【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 1時間後、義手を自ら作動させられるかの確認が終わった。

 翼に手を移植する準備のため、レイというゼノスを用意しておいた 

 部屋に案内している。

 そこは、レックスが使用している部屋だ。

 本人の許可は得ているそうなので、問題はないだろう。

 扉が開き、部屋へと入る。レイというゼノスは少し落ち着かない様子で

 キョロキョロと室内を見渡していた。

 とりあえずとして、僕は寝床を指し座った。

 それに彼女も続いて、少し間を取ると座る。

 一般的に考え、ここから対話をすると思われるのだが...

 掟に従い、僕は成人の儀を成し遂げるまで他人に素顔を見せない、

 言葉による会話をしないと決めている。

 但し筆談や鳴き声、ゴーグルを光らせる事による返答は適応されない。

 この地球上では、本来僕はまだ14歳になる。

 しかし、今の僕は肉体的に成人を迎えているので、もうじき成人の儀を

 執り行うはずだ。

 ...それはそうとして、これからどうしようか...

 

 「...あの、私の歌を...貴方も気に入ってもらえていたのですカ?」

 

 唐突に彼女から問いかけてきた。僕は頷いて答える。

 僕自身がまず聞き入ったので、我が主神にもお聴かせしたいと思い、

 録音したのだから、間違ってはいない。

 

 「貴方も歌ったりしますカ?」

 

 それには首を横に振り、否定する。

 僕らは狩りの文化を最重要視している。

 儀式の際、鼓舞のために奏楽をするが、技の熟練と勝利と名誉を掛けて

 狩りに臨むので、そういったものにほとんど興味はない。

 ヴァルキリーや我が主神は別だが。

 

 「そうですか...レックスさんとは仲良しですカ?」

  

 カカカカカカ...

 

 「...あ、えっと...」

 

 しまった。つい癖が...

 僕が改めて頷くと、レイというゼノスは笑みを浮かべる。

 

 「私もでス。今より言葉遣いが酷かった頃、レックスさんが直すのを手伝ってくれたんでス。

  私だけでなく、他の同胞の皆さんも一緒に...」

 

 なるほど。彼女なら教えるのに適任だと僕は思った。

 レックスは戦闘に長けているとは言えないが、知能は凄まじく高い。

 獲物の弱点を瞬時に見抜き、最小限の動きで仕留めるという戦法を

 得意としている。 

 僕が幼い頃、文字の読み書きや計算方法、歴史や地質学などを

 教えてくれた所謂、先生みたいな関係でもある。

 ...それなら、レイというゼノスや他に教えを受けたゼノス達も

 僕と同じ教え子という事か。

 何となく親近感が湧いた様に思える。

 

 「...手を授けられたら、私は最初に誰を抱きしめましょうカ...

  ネフテュス様には失礼でしょうかラ...

  ...やっぱり、ここまで来るのに色々と手伝ってもらった、アスフィさんがいいでしょうカ...?」

 

 恐らく、我が主神を抱きしめても大丈夫だとは思う。

 だが、皆が無礼だと怒るかもしれないので、アスフィという女性に

 した方がいいと思い、僕は頷いておいた。

 

 「わかりましタ。...すごく楽しみになりますネ」

 

 そう言って微笑む彼女は、容姿とは異なって幼い子供の様に思えた。

    

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 アスフィは選んだ道具を袋へ詰めてもらい、通路を歩いていた。

 その表情はとても満足気で上機嫌の様子だった。

 

 「久々に制作意欲が刺激されて、あらゆる構想が思い浮かんできましたね。

  ホームへ戻ったら早速制作...を!?」

  

 そう思っていると、突然何かとぶつかった。

 否、ぶつかったというよりもぶつかって来たと言える。

 思わず転びそうになるが、仮にもレベル4の冒険者であるため何とか 

 踏ん張って体勢を持ち直す。

 安堵しながら、何がぶつかってきたのか見ようとするが、それが勝手に

 離れ、アスフィの視野に入る。

 

 「...レイ?」

 「アスフィさん...!い、いきなり抱き着いてしまって、申し訳ございません。

  ですが...見てくださイ!私の...私自身の手を授けてもらいましタ...!」

 

 その両手は人間と同じ箇所に位置していた。

 というより、翼の前縁部が人間と同様の両腕そのものとなっていた。

 レイの人間と同じ胴体をしている肌の色となっており、覆っていた

 金色の羽が無い。

 腕の内側も飛行の際に必要な雨覆や風切りが無く、完全な人間の女性と

 同じ腕になっていた。

 ぎこちなく動かしていた義手の時とは違い、滑らかに指を動かしていて

 最初から付いていたとしか思えない程だ。

 アスフィは思わずレイの手を取って、凝視するしかなかった。

 

 「...どうやって、この腕に変化させたのですか?」

 「えっと、それは...眠っていたのでわかりませン...

  確か、いでんし?を組み換える事で、こうなったとしか...

  目が覚めた時には既にこうなっていて、ネフテュス様に綺麗な手と褒めてもらいました」

 

 細くスラッとした肌荒れも無い美肌で、確かに綺麗だとアスフィは

 思った。

 しかし、これではもう飛べなくなってしまったのでは、と問いかける。

 すると徐に両腕全体を手で擦り、グッと握り拳をつくる。

 開くと同時にメキメキと両腕が金色の羽に覆われて翼となった。

 非現実的な変化にアスフィは呆気に取られ、眼鏡がズリ落ちる。

 魔法でも絶対にあり得ない現象に、レイが何かを言っているようで

 あったが全く耳に届かなかった。

 しばらくして、人間の手に変化させたレイがアスフィの手を握ってきて

 ようやくアスフィは我に返った。

 

 「...あの、アスフィさんも私の歌を聞きますカ? 

  手を授けてもらったお礼に、ネフテュス様に歌を披露しますかラ」

 「...え、ええ。是非ともお聞かせください」 

 

 頭に広がっていた様々な疑問がその笑みで消え去り、アスフィは

 自分自身に少し呆れながらも、その招待に頷く。

 レイはアスフィの手を引いて、ネフテュスの所へ向かおうとした時、

 ふと横から差し込む光に驚いた。

 レイは手でその光を遮り、恐る恐る目を細めながら何が光っているのか

 見ようとする。

 

 「レイ、大丈夫ですか?」

 「は、はい...あの、あれは...?」

 「...あれが、太陽ですよ。地上を照らす巨大な光です」

 

 レイは初めて見る太陽を見つめた。

 ダンジョンでは決して見る事が出来ない、眩い光に思わず息を

 呑んでもいた。

 

 「(...ルルネ達に何と言い訳をすればいいでしょうか...)」

 

 そう考えていると、鼻を啜る音が聞こえてきたので、その方を見る。

 見ると、レイが手で涙を拭っていた

 

 「レイ?...どうかしたのですか?」

 「...いえ...ただ、とても...とても、綺麗だと思いまして」

 「...そうですか」

 

 そう答えるとアスフィはレイの顔に手を伸ばし、頬を伝っていた涙を

 拭ってあげた。

 それにレイは照れくさそうに口元に手を当てて、微笑んでいた。

 

 

 「素敵な歌を聞かせてね、レイ」

 「はい。...すぅ...」

 

 ...♪~♫~♬~♩~

 

 その歌はマザー・シップの室内に響き渡る。

 我が主神は玉座に居座り、目を瞑って静かにお聞きになっていた。

 とても満足そうにされているようで、僕自身も嬉しく思った。

 改めて、彼女には敬意を払わないといけないな... 

 最後まで歌い続け、終わりに頭を下げると我が主神が拍手を送った

 

 「素敵な歌をありがとう。レイ」

 「こちらこそ、手を授けていただき...ありがとうございまス」


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