!...はい」

 

 リリルカは急いで服を捲り上げ、背中をソーマに向ける。

 作業台の上に置かれていた工具で指を少し切ると、ソーマは血を一滴、

 背中に垂らす。

 何かを呟きながら指を動かし始めると、ソーマの眷族である証として

 刻まれているエンブレムが激しく発光した。

 数分後、ソーマが手を離すと光が消えた。

 

 「...これで好きな所へ行くがいい...風邪を引かないようにな」

 「...どうも」

 

 コンバージョンが可能となり、晴れて自由の身となったリリルカは

 ソーマの気遣ってもいないような言葉に、目も合わせず返事をした。

 リリルカは自分を見つめているアリーゼ達に微笑んだ。

 それを見て、最初は戸惑っていた命も安堵して微笑む。

 ライラと輝夜もリリルカの度胸を評して、背中をバシバシと叩くが

 リリルカはそれに悶絶し、リューが背中を擦ってあげていた。

 ふと、命はアリーゼはどうしたのかと思い、アリーゼを見た。

 

 「...」

 「ローヴェル殿?どうかしましたか?」

 

 書類に目を通していたアリーゼは、あるページを凝視していた。  

 命は呼び掛けても振り向かない事に気になって、近寄るとそのページを

 見た。

 そこに書かれていたのは...

  

 [...よってイヴィルスへの資金提供にイケロス・ファミリアとのモンスター密輸に協賛する。

  モンスターの特徴は知性を持ち、人語を話す。

  動物趣味の貴族に売る事で多額の利益を得る事が出来るという]

 

 「...これは、何かの冗談...では、ないようですね」

 「...命。この事は、ギルドにも貴女のファミリアにも内密にしてくれる?

  確証とまでは、いかないから」

 「...わかりました」


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