【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 まだ朝明けが訪れる直前の時間帯。

 どの店舗も閉まっており、開店の準備すらまだ始めていない。

 しかし、建ち並ぶ店の一角にあるディアンケヒト・ファミリアの

 治療院では既に灯りを点けて、開店の準備を始めていた。

 窓の外から見える人影は、店内の隅々まで掃除をし清潔にしているのが

 窺える。

 カウンターを拭き終え一段落した時だった。

 外から何か物音が聞こえたのに、アミッドは気付く。

 日も明けていないため、気のせいではなく物音は確かに彼女の耳に届いて

 いた。

 

 「(誰か居るのでしょうか...?)」

 

 出入口の扉に近寄って施錠していた鍵を開けると、ゆっくり隙間程度に 

 開く。

 不審な凶悪犯が強襲して来るとも限らないためそうしたのだ。

 だが、誰かが居る気配もなく扉を全開にすると、周囲を確認する。

 やはり誰も居ない。アミッドは気のせいだったのかと思い、扉を

 締めようとした。

  

 「...ん?」

 

 ふと、開けていない反対側の扉側の下を見て何かが置かれているのに

 気付く。

 灰色の布に包まれた四角い物体だった。

 アミッドは一度外へ出て、その物体を触ってみると布が被っていない

 箇所に触れて、木箱だとわかった。

 持ち上げてみると何か複数の物を入れているようで、かなりの重さが

 ある。

   

 「何が入っているのでしょう...?」

 

 アミッドは店内に入り、布に包まれた木箱を先程綺麗にしたばかりの

 カウンターに置く。

 包んでいる布を解き、木箱の中を見てみる。

 その中に入っていたのは何かの皮膜を太い骨に巻き付けた物や長細く

 鋭いの角、

 生き血の入った瓶が3つ、透き通った青い四枚の翅だった。

 

 「...!?」

  

 驚愕するアミッドは目を見開きながら、木箱に入っている皮膜を手に

 取る。

 穴が空くほど見続け確信した。

 カドモスの皮膜。51階層に出現する、その階層で最強とされる

 モンスターを倒さなければ手に入らない代物だった。

 

 「(品質は申し分なし、それに加えて...これほど分厚く量があるとすれば、1500万...

   いえ、3000万ヴァリスはくだらないでしょう。それをあんな無造作に...

   それにこれは...)」

  

 アミッドが次に手を伸ばして掴んだのは、生き血の入った瓶だった。

 マーメイドの生き血。ユニコーンの角と引けを取らない希少な代物で

 ある。

 水の迷都と呼ばれる25階層の巨蒼の滝に出現する、マーメイドから

 手に入るのだが、水中では倒す事どころか捕まえる事さえも難しいと

 されるためそれだけの価値があるのだ。

 それらの希少なドロップアイテムを無造作に置いていった、誰かも

 知らない人物にアミッドは呆れる以前に困惑が勝っていた。

 何故置いていっていたのか、それがわからないというのが第一に

 引っかかっている。

 勝手に素材として使い、因縁を付けるための行為であれば当然ながら

 放棄する事にしようと考える。

 そんな中、よく見ると二つ折りにされた紙が、瓶に貼り付けられて

 いた。

 アミッドはそれを開いて、書き記されている文面を読んだ。

 

 [不要なため贈呈する]

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 それだけしか書かれていなかったが、アミッドはため息をついて力無く

 椅子に座り込んだ。

 先程までの考えが一瞬にして崩れ去り、誰かが置いていった物なのだと

 理解し、思わず脱力してしまったようだった。

 

 「...ですが、不要というのは、どういう事でしょうか...?

  ここではなくでもギルドにお渡しすれば、それなりの額で引き取るというのに...

  全く、信じられません...」

 

 譫言のように呟くアミッドだったが、窓の外から差し込む日の光で

 ハッと我に返る。

 まだ掃除し終えていない所があるのを思い出し、

 その贈呈された様々なドロップアイテムを再度、木箱に入れ直すと

 カウンターの後ろの棚へ一時仕舞う事にした。

   

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 すっかり日が昇り、オラリオの街は活気で溢れ賑わっていた。

 そんな街中を掻き分け、ロキ・ファミリアが団員総出でどこかへ

 出向いていた。

 理由はダンジョンで手に入った魔石やドロップアイテムなどの換金、

 武具の整備や再購入、道具の補充などの後処理のためだった。

 途中、フィンの指示の元、各自で目的地に向かう事となった。

 ティオナもティオネやアイズ、そしてレフィーヤの4人で

 ドロップアイテムを換金するために目的地へ向かった。

 そこは、ディアンケヒト・ファミリアの治療院である店舗だった。

 

 「注文いたしました泉水...要求量も満たしていますね」

 「水で薄めてるって事もないから、安心して」

 「そこまで疑いはしません。ありがとうございました。

  ファミリアを代表してお礼申し上げます。

  つきましてはこちらが報酬になります。お受け取りください」

 

 専用の容器に収めてあるエリクサー20本をアミッドはカウンターに

 置いた。

 レフィーヤは緊張して中身をカタカタ揺らしながら、持ち上げ固唾を

 飲む。

 

 「1本で50万ヴァリスはするんですよね...!」

 「うはぁぁ~~。これだけあれば豪邸建っちゃうよ...」

 「きれい...」

 「あ、そうだ。アミッド、実は珍しいドロップアイテムが取れたの。

  いい値を出してくれるなら、ここで換金するわ」

 「わかりました。どうぞ、お見せください」

 

 3人が大量のエリクサーに気を取られていると、ティオネは筒を

 差し出した。

 それをアミッドは受け取り、中身を取り出して確認する。

 

 「これは...カドモスの皮膜ですか」

 「あら、一発で見抜くなんて流石ね。運良く手に入ったのよ」

 

 アミッドは品質を確認し、素材として申し分と思い相場の値段を

 提示した。

 

 「相場の700万ヴァリスでお引き取りを」

 「1500万ヴァリス、じゃダメ?」

 「「「っ!!?」」」

 

 とんでもないふっかけにレフィーヤは持っていた容器を手放して

 しまい、危うく全て割るところだったが間一髪でアイズが掴み取って

 いた。

 それもそのはず、相場の倍以上の額でティオネは買い取らせようとして

 いるのだからである。

 が、アミッドは予想外の言葉を返した。

 

 「わかりました。1600万ヴァリスでいかがでしょう」

 「じゃあ、せんよ...ん?え?1600?」

 「はい。1600万ヴァリスで構わないのであれば、お引き取りします」

 「...あー、ええっ。ありがとう、アミッド...」

 

 白熱する競り合いが起らなかった事にティオナ達3人は呆然とした。

 普通に考えれば、相場の値段よりも高値で引き取るというのは

 あり得ないからだ。

 しかし、黙々とアミッドは大量のヴァリスを詰め込んだ袋が全て入る

 バッグパックに収めた。

 その様子を見て、アイズは怖ず怖ずとアミッドに話しかける。

 

 「アミッド、本当にいいの...?無理、してない...?」

 「ええっ、全く問題ありません。ご安心ください」

 「そ、そうは言われましても、心配するしかないんですが...」

 「...アミッド、買い取らせた私が言うのもなんだけど、何でそうすんなりと...?」

 

 流石のティオネも何故、高額の値段で買い取ったのか心配になり

 問いかける。

 袋を収め終え、心配そうにしているティオネ達を見てアミッドは

 少し考えると、背後の棚へ移動する。

 

 「...あまりお見せしたくはありませんが、皆さんの心配を解消させるためです」

 

 そう言って、布を被せた木箱を取り出してきた。

 ティオネ達は首を傾げ、何が入っているのか気になっている。

 誰も見ていない事を確認したアミッドは、布を外す。

 そして中に入っているドロップアイテムの内、1つを手にして

 4人に見せた。

 

 「...何これ」

 「おぉ~!」

 

 真顔で問いかけるティオネ。同じく真顔で呆然となるアイズと

 レフィーヤ。

 ティオナはそれを見て歓声を上げた。

 それは、あの骨で極太巻きにしてあるカドモスの皮膜だった。

 

 「こちらと同じカドモスの皮膜です。品質は同等ですが、

  これだけの量であれば3000万の価値があります」

 「すごい分厚いね~!...ん?でも、3000万ヴァリスで引き取ったのに何で

  こっちのも買い取るの?」 

 「そうよ!思いっきり赤字じゃない!?」

 

 ティオネは慌ててアミッドに詰めより、心配が解消されるどころか

 余計に心配になっていた。

 アイズとレフィーヤもどういう理由で解消されるのかと思っていると、

 アミッドは答える。

 

 「いえ、この他にユニコーンの角、マーメイドの生き血、ブルー・パピロオの翅などを...

  無償で贈呈していただいたので、問題ありません」

 「...何で無償?」

 「不要だから、という手紙が添えられてました。それ以外に理由はわかりません」

 

 ペラッと差し出したあの紙を見せ、4人は静まり返った。

 これだけのドロップアイテムを買い取らせず、贈呈したという訳が 

 わからない理由だからだ。

 アミッドは紙を丁寧に折ってポケットに仕舞い、バックパックを 

 カウンターに置いて差し出す。

 

 「またクエストを発注する機会があれば、よろしくお願いしま」

 「ふっっっっっっっざけんじゃあないわよぉおおおおお!?!?!?」

 

 その絶叫はホームの外まで響き渡った。

 尚、その贈呈されたドロップアイテム全てを買い取ったとすれば

 3000万2900ヴァリスになるそうで、ティオネは発狂するかの

 ように店内で暴れそうになり、急いでディアンケヒト・ファミリアの

 治療院から引きずりだしたのだった。

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ...何の悲鳴だったのだろうか、少し気になりはしたが放っておく事に

 した。

 僕はクローキングを起動させたまま、ヘファイストス・ファミリアの

 団員が住んでいるという建物の前に、木箱を置いていた。

 その中には不要とされる獲物の一部を入れた水晶の甲羅、鋭い針、

 黒い石が入っている。

 僕らは戦利品以外を必要とは思わない。時折、武器になりそうな物を

 持ち帰る時もあるが、やはり使っていない。

 だが、ギルドにヴァリスを収めなければならないと我が主神に

 教えられたため、紫紺色の石は拾いギルドでヴァリスに換えている。

 そして我が主神が新しい提案を伝えてくださった。

 要らなくなった獲物の一部を捨てるのは勿体ないから、他の商業を

 しているファミリアに分けましょう、との事だ。

 確かに、戦利品の皮を剥ぎ取り集めた後、外へ捨てず船内の一箇所に

 捨てていた。

 だが、7年も放置していれば当然入りきらなくなり、つい最近まで

 悩んでいた我が主神の姿が思い浮かんだ。

 そんな時、扉の裏から足音が聞こえてきて僕はその場からすぐ離れた。

 

 「...気のせいか?妙な気配を感じた気がしたんだがな...ん?

  何だ、こりゃ...?」

 

 青年が木箱を持って、建物の中へと入っていったのを確認し僕は

 屋根の上へと跳び乗り、また他の建物の屋根へと飛び移りながら

 移動する事にした。


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