【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 グチャ...

 ブチィッ...

 

 捕食者はフェルズやアスフィ、リド達の視線も気にせず死体の腹部を

 切開すると内臓を抜き取っている。

 既に数体から抜き取られた内臓が、至る所に散らばっていた。

 そして、また内臓を地面に捨てると首元と足首に切れ目を入れ、

 足首の方から、脛、脹脛を辿り腹部と胸部へと斬り刻んでいく。

 最後に首元の斬り刻み、胸倉を掴むようにして力一杯引っ張った。

 

 ビビィィィ... ビリッ

 

 それによって、皮膚が筋肉組織から剥ぎ取られた。

 皮膚もその場に投げ捨て、顔と足部の皮膚も細かく斬り刻んでから

 剥ぎ取った。

 仕上げにワイヤーを足首に巻き付け、モンスターを閉じ込めるための

 檻に吊るした。

 

 ドチャッ

 

 カカカカカカ...

 

 手に付着した血を払い、捕食者は別の死体へ近付くとその行為を

 続けるのだった。

 捕食者の行為を見ていたリド達だったが、フェルズの呼び掛けで

 我に返ると仲間のモンスターを助け出し始めた。

 檻の扉を破壊し、慎重に傷ついているモンスターを外へ出すと、

 アスフィが傷の具合を見て、的確な処置を施す。

 処置と言っても、モンスターにはポーションなどが効かないと

 思われるので、傷口を包帯で塞ぐ程度になるのだが懸命に続けた。

 

 バキィンッ!

 

 「大丈夫カ?」

 「あ、ありがとう、グロス...」

 「さぁ、掴まってください。ミスタ、ではなかったミスアスフィ!

  こちらの方もお願いします!」

 

 レットに支えてもらいながらアスフィの元へ向かう仲間のモンスターを 

 見てグロスは、非常に複雑な感情が芽生えていた。

 何故なら、仲間を傷つけたのはアスフィと同じ人間達であり、憎むべき

 相手だと思っているからだ。

 かつてから敵対し続け、これまで幾多の仲間達が犠牲となっている。

 犠牲とまではいかずとも、腕や足、翼や尻尾を捥がれ、目を抉られ、

 辱めを受けた仲間も大勢居る。

 だからこそ、グロスは憎むべきだと思っている。

 しかし、アスフィは真逆の事をしている。

 仲間が痛みに苦しむと気遣い、手当てが終わると労わっていた。

 

 「(...アイツト、同ジヨウナ人間モ存在スルノカ...)」

 「グロス。同胞の手当てが終わり次第、里へ連れ戻すぞ」

 「...アア。...ラーニェ、人間ガ同胞ノ傷ヲ手当テシテイル...

  コノ光景ガ信ジラレルカ?...アイツト同ジニ俺ハ思ウ」

 「...ただの気まぐれに決まっている。

  グロス、お前は...人間達の残虐さや狡猾さを知っているはずだろう?

  今、その残虐さを...同種族を相手に、あんな...っ...」

 

 ラーニェは顔を背け、言葉を詰まらせる。 

 捕食者達を見てグロスはラーニェの言わんとする事を、察して

 答える。

 

 「忘レタ訳デハナイ。確カニアイツラハ、限リナク危険ダ。

  ...ダガ、アノ人間ハ違ウト...少ナカラズ、思イ始メテイル。

  ソノ確証ハ無イガ...アイツラヨリハ、マシダロウ」

 

 ラーニェはグロスと同じ視線の先に居るアスフィを見た。

 仲間であるドラッグ・オクトパスが、触るなと叫んで、大量の吸盤が

 備わった脚を振るいながら威嚇した。

 その脚は傷だらけになっており、8本ある内幾つかの脚の先端が

 斬り落とされている。

 リドが説得を試みようとしたが、アスフィに制止させられる。

 戸惑うリドを余所に、手袋を外しアスフィは手を差し伸べると、

 こう述べた。

 

 「恐れても構いません。人間が貴女に酷い仕打ちをしたのは、誰に言われずともわかります。

  ですが...その仕打ちをした人間と、私は違います。

  なので、私を信じて手当てをさせてください」

 

 いつの間にか振るっていたはずの脚を止め、ドラッグ・オクトパスは

 差し伸べられたアスフィの手を見る。

 リド達はその様子を見守り、緊張感が高まっていた。。

 ドラッグ・オクトパスはアスフィの手から、今度はグロスとラーニェの

 様子を窺った。

 グロスはラーニェの方を見ると、ラーニェはため息をつき、そっぽを

 向く。

 好きにしろ、と言っているようだった。

 仲間が困っているのに自分も答えないというのは、流石に不憫だと思い

 グロスはドラッグ・オクトパスに頷く。

 それを見て目を見開き驚くが、ドラッグ・オクトパスは再度、

 アスフィの手を見つめ、恐る恐る手を伸ばし掌に触れると、アスフィの

 方から握ってきた。

 

 「ありがとうございます。手当てをして、早く仲間の所へ戻りましょう」

 

 一瞬振り払いそうになった手が、アスフィの言葉を聞いて止まった。

 手を離すと、負傷箇所を見ながらアスフィは包帯を伸ばして、傷口に

 巻き付けていく。

 ドラッグ・オクトパスは助かったという安堵と、アスフィの慈悲に

 涙した。

 その様子に、近寄ってきたリド達が肩に手を乗せ、労わった。

 

 「...アレガ気マグレダト、思ウカ?」

 「...あれさえ見なければ...少しは信じていたかもしれん...」

 

 ラーニェは流し目で吊るされている死体を見て、すぐに視線を返すと

 答えた。

 

 「アイツもまた...変わった人間という事だな」

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「あーあ...アイツら死んじまったか...ったく、つまらねえな」

 

 眷族が皆殺しにされたと感じ取ったイケロスは、その場に寝転んだ。

 ダイダロス通りにある薄汚れたデッドスペースは異様に静かで、

 イケロスの呟きが一層、大きく聞こえる程だった。

 自身の楽しみが無くなってしまい、イケロスはこれからどうするかと

 考えたが、何も浮かばない。

 もう一度眷族を集め直すという手も考えたが、恐らく真面でない

 倫理観の破綻しきった子供でなければ、すぐ逃げ出すのがオチだと

 ため息をつく。

 

 「...んじゃ、サクッと天界にでも還るか」

 

 軽々しくそう呟きながら、転がっていた瓶を地面に叩き付ける。

 割れた箇所を喉にでも刺せば余裕だと思ったのだろう。

 しかし、手に持っている割れた瓶は、割れた箇所が短くとても皮膚には

 突き刺せそうにない。

 イケロスは深くため息をつき、それを投げ捨て別の瓶を拾った。

 

 ...パリンッ

 

 その時、投げ捨てた瓶を踏みつけ、背後に立つ存在にイケロスは

 気付く。

 ゆっくりと振り返り、その存在を見ようとしたが、人影は無かった。

 奇妙だと思い、拾った瓶をその場に置いてイケロスはのそりと、

 立ち上がろうとする。

 

 バリィインッ!!

 

 しかし、立ち上がった直後、脳天に衝撃が走る。 

 先程までイケロスが持っていた瓶が叩き付けられたからだ。

 イケロスは脳震盪を起こし、その場に倒れた。

 

 カカカカカカ...

 

 黄色い2つの眼が光り、イケロスの体が浮遊すると風景に溶け込む様に

 消えた。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「...そう、捕まえたのね。

  ご苦労様、ケルティック。戻って来て?」

 

 『カカカカカカ...』

 

 ケルティックとの通信を切り、ネフテュスはため息をつく。

 

 「イケロスは何となくそうだとは思っていたけど...

  まさかソーマや、イシュタルにニョルズまで関わっていたなんて...」

 

 ネフテュスは3人の顔を思い浮かべると、目を伏せて悲しんだ。

 イケロスは悪夢を生むとされ、天界でも面倒事が起きると、必ず

 直接的ではないが、ひっそりと関与していた事がある。

 彼は自分が楽しければ良いという性格で、ある意味ではエレボスよりも質が悪い。

 今回もそれと同じだろうと、ネフテュスは考えついた。

 イシュタルも恐らく、彼女への対抗心で何かしらの事情があると

 答えを導き出した。

 どちらも綺麗なのだから張り合っても意味が無い、と天界で数万回にも

 及ぶ口論を、その度に止めてあげた思い出が蘇る。

 そのイケロスとイシュタルが奴らに加担するという事は納得がいった。

 しかし、酒造りにしか興味が無いソーマと、美脚で心優しいニョルズが

 奴らに加担していたという事には、腑に落ちていなかった。

 

 「...少し、お話してみないといけないわね。

  協力してもらうなら...うん...アストレアの子供達にお願いしましょうか。

  ロキにお願いしたら、ニョルズをイジメるかもしれないし」

 

 ピピッ ピピッ

 

 ネフテュスがそう考えついた時、通信が入ってくる。

 パネルを操作し、名前を見て微笑んだ。

 

 「まぁ、明日にしましょうか。

  今日は楽しくお話したいし...ふふっ」


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