【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 フェルズという人物とゼノスに連れられ、僕らは数時間前まで

 進んでいた20-D5へ繋がる通路を再び進んでいた。

 アスフィという女性の仲間である女性2人は、スカーは担ぎ、

 ヴァルキリーは抱き抱えて運んでいる。

 クローキング機能は解除しており、同行者の誰かにぶつかる

 心配は無いはずだ。

 ディックスという男と同じファミリアの冒険者達だった連中を

 吊るしてある地点を通り過ぎ、しばらくして広い空間に入った。

 マップを確認すると、20-D5に辿り着いたみたいだ。

 

 ピピッ ピピッ ピピッ ピピッ ピピッ ピピッ

 

 入った瞬間に、生体感知センサーが多方面でモンスターの反応を

 感知する。

 ナイトビジョンに切り替えようとしたが、リドというゼノスが前に

 出てくると叫んだ。

 すると、火が灯され、多段となっている断層の上からゾロゾロと

 多種多様なモンスターが出現する。

 ...こんなにも居るのか。

 知性を持ったゼノスという種類のモンスターは...

 

 「お前ら!フェルズが連れてきたアスっちと...

  捕食者って奴らのおかげで、同胞を助ける事が出来た!

  それに、もう密猟者に襲われる事もなくなったぜ!」

 「「「...おぉおおおおお~~~!!」」」

 

 リドというゼノスからの吉報を聞き、多くのゼノス達は欣喜雀躍する。

 空間に響き渡る歓声で抱えられていた、仲間の2人が目を覚した。

 

 「...うぉわぁあああああ!?なななな、なんだよここぉ~~!?」

 「い、一体何がどうなっているんですか...!?

  ...そ、それにこの方は...?」

 

 突然、モンスターの群れが視界に入れば驚くのは当然だ。

 自身を抱き抱えているのも踏まえて。

 ヴァルキリーはそっと下ろし、スカーは乱雑にだが、なるべく怪我を

 しないよう配慮して同じくそっと下ろした。

 

 「やっと目覚めましたか、ルルネ、ローリエ...

  事の全容は後でしっかりと教えますよ」

 

 アスフィという女性が2人にそう伝えていると、ゼノス達が僕らへと

 近付いてくる。

 名前を最初に言われたアスフィという女性に注目が集中して、握手を

 求められていた。

 彼女は苦笑いを浮かべながらも、握手に応じる。

 すると、半人半蛇の女性と思われるゼノスが僕に近付いてきて、

 手を伸ばしてきた。

 

 「キュー!」

 

 ガシッ...

 

 「グルルルルルルルルルルルルルルッ!!!!!

 

 それに応じようとしたが、白い塊が飛んできたので反射的に

 掴み取る。

 見ると...角が生えていないが、あの兎だった。青い服を着ている。

 僕は本能的に本気で唸り声を上げ、その服を着ている兎を睨む。

 その唸り声で周囲は静まり返り、緊張が走ったようだった。

 臙脂色をした鳥の少女と思われるゼノスが慌てながら、近付いてきた。

 あの時、捕獲されそうになっていた子だ。

 

 「ち、地上の方!も、申し訳ありません!

  その子は決して貴方を襲おうとしたのではなくて...!」

 

 ...それはわかっている。つい、思い出しただけだ。

 皆が、こいつは僕を可愛くした兄弟みたいだから狩れない、と

 からかってきたのを...

 だから僕はこの種類のモンスターが嫌いなんだ。

 服を着ている兎は恐怖で震え、目には涙が溜まっていた。

 ...こいつがゼノスというモンスターである以上、殺してはならない。

 なので、地面にゆっくりと下ろした。

 その瞬間に服を着た兎は一目散に逃げ、火を吐く犬のゼノスの後ろへと

 隠れた。

 僕は鼻から息を出し、フーッと鳴らす。

 周囲のゼノス達は動揺し、僕に対して戸惑いを見せていた。

 ...このままではいけないな。

 そう思い、先程の半人半蛇の女性のゼノスに近寄って、手を差し出す。

 友好的であると示すにはこうするといい、と教えられた。

 最初は迷っていたようだが、意を決して僕の手を握ってくる。

 僕は力を入れず、同じくらいの力で握り返すと、半人半蛇の女性の

 ゼノスは笑みを浮かべる。

 そして、周囲のゼノス達に、僕には敵意は無い事を伝えた。

 その途端にまたゼノス達は歓声を上げ始める。

 ...少しだけ周囲からの音量を下げようか...

    

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「飯だ!酒だ!どんどん出せ!」

 

 手に持てるサイズな樽型のジョッキをレットが置くと同時に、

 ゼノス達は手や舌を伸ばし掴み取る。

 全員に行き渡ったのを確認して、リドが高らかにジョッキを掲げた。

 

 「無事に戻って来た同胞と初めて人間の客がやってきた事と...

  それから密猟者共が消えた今日を祝って!」

 「「「おおおおーーっ!!」」」

 

 リドの言葉にゼノス達はジョッキを掲げる。

 これまで苦しめられていた密猟者が、もう居なくなった事が一番に

 嬉しく思ったのだろう。

 何故ならグロスやラーニェ達が、そう乗り気ではないがジョッキを

 掲げていたからだ。

 それでも、人間の客人としてアスフィ達は丁重に持て成されていた。

 

 「...改めて聞きますが、夢ですか?これは」

 「ほっぺひゃひゅねっへやろうは?」

 

 ローリエの発言に、ルルネは自分の頬を抓って夢ではない事を自覚し、

 発言したローリエは首を横に振り拒否する。

 時折、ゼノス達が近付いてきて、それぞれが持っているジョッキを

 そっと差し出してくる。

 それにルルネとローリエは、最初こそ怯えながら小さくコツンと

 当てる程度だった。

 しかし、もう慣れたのか中身の酒が大きく揺れる程の勢いで乾杯して

 いる。

 ふと、ローリエは隣に座っているオードを見た。

 オードは自身を見ているのに気付くと、手を後頭部に持っていき、

 照れている仕草を見せる。

 それにローリエは、人間らしい反応だと思うと少しだけ笑みを浮かべ

 警戒心が薄らいだ様に思えた。

 一方で、アスフィはフィアから感謝の意を告げられていた。

 

 「地上の方、あの時は本当に助けていただいてありがとうございました。

  この恩は決して忘れる事はありません」

 「いえ、そこまで気にする事は...」 

 「アスっち、遠慮しないでどんどん食えよ。

  この近くで採れたものだ。地上じゃ珍しいもんらしいぜ」

 「そうなのですか。では、いただきます... 

  ...あ、美味しいですね。初めて食べる味です」

 「そうか!気に入ってくれたならよかった」

 

 もう一度、赤い実を一口齧る。

 肉厚な実の歯応えと中身の絶妙な甘辛さに、アスフィは舌鼓を打つ。

 ルルネとローリエもその赤い実の味が気に入ったようで、ルルネは

 ガジガジと遠慮なく食べていた。

 捕食者はというと、食べ物にも酒にも手を出していなかった。

 隣に座っているフェルズが聞いた所、もう少し待ってほしい、との

 事だった。

 やがて、ルルネとローリエはアスフィの両隣へと移動して、リドから

 武装している事について話していた。

 彼曰く、人間がモンスターを倒した際に落とすドロップアイテムを 

 持ち帰るのと同じだという。

 アスフィ達は言い返す言葉も見つからないため、納得せざるを

 得なかった。

 

 「人間の武器ってすげえよなぁ。

  そこらへんに生えてる花や草なんかよりよっぽど斬れるし硬ぇ。

  俺っち達には作れねぇよ。

  ...けど、捕食者の武器は比べ物にならねぇくらいヤバかったな」

 「武器がヤバいどころがアイツら自体がヤベェって話だよ...

  あ、これ見たら思い出してきそう...」

 「や、やめてください、ルルネ...」

 

 先程まで美味しく食べていた赤い実を手で隠すルルネに、ローリエも

 思わず隠してしまった。

 恐らく、ディックスの死に様を思い出してしまったのだろう。

 すると、リドの発言にアスフィが目を見開く。

 

 「同種族の人間をあんな風にするのは前にも見たが...

  まぁ、俺達にとっちゃいい気味だと思ってるぜ」

 「!。前にも、というのは...以前にも見た事があるのですか?」

 「多分だが、30階層のパントリーで見たのではないか?」

 

 フェルズが問いかけると、リドは頷き革水筒の中身を飲む。

 ルルネは何故知っているのか首を傾げ、問いかけようとしたが

 先にフェルズが答えた。

 

 「イヴィルスの残党が何かを企てているという情報は知っているな?

  食人花のモンスターをパントリーで繁殖させていたという...

  実は30階層でも同じ様な事をしていたんだ。

  それをリド達に対処してもらっていたが...

  途中で捕食者に援軍として向かってもらいイヴィルスの残党を全滅させられたという訳だ」

 「あ!?ま、まさかあの宝玉って...」

 「そうだ。あの宝玉はイヴィルスが何かしらの方法で生み出した物。

  だから何としても回収しておきたかったんだ。   

  まぁ、既に1つを捕食者から譲り受け、詳しく調べている所だ」

 「...なら私無駄に苦労したって事?ふざけんなよぉおお~~~~!!」

 

 ルルネは座った状態でそのまま背中から倒れ、脱力する。

 あの時は死を覚悟し、それを乗り越えたと思えばロキ・ファミリアの 

 尋問を誤魔化さなければならなかった。

 結果的に何とかなったが、それ以前の苦労はなんだったのかと

 落ち込むのだった。

 

 「すまなかった。

  報酬は上乗せして、東区画のセーブポイントに保管しておこう」

 「...なら、まぁいっか」

 「「(全く懲りてないですね(このシーフは/ルルネさんは)...)」」

 

 尻尾をブンブンと振ってすっかり上機嫌になっているルルネに、

 アスフィとローリエは呆れるしかなかった。

 恐らくだが、ルルネに顔を向けているフェルズも思わず、チョロい、と

 思っているかもしれない。

 

 「なぁ、捕食者。お前の名前って、それが本当の名前じゃないんだろ?

  本当の名前は何ていうんだ?」

 『...ごめんなさいね。掟で私や仲間以外と口を利かないって決められているの。

  それと名前も...その子が書こうとしないみたいだから、答えられないわ』

 「あー、それじゃあ仕方な...ん?なら誰が話してるんだ?」

 

 それに呼応するようにファルコナーが、リドの頭上から降りてきた。

 捕食者の1人が操縦して飛行させているようだった。

 ゼノス達は見た事のない物体に驚き、思わず握っていたジョッキを

 落としそうになる。

 アスフィ達も驚いていると、アスフィはレンズの汚れを拭き取って、

 眼鏡を掛け直しファルコナーを凝視する。

 

 「神ネフテュス、お待ちしていた。同胞達よ、恐れる事はない。

  これは捕食者達が使用する道具だ。

  そして、その道具を介して話しかけているのは、彼らの主神である神ネフテュスだ」

 『よろしくね、ゼノスの皆。それとヘルメスの子供達も

  今日は色々とお話をしにきたわ』

 

 アスフィはその言葉を聞き、姿勢を正すと問いかける。

 

 「...既に私が調べている事は、お見通しだったのですか?」

 『ええ。彼女の足取りから探って、私達を見つけようとしていたそうね。

  地道だけど確実に答えを見つけだそうとしていた貴女を評価してあげるわ』

 「...ありがとうございます」

 

 アスフィは頭を下げ、少し不満げにお礼を述べた。

 ネフテュスの誉め言葉が本当に褒めているのかわからなかったからだ。

 

 「えっと、ネフテュス様でいいのか?話ってのは...何の話だ?」

 

 その質問に、ファルコナーのカメラがリドの方を向いた。

 

 『私達、ネフテュス・ファミリアがゼノスと協力関係を結ぶためのお話よ』


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