【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 「リド!グロス!居ますカ!?」

 「レイ?フィア?...フェルズも居るのか?

  どうしたんだよ、そんなに慌てて」

 「簡潔に話を済ませるが、密猟者に捕まっている同胞達の救出に向かうぞ。

  協力者のおかげで居場所を突き止めたんだ」

 「マジかよ!?なら...全員で行くのはマズイし、少数で行くか」

 「それがいい。協力者の実力は申し分無いのだからな。

  向かう先は18階層だ。先に協力者達が待っている」

 「わかった!グロスやラーニェ達を呼んでくるぜ!」

    

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 19階層へ続く通り道の出入り口付近でアスフィは捕食者と共に、

 待機していた。

 ディックスを殺害した後、ルルネとローリエが気絶してしまったので

 運んでもらう際に、どこからともなく2名が現れ、3人も居るのだと

 その時気付いた。。

 その2名はルルネとローリエを運び終えてから、姿を消すとどこかへ

 行ってしまった様だ。

 気絶しているルルネとローリエには自前のハデス・ヘッドを被せ、

 姿を透明化させており、自身も姿を見えなくしている。

 目印となる、いつも彼女が羽織っている白いマントを見ている

 フリをしてアスフィは捕食者が居ると思われる、横の方をチラチラと

 見ていた。 

 思われる、というのは捕食者も姿を消しているからである。

 

 「(...確かに姿を消す事が出来るのは、私としても許容範囲です。

   ですが...とても興味深い魔道具を持っているようですね。

   声を真似る事が出来る四角い物体、文字を書く際に使っていた道具、ここへ向かう際に全く足音を立たせなかったブーツ...

   武器は無理だとしても、せめてその内の1つだけでもお見せしてほしいですね...)」

 

 プライドとしては負けを認めたくないアスフィは意を決して

 話しかける。

 

 「あの...そこに居ますか?」

 

 その言葉を聞いた捕食者が両目を光らせ、返事をしたように思えた。

 

 「い、居るのでしたら、よかったです。

  ...先程は、彼女達をここまで運んでくださり、ありがとうございました」

 

 カカカカカカ...

 

 「...1つ、よろしいでしょうか? 

  あの時、文字を書いていた物は...一体、どのような魔道具なのですか?」

 

 少し間を空けて、カリカリという音が聴こえ始めた。

 恐らくアスフィが魔道具と思っている代物で文章を書き記しているの

 だと思われる。

 お互いに姿が見えないのにも関わらず、捕食者はアスフィの足元に

 紙を置いた。更に、その上にはあの代物も添えている

 それにアスフィは気付くと、急いで拾い上げ内容を読み始める。

 

 [これの名称はペンシルという。

  振る事で空気中の窒素という元素を吸収し、内蔵されている装置に

  よって黒く溶かされ、凝固化すると芯となり、ボタンを押す事で

  伸縮しインクの代わりとして文字の筆記が可能となる。

  ボタンを長押しする事で、色を変化させる事も可能ではある。

  空白で試しても構わない]

 

 アスフィは記されている通り、ボタンを押す。

 ペンシルの先端から芯が伸びてそれを紙に押し当てながら、横に

 移動させる。

 すると、黒い1本の線が引けた。

 アスフィは五十音順に文字を書くと、その書きやすさに驚愕し、

 更に、色を変えて色々書いている内に興奮が収まらなくなりつつ

 あった。

 しかし、捕食者がパンッと手を叩く音でハッと我に変えると前を向く。

 見ると、フェルズが赤いローブを被っている女性と複数のモンスターを

 引き連れ向かってきていた。

 アスフィは慌ててペンシルを差し出して返すと、目印にしていた

 白いマントを手に取り羽織った。

 

 「アスフィ・アル・アンドロメダ、それと...捕食者と、呼べばいいか。

  待たせてすまない。早速、乗り込もう」

 「わかりました。既に鍵を使い、入り口は見つけてありますので、そこへ向かいましょう」

 「ありがとう。...リド、自己紹介などは後でもいいだろうか?」

 「あ、あー...そうだな。一応名前だけは言っとくぜ。

  俺っちはリド。見ての通り、リザードマンだ。

  後ろに居るのがグロス、ラーニェ、オード、レット、フォーだ」

 

 アスフィはリドに名前を呼ばれたモンスター達を見る。

 5体の内、グロスとラーニェは明らかに敵意を向けており、油断すれば

 不意打ちを掛けられるかもしれないと判断した。

 そこで、ハデス・ヘッドを外し、アスフィは姿を見せる。

 モンスター達は突然現れた事に驚くが、アスフィは気にせず言った。

 

 「私はアスフィ・アル・アンドロメダです。

  急を要する事態の中で、初めて対話をする事になりましたが...

  同胞の方々を助け出すために協力しますので、よろしくお願いします」

 「お、おう。よろしくな、アスっち」

 「はい。...はい?」

 

 いきなりのあだ名呼びに最初は普通に相槌を打ったが、直後に違和感を

 覚えて眉間に皺を寄せながら疑問符を付けての返事を返した。

 その時、グロスが前に出てきてアスフィの目の前まで移動してきた。

 アスフィは思わず手を動かしそうになるが、何とか耐えてグロスを

 見つめた。

 

 「...貴様ガフィアヲ助ケテクレタ事ハ感謝スルガ、俺ハ人間ヲ信用ナドシナイ。

  ソレヲ覚エテオケ」

 「...そうですか。ですが、今はそれでも構いません。

  貴方の仲間を助け出して、少しでも信用してもらえるよう努めましょう」

 「フン...」

 

 アスフィの本心としては、半分本気で半分その場凌ぎの言葉だった。

 今ここで、言葉を間違えれば危険な目に遭うのはわかっているからだな。

 

 「まぁまぁそう神経質になるなって。グロス

  レイもそれ、そろそろ脱いでいいんじゃねえか?」

 「...そうですネ」

 

 リドはグロスの肩をベシベシと叩き、グロスに睨まれるのも気にせず

 問いかけた。

 スルリと赤いローブを脱ぎ捨て、レイは青い髪を靡かせた。

 

 「こうして顔を合わせるのは初めてですネ。

  改めてアスフィさん。どうぞよろしく」

 「あ、はい。こちらこそ...レイさん、とお呼びしますね」

 「ありゃ?まだ名前言ってなかったのか?」

 「そうだったんですヨ。...そういえば、もう5人の方々は?」

 「2人はまだ気絶していまして...捕食者の3人は恐らくそこに...」

 

 ...カカカカカカ...

 

 ピピッ ピピッ ピッ

 ピッピッピッピッ

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 僕はレイと呼ばれた、雌の鳥のモンスターをよく観察した。

 僕が現れた事にその場に居る全員が驚くが、僕の方も驚いている。 

 あの時、歌を歌っていたのが、あのモンスターなら... 

 それを確かめるべく、僕はガントレットを操作して以前に録音していた

 あの歌を流す。

 

 『♪~♫~♬~♩~』

 

 「え...?」

 「この歌声...レイ、お前の声だよな?」

 「は、はい...」

 「何故、奴ハオ前ノ歌ヲ真似テイルンダ...?」

 

 ...そうか。彼女がレイだったのか。

 それなら...彼女に対し、敬意を示さなければ...

 僕はスカーとヴァルキリーに彼女の事を説明する。

 すると、2人もクローキング機能を解除して姿を現した。

 そして彼女に近づいていく。

 

 「な、なぁ、レイ。お前を見ながら近付いてきてるよな?絶対に!?」

 「アンドロメダ。あれを私は是非とも見させてもらいたいのだが」

 「あ、私もそう思、って今そういう事を言ってる場合ではありませんよね!?

  な、何をするつもりなのでしょうか...?」

 

 周囲の声が少しうるさく思うが、気にしない事にした。

 彼女の目の前まで近づくと、彼女は戸惑っているようだった。

 僕らは膝を折り、敬意を表すために首を垂れた。

  

 「え?え?あ、あの、どうしたのですカ?」 

 「...何ダ?コイツラハ...レイニ求愛デモシテルノカ?」

 「はぁ?...歌を真似て、頭を下げる求愛行動なんて見た事ないぞ」

 「ちょっと待ってください!?何故求愛に結びつけているんですカ!?」

 

 カカカカカカ...

 

 「あ、あの、レイさん?呼んでいるようですが...?」

 「あ、は、はい?何でしょうカ?」

 

 こちらへ向き直ってくれたので、僕は我が主人から預かっていた手紙を

 差し出す。

 

 「え?まさかラブレターを渡すつもりじゃないですかあれ?」

 「マジか」

 「何だ、そのラブレターってのは?」

 「人間で言えば好意を抱いている者に渡す物で、思いを直接ではなく詩や文面にして伝える方法だ」

 「じゃあ番いになってくれ、とかか?」

 「そうだ」

 「「「マジか(カ)!」」」

 「ちょ、ちょっと皆さん!冗談はその辺りにしてくださイ!

  ...あ、あの、私、この手では受け取れなくて...

  それと、文字も読む事が...」

 

 ...それもそうか。それなら...

 フェルズという人物に読んでもらおう。

 僕は顔向け、こっちへ来るよう手招きをする。

 瞬時に向かってきたフェルズに手紙を渡し、読むように身振りで

 伝えた。

 

 「本当に私が読んでしまっていいのか?怒ったりしないな?」

 

 カカカカカカ...

 

 「...では、僭越ながら読ませてもらおう。コホンッ...

  貴女の歌声はとても素敵だったわ(...ん?何だこの女口調は?)

  盗み聞きをしてしまった感じになってしまうから、お礼をさせてほしいわ。

  与えられるものであれば、いくらでも構わないから。

  ...あー、ネフテュスより」

 「ほ...捕食者の主神からの手紙でしたか...」

 「え?番いにしてくれじゃなかったのか?」

 「す、すみません。私の早とちりで...」 

 「いや、私も思わずそうだと思い込んでしまっていた...

  すまなかった...」

 

 フェルズという人物は僕に向かって頭を下げてくる。

 先程までの話は聞き流していたので、僕は別段気にしていない。

 だから、とりあえず頷いておいた。

 そして、彼女の方を向き直り返答を待つ。

 

 「...ほ、褒めていただけて嬉しいでスし、お礼をしてもらえるのも嬉しいでス。

  ただ、それは後にしていただけたらな、と...」

 

 カカカカカカ...

 

 「あ、ありがとうございまス」

 

 彼女は我が主神がお気に召した雌の...

 いや、女性なので否定させる事などしない。そのため、いつでも

 言ってもらえる事を待つ事にした。

 

 「...さて、では救出へ向かおうか」

 「あ、そうだそうだ!で、アスっちどこに入口があるんだ!?」

 「あ、あちらです。案内した後、私はまた一度ここへ戻りますので」

 

 アスフィという女性が向かい始めたので、僕らもクローキング機能で 

 姿を消し、後を追い始めた。


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