【第一部完】ダンジョンで捕食者たちと獲物を求めるのは間違っているだろうか   作:れいが

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 「...では、イケロス・ファミリアの団員達は、やむなく殺めてしまったと?」

 「はい。同胞達を助けてもらうためニ...」

 「イケロス・ファミリアは以前からイヴィルスと結託して、ゼノスの密猟をしていました。

  そして、怪物趣味の貴族達へ売りつけているとこちらで調べはついています。

  なので...どちらにせよ、イヴィルスと関わっていたからには処刑は免れなかったはずです」

 

 ディックスを始め、イケロス・ファミリアの団員達を殺害した理由を

 聞き、アリーゼ達は真剣な面持ちになる。

 殺めたのが1人や2人ではなく、全員という事が問題なのだろう。

 尚、殺した後の事は話していない。

 リューのみは事情を知っているので、アスフィがアイコンタクトを 

 取った際、察してくれている。

 

 「ボコボコにする程度なら未だしも...命を奪ったのは良くないわね」

 「けど【万能者】の言う通り、イヴィルスと手を組んでたならどっちにしろだよな?」

 「イヴィルスは根絶やしにしなければならないのは確かな事。

  相手が斬り掛かって来たのなら、尚の事殺めたのは正当防衛ですからねぇ」

 

 アリーゼの主張にライラと輝夜はそれぞれの意見を述べて、捕食者を

 素知らぬ様子で弁護した。

 現実的に考えイヴィルスに関連している者を殺害したとしても、やはり

 ギルド側が同じ様に捕食者を弁護すると思ったからだろう。

 頬を膨らませて、納得がいかないアリーゼは捕食者を見つめて、

 問いかけた。

 

 「あれだけ人を巻き込んだもの。恨む人は数え切れない程、この街に居る。

  ...私もその1人よ。親しかった人を何人も殺されたんだから...

  ...だけど、殺したのはゼノスを助けるため?それとも...

  個人的な殺意で?」

 

 それこそがアリーゼの知り得たい、捕食者の本心だった。

 誰かのために成す事は、崇高な責任感だ。

 助けるためにというのもそれに等しいものである。

 だが、人間の本質として自己を満たすための手段とも成り得る。 

 それを踏まえ、命を奪う事までするのはどうだろうか?

 輝夜が言った通り、やむなくゼノスを助けた事で正当防衛となるが、

 基本的な規律として適応しない事が今回ある。

 それは、守ったのが人間ではなくモンスターである事だ。

 人間が動物を虐待し殺せば、それは罪となる。

 しかし、モンスターは殺す事で人間の収入源と言える。

 食べられるために殺される家畜と一緒だと、同視されるのが一般的に

 広まっているらしい。

 何千年もの間、人以外と争い続けておりオラリオだけでなく、世界が

 絶対なる悪と認識している。

 なので、モンスターを守る代わりに人間を殺した事は正当防衛には

 値しない。

 だが、捕食者が守ったと思われるモンスターとは、全く異質で理知を

 兼ね備えた別の生物と言える。

 秩序を守るアストレア・ファミリアとして、判断すべき事は捕食者が

 どういった思いでイケロス・ファミリアの団員達に手を掛けたのか、

 アリーゼはそれを見極めようとしているのだ。

   

 ――――――――――――――――――――――――――――――――

 ...僕はアリーゼという女性に射貫くように見つめられている。

 ヘルメットで眼は見えないのに、彼女は的確に僕の眼を見ているように

 思えた。

 まぁ、光の加減でゴーグル部分が見えるはずだから、不思議では

 ないか。

 とにかく、彼女は僕がディックスという男や他の奴らを何故殺したのか

 知りたいのだと理解した。

 僕はペンシルと紙を手に取り、書き記した紙をテーブルの上へ、彼女の

 目の前に置いた。

 僕はこう書き記している。

 

 [奴らのせいで僕らの先達は不名誉とされている。

  許されざる愚者は天に召し来世まで更生させるべきだ]

 

 「...そう、これが貴方の本心ね。つまり復讐心、って事か...」

 「じゃ、お咎めなしって事だな。

  こいつじゃなくて、別の誰でも同じ結果だっただろうしよ」

 「当時を知る人々は賞賛するでしょうなぁ。恨みを買い過ぎた代償をこの方が払ったと。

  かく言う私もそうですし」

 

 輝夜という女性は僕を怪しげな笑みを浮かべながら見据えている。

 僕は何か仕掛けて来るかと思い、視線を逸らしてアリーゼという女性の

 方を見た。

 

 「...本来であれば、反省させる所だけど...

  私達は貴方に借りがあって、大切な人のために手を掛けた。

  輝夜とライラもそう判断してるし、それと...

  リューが手を握れるくらい認めてる事を踏まえて...

  今回はと・く・べ・つに!...見逃してあげるわ」

 

 ...僕は奴らも奴らと関わっているファミリアの冒険者を許しは

 しない。

 必ず...皆殺しにして先達の不名誉を少しでも回復させるんだ。

 

 「...それじゃあ、神ネフテュス。

  さっきのイヴィルスに関与しているって話し、協力させてもらいます。

  実は、ソーマ・ファミリアが関与しているって証拠を昨日見つけ出したものですから。

  アスフィの言った通り...貴族へ売り飛ばす予定だったみたいね」

 「そうですか。恐らく、その売り飛ばされそうになっていたゼノスは救出したので、もう大丈夫です」

 「...それ以前に地上のどこかへ行ってしまった同胞は、助けられないのでしょうカ...?」

 「レイ...お気持ちはわかります。ですが...

  何年も前に密売されてしまっている同胞の事は...諦める他ありません。 

  居場所を特定出来ませんから...」

 「ここにあるのは新しく作成された書類みたいで、昔のは...無さそうね」

 

 レイというゼノスは目を伏せ、悲しみに暮れていた。

 ...僕らの掟では、敵に捕まり傀儡となってはならないので、万が一

 その様な状況になった場合は仲間の手で殺される事が名誉を回復する

 唯一の手段となっている。

 助けに向かおうにも、場所がわからなければ意味は無いのだが...

 

 「イケロスの方は拉致して片付いてるから...残るはイシュタルとニョルズね。

  私がイシュタルの方に行ってみるから、ニョルズの方は任せていいかしら?」

 「もちろんです!任せてください!」

 「おい。まさかメレンに行けるからラッキーとか思ってねえだろうな?」

 「そんなまさかではありませんよねぇ?団長殿?ん~?」

 「何言ってるのよ?そのまさかに決まってるでしょ!

  メレンへ行くわよ!アストレア様と一緒に!」

 「「「...はぁ!?」」」

   

 アリーゼという女性の発言にリューという女性達は目を見開いて、

 驚愕する。

 恐らく主神と行く事が信じられないと思っているのだろう。

 

 「馬鹿か!何でアストレア様も一緒なんだよ!?」

 「えー?せっかく外に出るんだから、アストレア様と一緒に観光する方が楽しいじゃない?

  それに神様同士の方が話しが進みそうだもの」

 「そ、それはわかりますが...

  主神をオラリオから連れ出してまで向かうのはどうかと...」

 「大丈夫よ。日帰りすればいいんだし」

 「日帰りであっても、オラリオから出る許可を得てからでないと無理なのは...

  もちろん理解しておりますよねぇ?」

 「...え?そうだっけ?」

 

 ...任せて本当に大丈夫なのか、少しばかり心配になってきた。

 輝夜という女性も呆れて首を振っていた。

 すると、我が主神が提案する。

 

 「ちょっとだけ出るだけなら、隠れて出て行きましょう?

  ドロップ・シップで送ってあげるから、ものの3分で着くわ」

 「どろっぷしっぷ?何ですか、それ?」

 

 ...実物を見てもらった方が早いか。

 そう思った僕はガントレットを操作し、ドロップ・シップの立体映像を

 投影した。

 ドロップ・シップの映像は全形が詳しく見えるように、ゆっくりと

 回転している。

 突然、目の前に投影された立体映像にアリーゼという女性達は

 前のめりになって凝視している。

 見るのは構わないが、余計な詳細が出てきてしまうので、触ろうと

 するのはやめてほしい。

 ...アスフィという女性も何故か一緒になって触ろうとしていた。

 

 「これがそうよ。言うなれば...空飛ぶ船かしら。

  この船も外部からは姿を見えなくする事が可能だから、ちょっとだけズルをしてオラリオから出られるわよ。

  向かうのは貴女達とアストレアでいいのかしら?」

 「...前提としてなら、そうですね。5人になります。

  それだけの人数を乗せられますか?」 

 

 全く問題ない。スカウト・シップでは厳しいところだが、

 ドロップ・シップは運搬を目的とするので30人程を乗船させる事が

 可能だ。

 それを聞いて、アリーゼという女性が今度は全員で行こうと

 言い出したので、流石にアストレア様が止めに入った。

 

 「全員は無理でも、アストレア。彼女の言う通り、行ってもらえないかしら?

  ニョルズを説得するのに、貴女の力が必要になるかもしれないわ」

 「...そうしましょうか。ニョルズもきっと理由があってイヴィルスに加担したはず...

  危害を加える事はないでしょうから、話し合ってみるわ」

 

 アストレア様からの返答を聞き、頷く我が主神は次にアスフィという

 女性の方を向く。

 

 「アスフィ。貴女はレイを送り届けたら、今回の件は終わりになるけど...」

 「...個人的な協力として、アストレア・ファミリアと同行させてもらいたいというのが本音です」

 「そう。...レイも行ってみる?

  姿を隠すにしても、下半身さえ隠していれば問題ないと思うわよ?」

 

 レイはその提案に戸惑っていた。しかし、アスフィという女性が

 その手に自身の手を重ねてくる。

 

 「リドが思い出話を聞かせてほしいと言っていましたよね?

  それなら...もっと地上を満喫してはいかがでしょうか」

 「...はい」 

   

 レイというゼノスは笑みを浮かべて頷く。

 改めて予定を確認しよう。

 我が主神はイシュタルという女神と対話をする。護衛はケルティックと

 チョッパーに任せる事にした。

 アストレア様とその眷族4人、他2名を含めた7名でメレンという

 港町へ向かい、ニョルズという男神へ話を聞きに行く。

 向かう際は僕が操縦するドロップ・シップで送るという事になった。

 明朝、まだ人々が寝静まっている時間帯に、マザー・シップを

 着陸させている森林の前を集合場所とした。

 これで話し合いは終わりなのだが...どうやら簡単には帰れないな...

 

 「ネフテュス様。これまでにアストレア様の可愛いとか愛おしいって感じた思い出はありますか?」

 「ア、アリーゼ...!?」

 「ん~...小石を使って私がどのくらい好きなのかを、天秤で計っていた姿が可愛かったかしら。

  もちろん隠れてね」

 

 そう答えた我が主神にアストレア様は顔を真っ赤に染めると、

 我が主神の両肩を手で掴み、下から上を覗き込むような姿勢で睨んで

 いた。

 

 「...ど、どうして、それを知っているの...!?」

 「...適当な想像で言ってみただけなのだけど...」

 「わー、アストレア様が墓穴掘ったー。

  でもってこいつまた気を失いやがったよー」

 「まさか正義を司る主神様からそんな惚気話が聞けるとは...」

 「アストレア様ったら可愛いー」

 「~~~っ!...わ、忘れて...お願いだから...!」

 「「「いやいや、無理ですって」」」

 

 ...なるほど、我が主神が恋人に選んだ愛おしさを理解した。

 気がする。


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