【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 「...んぅ...?」

 

 リリルカは漂ってくる香りに目を覚まし、体を起こした。

 見渡して見覚えのない部屋に居る事に気付くリリルカは、昨日までに

 起きた出来事を思い出す。

 今まで自身を苦しめていたソーマ・ファミリアから解放された。

 それに伴って、行く宛てが無いという事から命の提案で命が団員として

 所属しているファミリアで、一夜を過ごしたのだ。

 ここへ来た際には、タケミカヅチや団員達も驚いていたが、それまでの

 経緯を聞いて、暖かく迎え入れてくれた。

 リリルカはそれを思い出すと、思わず涙が溢れてきそうになる。

 すると、襖が開かれてリリルカは咄嗟に目元を拭いて顔を勢いよく

 振る。

 

 「あ、リリルカ殿。お目覚めになっていましたか。」 

 「ヤマト様...はい。今までにないくらい、とても清々しい目覚めでしたよ」

 

 そう答えるリリルカに命は微笑みを浮かべる。

 リリルカの横に正座をして手に持っているお盆を置く。

 お盆には湯気が立つ味噌汁に綺麗な三角形となっているおにぎり、

 そして沢庵が添えられていた。

 先程から漂っていた香りは、この味噌汁だったのかとリリルカは

 気づいた。

 

 「どうぞ食べてください。もうお昼頃ですから、お腹も空いているでしょうし」

 「ありがとうございます、ヤマト様。では...いただきます」

 

 リリルカは手を合わせて、おにぎりに手を伸ばす。

 一口食べて、絶妙な塩加減と熱さに食欲が刺激される。

 それによって空腹感が増し、また一口、二口と頬張りあっという間に

 平らげる。

 続けて2個目も食べていると、命が話し掛けた。

 

 「リリルカ殿。本当にここへは入団しないのですか?

  どこにでもコンバージョンは可能となっているのですし...

  自分からタケミカヅチ様に話を持ちかけても」

 「いえ、これ以上ヤマト様にお手数をお掛けする訳にもいきません。

  大丈夫ですよ。もし入団出来ないとなれば...諦めて、商売人へ転職でもしますから」

 「...そうですか」

 

 話が途切れ、おにぎりを一口食べてから皿の上に置き、リリルカは

 味噌汁を啜る。

 体の芯から温まる感覚に安堵のため息をついた。

 リリルカが言った通り、転職する方が本人にとっても安泰した生活を

 送れるはずだと命は思った。

 しかし、本当にそれが正解なのかという疑問が残る。

 リリルカが酷い仕打ちを受けていたのは、ソーマ・ファミリアに

 所属していたせいであり、冒険者を辞めたいと思っている本心が

 あるのかどうか、それが気がかりに命は思っていた。 

 まだ一緒に冒険をした事は無いが、もしも本来持っているはずの素質が

 開花し、大化けする可能性も捨てきれない。

 それならばと、命はこう提案した。

 

 「では、タケミカヅチ様の知り合いを紹介してもらうというのはどうでしょうか?

  その方が早くそのファミリアに入団出来ると思いますが...」

 「...なるほど、確かにそれがいいかもしれませんね...

  ですが、冒険者を増やすのもやっとなファミリアにとなると、気が引けそうな気も...」

 

 命はその発言に、少し顔が険しくなった。

 自身のファミリアも零細であるため、もしもリリルカを入団させると

 なると、経済的に厳しくなるのはわかり切っている。

 自身の考え不足に不甲斐なさを覚えていると、襖が開いた。

 

 「リリルカ、よく眠れたか?」

 「あ、おはようございます、タケミカヅチ様。

  はい。久しぶりにぐっすりと眠れました」

 「そうか、それは何よりだ。

  命と何か話していたようだが、何の話をしていたんだ?」

 「あ...あの、タケミカヅチ様。実はですね...」

 

 命は事の経緯を話した。

 タケミカヅチ様は話を聞き終えると、腕を組んで少し考え込む。

 すると、拳でポンッと掌を叩き何かを思いついた仕草を取る。

 

 「俺の神友にまだファミリアを結成してない女神が居るんだが...

  そいつに会ってみるか?

  神の中でも良い奴だから、お前を悪い様にはしないぞ。俺が保障する」

 「ファミリアを結成していない...その女神のお名前は?」

 「炉の女神。ヘスティアだ」

  

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 「ん~...ねぇ、ホントにウチに入団させるのはダメなの?」

 「ダメって訳じゃねえけど、今の状況的に入団させてもなぁ」

 「今はヤマトさんに預かってもらい、もしもの時にこそ入団させましょう」

 「それがいいですねぇ。まぁ、もしかすれば転職するという事も考えられます」  

 

 星屑の庭にてアリーゼ達は書類仕事に追われていた。

 昨日、検挙したソーマ・ファミリアの団員達を投獄させたので、

 ギルドへ報告書を提出しなければならないからだ。

 尤も、ザニスが記録していた内容を書き写すだけなのだが、それも

 枚数が枚数なため、やっと半分まで済ます事が出来ている。

 

 「皆、とても頑張っているわね。無理は体に毒だから、時々休むのよ?」

 「ありがとうございます、アストレア様。

  もう少しで終わらせますので、ご心配なく」

 「そう。じゃあ、終わったら何かご褒美をあげないと」

 「あ。ご褒美は是非ともアストレア様と一緒にお風呂へ入りましょう!

  お風呂もアストレア様も堪能するわ!」

 「「「やめろ、不敬な」」」

 「痛゙!?」

 

 アリーゼの言動に3人は書き終えた書類の束で叩く。

 痛みに悶えるアリーゼにアストレアは苦笑い気味に微笑んでいた。

 その時、ネーゼがやって来てアストレアに声を掛ける。

 

 「あの、アストレア様?お客様がお見え...

  というか見えないんですけど、来ていますよ?」

 「あら、私に?誰かしら...?」

 「私よ。アストレア」

 

 その声を聞いた瞬間、アストレアは目を見開いた。

 アリーゼ達は声はしたが、姿が見えない事に気付くと即座に

 立ち上がってアストレアを囲う様に警戒した。

 ネーゼはそれを見て、戸惑うがアリーゼ達の方へ付く。

 しかし、アストレアは手を差し出し、待ったを掛けた。

 

 「ア、アストレア様?」

 「いいの。皆、大丈夫...私のよく知っている女神様だから」

 

 ヴゥウン...

 

 アリーゼ達が女神と聞いて呆気にとられる中、その女神が姿を現わす。

 鈍く銀色に光る仮面を被った、褐色の美しく瑞々しい肌に包帯を

 巻き付けている。

 そして、その仮面を脱ぎ正体を明かすと...

 

 「ふふっ...元気そうで何よりね。アストレア」

 「ネフテュス様...」

 

 アストレアはスッとアリーゼとリューの間をすり抜けて、ネフテュスに

 近寄る。

 何とも感動的な再会を思わせる光景にアリーゼ達は止めようとは

 しなかった。

 恐らく、仲の良い神友関係なのだろうと思ったのだ。

 が、その思いが突如として一気に崩れ去った。

 

 「ん...」

 

 アリーゼ達はアストレアの背後から見ているので、最初こそは

 抱きしめていると思っていた。

 しかし、どこか違和感を覚えたので全員で横に移動してみると 

 アストレアが、ネフテュスに躊躇なく接吻していた。

 舌を絡ませてはいないが、濃厚な接吻をしている。

 アリーゼ達は一瞬にして真っ白くなり、その場で硬直した。

 やがて、アストレアが唇を離すが、今度はネフテュスの方から

 接吻を迫ろうとした所でようやく全員が我に返る。

  

 「何やってるんですかぁああああ!?」

 「...カハッ!」

 「あ!?ポンコツエルフが倒れた!?」

 「沈着冷静になってくださいライラ。ここは浅く深呼吸をして」

 「いやいや矛盾しかしてないってそれ!?」


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